第一章 ③つ・か・え・な・い
どうやら俺は謎の能力を身につけたらしい。その名も「左手がどこでもドーア(某猫型風に)」
その名の通り、左手でドアを開くと別の場所に瞬間移動できるという能力だ。左手で開けたドアが、どこか別の部屋のドアに替わっているともいえる。そしてポイントはその時、どこかへ行きたいと念じることが必要だということ。
それにしてもなんという能力。この能力を駆使すれば俺の人生はバラ色じゃね?
まず、通学が超楽。始業の十分前に起きても余裕で間に合う。
旅行し放題。国内だろうと海外だろうと金も時間もかけずにどこへでも行ける。小便にいくようにして地球の裏側に行けるとかヤバくね?
密室行き放題。チケット、許可証、ID、もろもろがないと入れない場所が世の中にはごまんとあるが、俺はフリーパス券を手に入れたも同然。
ああ、なんて素晴らしいんだ。なんか棚ぼた感は大いにあるが、まいっか。とりあえずあのおっさんには感謝しなきゃな。あとは、もう少しこの能力を最大限に使えるよう研究しよう。
その後数日間、色々試してみた。
その結果、俺は一つの結論に達した。それは――
この能力はつ・か・え・な・い
なんなんだ、ランダムどこでもドアって。これどうやって使えっていうんだよ。
どんなに念じても行きたい場所へ行けない。つまり全く使えない。
初めに行こうと試した場所は
――アイドルの自宅、女子更衣室、AVの撮影現場
そう念じて開いた扉の先は、
――相撲部屋、拘置所、ゲイBar
初めは煩悩まみれであるのがダメなのかと思った。だからその後、少しづつ煩悩レベルを下としていった。
そう考えて念じたのは、
――好きなバンドのライブ会場、映画館、銀行の金庫室
しかし開いた扉の先は、
――ヤクザの事務所、世界のゴキブリ博物館、スーパーの冷凍室
なんだこれ、あえて俺の精神を削るようにチョイスされてるんじゃないか。そう思うくらい、残念な行き先ばかりだった。最初のホテルの一室は奇跡的にアタリだったのではと、今となっては思う。
開けたい扉は数多く。煩悩の数だけ存在した。
しかしどう頑張っても、の○太先輩のようにはなれなかった。
むしろこれから不意に左手で扉を開けてしまわないように常に気を張って生きていかなければならない。なんて面倒くさい事になったんだ。
しかし数日後、俺が考えている以上に面倒くさい事にになった。いや、それは想像を遥かに超えた出来事だった。
【長い髪の少女の視点】
ガンマは死んだ。ジルからそのことを聞いた時、初めはまったく信じられなかった。でも爆発現場に行き木端微塵になった建物を見た時、彼の死を実感した。胸がはちきれそうになった。その日は一晩中泣いた。常日頃から死ぬことは覚悟している。むろん仲間が死ぬことも覚悟していたつもりだった。でも、骨すら残せない最期なんて悲しすぎる。
だから遺体が一つしか発見されなかったことを知った時、私はすこし喜んだ。ガンマが生きているなんて都合がいい事は考えない。それはつまり、あいつがまだ生きているということを意味する。あの忌々しい蛇のような男。シロヘビ。ガンマの敵を討つ機会が残されているということが私は嬉しかった。
だけどまずやらなきゃならないことがある。それはガンマが力を委譲した相手を見つけること。それもやつらより先に。委譲された相手は危険が迫っていることを知らない。あてはだいたいついている。数日前から時空の歪みを断続的に感じたあの場所。
明林高校。私はその校門の前に立っていた。