温室育ちのエリート
俺は、東京から遠く離れた田舎育ちだ。
奴らは都会の真ん中の名家のもとで、何不自由ない暮らしをしてきた。
俺は風雨にさらされ、常に敵や病気に脅かされて育った。
敵に身を食いちぎられ、連れ去られた同志もいた。泥にまみれながら、俺は生き抜いた。
奴らは泥にふれたこともなかった。傷だらけの俺に対して、奴らは傷一つない、きれいな容姿だ。
自然の中で育った俺は色が濃い。太陽の光にあたったこともない奴らはみんな色白だ。
だが、俺と奴らは遺伝子的にはたいして変わりはないはずだ。
奴らが生きてきた環境下では、すべての者が保護され、管理されていた。
そこには、脱落する者はほとんどいなかった。
奴らは東京の高層ビルが立ち並ぶ中で育った。
その中のひとつの巨大ビルの上から下までが、奴らの仲間たちの住まいとなっている。
そいつらは、全員生まれたときから将来が保障されていた。
俺は激しい生存競争に勝ち、田舎から上京してきた。そして、最終的に奴らとは、東京のど真ん中であるこの場所で出会った。
奴らは生まれ育った場所を離れ、ここに来るまでのあいだも、守られた。そして、いまだにその身を守っているものにくるまれている。
この場所では、奴の仲間が幅を利かしていた。数も圧倒的に多い。だが、俺たち成り上がり者は少数精鋭だと信じている。
見た目がきれいな奴らは、金持ちに人気だった。奴らは、だいたいが、化粧が濃く、きらびやかなアクセサリーをつけ、アルファベットがたくさんついたバッグを持った女に請われて去った。
育ちがいいやつらは、金持ちに好かれるのか。奴らは、あっというまに旅立っていった。
若いが地味な女が俺の前に現れた。化粧は薄く、身にまとった洋服は肌触りのよさそうな茶色の綿のガーゼワンピース。アクセサリーはいっさいつけていない。くびにまいたスカーフからのぞく首は、黒くざらざらとしていた。
「いらっしゃいませ。今日は顔色がいいですね。いつもの、入りましたよ」
「ありがとう。おひとつください」
「いつもありがとうございます。このキャベツは、こちらの水耕栽培のキャベツよりお高いですが、栄養価も倍でおいしいですからね。価値は高いですよ」
「露地栽培はほんとにあまくて、おいしいですよね。水耕栽培の人工甘味料を加えた甘味とはぜんぜんちがいます。それに、私が原因不明のアレルギーを発症してからは、娘にも露地栽培を食べさせるようにしているんですよ」
「五十年前――そう東京オリンピックのころは、ほとんどの野菜は露地栽培でした。農家が愛情こめて作っていたんですよ。TPPの参加、企業の農業参入で日本の農業は激変しました。奥さんは、まだ、生まれてないですね。いまじゃ、各都道府県に野菜工場があって、地産地消をウリにしていますけど、どうなんでしょうね。このキャベツは私の兄が群馬で作っているものです。兄も高齢になりました。いつまで農家を続けられるのか」八百屋のおじいさんはいった。
やっと、俺の中身を認めてくれる人が現れたのだ。
俺は、彼女とともに、銀座の高級青果店をあとにした。
そして、1年前東京タワーの跡地に建った99階建て超高層マンションの最上階、東京スカイツリーが見える広くてきれいなキッチンでサラダになった。
俺は、温室育ちのエリートに勝ったと思った。
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