方舟
『機動戦艦から始まる、現代の錬金術師』は不定期更新です。
彼は、ずっと眠っていた。
遥かなる母星から、大勢の人々を乗せて旅をしてきた彼は、この地球にたどり着いてから、静かに眠りについた。
彼の元より離れたわずかな人類は、彼の眠る霊峰の麓で、いつか他の仲間たちがやってくるのを、静かに待っていた。
遥かなる母星、マスチーフ星系に存在した惑星ステラプレイズは、異界から姿を表した竜種により、崩壊の危機に直面。
それらと対抗するべく、星の民は『生きている金属』を操り、さまざまな兵器を開発。
だが、それが星を滅ぼすきっかけとなった。
竜種が求めていたのは、まさに『生きている金属』であり、それを得るために他の星々を彷徨い、破壊し、全てを喰らっていた。
結果、生きている金属の半分以上が喰らわれたものの、残った金属で星の民は船を作り上げ、滅びゆく星に別れを告げて旅立った。
星から脱出した船は全部で150。
新たな星を探すべく、監視者という端末を送り出し、可能な限りの星系の星々を調べていた。
その中の一つ、太陽系第三惑星が、生命体の居住可能な惑星であるという報告を受けた方舟106番艦は、すぐさま移動を開始。
長き時を超えて、ようやく地球に到達した。
そこで、彼の仕事は終わり。
彼らは、その力の殆どを失い、眠りにつくしかなかった。
最後に、己の体を削り、この星の環境に体を調整するべく、『バイオナノマシン』として、星の民の中で眠りについた。
いつか、再び眠りから覚めるときが来るようにと、祈りを込めて。
生きている金属。
彼らは、星の民がその存在に気づくまでは、ずっと主人と共に眠っていた。
彼と共に旅をした、たった一人の主人。
帰る故郷を失い、異世界から転生した主人。
生きている金属は、神が彼に授けたせめてもの祈り。
二十四の伝承宝具の一つ、リビングアーマー。
主人の命令により、さまざまな武器、防具に姿を変化させることができる『リビングメタル製の、生きている鎧』。
決して傷つくことなく、いかなる攻撃にも耐えられる。
その力で、彼は主人を守った。
星に存在した魔王を滅ぼしてからも、彼は主人と共に歩み続けた。
そして、主人の最後の時。
彼は、最後の主人の命令を聞いた。
『この星の人々を、護って欲しい』
それが至上命令であるならばと、彼は眠りについた。
まだ、この星の人々は危機に直面していない。
いつか、本当の危機が訪れた時、その時は星の民のために戦おうと。
………
……
…
「デカイな」
「ああ、すごく大きいな」
「なあメリクリ。ちなみに俺のマテリアルライフルを、どう思う?」
「凄く……大きいです。って、何を言わせるんだよ」
廃村にあった地下通路。
そこを通り抜けて辿り着いたのは、巨大な空洞。
そして、そこにあった巨大な宇宙船。
卵を横に平たく潰した感じの、白銀色の金属。
その近くには、数人の死体が転がっている。
「服装から察するに村人か。人数は三人、残りの村人は逃げ延びたようだな」
「どこへ? どうやって?」
「まあ落ち着け。恐らくだが、村人は地球防衛軍の兵士に追われていた。それは何故か分かるか?」
「おおかた、この船の秘密を知るためか?」
「そうだ。地球防衛軍の奴らは、この船を使って形勢逆転を考えている。奴らの正体については、ミサキさまでも解析できていないが、俺は、この船にこそ秘密が隠されていると思った」
淡々と話をしているようだが、現在は戦闘中。
地下道を抜けて空洞に入った直後、ディーガイズは謎の集団により攻撃を受けていた。
その装備があまりにもバラバラであることから、傭兵もしくはその類かと予想化してみたのだが、全員が地球防衛軍の兵士だとなると合点がいったのである。
そこからはディーガイズのターン。
飛んでくる銃弾など気にすることなく、話をしながらの殲滅作戦。
少なくとも、三人の村人が殺された以上、ここの兵士たちは殺しても構わないとガーデンツィオは判断した。
民間人を守るのが兵士であり、それを殺すような兵士は生きている価値なし。
この信念のもとに、ガーデンツィオは走った。
援護射撃にAA12ショットガンをぶっ放す仲間のスパイス。
ナイフ片手に突っ込んで、相手の関節や動脈を狙うメリクリ。
さらにグレネードランチャーをばら撒くランドグランら、仲間の援護を受けつつ、目の前の兵士たちを血祭りにあげて。
決してミサキには見せられない、血まみれの特殊部隊は、空洞に集まっていた300人近い地球防衛軍の兵士を殲滅した。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
彼は目覚めた。
彼から受け継いだバイオナノマシンを受け継ぐ存在が、彼の元に逃げてきたから。
「ハルア、ナージャス、カマ、ナラ、アリアジル‼︎」
緊急事態。
彼らは危険から避難してきた。
ならは、星の民の子供達を守るのが使命。
──シュンッ
彼は懐を開いて彼らを受け入れた。
その直後、大勢の兵士たちが駆けつけてくる。
彼らからも、バイオナノマシンの反応がある。
彼らもまた、星の民の子供たちか。
ならば、受け入れよう。
懐を大きく開いた時、最初に逃げてきた子供達が撃たれた。
何故?
