プロローグ
よろしくお願いします。
この扉の先に何がある?
日常世界を生きていて、そんなことを考える機会がどれくらいあるだろうか。
入学式の日、初めて自分クラスの教室の扉を開ける瞬間。
初めて彼女の家に遊びに行った時、部屋の扉を開ける瞬間。
就職試験の時、面接部屋の扉を開ける瞬間。
大事な人が出産を終え、分娩室の扉があいた瞬間。
人は人生で無限ともいえる数の扉を開ける。その先になにがあるかわかる時もあればわからない時もある。だが俺はどっちにしろ、その瞬間瞬間で人生が少しづつ進んでいくのではないかと思う。
今、俺の目の前にある扉は、そんな俺の人生を大きく変える可能性を秘めている。
見るからに重そうなその扉は、俺を見下ろしながらそこに鎮座している巨人のようだった。この扉の先に何があるのか。どこに繋がっているのか。そのことを考えるだけで胸が落ちつぶされるようだ。
でも怖くはない。なぜなら俺は一人じゃないからだ。俺の右手を握るもう一つの手。細く白い指が俺の指に絡まっている。彼女もまた、緊張した面持ちで俺の横で扉を見ている。
俺は右手を強く握る。彼女は俺を見る。大丈夫。そう目で伝えると、彼女は笑った。俺は再び前を見る。
そして俺は左手に力を入れ、その扉を開けた。