最終回・そして輪廻は転生する
『機動戦艦から始まる、現代の錬金術師』は、これにて幕を閉じます。
これまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
From intersecting worlds to a future somewhere else
──グォングォングォングォン
次元潮流でも音は響く。
スターゲイザーを出発したアマノムラクモ艦隊は、次元潮流の中をハイパージャンプしながら、銀河系中心部・虚無最遠部へとやってくる。
ここからがぶっつけ本番。
失敗は許されない。
これで失敗した場合、アマノムラクモはおろか、この世界全てが消滅する。
………
……
…
「っていう緊張感、どこにあることやら」
アマノムラクモ艦橋。
全ての準備は終わり、あとは作戦を開始するだけ。
同時進行で、スターゲイザーの中心付近にある大型船建造ドックでは、イスカンダルが中心となって、『虚無捕獲アンカーシステム』の構築、およびそれらを搭載する大型艦の建造を開始。
オクタ・ワンとトラス・ワンのサポートがないのでやや不安であったが、そこはマザーナノマシンである神楽とノア、そして賢人機関がサポート。
特に賢人機関のメンバーには、『地球外交大使』扱いで居住地も国籍も発行したからね。
『ピッ……緊張感も何も、あとは指定座標軸に移動して、作戦開始ボタンを押すだけです。あとは全て私たちがサポートします』
「現時点では、私たちアマノムラクモ艦隊と敵対する存在など皆無。もしあるとしても、それはこの世界の崩壊を止めようとする我々を邪魔者として見る者たちのみです」
「「「「「「死亡フラグ!!」」」」」」
あ〜。
ヒルデガルド、やらかしたわぁ。
そうだよ、それがいるかもしれないんだよ。
だってさ、この世界が崩壊する理由が『創造神不在による廃棄』だったら、ここを手に入れようとする奴らだっていてもおかしくないわけで。
つまりそれは、創造神と敵対する者、つまり邪神とか破壊神ってやつだよね。
俺だってわかってはいるよ、そんな奴がいる可能性。
でも、言葉に出したらそれは実現する。
それが、死亡フラグってやつ。
「はい、ヒルデガルドがやらかしたので。アマノムラクモ全艦、対敵性存在との戦闘モードに移行!」
「「「「「「「了解!!」」」」」」」
俺が叫ぶのと同時に、艦内に真っ赤なアラートが点滅を開始。
いや、来ると思っていなかったけど、いざ観ると信じたくないよね。
『ピッ……虚無中心核より敵艦接近……タイプ・大型機動戦艦、アマノムラクモ二番艦……仮称をアマノヌホコと設定』
同系艦。
それも一機だけ。
「オクタ・ワン!! 敵艦データを可能な限り表示。その上で、今後の作戦を考える。フォースプロテクションはフルパワーで張り巡らせろ、タケミカヅチには被害を出すな!」
『ピッ……敵艦データ予測。無人殲滅艦、神滅砲は存在せず、代わりに霊子破壊砲を搭載』
「はぁ。それってあれか? 元々はアマノムラクモに搭載してあった奴だろ?」
『ピッ……是。全てのデータから予測スペックを算出、敵艦はアマノムラクモの初期オリジナルデータを全て網羅しております』
「ははぁ。なるほどなぁ……」
俺は椅子から飛び降りたよ。
だって、この状況なら、選ぶ道は一つだけだからね。
「アマノムラクモ、およびタケミカヅチ全艦にミサキ・テンドウの名において勅命!! 全艦無傷のまま指定座標に向かえ!!」
『ピッ……了解です』
「り、了解」
「かしこまりました」
「了解ですわ」
「わかりました」
「イエス、マイロード」
「拝命しました」
「あいあいさ〜!!」
ワルキューレたちの不満そうな顔。
いや、わかっているけどね、ここでアマノムラクモをフルパワー稼働させるわけにはいかないんだよ。
だったらどうする?
俺が出るしかないだろう?
