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彼は魔物としての人生を歩む  作者: 優
第一部 特異種
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第三話 過去の記憶


 三人の新人冒険者と入れ替わるように入ってきたアンリ達は、既に地下五階まで降りていた。

黒いスライムを倒して以来、特異種と呼ばれる個体は一度も遭遇していない。遭遇した魔物は四人が知っている魔物ばかりである。


「あれは、偶然だったのか?」

「かもしれない……、分かっていないことが多すぎて。出現条件とかも定かじゃないらしいから」


 特異種が普通に現れた現状で、気を張り詰めながら進行するダンジョン攻略は精神力を削っていく。

普通ならば新人用のダンジョンなど、Bランクの冒険者ならば一日で最奥まで行き二日目には出ている。

ただ、既に一日が経ち、それでも尚最奥までは辿り着いていない。それほどまでに特異種という存在が脅威なのだ。


「こいつは……普通のゾンビか」


 ゾンビは、死して尚動き続ける屍。アンリが得意とする光魔法を弱点とする。

光魔法に当てられたゾンビは行動を阻害され、著しく弱体化する事から、このパーティで死霊系の魔物を討伐するのは造作もない。


「一旦休憩するか」

「そうだね……、それより何だか変な感じしない?ダンジョンの中ってこんなに魔物の数が少なかったっけ」


 アンリは首を傾げながら疑問を他の三人に伝える。

他の三人もその疑問に頷き肯定していた。ダンジョン内は魔素が濃ゆく無限に等しい魔物が現れると言われている。

だが、階層を降るにつれて遭遇する魔物の数は減り、魔素による酔いすらも感じ無いほど魔素が薄くなっている。


 今、魔物が活性化している現状。ダンジョン内部だけ魔物の量が少ないはずがない。

基本、魔物は魔素の濃ゆい場所から生まれてくる。地上の魔物もダンジョンから溢れ出てきたといわれている。

だが溢れる程、このダンジョンには魔物が生息していない。違和感を覚えるのは仕方のないことだろう。


「おかしいな……」


 皆の脳裏によぎったのは、ダンジョンの攻略を始めて間もなくであったスライムである。

特異種と呼ばれるスライムは魔物同士で争った痕跡があった、ダンジョン内で魔物が少ない理由としては合点がいく。

だが一匹だけでダンジョン内部の魔物を狩りつくす事は難しいだろう、まだ何か奥に得体のしれない魔物が居る可能せいがある。


「新たな特異種……」

「あるのか?一つのダンジョンに二匹も居るなんてことが」

「確率は零では無いよ……。いるかもしれないってレベルだけど……警戒するに越したことはないよね」


 トゥーリーは不安で怯え声は震えていた。

ただ、四人にはやらねばならないことがある。もし特異種が居るのならば冒険者として討伐することも視野にいれなければならない事から今更引き返す事は出来ない。

情報の少ない戦いは避けるべきだが、ユーリーの教え通り人の為ならばと思えば特異種だろうと倒して見せると意気込みを見せた。


 探索を一旦止め休憩を始めて一時間が経つ。

奥に特異種が居るかもしれないという考えを隅に置き、重い腰を上げると再び最奥を目指して歩き始めた。


 六階と降りていき、更に魔物の気配が減っていく。

そして異様な空間に辿り着いた。


「なにこれ……」

「ゾンビの死体の山なのか……?」


 目の前にあるのは、無数のゾンビの屍が積み上げられた死体の山だ。

どのゾンビも一刀両断されたように綺麗に切断され、絶命している。そして、どの死体にも魔物を構成する為の魔石だけが抜き取られている。

冒険者であればゾンビの皮や肉といった価値のない部位を捨て魔石以外は放置か焼き払う場合が多く死体を集める意味はない。

その死体の山は、特異種のスライムを見た四人だからこそわかった。これは特異種が溜め込んだ食料なのではないかという事に。


「此処を離れる…ぞ……お前ら伏せろッ」


 振り向き三人の後ろにいる、それを見て前衛を務めていたカーマが咄嗟に後ろにいた三人に指示を出す。

すぐさま、三人はカーマの指示通りに屈むと。頭上数センチ上を風を切る音と共に何かが掠める感覚がした。


「お前ら今すぐ俺の後ろに振り向かずに走れッ」


 立ち上がると振り向かずにカーマを前に陣形を組みなおす。

魔物が出た事はカーマの焦り方でわかる、ただその焦り方が尋常ではない事は最初の一声で分かった。後ろにいる魔物も普通の魔物ではない事も。


「何……これ。ゾンビ……?」

「違う、ゾンビなんて生易しいものじゃない。化け物だこれは」


 四人の目の前には、二本の角を生やし薄暗い中で見える赤く光る目は恐怖心をより駆り立てる。

腐敗しているが、筋肉の付いた剛腕には粗悪な剣が握られており。あの剛腕で力任せに剣を振れば、いくら品質の良い防具を付けていようが衝撃で戦闘不能になるだろう。


 魔物の持つ剣が粗悪な物でなければ、防具は叩き切られ防具の意味を成さない。ただ、そこ一点に四人の勝機があった。

眼前の魔物は剣に頼った攻撃ばかりするのならば、防御のしようがある。


「トゥーリー、俺とブルームに身体強化を。アンリは光魔法を剣に付与し後方からの回復に務めてくれ」


