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彼は魔物としての人生を歩む  作者: 優
第一部 特異種
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第八話 黒いスライム .4

 黒いスライムは、冒険者の一人を喰らい再び姿を現したと思うと、更にもう一人と前衛の二人を喰らう。

すると、再び光が体を包みスライムは新たな姿を露にした。

スライム特有の光沢を持つが、前の姿には無かった目や鼻が顔に形成され丸々と太っている。


「美味い。力が溢れてくるようだ」


 先ほどとは一変し、流暢に話すスライムの姿は亜人として人間社会に溶け込むことも可能な程に人間の姿に近づいていた。

ただ、威圧感は更に増している。数分前と同じ存在と考えて戦闘すれば痛い目をみるだろう。


「魔力が溢れる。これが……人間を喰うという事か」


 スライムは己の魔力量の上昇を実感し高揚した声を出す。

Aランク冒険者を二人喰った、その恩恵は大きい。今まで、ゾンビやスライムといった下級の魔物の微々たる魔力と比べれば歴然だろう。


「もっとだ、もっと……もっと喰わせろ」


 ユーリーではなく冒険者に目を付けたスライムは、一気に冒険者へと駆け出した。

その速度は、もはやスライムと言うには無理がある程の速さ。不快な水音を立てながら二足歩行で走り出す、光沢のある人間。

冒険者達は逃げるでもなく、仲間を喰われたのを目にしても動じる事なくスライムと対峙する。流石は上位の冒険者といったところだろう。


 ただ、未知な攻撃をするスライムにどこまで対応できるか。

前衛が二人喰われ、陣形は既に崩壊していた。だが、後方で待機していたカーマとブルームが前衛を務めスライムの攻撃をいなしていく。


 鋼鉄で出来た大盾に触手が触れると、煙が立ち上り徐々に溶かす。

鋼鉄でも溶かすスライムの身体が、もし肌に触れればひとたまりもないだろう。

このままでは前衛の二人が喰われるのは時間の問題、そう思ったユーリーは動き出した。


 スライムを喰らうなどと言っていられる状況ではなくなった。

このままでは教え子が死ぬ可能性がある。ユーリーは石畳を踏みしめ一気に間合いを詰めると、蒼炎を纏わせ上段から振り下ろす。


 背後からの一撃のはずだった。しかしスライムはユーリーが接近する前に骨のない首は百八十度回転しユーリーを視認する。

振り下ろされた剣をなぞる様に、スライムの身体は二つに割れ変形し剣を交わす。

二つに割れた片側は動かなくなった、それを見てユーリーは緊急に備えての回避手段だととった。


 この調子で体積を減らしていけばあるいは、そう思い更に踏み込み下段から斬り上げる。

ただ、それも分裂し躱されていくが徐々に体積が少なくなっていくスライムを見て勝機が見えてくる。


「うぐあッ」


 一人の男の悲鳴が響く。

スライムは目の前に居るのに陣形の後方から聞こえた、その声に視線を向けると割れた片側が地面を這い冒険者を飲み込んでいた。

的確に魔力量の多いAランク冒険者が一人ずつ喰われていく。既に五人喰われAランク冒険ば全滅しアンリ達のパーティのみとなった。

陣形は崩壊し、前線を維持することすら困難になりはじめる。このままじゃ全滅してしまう。それは避けなければならなかった。


「ニゲロッ」


 ユーリーは必死に冒険者達に伝える。

ただ、魔物の言葉を鵜呑みにする冒険者達ではない。戦闘を継続する様子を見て内心舌打ちをすると行動で示す。

ユーリーは残りわずかとなった魔力量も考え蒼炎を出さずに、スライムを鷲掴みにする。

指の隙間から這い出ようと動くが、その前に全力を振り絞り冒険者が居る方向とは逆へと投げ、冒険者たちに再び逃げろと怒声を浴びせた。


「ア……」


 投げる為に一瞬、冒険者から目を離した時だった。

スライムの破片は暗闇に紛れ冒険者に近づいていた。その破片は前衛のブルームに絡み付く。

肌を焼く匂い、生きながら焼かれる苦痛を味わい声にならない声がダンジョン内に響く。仲間達が助けようとブルームに手を伸ばす。


「触るなッ。お前たちもやられるぞ」


 さし伸ばされた手を拒み、一人苦痛に耐えるブルームは明らかに体力の限界まできていた。

徐々に侵食するスライムの身体。今、ブルームを助けるには核であるスライムを倒すしか無い。そしてそれが出来るのは現状ユーリーしか居なかった。


 後方へ投げたスライムは深いな音を鳴らしながら再び近づいてくる。

その姿はダメージを一切受けていないように見えた。倒すのなら一撃ですべてを消し去る程の火力を込めなければならない。


『全身に炎を纏わせてはダメだ。回復が追いついてしまう。逃れる事の出来ない蒼炎の檻を』


 僅かに残る魔力を最大まで込めていく。

これを外せば戦闘の続行は不可能だろう。もし倒したとしても冒険者と戦わなければならない状況になれば死ぬかもしれない。

だが、やらなければ大事な教え子が死んでしまう。極限まで集中力を高めてユーリーは新たな魔法を作り出した。


『蒼炎の監獄』


 魔法名を唱え、魔力を可視化させていく。

この魔法は設置型と言われる魔法で、罠の様に相手が設置された地点に入ると発動する。

先ほどまでとは違い、攻めではなく待ちの状態に戦況が変化した現状でしか使う事が出来ない。


「うぎぎが、もっと……もっと喰わせろ」


 人間の味を知ったスライムは人間の事しか考える事が出来なくなっていた。

今のスライム程の魔力量を持ってすれば警戒するだけで設置された魔法に気づくことが出来ただろう。


「あ”?」


 スライムから声が漏れると同時に、四方から炎が可視化され退路を塞ぐ様にスライムに迫る。

ユーリーの目からも明らかに焦りが見え、どうにか逃げようと何度も分裂を繰り返していくが間に合わない。

蒼炎の檻は縄の様に撓りスライムの身体を拘束していくと同時に身体を焼き尽くしてく。


「ぐががぎっがが」


 声にならない声が響く。

スライムの断末魔を聞くことは中々無いだろう。

檻は徐々に縮み最後にはすべてを飲み込み蝋燭の火の様に小さく燃え最後には消えていった―――。

 今回で黒いスライムとの戦いは終了です!!

特異種の最初という事で、意外と呆気なく終わった感じしますけど、これからも特異種は出てきます。


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