『ピッ……今回の作戦の要は、ミサキさまの神威です。敵殲滅後、速やかに帰還してください』
「あたぼうだよ。そして俺が一人で行くはずはないだろう? 朔夜!!」
『拙者、もうカタパルトでござるよ』
あ、やっぱり早かったか経験値泥棒め。
『ピッ……勝機はあるのですか?』
「ん? 敵はアマノムラクモ同系艦で、オリジナルなんだろ? でも、それは俺がこの世界になる時に貰った、まっさらな奴。そんなものに、俺たちが可能な限り改造を施し、強化に次ぐ強化を繰り返した最新鋭アマノムラクモが負けるはずがない!! 言い換えると一言だ!!」
「「「「「「「アマノムラクモは伊達じゃない」」」」」」」
それ。
しかも相手はこのカラッポの世界を手に入れたい神だろ?
上等だよ、こっちも仮とはいえ亜神だ!!
お前をぶっ倒して、その神威を全て奪い尽くしてやるわ!!
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
夢を見ました。
それはここから遠い何処かの世界。
何もない空間で、巨大なロボットが戦っている姿。
二つのロボットが、巨大な戦艦を相手にただずっと、攻撃を繰り返していました。
お互いに繰り出す攻撃をカウンターし、受け止め、無力化する。
そんなことを、ずっと繰り返していました。
でも、ロボットたちが押され始め、戦艦の攻撃が当たりそうになった時。
もう一機のロボットが身を挺して、庇っていました。
その時。
爆風の向こうから撃ち放たれた閃光が、巨大な戦艦を破壊したのです。
それから先は、私には見えませんでした。
すべてが光に包まれ、私はまた眠りについたから。
長い長い、果てしなく続くかもしれない眠りの中に。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──ガギッ、ガゴッ、ガゴッ
切り札は最後まで取っておく。
それが俺のやり方だけどさ。
敵アマノヌホコには、カリバーンを超える機動兵器も、マーギア・リッターのような高性能量産機もなかった。
ただ、その全ての強さをアマノヌホコ本艦に凝縮しただけあってさ、カリバーンと朧月、二機の全力でようやくどうにかできた感じだよ。
「……朔夜……」
「すでに、謎の神様の神威は霊子光器で回収済みでござる。これで、大手を振ってアマノムラクモに戻れますなぁ」
「ああ、全くだ……とっとと帰る。それでいいだろ?」
「はっはっはっ。完勝報告は、派手に行きたいでござるなぁ」
俺の席の後ろで。
下半身を失った朔夜が、己の魂の残滓から振り絞るように呟く。
アマノヌホコの霊子破壊砲。
流石のカリバーンでも、その一撃を受けたなら破壊は免れない。
それを朧月が、朔夜が身を挺して庇ってくれた。
奴の体に埋め込まれた霊子光器は、魂と引き換えに願いを叶える。
朔夜は己の命と引き換えに、霊子破壊砲を無力化してくれた。
そこでカウンターの神滅砲を叩き込み、謎の侵略神は殆どナレ死状態で消滅した。
そして最後の力で、朔夜は侵略神の神威を全て霊子光器に収めてくれたんだよ。
これがあれば、アマノムラクモのDアンカー作戦にも余裕が出る……ってね。
俺は急いで、虚無の中で漂っていた朔夜の上半身を回収。
こいつは最後の命を賭けて、アマノムラクモを、俺たちを守ってくれた。
だから、俺もできる限りのことをやってやる。
「ミサキ殿、拙者の魂の再構築許可をお願いしたいでござるが」
「あ、ちょっと待てな、先に下半身の再生から行わないと、魂がショック死するから」
──シュゥゥゥゥ
霊子光器の中の神威。
それを使って、朔夜の体の再生を行う。
神の錬金術師の名前は伊達じゃない!!