 的確な指示を飛ばしブルームとカーマは剣先をユーリーへと向ける、その手に震えは無い。

Bランクの冒険者である彼らは咄嗟な戦闘に慣れている。目の前にいる魔物が特異種だろうとやる事は変わらない。ただ魔物を倒す事だけを考える。


「動きが分からん。ブルーム、魔法にも気を付けろ」

「了解。俺が剣を受けて隙を作る、まずは動きを見よう」


 この戦法を叩き込んだのはユーリーである。数多の困難と対面しても咄嗟に的確な指示が出来るようになれば生存率は高くなる。

そう教えてくれた事が今でも役に立っている。そんな彼らを見たユーリーは動きを止めていた。


 最初、自分の食料を荒らす魔物が現れたのかと、剣を振り抜きいつも通り殺そうとした。

ただ、それは人間で剣を躱した。そしてその人間はユーリーが良く知っている人物であった。


 動きが止まる、新人冒険者の時と同じではない。封印されたはずの感情が揺さぶられる。

その感覚を抑えようと契約魔法が発動し、鼓動が異様なほどに脈打つが鼓動を無理やり抑え付けようと必死に抗う。


『俺は……何をしているのだろか……』


 無いはずの感情、しかし胸の熱さを感じる。

眼前で構える四人、その四人を見ていると思考を搔き乱され、頭が酷く痛い。


『殺せ、殺して喰らい更に強くなれ』


 脳内に何度も繰り返し流れ続ける声。

その声は死んでも尚忘れない、魂にこびりついた不死の王アドルノルフの声。

何度も何度も精神を蝕む様に鳴り響く声に負けそうになり、無意識に体が暴れ始める。


「やばい、二人で動きを抑える。トゥーリーは魔法で攻撃しろ」


 暴れ狂う魔物を抑えるためにカーマが先陣を切る。

剣を弾き、蹴りを入れ後ろへ飛ばすと、ブルームが地を蹴り剣を振り下ろし追撃する。

動きが止まった所にトゥーリーが魔法で球を形成し可視化させ、動きの止まったユーリーに目掛け放つと着弾する。


 死霊系の魔物ならば、光魔法の付与された剣に当てられれば弱体化する。

ただ、効いている様子は無いが、ユーリーの身体はゆっくりと動きを止めていった。その様子を見て四人は再び動きを止める。


『暖かい光、これは光魔法か……。心地良い、靄のかかった思考が晴れていく気がする』


 光魔法は、ユーリーに届いていた。そして不死の王アドルノルフの契約魔法に少しだが影響を齎す。

闇属性と光属性はお互いに相殺し合う、ただ光属性の魔力が足りない分、契約魔法を打ち破るまでには至らないがユーリーの中で生前の何かが芽生え始める。

ただ、それを阻害するようにアドルノルフの魔力はユーリーを縛り無理やりに体を動かした。


「来るぞッ」


 身体強化でゾンビとは思えぬ速さで迫り来るユーリーの前に、ブルームが大盾を構え攻撃を受ける為に腰を落とした。

ユーリーが次にとった行動は、肘を後ろへと引き腰を落とし下半身に力を籠める。その動きは空気の抵抗を最大まで減らした刺突の動き。

そしてその動きを四人は良く知っている。構えから刺突をするまでの滑らかな動き、狙いを定める時に見せる獲物を狩る獰猛な魔物の様な殺意。

ユーリーとの修行で木剣相手に何度、何度もも受けさせられた記憶が蘇り、その刺突に対しての対処も把握している。


 ユーリーから教えられた、粗悪な剣を使う相手なら真正面から受けろ、盾が勝るのなら剣は壊れると。

ブルームは大盾を前へ突き出しながら中央に捉えると真正面から受ける。

受けた剣身は粉々に砕かれ態勢を戻すためにユーリーはもう一歩踏み込み、そのまま大盾に突進しブルームを吹き飛ばした。


 後方へ吹き飛ぶブルームはアンリを巻き込み更に後方まで飛ばされる。

カーマとトゥーリーは陣形を戻すために二人が飛ばされた場所まで背後を見せずに下がる。


「すまんアンリ。受けきれなかった」

「いててて……こっちは大丈夫だけど。あれ……剣が、ユーリーさんの剣が無い」


 立ち上がろうとした時にアンリは気づく。

吹き飛ばされた時に鞘に収まっていた剣が抜け先程まで居た場所に転がっている。

そしてそこには、剣を砕かれて立ち尽くしているユーリーが腰を落とし剣を拾う姿が確認できた。


「触らないで、それはユーリーさんの剣よッ」

「ユ”ウ”リ”イ”」


 その名前を聞いた瞬間、自分の中で何かが目覚める。

今まで兆しはあった、だがその何かが記憶とはわからず、アドルノルフに押さえつけられていた。だが光魔法により抑える力が弱まり彼らの声、そして名前を聞き、記憶が溢れ出していく。


 何もなかった器に溢れ出すように湧いて出る生前の記憶。


 辺境の村で生まれ、冒険者という夢を見てひたむきに努力していた時の記憶。


 剣を教わり村をでてダンジョンを攻略し、魔物を倒し更に強くなっていく自分。


 数多の新人を教育し、慕われている自分。


 人々を助ける為に奮闘する自分。


 そして、不死の王アドルノルフに敗れ魔物として生を受けた自分。


 今までの記憶が走馬灯の様に流れ続ける。

脳が焼き切れそうになり、はちきれんばかりに脈動する鼓動、吐き気を催すがぐっと我慢し再び目を開けた時、目の前にアンリ達の姿はなかった―――。 



 次の話は、別の日に投稿します!


気になる方はブクマ等よろしくお願いいたします!



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