太平洋攻防戦・終幕はあっけなく
『機動戦艦から始まる、現代の錬金術師』は不定期更新です。
外壁が火力、破壊力よりも強度が優っていたら、破壊することはできない。
しかし、その内部で爆発が起きた場合、外壁を破壊できないエネルギーは、煙突効果で逃げ場を探しながら進んでいく。
アドミラル・グラーフ・シュペーの艦内を駆け抜けた爆風により、大勢の兵士が死んでいった。
──ギィィィィィィッ
やがて、制御不能となったアドミラル・グラーフ・シュペーはゆっくりと降下を開始。
その周囲を取り巻くように。各国の艦隊が偵察用の小型船を派遣し、成り行きを見守っている。
………
……
…
「まだか、早く乗り込ませろ‼︎ 他国に遅れをとるな‼︎ あの未知のバリアシステムのノウハウだけでも回収してこい‼︎」
「他国に遅れるな。第三帝国の遺産ならば、我々の知らない技術がまだあるはずだ」
「SEALDsはまだ動かないのか、早く向かわせろ、どこよりも早く乗り込め‼︎」
中国が、ロシアが、そしてアメリカが。
第三帝国の遺産とも呼べる、不時着したアドミラル・グラーフ・シュペーに我先にと乗り込もうとしている。
だが、生き残った親衛隊をはじめ、飛行船の乗組員たちは最後の抵抗を開始。
半ば沈みかかった船体の上で、近づいてくる他国の船に向かってライフルや機関銃を乱射している。
だが、一人、また一人と兵士たちは狙撃され、銃で制圧され、その命を散らしていく。
アドミラル・グラーフ・シュペーが海上に不時着してから二時間後には、船体上部にて抵抗していたものたちは、全て死亡していた。
そしてアドミラル・グラーフ・シュペーもまた、ゆっくりと沈降を始めるのだが、そこに各国の特殊部隊が到着し、空いているハッチから船内に飛び込んでいく。
「急げ、はやくしろ。持ち帰れるものは全て持ち帰れ」
どの国も必死である。
この海域の深さを考えると、一度沈んでしまったら引き上げるのは至難の技である。
平均深度4000メートルからの、巨大飛行船のサルベージなど、過去にも前例がない。
深海探査艇などで様子を見ることは可能かもしれないが、そこから飛行船内部に侵入し、データなどを持ち帰ることは不可能。
故に、今はまだ浮いているこの飛行船が沈むまでに、データを集めなくてはならない。
だが、生き残りなど存在しないと思っていた特殊部隊は、艦内で何者かに襲われ、海に叩き出されていく。
──カシャッ、カシャッ
金属音が、艦内に響いている。
まだ生きているものがいるのか?
先程、この通路の向こうには中国の特殊部隊が向かったはずだ。
──bloom‼︎
銃撃音と、金属がぶつかる音が響き、人の悲鳴も聞こえてくる。
この先に何がいるのか?
一体、何が起きているのか?
注意深く先の様子を伺うロシアの特殊部隊だが、通路の向こうから姿をあらわした存在に、全員が武器を構えてしまった。
「撃て、破壊しろ‼︎」
──キンキンキンキン!
大量の銃弾が、通路の向こうに現れたサイボーグに向かって襲いかかるが、すべて体表面で弾かれ、壁に突き刺さる。
「……ふん。やはり今の地球のテクノロジーでは、この身体を破壊することは叶わぬか。全て死んだ、アドルフの魂も、彼の愛した第三帝国の夢も……」
残滓は、死ななかった。
あの爆風により体表面の人工皮膚は全て吹き飛び、ゴーレムボディが剥き出しになっている。
それは一見すると、ひと昔前の映画に出てきた人型殺人兵器にも見えなくもない。
そのまま、右手にぶら下げている特殊部隊の死体をロシアの兵士たちに向かって投げつけると、残滓は残ったロシアとアメリカの部隊に向かって走り出す。
そこからは、一方的な殺戮。
なにせ、こちらの武器は一切歯が立たず、向こうは力任せに殴るだけで兵士が死ぬのである。
「……ふん。この体も長くはないのか。擬似魂を破壊したのは、失敗だったようだな」
吸収したサーバントの体そのものであったなら、エネルギー源である擬似魂がある限り、ゴーレムボディは停止しない。
だが、サーバントの体を参考に残滓が作り替えたこの体は、エネルギータンクが空になると、機能は停止する。
「せめて、この体の活動限界が来る前に、あのゴーレムを一体でも吸収できたなら……」
そう呟きながらも、残滓は賭けに出た。
まもなく、この船体は沈む。
そして、この場所から無事に逃げられる術など、どこにも存在しない。
万が一にも、脱出できたとしても、次に待っているのはゴーレムボディの停止である。
このまま、まだ沈んでいない船体外に出て、アマノムラクモのサーバントを呼びつける。
このまま船体と共に海底に沈み、来たるべき時を待つ……などという茶番劇を演じる気はない。
「アマノムラクモよ、我と最後の勝負といこうではないか‼︎ 貴様らが勝利するか、我が勝つか……」
ゆっくりと近寄ってくるアマノムラクモに向かい、両手を広げて残滓は叫んでいた。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「正気じゃない。アドルフは、何故、そこまでやるんだ? もう飛行船もない、親衛隊だって全滅だろう? それなのに、アマノムラクモを名指しして勝負だなんて……」
俺は、驚くことしかできない。
アドルフの乗っていた飛行船が海上に不時着し、少しずつだから沈みはじめている。
そこに各国の特殊部隊も乗り込み、艦内に突入したまではいい。
内部で激しい戦闘もあったことは、外部センサーで音が拾えていたから分かる。