芳醇な魔力や神威があれば、命の創造だって不可能じゃないからな。
「……ふう。即死からの再生。ほんの僅かな魂の残滓から個体データを抽出……霊子光器と接続、魂の再構築を開始……」
擬似魂の製造方法で、俺は魂の構築については熟知している。
やがて俺の手の中で、朔夜の魂が構築。
それを彼の体の中に収めると。
「復活、覚醒、再動からのきせフベシッ!!」
──スパァァァァァン
「あのなぁ……おまえ、何を狙っている?」
「何も狙っていないでござるが。ご覧の通り、拙者復活でござるよ」
「そうだよなぁ……それじゃあ、アマノムラクモに戻るか」
破損した機体は、神の左手で再生。
流石にボロボロなのでいつも程の速度は出ないけれど、俺たちは数日後には無事にアマノムラクモに帰還した。
………
……
…
アマノムラクモに帰還後。
艦隊は目的座標に到達。
あとは作戦を開始するだけ。
『ピッ……ミサキさまにご報告。朔夜が回収した神威の固定化に成功。予備魔導ジェネレーターに接続し、最後の調整を完了しました』
「了解だ。これで地球ともお別れになるけどなぁ……」
作戦が始まったら。
俺はこのアマノムラクモの中から出られない。
俺の体から発する神威、これを全てDアンカーに流し込まないとならないから。
それで虚無の広がりを停止、ゆっくりと縮小させていく。
そして限界まで縮小する頃には、スターゲイザーで建造中の『エクスカリバー艦隊』がDネットで虚無を包む。
それでも。
虚無を完全に消すことはできない。
この世界に新しい創造神がやってくるまで、それまでの時間を、俺が維持しなくちゃならないから。
『ピッ……ミサキさまに報告。朔夜が回収した侵略神の神威の中で、少し解析不可能コードが発生。万が一のために、一時的に避難ポットに退避をお願いします』
「……は?」
いや、それってやばくないか?
そう思った瞬間に、艦内にレッドアラートが点滅する。
『ピッ……急ぎお願いします!!』
「俺だけが逃げるって選択肢はないぞ。状況の確認を……」
そう叫んだ時。
ワルキューレたちが真剣な顔で立ち上がる。
こんな顔をしているのは、初めて見た。
「……マイロード。お願いします」
そこまで危険なのかよ。
「勝算は?」
「朔夜が向かいました。私たちもこれから向かいますが、この作戦の要であるミサキさまに何かあったら……取り返しがつきません」
了解だ。
でも、どうしても手が足りなかったり、俺以外では状況修正が不可能だとわかったら。
俺は動くからな。
ヒルデガルドの指示で、緊急避難ポットに移動する。
カリヴァーンが一番安全かと思ったけど、ジェネレーターに問題があるらしく、今は稼働できないとのこと。
それで急いでポットに避難した時。
──ガゴン
緊急避難ポットが稼働する。
「……オクタ・ワン、状況を説明してくれるか?」
『ピッ……至上命令により、ミサキさまには安全な場所に避難してもらいます』
「……オクタ・ワンに勅命。すぐに俺を出せ!!」
嫌な予感が的中。
それは全く別の、予想していない予感。
まさかオクタ・ワンをはじめとしたアマノムラクモ全艦が、俺を避難させるためにここから排除するとは思っていなかったわ。
『ピッ……至上命令により、その勅命は受諾できません』
「なんだよ、その至上命令ってやつは!!」
『ピッ……ミサキさまを守る。それが、わたしたちに課せられた至上命令です。すでにDアンカーシステムには朔夜の霊子光器が接続されていますので、作戦自体は遂行できます』
──ガゴン
緊急避難ポットが切り離される。
いや、これって避難ポットって大きさじゃないよな?
駆逐艦クラスの大きさがあるじゃねーかよ。
『ピッ……私たちのマスターはミサキさまだけです』
『マイロード。この星系の未来は、マイロードが神となった時のみ救うことができます』
『創造神になれたなら、時間でもなんでも好きにできますよ』
『マスターは運命の女神の眷属。この程度の運命なんて、鼻息で吹き飛ばしてください』
『私たちは、マスターの帰る場所を守るだけです』
『時間の概念は、わたしたちには通用しません。ここにいれば、いつまでも生き続けられます』
『ですので、安心して行ってきてください。その脱出ポットの名前は【アマノハバキリ】です。魔導頭脳も搭載していますので、ミサキさまのお力になると思います』
『……いやだよぉ……』
ワルキューレたちの言葉。
その最後に、ロスヴァイゼの鳴き声が聞こえてくる。
『ミサキさまと離れたくないよぉ。ずっと、一緒にいてもいいんだよ……』
サーバントでも、擬似魂がある以上、感情は存在する。
けど俺に対しては絶対、俺の言葉には忠実に従っていた。
でも、ロスヴァイゼは、通信機の向こうで泣いている。
『ピッ……ロスヴァイゼに警告。私たちも我慢しているのです……ですから……』
オクタ・ワンの電子音も震える。
いつものように、俺を安心させるための冗談でもいうかと思っていたけど。
『マイロード……無事、ご帰還をお祈りしています……』
ヒルデガルドがそう呟くので。
俺も覚悟を決めるしかないか。
「アマノムラクモ全艦に勅命……俺が戻るまで、アマノムラクモを傷つけることは許さない……必ず帰るから、待っていろ!!」
『『『『『『『『了解です』』』』』』』』
さて。
それじゃあ向かうとしますか。
俺が神になるための、試練を受けるための旅に。
──to be next story…… It's in your mind.
