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Open the Door !!  作者: 漆原光春
プロローグ
2/5

第一章 ①朝からおっさんに絡まれる

 憂鬱な月曜日の朝。俺は気だるく自転車をこいでいた。


 「ちょっと君! 待ってくれ! 」


 突然呼びとめられた。振り向くと中年のおっさんが息を切らして立っていた。


 「俺っすか? 」


 「ああそうだ。すまん君! 登校途中に大変恐縮なんだが、ちょっと私に時間をくれないか? 」


 おっさんはそう言った。

 

 なんだこの危なそうなおっさんは。新手の宗教の勧誘か?

もちろん俺は笑顔で断ろうとした。


 「いや、すみません、遅刻しちゃうんで……」


 「んなこたぁわかってるわい! それを承知で聞いているんだ! 」


 うあ、いきなり逆ギレかよ。やっぱりただの危ないおっさんだったか。なにかクスリでもキメてるんじゃね? くわばらくわばら。こういう場合は刺激しないように、そっとこの場を立ち去るに限る。


 俺はすっとおっさんの脇を通りすぎろうとした。しかしその中年のおっさんは俺の腕を掴んだ。


 「な、なんすか? 離してください。俺本当に時間ないんですよ。別の人誘ってください。そこらへん探せばいくらでもいるでしょ? 」


 「君じゃなきゃいかんのだ! 頼む!この通りだ! 」


 おっさんはその場で土下座を始めた!


 「ちょ、やめてください! 」


 俺は必至で止めようとした。しかしおっさんは頑としてきかない。


 「ああもうしょうがない」


 「聞いてくれるか? 」


 おっさんは嬉しそうに顔を上げた。


 「ただ話聞く前に、警察がかけつけてきましたよ」


 俺はおっさんの後方を指さした。


 「なに!? 」


 慌てておっさんが後ろを振り向いた瞬間に俺は、ダッシュで自転車に飛び乗ると、全力でこぎ出した。


 「あっ! 」


 そう叫ぶおっさんの声をしり目に俺は自転車で走り去る。


 ふう。ああいう危ない存在には関わらないのが一番。『恫喝』⇒『泣き落し』なんて悪い奴の常套手段じゃねえか。


 妙なおっさんから解放され、俺は安心して自転車をこいでいた。あの中年はもう遥か後方にいるはずだ。あの曲がり角を曲がれば、もう駅はすぐそこだ。


 角をまがった瞬間、俺は人の気配に驚いた。自転車と正面衝突しそうになり、俺は急ブレーキをかけた。


 「あっぶね」


 「おい」


 顔をあげて俺は驚愕した。そこには先ほど絡んできたおっさんが立っていた。不機嫌そうな顔で目の前に立っている。


 「え!? なんで!? 」


 「あんだけ人が必死で頼んでいるのに最近の若者ときたら、血も涙もないのか? 本当に世知辛い世の中になったものだな」


 俺は目の前の光景が信じられなくて目をパチクリさせていた。


 「少年。そんなに遅刻したくないなら安心しろ。俺が送ってやる。その制服は明林高校だな。たしか二駅先だったな」


 学校まで送ってくれると言う。車かバイクが近くに停めてあるのだろう。さてどうしたものか。このしつこさは異常だが、逆に無下に扱ってストーカー化されるのも困る。俺はしょうがなくおっさんの話を聞くことにした。


 「ここじゃ、あれだからこっちへ来てくれ」


 おっさんについていくと、公衆トイレに入った。


 「急いでいるのにすまんな。すぐ終わる」


 おっさんは深々と頭を下げた。顔をあげたおっさんの顔を改めて見て気づく。おっさんの顔の右頬には十センチは超える大きな切り傷が刻まれていた。

 ヤクザものか……。もしかして組から金を盗んで逃げてる途中か? だとすると俺が呼ばれたのは一時的にその金を預かるためか。


 「左手をだして、掌をこちらに向けてくれ」


 「え、左手っすか? 」


 俺はおっさんの言われたようにした。するとおっさんも自分の左手をだすと、俺の左手に合わせてきた。


 「ちょ、ちょっとなんすか」


 おっさんと二人きりで公衆トイレで手を合わせるなんて、気持ち悪すぎる。誰かに見られたらどうするんだ。


 「じっとしてろ! 」


 おっさんが一喝する。その迫力に負け、俺は黙った。


 おっさんは目を閉じてなにやらブツブツと呟きだした。すると不思議なことにおっさんの身体が光を帯び始めた。そしてその光は次第におっさんの左手に集まって掌大の塊になった。


