第一話「双子」
一月上旬の深夜二時過ぎ。
肌を刺すような寒さの中、ひとけのない路地を歩く三人がいた。
一番前を歩くのは社会人と思しき大人の女。
年齢は二十代後半といったところだろうか。黒のスーツの上にコートを羽織っている。
何より目を引くのは、着ている服ではなくその身体的特徴だ。
肩まで届く長さの金色の頭髪に、碧い瞳。
どうやらこの女は東洋人ではなく、西洋人らしい。
「少々予定よりも遅くなってしまいましたが、無事に双子を回収できました」
金髪の女はスマートフォンで誰かと通話をしながら歩いていた。
通話しながらも時々振り返っては、後ろを歩く二人の姿を確認する。
「………………」
「………………」
何も言わず、金髪の女を見る二人。
後ろを歩く二人はまだ幼い少年と少女だった。二人が小学生と中学生のどちらに見えるかと問われれば、小学生と答える者の方が多いだろう。
そんな二人の関係は双子の兄妹。金髪の女が言っていた双子とは二人のことだ。
二人は白い息を吐きながら、ゆっくりと歩み続ける。
「しかし、純一郎……。本当に、後は任せてしまってもよろしいのですか? 双子を匿う当てはあるのですか?」
『安心しろ、ナターリア。当てならある。後は俺に任せておけ。本当に、よくやってくれた』
金髪の女――ナターリアは、安心しろと言われながらも不安げな表情を隠しきれない。
だが、通話相手には当然その表情はわからない。
『とにかく、当初の予定通りあの場所まで来てくれ。それからは俺が一人で双子を連れて行く。その後ナターリアはしばらく休んでいていいぞ』
「わかりました。あの場所、ですね。……それにしても」
『それにしても、なんだ?』
「何か、妙なんですよね……。双子を狙う組織は一つではなかったんです」
『一つではない?』
「はい。双子を狙う組織は『違法点』の他にも存在するように見えました。それも、一つや二つじゃありません」
ナターリアの言葉に何か心当たりがあるのか、通話相手はわずかな沈黙の後、
『……様子を見たほうが良さそうだな。引き続き、情報収集の方も頼む。くれぐれも、安全第一にな。こちらも情報が入ったらすぐ連絡する。以上だ』
「了解しました。では、失礼します」
通話を終了したナターリアは、立ち止まってすぐに双子へと向き直る。
「後三十分ほど歩くことになりますが、体調は大丈夫ですか?」
「………………」
「………………」
双子は黙ったまま、ナターリアの背後にある電信柱を見ていた。
「……大丈夫、ということで良いのでしょうか」
困惑しながらも、ナターリアは再び前へと進む。
深い夜の静寂に響く双子の足音を聞きながら、目的地へと急いで向かう。