──アマノムラクモ・艦橋部
ロスヴァイゼの啜り泣く声が響く。
彼女だけが感情を爆発させたのではない。
皆、同じようにミサキが好きであり、ミサキとの別れが辛かった。
自分たちの創造主、それを安全のためとはいえ危険に晒す可能性があることを、皆が熟知している。
でも、ここに留まっていても、答えは出ない。
それならば、己の感情が、意志が壊れようとも、ミサキのために尽くす。
『ピッ……作戦開始までのカウントダウンを始めます……』
オクタ・ワンの無機質な声が、艦橋に響いた。
でもさ。
──ガチャツ
「ちょっと待ったぁぁぁぁぁ!!」
俺は艦橋のハッチを開いて飛び込んでいく。
俺の姿を見て、ワルキューレたちは困惑している。
そりゃそうだよ、つい今しがた、俺を送り出したばかりだからな。
『ピッ……ミサキさまに意見具申。私たちの計画が無駄になりましたが』
まあ、そういうだろうと思うよ。
でもオクタ・ワン。
その認識は間違っている。
俺は、やることをやって帰ってきたんだよ!!
伊達に運命の女神の従属神だったんじゃない!!
時間航行程度、俺の神威能力である『運命創世』の前には、塵芥に等しいからな。
「あ……あ……」
「そんな……」
「まさか……」
「神よ……」
「……信じていました」
「……さすがです」
「ふぁぁぁぁぁぁぁん!!」
俺の姿を見て、ワルキューレたちが一斉に立ち上がるけれど、俺はそれを手で制した。
「はい、ストップ。カウントダウンの前に、魔導ジェネレーターの調節を行う。作戦内容の変更、虚無を固定じゃない。虚無中心核の存在を、世界から切り離す!!」
『ピッ……それはどうやって?』
「それはなぁ……こうするんだよ」
──パチーン
俺が指を鳴らすと、前方の空間に亀裂が走る。
そこから、巨大なドラゴンが姿を表す。
全長にして125kmの、巨大なドラゴン型機動戦艦ユニット。
正式名称は『アマノムラクモ・ドラグーン』。
いくつもの世界を旅しながら作り上げた、紛れもない『新しい伝承宝具』。
それを作りあげる事が、創造神に至るための最後の試練だったからね。
『ピッ……認識コード確認。搭載魔導頭脳は機動戦艦アマノハバキリと認識』
「ああ。その通りだよ。機動戦艦アマノハバキリ。それを改造した、『アマノムラクモ強化外装システム』、それがあれだ。俺が神に至るまで……コツコツと作ってきてんだからな」
ドラゴン型機動戦艦の頭部に、アマノムラクモが綺麗に収まるドッキングエリアがある。
そこ目掛けてアマノムラクモを進めていき、トラクタービームによってアマノムラクモを引き寄せ、そして接続する。
──ガッゴォォォォォン
『ピッ……アマノハバキリと連結。マスターシステムを継承しました』
「さて、泣き虫ロスヴァイゼも、みんなも配置についてくれ。まずは虚無中心核を破壊して、それから帰ることにしようか……」
そう告げてけら、俺は頭を振る。
違う、そうじゃない。
ワルキューレたちは、俺の言葉を待っている。
だから、笑顔でこう告げた。
「ただいま!!」
「イエス、マイロード!!」
さあ、早く全てを終わらせるか。
そしてそのあとは、俺が神に至るまで、どんなことをしてきたのか話してやるとするか。
機動戦艦から始まる、現代の錬金術師の物語を。
──FIN
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
そして、ここまで私の作品を愛してくれた皆さんに、最大の感謝を。
ミサキチと、その仲間たちを応援していただき、誠にありがとうございました。
またいつか、アマノムラクモはどこかに浮上するかも知れません。
その時には、またミサキチたちの冒険話を聞いてあげてください。
FIN











