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彼は魔物としての人生を歩む  作者: 優
第一部 特異種
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第四話 魔物として

 呼吸を荒げ、アンリ達四人は辿ってきた通路を逃げ帰っていた。

短い戦闘、剣を交えたのは数回程度だが魔物との力量差は明らか、討伐することは困難と判断した結果の逃走である。

粗悪な剣で無骨に力任せで振り回すのなら良いが、アンリが落としたユーリーの剣を持ち、長年剣技に携わってきた歴戦の戦士の様な動きをする魔物を相手に戦うのは分が悪い。


 ユーリーの剣を魔物に取られ置いていくことは後ろ髪を引かれる気持ちだが、今は冒険者ギルドに報告する事が最優先である。

報告後に討伐体を編成し、Aランクも交えて再び戦う事になるだろう、剣を取り戻すのはそれからでも遅くはない。


「はぁはぁ……なんなんだあの化け物は」


 行きに一日も掛けて降った階層もダ、内部構造に変化が無く帰りは早かった。

特異種も出てこず出てくるのはスライムやゾンビといった類の魔物だけ。一時間、一心不乱に走りダンジョンを脱出した。


「わからない……けどさ、あの見た目、二本の角に赤い目をした魔物。昔の物語で聞いた鬼っていう魔物に似てる気がするんだよな」


 鬼の物語は有名である。

闇夜で赤い目を光らせ、その剛腕で丸太を鷲掴みし振り回す魔物。その魔物は子供の恐怖心を煽り魔物に対しての警戒心を養うために生まれた童話である。

ただ、特異種とは未知の魔物を生み出す。潜在進化によって容姿が変わり鬼の様で別種の魔物が現在のユーリーである。


「取り合えず戻ろう。あの魔物がダンジョンを出て村にでも現れたら厄介だ」


 カーマの一言で、ユーリーに対しての考察は終了した。

ただ、一人だけ剣を直接受けたブルームだけが違和感を覚えていた。

忘れるわけのないあの剣捌き、剣を自分の体の一部の様に扱う身のこなし、あれは間違いなくユーリーの業であった。

そして最後のユーリーという名をアンリが発した直後に暴れ狂う魔物はピタリと動きを止めた復唱したように聞こえた。


「考えすぎか」

「なに立ち止まってんだ、行くぞ」


 そんな事は無い、あり得ないと考る事をやめ、先を急ぐ仲間達の元へと駆け出した。


 ◇◇◇


 全てを思い出したユーリーは放心状態になっていた。

人間だった頃、そして魔物の姿となった時の事もはっきりと記憶しており、ゾンビを喰らっていた記憶で嘔吐感が襲う。

酷く嘔吐くが吐くことも出来ずに、ただ気分が悪くなっていく一方、解決の糸口を探すように魔物となった後の記憶を探っていく。


 記憶はあるが、自分の記憶であって自分の記憶ではない様な感覚だ。


 最初、目覚めた時。ユーリーはゾンビの様な腐敗した肉の屍になっていた。

ただ、あの時は酷い飢餓感に襲われていたのを覚えている。何か喰わねば死ぬ、その何かを探して彷徨っていた。

そして魔物を見つけては喰らい続けた。一睡もせずに見つけては喰らい、喰らった魔物の数が三桁を超える頃に体の異変を感じた。


 どれほど食べても満たされない飢餓感が亡くなり。腐敗し痩せ細った身体は腐敗しているが肉を帯び始める。

額の一部が異様な熱さを持ち、骨が変形していき二本の角が生え、身体が新たに形成され別の個体へと潜在進化した。


 潜在進化したユーリーはゾンビの様な容姿とはとても思えない異様な化け物となる。

その時、新人冒険者と出会った。あの時、もし一瞬だが抗う事をせずに人を殺し喰らえば人格を取り戻すことはできなかったであろう。


 それから、進化した体でもやる事は変わらなかった。

ただ、客観的に見て進化すれば人格が無くとも知能は上がるのか、魔石だけを取り出し食料となる魔物は保存していた。

