蘇る亡霊
『機動戦艦から始まる、現代の錬金術師』は不定期更新です。
──市ヶ谷、防衛省
現在、防衛省庁舎は厳戒態勢に突入。
地球防衛軍によって占拠された区画が一つ、また一つと解放され、敵兵士たちが次々と捕獲されていったのである。
「次、階段上。左右に敵兵士二とニ。装備は突撃銃」
「了解。佐竹、大山は左、丸藤と鷹木は右に回れ。佐山と俺は上に回る」
サーバントの『火』が壁を透視し、敵の配置と装備を説明する。
それに合わせて部隊長が指示を出すと、同時に階段を駆け上がり左右を同時制圧。
そして佐山と隊長の棚橋は……。
──シュッ
左腕の籠手から打ち出したアンカーを天井に突き刺し、一気に巻き上げて立体機動を行い、反動を巧みに利用して敵の背面に回り込む。
特戦群本隊ですら配備されていない【立体機動用籠手】を、この部隊は全員が左右両手に装備している。
「D1C2制圧」
「了解。フロアーの鎮圧はお任せしてよろしいですが?」
佐竹の報告に頷くと、棚橋が傍で待機している『火』に問いかける。
すると後ろから『林』と朔夜が音もなくスキップで駆け上がってきた。
「制圧でござるな。全滅、殲滅、半殺し、無血のどれが望みでござるか?」
忍者部隊の実力は、一階フロアの流血会場で充分なほど理解している。
それをどこかでみたのだろう敵兵士たちも、朔夜たちの姿を見ると士気が低下し、やや引き気味になっていた。
それならば、これ以上の流血沙汰は必要ない。
地球防衛軍に身を堕としたとはいえ、元は同じ自衛官たちである。
彼らも同じ日本人。
だからこそ、棚橋は今の彼らの姿が偲びなかった。
「半殺しで。ここまでの事をしでかした罪を、身をもって味わって貰います。自分たちが何をしたのか、この法治国家の日本の基盤を揺るがした罪は、無血での降伏などで許される筈がありません」
「林、装備を徒手空拳に切り替えるでござる。拙者は忍術で応戦するでござるから」
「了承。手足の一本ずつぐらいは、折って構わないてすな?」
「可能な限り、関節を砕くでござる。あと、脇腹を抓るのも許すでござるよ」
──シュンッ。
朔夜の許可が出た瞬間。
林の姿が消える。
「痛ててててててててて‼︎」
そしてフロアの何処かから、全力の悲鳴が聞こえて来る。
「さ、朔夜殿、あれは?」
「林が相手の脇腹を抓りながら関節を決めているでござる。参考までに林の必殺技はノーザンライトスープレックス。音速を越える投げ技に対抗できる人間はいないでござるよ」
カンラカンラと笑う朔夜に、棚橋はゴクリと息を呑む。
「参考までに、林の手のクラッシュ力とピッチ力は、地球のゴリラとかいう動物の三倍でござる。その力で脇腹を掴まれて抓るのでござるから……まあ、ブチっと行くでござるよ」
「い、いや、もういいです。それでは後をお任せします」
──シュンッ。
棚橋の言葉に頷くと、朔夜も姿が消える。
「では、次の階の制圧に向かう前に、階段上から四人、間も無くスタングレネードが来るでござる」
──カンカントシュッ
林の説明の直後に、彼の目の前にスタングレネードが落下したらしい。
すぐさま林が手に取って、窓の外目掛けて全力で投げ飛ばした。
──ゴゥゥゥゥゥゥ
窓の外から聞こえる爆音。
音と光とガスの三段効果の最新型スタングレネードも、爆発する直前に別の場所に放り出されては意味がない。
「参考までに、拙者たちは五十メートル離れて手榴弾のキャッチボールができるでござる」
「まあ、ピンを抜かなければ……」
「まさか、ピンを抜いてでござるよ。最高記録は五回でござるなぁ」
時速180kmの手榴弾のキャッチボールなど、何処の誰が考えつくだろう。
「……あと八秒アタックライン」
──ガチャガチャッ
林の指示に合わせて、全員が銃を構える。
そしてきっかり八秒後に姿を表した兵士達に向けて、先制攻撃を与えていった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──北海道・手稲山裾野ベースキャンプ
ミサキはサンドイッチ片手に、モニターを確認。
次々と送られてくるデータをトラス・ワンがわかりやすく解析して表示してくれているので、細かい突っ込み解説は無用。
まるでシミュレーションゲームのように、画面の上で動く駒を見ている。
「国会議事堂周辺の制圧まで、五分の遅れか。予想外に自衛隊は優秀だなぁ」
「そりゃあ、我が国日本が誇る自衛隊です。技術、勇気、装備、個人の資質、全てが世界を凌駕しているという自負はあります」
嬉しそうに声を出す星澤。
特殊部隊ならばアメリカのSEALDsが最強であることは否めないものの、今動いている【名も無き特戦群】は、そのSEALDsを遙かにうわまっているだろう。
「守りについては、だよね。専守防衛の日本では、外を攻めるための軍事力は持たない。だからこそ、守りに特化した部隊が出来上がる。まあ、それは今回の戦闘ではっきりとわかったよ」
いくら地球の特殊部隊でも、サーバント四人ならば国会議事堂周辺ぐらいは簡単に制圧できる。
そう考えていたのだが、予想外に手こずっている。
その理由は簡単。
国会議事堂を制圧していた自衛隊及び地球防衛軍の兵士たちが戦闘パターンを切り替えた。
今の彼らは、外敵である忍者部隊から、『国会議事堂内の議員たちを守る』戦術に切り替えたのである。