子供達同士で争うの?
「ガアナ、ド、ズル。ザ、ビキシリ。ナルラ……」
撃たれた子供が叫んだ。
そうか、彼らは、敵なのか。
急いで子供たちだけを収容すると、私は懐を閉じた。
三人の子供たちが殺された。
そして、彼らは私を調べ始めた。
残念だが、私は子供達に手を出さない。
子供達を守るのが、私の使命。
主人に与えられた絶対命令。
だから、沈黙した。
………
……
…
彼らは、私を調べ始めた。
もう何日になるだろう。
私を調べたければ、言葉を紡ぐだけ。
でも、それができないということは、彼らは劣化している。
体内のバイオナノマシンも、本来の仕事を終えて眠りについていたのだろう。
その証拠に、バイオナノマシンからの声は、私には届かない。
おや、誰か来たようだ。
突然現れた来訪者達に向けて、外の子供達は武器を手に戦った。
やめろ、戦いはやめろ。
それは危険だ、すぐに戦いはやめるのだ。
彼らの中のバイオナノマシンに向かって叫ぶ。
だが、声が届かない。
そして一人、また一人と子供たちが殺された。
頼む、やめてくれ。
ここで血を流すな、あのひとの子供たちを傷つけるな。
頼む。
モウヒトリノ、ワタシガ、メザメルマエニ。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
完全なる殲滅。
倒れている地球防衛軍の兵士に、生存者はいない。
ただ、ここからどうするべきかは、判断が難しい。
「さて。熱いシャワーを浴びて一杯やりたいところだが、まだ任務は終わっていない……」
「そうだな。この中に逃げた人たちに、詳しい話を聞きたいところだが」
「俺のグレネードでも、こいつは無理だ」
笑いながら、ガンガンと壁を殴るランドグレン。
すると、壁の一部が光り輝くと、ゆっくりと隆起し始めた。
「……全員、下がれ‼︎」
ガーデンツィオの叫びに呼応するかのように、全員が下がって武器を構える。
すると、隆起した壁が液体のように分離し、そこから銀色のマネキンが生み出される。
──シャルルルル
全身から針のようものを生み出し、触手のように転がっている地球防衛軍の死体に突き刺すと、何かをゆっくりと吸い上げ始めた。
「子供たちを守る……星の民を守る……お前たちは、敵だ……ころ」
──ドゥン‼︎
銀色のマネキンの頭にグレネードを撃ち込むランドグレン。
だが、吹き飛んだ頭は水銀のように液化し、そこにも針を突き刺して吸収している。
「なあ、ガーデンツィオ……ここはアーノルドの出番だと思うんだが」
「同感だ。だが、確かまだフレームしかできていないはずだよな?」
「つまり、ここはかなり不味いと?」
「片手でショットガン回してリロードするやつぐらいじゃないと、勝てないんじゃないか?」
「そうだな。つまりは」
「「「「逃げろ‼︎」」」」
ディーガイズの全員が叫びながら走る。
その背後では、頭を再生したマネキンが周りを見渡してから、ゆっくりとディーガイズを追跡し始めた。
命令……星の民を守る……奴らは、星の民を殺したから……命令……星の民を守る……奴らは、星の民を殺したから…… 命令……星の民を守る……奴らは、星の民を殺したから……。
同じことを呟きつつ、地球防衛軍の死体から『壊れたバイオナノマシン』を回収したリビングアーマーは、主人の命令を守るために、ディーガイズを追いかけ始めた。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。