もしあのまま進化を続ければ、魔物として新たな人格を手に入れアドルノルフに仕えていたのかと思うとゾッとする。


 次に思い当たる記憶は先ほど対峙した四人の冒険者だった。

ユーリーはあの四人を知っている、知らないはずが無い。かつての教え子であり自分を慕ってくれていたのだから。


 四人が自分に剣を向けて来た事を最初は酷く悲しく感じたが、今の容姿では無理もない。

そう考えると、成長した喜びを感じていた。数回だが剣を交えて剣の技量は勿論パーティとしての力量が上がっている事が分かると師である事に誇りすら感じる。


 再び木剣を交えたいと昔の思い出に浸るが、それは叶わぬ夢だろう。ただ自らの手で殺さなくて良かったと安堵の息を吐いた。


『これからどうすればいいのだろうか』


 魔物の姿となった自分が、ダンジョンを飛び出し街へ行き。生前はユーリーでしたと説明をしても討伐されるだろう。

その前に街に入れる事すら叶わず冒険者と対峙する事になるのは目に見えて明らかだ。


 自分の姿を取り戻す方法、それを探さねばならない。

その一番早い手段はアドルノルフに会う事であるが、今の自分が一人で乗り込んだとして人に戻る方法を聞いて答えるはずもない。

答えるはずも無いどころか、契約魔法が強制的に解除された事をアドルノルフは察知している可能性すらある。


 身体能力が飛躍的に上がった魔物の体でさえ、あの不死の王に敵うと思えるほど己惚れていない。ならばどうするか。

ユーリーは考え込み、一つの答えに至る。


『喰らう……、魔物を喰らい更に強く……』


 その答えは潜在進化であった。

人としての道を踏み外した自分が、再び人の道を歩む事は出来ない。

ならば、魔物としてアドルノルフを倒し、人々を救い自分の本当の身体を取り戻す以外の選択肢は無い。


『いや、待てよ……。潜在進化をする事でより人間に近づく事が出来れば』


 ユーリーは人の領域に潜む魔物の存在を知っている。

吸血鬼、小人、サキュバス、街で普通に生活をしているエルフやドワーフも、魔人に分類される。

あの魔物たちは、人と見比べても分からず、被害が出た場合に対処する事が困難な魔物として有名である。


 潜在進化でより魔物らしい姿ではなく、より人間らしい姿となれば人間の生活圏に侵入し情報や仲間を募る事も可能となるかもしれない。

しかし、肝心な人間の様な姿に潜在進化する為には何が必要なのかが分からない。


 ゾンビを喰らい続け鬼の様になったのには意味があるはずだ。

その関連性を見つけ出さなければ、人間との共闘は儚い夢と変わる。


 考えても考えても答えは出ない。

何かを見落としているはず、そう思い再び一から考え直すが答えを導き出すことが出来ぬまま時間だけが過ぎていった。


 そして、ある一つの事を思い出す。それは逃げ帰った新人冒険者とアンリ達の四人である。

新人冒険者が入るダンジョン、そしてアンリ達が持ってきた、昔愛用していた剣で察しは付いた。

現在の居る地点はグラノール国から馬車で四時間もすれば辿り着く新人用のダンジョン。


 最初の新人冒険者が逃げ果せたと考えると、あれから一日経過している。

既に冒険者ギルドには話が行き届いているだろう。最初は新人冒険者の戯言だと思われるかもしれないが、アンリ達が行けば間違いなく討伐体が組まれユーリーの前に現れるのも時間の問題だ。

猶予は短く見積もって二、三日と掛からない、魔物の姿となっても人間を殺す事に抵抗のあるユーリーは、この事態を避けなければならない。


 誤ってはならない選択を突き付けられたユーリーは、一つの決断をしたのであった―――。 


 次の話は、別の日に投稿します。

続きが気になる方はブクマ等よろしくお願いいたします!


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