そして、特殊部隊が全滅し、内部から金属フレームの人形兵器が出てきたときは、目を疑った。
『アマノムラクモよ、我と最後の勝負対抗ではないか‼︎ 貴様らが勝利するか、我が勝つか……』
そんなことを叫ばれても、俺の作ったサーバントを破壊できるアドルフ相手に、近接戦なんて仕掛けるはずないだろうが。
『ピッ……解析完了。ミサキさまの作り出したサーバントフレームを改造したタイプかと識別できます。ただ、駆動部の損耗に加えて、霊子タンクが存在しないので、間も無く活動は停止します』
「霊子タンク? なにそれ?」
『ピッ……錬金術により作られたゴーレムの稼働エネルギーです。本来は擬似魂に組み込まれていますが、あの体からは擬似魂の反応を感知しません』
『……対象のゴーレムの活動限界が終えるのを待った方が得策ですが、その際、残骸は他国が回収します』
「……俺の能力と、現時点のアドルフの能力。勝機はどっちにあると思う?」
何故、そんなことを聞いたのかわからない。
だけど、これは、俺がケジメをつけないとならないような気がする。
あのアドルフの体は、俺が作ったサーバントをベースにしている。
それなら、俺が引導を渡して、回収しないとならないような気がする。
「マイロード。ミサキさまの体表面のフォースフィールド強度なら、今のあのゴーレムボディによる攻撃を防ぎ切るかと思われますが」
『ピッ……ミサキさまが向かうのは容認できません』
『……危険であるのに変わりはありませんが……』
俺が向かうのに、否定的な意見が三つか。
まあ、それぐらいは理解しているし、だからといってサーバントを送り出して吸収されるのもごめんだ。
「じゃあ、行ってくる……他国に回収されて、あとから俺のだ返せって言って通用するはずがないからさ」
『ピッ……お気をつけてください』
オクタ・ワンも諦めたらしく、俺を送り出してくれる。
移動はヒルデガルドのマーギア・リッターに頼んで、俺が降りたら上空で待機するように伝えた。
………
……
…
飛行船の上。
すでに足元まで海水に浸かり、沈降を止める術がない。
その真ん中で、アドルフは待っていた。
俺は離れた場所に降ろしてもらい、ヒルデガルドに上昇して待機を伝えると、アドルフに向かって歩き出した。
「貴様が、アマノムラクモの責任者か?」
「ああ。ミサキ・テンドウだ。悪いが、俺が作ったサーバントの体を返してもらうぞ」
そう告げると、アドルフはニイッと笑った。
そして全力で走り出して、俺との間合いを詰めてくる。
「ゴーレムが来るかと思ったが、ちょうどいい。貴様の記憶、知識を貰うぞ、この体はもう限界だ……貴様を依代にさせてもらう」
右手を開いて、俺の頭を掴もうとするアドルフ。
だけど、その動きは緩慢で、まるで本能だけで必死に動いているように感じた。
「……擬似魂を破壊したのだろう?」
「依代に魂は必要ない」
──ガシッ!
アドルフの右手を、俺の右手が掴む。
ガッチリと指を絡めて握りしめると、『破壊の右手』を発動した。
──ガラゴガグショガラガラガラガラ……
一瞬で、アドルフの全身が『頭部以外』、分解される。
そして頭部を掴むと、そこに『何か』がいるのに気がついた。
「……依代って話していたよな。それじゃあ、この頭の中にいるのが、アドルフ・ヒトラーの魂かよ」
もう言葉も発することができないらしい。
顎がガグガグと動いているが、瞳に力を感じない。
「さようなら、アドルフ」
そして、俺は無限収納の中に、アドルフの魂の宿った頭部を収納した。
時間の停止している世界、無限収納で、何も考えることなく、何もできずに、永遠に、そこに封印することにした。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
ミサキがアドルフの、残りの残骸を回収してから。
マーギア・リッターに回収されてアマノムラクモに戻った直後、アドミラル・グラーフ・シュペーの沈降速度が速くなった。
各国の艦艇は急いで飛行船にアンカーを打ち込み、沈降を止めようとしていたが、小型船では船体が引き込まれそうになる。
やむなく、一番近いロシア艦隊が四隻がかりで飛行船を海中に吊るす形で捕獲し、近くの港であるグアムまで牽引していくことになった。
アマノムラクモは、これ以上は我関せずという姿勢で自国領土へと帰還し、残った艦隊は、それに追従する形でアマノムラクモの後をついていくものと、グアムへと向かうものの二手に分かれた。
飛行船の残骸はグアム沖合の浅瀬まで牽引されると、各国の兵士によって厳重に管理、その処分については国連での決議を行うこととなった。
何分にも、第三帝国の残党がまだ世界各地に残っている。
その処分や今後の対策なども話し合わなくてはならない。
この一ヶ月間で、地球では信じられないことが多く発生し過ぎてしまったのである。
それと同時に、アマノムラクモの動きを見て、世界の意見も二つに分かれる。
第三帝国をも退ける脅威である
世界を第三帝国から救った英雄国である
これにより、アマノムラクモは、ほんの少しだけ、世界から優しくされることになる。
でも、まだ、始まりの一つに過ぎない。
これからアマノムラクモがどうなるのかなんて、ミサキにも、未来を読むことなんてできないのだから。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。











