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第5話 同居するって本当ですか!?



翌日、僕は車中の人となっていた。

二頭の馬にひかれた幌付きの車でガタゴトと揺られている。

どうやらこの国に自動車はないらしい。やはりここは僕の知る世界じゃないのだ。

……となると、事故にあった僕のからだは今どうなっているんだろう。

無性にもとのからだが恋しくなった僕は、埒もない事を考えている。

もしかして僕と入れ違いに、ロザリンドがあのからだに入ってるって事はないかな?

「……難しい顔して、また考え事?」

不満そうに唇を尖らせて言ったのは、勿論ロザリンドの婚約者殿だ。

僕の隣に座っている彼は、考え込んでいるロザリンドの顔を飽きずに見つめていたらしい。

レイモンドは一途な男なのだ。

「違う」

顔をしかめて、僕はきっぱりと言った。いや、考え事をしていたのには違いないんだけど、僕がもとのからだの事を考えだしたそもそものきっかけは。

「……座りっぱなしでおしりが痛いんだよ」

続く言葉は、一応レイモンドの耳許にこっそりと囁いた。

馬車の中には、僕とレイモンドのふたりきりしかいないとはいえ、淑女が堂々と口にしていいことではないだろう。

……とはいえ、辛い。

ロザリンドのおしりときたら、薄絹一枚程の脂肪もないものだから、鬱陶しいくらいぽちゃぽちゃしていた僕のからだを恋しく想ったとしても仕方がないと思わない?

もっとも、今あの体で馬車に乗ってるとしたら馬が大変だし、からだの重さの分余計に圧迫されるおしりはやっぱり痛むんだろうけど。

「だったら私の膝に座ればいいのに」

にこっ、と笑ってレイモンドが言った。

「それは遠慮する」

「いいじゃない、誰も見てないよ?」

丁重に断ったつもりが、レイモンドは意に介した風もなく自分の膝をぽんぽんと叩く。

誰も見てないとかそういう問題じゃないから。

「それより、あとどのくらいで着きそう?」

「そうだねえ」

レイモンドは馬車の小窓から外を覗きながら顎を撫でた。

「あと四半刻ってところかな。膝の上に座るのがだめなら私に抱っこさせてくれないか?」

「誰を?」

この車に抱っこが必要なちっちゃい子なんて乗っていたっけ?

きょとんとして訊ね返すと、レイモンドは一瞬変な顔をしたものの、すぐにいつもの貴公子然とした微笑みを浮かべた。

「もちろんユキムラ、君を」

「それ同じ事だよね、膝に乗るのと」

それに悪いけど、レイモンドの膝にしたって、そう座り心地が良さそうには思えない。

ともあれ、あと30分はこの揺れとおしりの痛みに耐えなければならない訳だ。

「この辺りって、あまり道の整備が行き届いてないのかな?」

「辺境だからね。都とは予算がゼロふたつくらい違う。道の修補にまでまわらないのだろうね。特にこの道はあまり往来がないし」

「ふぅん……」

僕たちは、レイモンドのお母さんの実家であるエリオット家の別荘へと向かっている。

池で溺れて以来、様子のおかしくなったロザリンド(つまり中身が僕に入れかわっちゃった状態)の療養のため、身を寄せることになったのだ。

レイモンドはそのために辺境の警備隊へと異動を願い出た。

貴公子のようななりをして、実はレイモンドは軍人だったのだ。

これには僕も驚いた。

箸より重いものは持ったことありません、って顔をしているのに。

ちなみにそれを正直に言ったら、『人は顔で職業を決める訳じゃないんだよ』と呆れながら諭されてしまった。

……仰る通りです。

「レイモンドのお祖父さんってどんな人?」

エリオット伯、レイモンドのお母さんのお父さんは、現役を退いて別荘で暮らしていらっしゃるそうだ。つまり、僕は今日からその人と一緒に暮らすということ。

気難しい人でないといいけど。

「私といるのに、他の男の話?」

白い額にシワを寄せて、レイモンドがざらついた声で呟いた。

……この人、こんなに面倒くさかったっけ?

「他の男って。自分のお祖父さんでしょう」

「つまり、私のお祖父様だから興味があるということ?」

……もうそういう事でいいや。

なげやりに頷くと、レイモンドはわかりやすく相好を崩した。

「お祖父様の事は私もよく知らない」

なんだそりゃ。

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