ボクノタカラモノ
チクタク チクタク
あるところに一つの大きな街がありました。
大きな時計塔が有名なその街に一人の少年とそのお父さん。二人だけの仲のいい家族がいました。
少年の名前はウィッペル。彼は今日、五回目の誕生日を迎えたのです。
今日はパーティーといいたところですが、悲しいことにパーティーをするには二人の家は貧しかったのです。
いつもどおりの夕ご飯。
それでも、ウィッペルはしあわせでした。
大好きなお父さんと誕生日を過ごせるのですから。
夕食が終るとお父さんのボアルは、ウィッペルにマグカップほどの大きさの小さな箱を渡しました。誕生日プレゼントです。
「ごめんなウィッペル。本当はみんなが持っているような電気で動くオモチャを買ってあげたかったんだが……お父さん、思っていたよりも不器用だったみたいだ」
そう言って苦笑いするボアルを見てから、ウィッペルはその青い箱を開きました。
中から出てきたのは手作りのブリキのロボット。背中にはゼンマイがついています。
「わあ! ありがとうお父さん!」
ウィッペルの笑顔を見たボアルは安心し、歩み寄るとそのロボットを指差します。
「ウィッペル。その背中のゼンマイを回してごらん?」
ウィッペルは首をかしげましたが、ボアルの言うとおりにゼンマイを回してみました。
ジーコ ジーコ チクタク チクタク
そのロボットを机の上に置くと、まるで生きているように歩き出しました。
一歩一歩、ゆっくりゆっくり右足左足と歩いています。
「すごいすごい! ありがとうお父さん!」
ウィッペルは手を大きく広げてボアルに抱きつきました。
「ぼく、このロボットすごく大事にするよ!」
ウィッペルに、大事な大事なたからものが出来ました。
次の日、ウィッペルは上機嫌で街へと出かけました。
チクタク チクタク
今日も街の時計塔は正確に時間を刻みます。
街の広場に出ると、ウィッペルと同い年くらいの子供達が遊んでいました。
小さい電車や小さなクルマ。
みんな電気で動くオモチャを持って遊んでいます。
広場にいた男の子がウィッペルの姿を見るなり大きな声で言いました。
「あ、みんな、貧乏ウィッペルが来たぞ! 貧乏がうつる前にみんな逃げろ!」
「う、うつらないよ!」
ウィッペルは叫びましたがみんな聞いてくれません。街の広場にはウィッペル以外、誰もいなくなってしまいました。
「……ぼくはただ、みんなと遊びたいだけなのに……」
ウィッペルにはともだちがいませんでした。
家が貧乏だと他の家にもうつる。お前は貧乏神だと、みんなに言われます。
それでもウィッペルは、お父さんを恨みはしませんでした。
いつも自分のために頑張って働いているお父さんのことを、良く知っていたからです。
家に帰ったウィッペルは、ブリキのロボットで遊び始めました。
ジーコ ジーコ チクタク チクタク
「……きみだけが、ぼくのともだちだね」
カクン、不意にロボットの首が縦に振られたように見えました。
「わ! ……きみ、ぼくの言葉がわかるの?」
カクン、またロボットの首が縦に振れました。
そのときです。
家の外で何かが壊れるような音がしました。まるで大きい何かが家に飛び込んだようなすごい音です。
ロボットが頷いたように見えたのは、地面が揺れていたからなのでしょう。
大きな音と揺れに、ウィッペルは思わず家から飛び出して、そして驚きました。
街の時計塔が、崩れていたのです。
原因はすぐに分かりました。汽車が脱線して、時計塔にぶつかったのです。
ウィッペルは怖くなって家の中に戻りました。
ベッドの中でぶるぶる震えて、そのまま朝がやってきました。
ドンドンドンドンッ
突然扉を叩く音にびっくりして、ウィッペルは飛び起きました。
自分でも知らないうちに眠ってしまっていたようです。
玄関の扉を開けるとそこに立っていたのはウィッペルも良く知っている人で、ボアルの親友でした。
彼はウィッペルを見ると慌てふためいた様子で言いました。
「ああ、ウィッペル! 良かった。君は無事だったんだな! 実は昨日……」
そこからあとの事は良く憶えていません。
ウィッペルにとってそれはよくない知らせで、とても悲しい出来事でした。
時は経ち、街の時計塔もすっかり直りました。
そんなところに、新しく出来た家族があるようです。
その家のお父さんにはとても大事な宝物がありました。
ある日、その子供がお父さんに聞きました。
「ねえお父さん。どうしてそのロボットが大事なの? もっとかっこいいのはいっぱいあるのに」
そんな彼に、お父さんは優しく微笑みました。
「これはね、僕のお父さんが作ってくれたものなんだ。だから大事なんだよ」
そう言って背中のゼンマイをまわしました。
ジーコ ジーコ チクタク チクタク
今もこうすると、思い出す。
お父さんとの思い出。
――僕の大切なタカラモノ
読んでくださってありがとうございます。
かなり思いつきで書いた作品なんですが、もっと長く書いたほうが良かったですかね(汗)
端折りすぎて感情移入しにくい作品に……(?)
よろしかったら感想などいただけたら幸いです。