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総力戦②

「ねえ、これ本当にこっち来ないの~?」

「ルティスが大丈夫って言うなら大丈夫なんです。あんまり情けない声を出さないでください。私にまで、あなたの不安が伝播します」


 コノハが不安を吐露すると、彼女に抱きかかえられているシャンが皮肉で返した。

 青黒い空の下、五人はラガン王国の大地を目指して飛んでいるところだった。

 コノハが飛行(フライト)の魔法でシャンを抱えて飛び、翼を持っているリンもオルハを抱えている状態なので、一行は丸腰なのも同然。

 一方で、彼女らが向かっている先の空を埋め尽くしているのは、灰褐色の魔物の群れ。コノハが情けない声を漏らしてしまうのも、まあ、無理もない話。


「ほらほら、噂をしていたらなんとやらだよ。なんか、こっちに寄って来たんですけど~」


 ややあって、魔物の一団が接近してくると、いよいよコノハの顔が青ざめる。


「いいから黙って魔法に集中してなさい、コノハ」

「だって~~」


 二人のやり取りに小さく笑みを浮かべたのち、ルティスは「大丈夫ですよ」と言って隊列の先頭に進み出ると、左手の宝石を魔物の群れにかざした。


「退きなさい」


 ルティスが威厳のある声で言うと、彼女まであと数メートルほどと迫っていた魔物の群れが一斉に動きを止め、道を開けるように左右に分かれた。


「あの魔物たちは、全て、王国を守るためだけに生成された存在。彼らはこの宝石を恐れ避けるように、プログラムされているのです。他の侵入者たちと、区別できるように」

「なるほど、ね。それでこいつらは、こうして道を空けたって訳か」


 得心したように、リンが呟いた。

 段々と、日が昇り始めた黎明の空。埋め尽くしていた魔物の群れが、ルティスの接近に呼応して左右に割れていく。それは、勇壮な景観にも見えるが、ルティスの胸中は複雑だった。

 まるで、私が自然ならざる存在である事を肯定されているようね。まあ、それも事実なのだけれど。


 やがて一行の眼前に、巨大な積乱雲の姿がはっきりと見えてくる。時折稲光が走る真っ暗な雲の隙間から覗くのは、天空に浮かぶ大地の姿。間近で目にするそれは、先日テッドが見せてくれた映像のイメージよりも、何倍も大きいように思えた。ほえー、とコノハが感嘆の声をもらす。

 ルティスが近づいていくと、天空都市の周囲を厚く覆っていた雷雲も、雲の子を散らすようにかき消えていく。

 あたかもそれは、王族の帰還を歓迎しているかのように。


 ラガン王国の上空に差し掛かり、眼下に大地の緑が見えてきたその時、がくん、とコノハの体が下方に引っ張られる。


「え、なにこれ!?」

「ちょっと、だから集中を切らさないでと言ってるでしょう!?」


 必死に体勢を整えようとするコノハをみて、ルティスが呟いた。


「忘れていました。ラガン王国の周辺には外部からの侵入を拒むため、魔法を遮断する結界が張られているんです」

「それをもっと早く言ってええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 叫び声をあげながら墜落していくコノハに続いて、ルティスの体も重力に引っ張られてがくん、と傾く。


「迂闊でした。ボク自身も、翼と魔法を併用して飛んでるってことを忘れてました」

「大丈夫か?」というリンの言葉にルティスが頷く。「最悪、ボクは翼で滑空ができるので平気です。けど、コノハたちはちょいと不味いです。急いで追いかけましょう」

「言われなくても!」


 ルティスに続いてリンも急降下の体勢にはいった。


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