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第4.5話
聞いてしまった。
夜遅く、自国に帰ろうと馬車まで歩いていたときだった。
古びた塔の横を歩いたとき、ふと美しい声が聞こえたのだ、塔の窓から声が聞こえているらしい。あまりにも小さい音なのでつい、耳をすましてしまう。
きれいな声、そして心打たれる、聞いたことのない歌。
高い声なのできっと女性だろう。
彼女はこの塔に隠されている歌姫だろうか、それともこの塔に残る伝説の通り、隠れ住む姫なのだろうか。
そう考えたとき声が途切れる、残念、もっときいていたかったのに。
まどをもう一度見上げると下を向く女性と目があった。月の光に照らされて光る髪は白金のストレート、透き通る葵の瞳はなんと美しいのだろうか、まるで妖精のようだ。
無意識に微笑むとぱっと窓が閉められる。また、会えるだろうか。
「殿下、そろそろ。」
「わかっている、行こうか。」
「はっ。」
美しい妖精姫。
自国に帰ったら調べてみよう。
この国に隠されている姫のことを。