あの日、思い描いた夢は
突き抜けるような満点の星空が広がっていた。
幾千万とも知れぬ星たちが瞬くなか、人里離れた丘の上で、膝を抱え草地に座っていたのは二人の兄妹。
その時、ひとつの星が、東の空から西の方角に向かって流れた。星空を二つに別ち、一瞬で散った輝きを見つめ、それはどこか、人の命のようだな、と少女は思う。
つい先日も、多くの人の命が失われた。
他ならぬ、自分たちの手によって。
「兄さん。流れ星、見えましたか?」
「ああ、もちろん見えたとも」と呟いたのち、思いついたように彼は続けた。「そういえば、知っているかルティス?」
「はい? 何をですか?」
「流れ星が消えるまでに三つ願い事を言えば、それは叶うと言われているらしい」
「眉唾物の、話ですね?」と言って少女はくすりと笑う。「まあ、確かにな」と少年も同意を示した。
ルティスと呼ばれた少女の瞳と長い髪は、透き通るような翡翠色。彼女の隣に座っている少年もまた、透き通るような青色の髪と瞳を持っていた。
「もし、願い事がひとつだけ叶うとしたら、ルティスは何を願う?」
顎に手をそえ顔を俯かせ、んーとルティスが思案する。
「私の中にひそんでいる、この力を消してください、ですかね」
「長いな。そんな願い事言えるかな」
ふっと苦い笑みを零した兄に対して、ルティスはいたずらっぽく舌をだした。
「嘘ですよ。やっぱり長すぎますからね。『普通の生活』がしたい。こんなところでしょうか」
ささやかな、けれど、悲しい願い事だな、と少年は思った。ひとつめの願い事が叶わぬことには、二つ目の願い事だって叶わないのだから。普通の生活ですら高望みであることに、彼の胸がきゅっと音を立て軋んだ。
「結局、どちらも言えそうにないのです」
「そうだな」
言えないというよりも、叶いそうにない、だろうか。少年は心中でそう思う。
「ねえ、兄さん」
「ん、どうした?」
「お願いがあるのです。もし私がまた、自分の力を抑えることができなくなった時は、兄さんの手で私のことを殺してくださ──」
「そんなことにはならない」
妹の言葉を遮るように、少年は言った。そのまま、星空をすっと見上げる。
「え……?」
「心配するな。何時でも僕が、お前の側についているから」
少年は無言で妹の頭をなで、この悲しい戦争が、一刻も早く終わることを願った。そして、次に流れ星を見れたときは、これを自分の願い事にしようと決めた。
──しかし、妹と最後に交わした約束は、その後果たされることはなかった。
最終章 ──「帰るべきトコロ」