すぐさま後続の援軍が来る事を想定しての遅延戦闘行為、持てる戦力を的確に把握し、ひとりのサーバントに対して四人で突撃、後方からの支援もしっかりと。
完全に統制の取れた自衛官とは、かくあるのだろう。
「しゃーない。このまま時間を取られるのも癪だが……」
モニターを切り替えると、別の位置から国会議事堂内に突入した『ユキウサギ』の十二名が映る。
「いや、おかしいから。スターゲイザーの監視システムを超えた動きしているぞ、こいつらは」
「まあ、ユキウサギですからねぇ」
決して速度的に速いわけではない。
単純に人間の死角や、人間が作り出したものの死角を理解した動きなだけである。
無音暗殺術に近い動きで議事堂内部に潜入すると、その数分後にはいくつかの入り口が解放されている。
「……このコックコート着て牛刀構えたやつも特殊部隊か? 厨房では最強の諜報部員か?」
ふとミサキが頭を捻った存在。
どの特戦群よりも動きの良いコックがひとり。
「さあ? 私もそこまではわかりませんが」
「そっか。まあ、味方なら構わないわ」
防衛省庁舎の動きはトラス・ワンが随時サポートしているので、ミサキは国会議事堂のサポートにシフトを切り替え。
ユキウサギの通信回線にも割り込めるようにシステムを調整すると、三百六十度全周囲からのモニターデータを一斉送信。
『花、了解。ユキウサギのサポートに切り替えます』
『鳥了解。山と合流完了、引き続き外縁部の絶滅に入ります』
『風了解。ユキウサギの尖兵に切り替えます』
『月了解。議員たちの避難誘導の幇助に切り替えます』
花鳥風月が指示を受けて動く。
そしてミサキは自衛官たちにも通信で状況を送り出し、手薄なところや敵の待ち伏せなどについて一つ一つ指示を飛ばしていった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──市ヶ谷・防衛省庁舎
すでに激戦区状態の最上階。
追い込まれた地球防衛軍兵士たちが逃げ場を求めて上がっていったのに対して、各フロアーの制圧を終えた特戦群は、少しずつ隊員数を増やしながら上を目指す。
すでに別働隊によりB庁舎やC庁舎といった周辺の建物は制圧済みであり、そこから合流した別働隊が、本丸であるA庁舎に終結していたのである。
──ドダダッ、ダダダタッ
「はっはっはっ。この先が敵の親分でござるか」
「ああ。かといって、この弾幕をどうにかしないことには」
スタングレネードの補充が来るまで、棚橋たちもこれ以上の進撃は不可能。
相手は部屋に立て篭もり、いくつものバリケードを建てての応戦体制。
「では、拙者たちの出番でござるかな?」
「朔夜殿、ここは私が」
スッと立ち上がった林が、右手に警棒を構えて前に出る。
──チュンチュンチュンチュン‼︎
全身に銃弾を浴びても怯むことない林。
その異様な存在に敵兵士たちも士気が低下するのだが。
──ガバッ‼︎
「林、逃げるでござぁぁぁぁぁ」
──チン
何かが奥の部屋から飛び出したかと思うと、その手の軍刀で林の首を一刀両断。
まさかの事態に、朔夜も驚く……演技をしつつ、相手を解析している。
「制御コアにも二突きだ。これがスターゲイザーのサーバントか。本当に厄介な存在だ。だからこそ、我々の地球には必要ない」
──チン
軍刀を鞘に納めて、有川義光が転がっている林の頭に唾を吐き捨てる。
「そこにいるのは、特戦群の棚橋か。まだひよっこだったお前が、まさか俺を止めになるとはな」
「有川一佐……いや、今は自衛官でもありませんよね。どうしてこのような事をしたのですか?」
「どうして? それは簡単だよ……」
そう告げると同時に、有川は抜刀して左から飛んできた忍者刀を受け止め、流した。
朔夜の神速抜刀術に、人間である有川は反応し、それを受け止めたのである。
「今の日本は腐りきっている。政治中枢上層部は腐敗し、己の利権を守るために政治を演じている。それを御すべき議員たちもまた、他国に忖度した売国奴ばかり。通名を名乗り国籍を取れば、誰でも議員になれる……その結果がこれだ‼︎」
──ブゥン
懐から取り出した写真の数々。
それは、今現在の国会議事堂内のいくつもの部屋を映している。
のんびりと椅子に座り談笑する議員。
ある部屋では、ビールを飲みながら愚痴を吐く者もいる。
いくつかの部屋では対策会議を行なっているが、それは若手議員や中堅議員が多く、より経験豊かな年長者たちは、部屋で寛いでいるものが多い。
「この緊張した空気の中、なぜ笑う、なぜ戦わない……我々はいくらでも、奴らとの話し合いの場を用意した。そのために建物内部にも諜報員を用意した。その結果、彼らは……スターゲイザーからの援軍が来るのを待つという愚策を選択した‼︎」
──ガギンガギン
叫びつつも朔夜の乱撃を受け飛ばす。
これには、その場の部隊員全てが氷漬けになる。
朔夜の実力、スターゲイザーの忍者の本気を彼らは見た。
それに追いつく人間が、目の前にいたのである。
「棚橋‼︎ 俺を殺せ‼︎ さもなくば、俺が日本を軍事国家に作り替える‼︎ こんな異星人の力など必要としない、強い日本を作る‼︎」
血涙を流しつつ叫ぶ有川。
その光景に、その言葉に、その場の全員が釘付けである。
ただし、朔夜と火、そしてもの言わぬ林だけは、今のこの状況を冷静に分析していた。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。