「委譲する」


 男がそう呟いた瞬間、男の手に灯っていた光の塊が俺の左手にスッと移ったように見えた。少しだけ左手が暖かくなったように感じた。


 「これでよし。少年、時間とらせて悪かったな。名を何という」


 「え、あ、平山雄三といいます」


 「そうか雄三。こんな怪しいおっさんに付き合ってくれてありがとう。ただもう一つだけ頼みを聞いてくれ。なに、たいしたことじゃない。おそらく、近い将来、君の元に女の子が訪ねてくれるはずだ。ちょうど君くらいの年の子だ。名を若葉と言う。その子にこのネックレスを渡してくれないか? とても大切なものなんだが、事情があって、私からはわたせないんだ」


 男は上着のポケットからネックレスをとりだした。黒い水晶のようなものがついている。


 「は、はぁ」


 「頼んだぞ、雄三」


 そういうと男はその場から去って行った。


 一体なんだったんだ? なんだか妙な体験をしたものだ。


 ん? てか、あのおっさん送ってくれるって言ってたのに、バックれやがった!




【右頬に傷がある男の視点】


 地獄に仏とはこのことだろうか。あの能力を委譲できる器をもった人間は万に一人もいないはずだ。それがこんな土壇場で出会えるとは。このまま俺があいつらの餌食になってしまったら、それこそこの世界は終わっていた。そうならないためにも、なんとしてでも生き残るつもりだったが、それも一安心だ。どこの誰かは知らないが、あの能力を使えばジル達がすぐにあの少年を見つけ出し囲ってくれるだろう。


 商店街のアーケードを足早に歩いていく。歩きながらアジトへ戻るかどうか思案した。追ってを上手く撒けたかどうかはわからない。否、おそらくあの野郎から逃げることはできないだろう。あいつの嗅覚は異常だ。


 商店街を抜けると、閑静な住宅街に抜けた。さっきまでの喧騒がウソみたいに静かになる。しばらく歩くと大きめの公園を見つけた。公衆トイレが見える。そこに入ることに決めた。身を隠すためではない。実はさっきから嫌な視線を感じている。商店街を抜けた時からうすうすは感じていたが、ここへきてはっきりと感じるようになった。俺の首筋をなめるようにまとわりつく視線。あいつだ。さっきから鳥肌が止まらない。


 公衆トイレに入ると、小便器が三つ並んでいる。俺はそのどれの前にも立つことはなく、ただ奥の壁まで進むと、そこで立ち止まった。


 「ネズミさん、みーつっけたっ」


 後ろから甲高い声が聞こえた。俺は覚悟を決め、振り向く。トイレの入口の所に予想通りあいつが立っていた。細身長身のスーツ姿の男。百九十センチは超えるだろう、長身にもかかわらず、ガリガリに痩せた体格と長い手足のせいで、異様な出で立ちに見える。そして特徴的な線のように細いつり目がこちらに陰湿な視線を送っている。あいかわらず嫌な目をしてやがる。『生理的に無理』を何倍にもしたような視線。シロヘビだ。


 「追っかけっこも終わりかな? やっと私からは逃げ切れないことに気づいてくれた? 」


 「そうだな。もう逃げるのはやめにしたよ。ここでお前と決着とつける」


 「あらららら。どうしちゃったの? 今日はやけに威勢がいいわね。ガンマちゃん。いつもは尻尾まいてすぐ逃げちゃうくせに」


 シロヘビはその細い目を見開いた。瞬間、俺に身体は指先はおろか瞬きもできなくなる。あいつに睨まれるとそれこそ蛇に睨まれた蛙のように身体が動かなくなるのだ。


 「大人しく観念しなさいね。あんたの首はDead or Aliveだから、首から下だけおいしく頂いちゃうわね」


 シロヘビは俺を喰おうとゆっくり近づいてくる。だが俺の身体は石のようになってピクリとも動かなかった。ただあいつの餌になるのを待っているしかない。しかしそれも織り込み済みだ。トイレに入った直後に俺は自爆装置のタイマーを起動させておいた。身体に巻きつけてあるプラスチック爆弾だ。


 思い残すことがないわけではない。若葉のことは気がかりだ。できることならあの子の将来をずっと見守っていきたかったが、こうなってはしょうがない。俺ができることは、刺し違えてでも、あいつの息の根を止めることだ。もう怖くはない。命は惜しくはない。俺はもう十分に生きたのだから。


 「私の術にかかると、目を閉じることもできないからね。自分が身体がジュクジュクとしゃぶられていく所をじっくり見れるわよ☆ あの世にはもってこいの土産話ね。うふふ」


 シロヘビは笑みを浮かべながら近づいてくる。

バカめ。あと数秒でお前も木端微塵になるっていうのに。


 起爆まで、あと五秒……四……三……二……一……


 じゃあな若葉。幸せになってくれよな。


 白い閃光に包まれるのを感じながら俺はそう願った。

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