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彼は魔物としての人生を歩む  作者: 優
第一部 特異種
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序章 

 初投稿になります。不慣れな点があり誤字脱字チェック漏れがある可能性があるかもしれません。

マイペースに投稿していくので、良かったらお付き合いの程を!


 この状況は死屍累々と呼ぶに相応しいだろう、彼の周りには七人の仲間達が無残にも命を散らしていた。

今、彼の目の前にいるのは災厄の王と呼ばれる魔物を司る主たる存在である。


 彼が頼る仲間は既に息絶え、現在戦えるのは一人のみだ。

無謀な戦うより此処で逃げ帰れば彼の生存率を少し上げるだろう、しかし彼は逃げなかった。

絶望的な状況、既に構える剣は刃こぼれし鎧は所々欠けて防具の意味をなしていない。


 ただ、それでも尚、彼は諦めなかった。

ここで彼が諦めれば災厄の王の影響で活性化した魔物による被害により無力な人々が魔物に殺される。


 一矢報いるでは無く道連れにする、その一心で彼は地を蹴り災厄の王へと駆け出した。

既に災厄の王は決死の覚悟で戦った仲間達により満身創痍の様子である。


 最高ランクであるSランクとAランクの冒険者8人がかりでも倒せないのだ、Aランクである彼が一人で挑んだとて満身創痍だろうと倒しきるのは困難だろう。

間合いを詰め剣を振り下ろしても災厄の王の複数ある腕に阻まれ強靭な肉体にはダメージといえる程の傷を与える事が出来ない。


 それに引き換え、彼が一撃でも喰らえば次に立ち上がることは厳しいであろう体力。

朦朧とする視界の中、災厄の王の複椀が彼に襲い掛かる。決死の足捌きで紙一重で服椀を避けながら剣を滑らせ皮膚を裂いていく。


 既に立ち上がる事すら困難であろう体力、死を目前としても尚戦う彼の姿を見て災厄の王は初めて声を発した。


「貴様は何故戦う。慕う仲間は破れ満身創痍になりながらも。何故、我に挑む……」


 災厄の王から見れば理解しがたい人間の考え。

絶望的な状況でも尚、衰えぬ目の輝きにあてられ、気づけば口を開いていた。

今まで幾度となく挑んできた人間の最後の表情は絶望に満ち溢れていた、目の輝きすら無くしただ茫然と自分の死を待つのみ。

しかし、目の前の男は違う。目の輝きを失わず勝利に貪欲にしがみつく、そんな彼を災厄の王は興味深いとすら思った。


「決まっている、俺達が守らなければ誰が人々を守るというのだ。俺が折れれば、か弱い人間なんて魔物に喰われてしまうッ」

「それが満身創痍になりながら、勝つことすら困難であろう絶望的な状況でも……か?」

「あぁ……、俺が諦めれば俺が育てた弟子達や助けた人々を本当に救えたことにはならないッ」


 その言葉に災厄の王は驚愕というより関心を持った。

この男は他の人間とは違う。身体的な強さとは別に精神的な強さ、死に直面した瞬間ですら綺麗事の様な夢物語を口にすることが出来る。

生粋の阿呆、ただそれだけに災厄の王は彼を気に入ってしまった。


「貴様、名はなんと申す」

「Aランク冒険者のユーリーだ。そして貴様を倒す男だ」

「ユーリーよ、貴様を称え我が本当の名を明かそう。我が名は『不死の王アドルノルフ』、貴様が死ぬのは惜しい――」

「俺は死なん、貴様を倒すまではッ」


 アドルノルフの言葉を遮りユーリーは剣先を心臓目掛け突き立て、残りの力を振り絞り地を蹴る。

剣先は音速を超え、防御する事すらしないアドルノルフの強靭な肉体に届き貫く。

確かな手応え、魔物の心臓である魔石を貫いた感覚が剣から伝わってくる。


「な……なぜ……」

「我は死なぬ、故に不死の王なのだ」


 確かな一撃を与えたはず、魔石を貫いた感触もした。

だがアドルノルフは死ななかった、不敵な笑みを浮かべ複椀がユーリーを掴もうと動く。

距離を取ろうとしても全力を出した直後、剣で防ごうとしても剣は深々と突き刺さり抜けない。


 抜けないのなら、ユーリーの最後の魔力を振り絞り自らに身体強化を施す。

剣から手を放し自由落下したユーリーはアドルノルフの体を蹴り宙で一回転し着地すると、再び地を蹴り未だ深々と突き刺さる剣に拳を叩きつける。


 鮮血が零れ落ちる、魔力も体力も尽きた。これで倒せなければユーリーが取る手段は残されてはいない。


「今のは効いたぞ……、我に痛みを与えるとは更に気に入ったッ。貴様を我が僕として再び生を与えよう」

「な……なに……を」


 上へと掲げた複椀から禍々しい魔力が漏れ出る。

魔力は可視化し球体状へと変わり、球体の禍々しい魔力球を一本の腕が鷲掴みしユーリーの心臓部分へと押し当てる。


「ぐ……ぐああああッ」


 激しい痛み、自分の中の何かが変わっていく感覚がする。

体が熱く全身が燃える様に痛い、この魔力を受け入れてしまえば自分が自分でなくなっていく感覚に抗う。

必死に抗い体内に侵入してくる魔力を拒み続けるが、それを無理やり中に押し込むように魔力を加えていくアドルノルフにユーリーは最後の抵抗空しく魔力の侵入を許してしまった。


「再び生を受け、魔物として強者となり再び我が元へ―――」


 意識が途切れていく中、アドルノルフの最後の言葉と共に冒険者ユーリーの人生は幕を閉じた―――。

 

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