夏の匂い(関西弁男子×1推奨 標準語切替&性転換OK)
「春の香り、好きやな」
僕はおもむろにそう呟いた。
君は隣でそっか……と微笑んだ。
「だって、君の匂いやから」
高校二年、春の暮れ。
君を君やと思ったあの季節。
ふと降り出した雨に立ち尽くした靴箱の前、眉間にしわ寄せとった僕の目の前に、ずいと差し出された桜色の傘を今でも覚えてる。
やり方は不器用やったけど、真っ赤に染めた頬を長い黒髪で隠した君は、家近くやから使って! なーんて嘘をついたんだっけか。
雨のなか走り出した君の背に、僕は声をかける勇気もないまま……、次の日、熱出して学校休んだ君の家にお見舞いに行ったんやっけ。
そんなこんなで仲が良なった梅雨初め。連絡先交換して、たまにする他愛ないやり取り……。
やけど、笑顔の文字を見るたびに、君の笑顔がチラついて離れへんかった。
ドキドキんなか、勇気振り絞って誘った夏の花火。はしゃぐ君が眩しくて、話しかけるアイツにむっとして。
そしてあの秋の夕立。
桜色の傘、忘れた君に紺の傘を差し出して、いつもより手がふるえる相合い傘。妹とは気分の違う相合い傘。
……あんときはできひんかった相合い傘。
肩突っつき合わせて、男女二人恥ずかしげに……、並んで歩いて家の前に来たとき……、今やと叫んだ恋心。
今はもう、僕らの間にはチビがおる。
二人であんとき色の傘持って、小さなこの子を守ってる。
「君が、好きやで」
君はまた、小さく微笑んだ。




