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きっとこの気持ちは彼方まで  作者: 桃ヶ谷悠
第三章 集縁
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第14話 仁義のために

「ったく、なんで俺だけなんだよ」


 俺は自分だけ反省させられたことを不満に感じていた。


 休憩時間をほぼトイレで消化してしまい、教室に戻って次の授業の準備をしているとチャイムが鳴る。その後教師もすぐにやってきて、授業の出欠をとり始めた。

「欠席は・・・藤沼くんだけ、と」

 教師の発言に反応し、聡の席に視線を向けた。

(聡のやついつまでやってんだ。けどまぁ少し遅れてから来るだろう)


 しかし聡は最後まで姿を現ことなく、授業修了のチャイムが鳴る。



 授業修了後、まさかとは思い先程聡が入った個室の前まで来る。

 すると案の定鍵は閉まっていた。

「おーい聡いるかー」

「蒼太・・・おぉ!!蒼太!!」

「うぉっ!いきなりどうした・・・てかいつまで腹下してんだ、早く出て来いよ」

「いや、それがだな・・・」

「なんだよ、はっきりしないな。らしくねぇぞ」

「・・・・・みが・・・」

「え?」

「紙がないんだ・・・」

 暫しの沈黙が訪れる。


「ふ・・ふっ・・え?」

 俺は笑いを必死に堪える。

「何度も言わせんな!紙が無くて出られねぇんだよ!蒼太、どこからでもいいから持ってきてくれ!ここのトイレはどこにもなかったんだよ!」

「他の階のトイレも回ったか」

「尻出したまま校内回らせる気か!?さすがの俺でも羞恥を感じるわ!!」

「わかったわかった騒ぐなって、俺もこの状況でいじるのは悪かったよ。今持ってきてやるから待ってろ」

「本当か!恩にきるぜ!」


 俺は他の階のトイレからトイレットペーパーを持ってきて、聡の所まで戻って来る。

「ほら、持ってきてやったぞ」

 上からトイレットペーパーを投げ入れる。

「おお!助かったぜ!」

 それを中で受け取った聡は素早く済ませてトイレから出て来た。

「よし、じゃあ行こうぜ」

「おう」



 俺は先を歩いているて向かう。しかし聡の付いてくる気配がしないので振り返る。

 すると聡が腕組をしながら頭を捻っていた。

「どうした?まだ腹痛いのか」

「・・・・・・・・・」

「聡?」

 聡は何か考え事をしていた。そして俺の二度目の問いかけで反応する。

「やっぱ駄目だ、このままだと気持ち悪いわ」

 そこで言葉を区切ると、顔を上げて言った。


「よっしゃ!お前らに付き合ってやるよ!」

「え?」

「だからこの前誘ってくれたお前らのチームのことだよ」

「本当か?」

「あぁ、俺はこう見えても仁義を重んじる性なんだよ。さっきと今、2回蒼太に救われたんだ、この恩は返さなないとな。それにさっき、いつものノリと追いつめられた状況とはいえ、ああいう騙すのは後ろめたさがあったからな」

「嘘だろ」

「本当だわ!」

「わかったわかった、こんなとこで騒ぐなって」


(・・・それに、そんなこと疾うに知ってるよ)


 1年の入学式の日、聡は寝坊したと言い遅刻をした。しかし本当は、登校中駅前にある大量の自転車が倒れ、見ず知らずの爺さんの杖が挟まっているのを取ってあげたようだ。さらにその後も他の倒れている自転車を直し、結果遅刻した。


 なんでこんな事を知っているかというと、当時下校している時にその爺さんに教えてもらったからだ。爺さんは助けてもらった際に聡の鞄を見て名前を知り、改めてあった時に礼を言うつもりだった。しかし爺さんは翌日から別の町の病院に行くことになり、町を離れる最後の時に聡を探していると、偶々目の前を通る同じ制服を着た俺が呼び止められ、とても感謝していることを伝えられた。

(いつかタイミングをみて伝えよう)


「そういえば」

 俺は思い出して言う。

「どうした?」

「この前誘った時『放課後は用事があって無理だ』って言ってたけどそっちはいいのか?」

「あぁそのことな。あの時はああは言ったけど、なんだかんだ大分落ちついてきたから大丈夫だ。それに俺は部活に入ってないしな、4カ月くらいお前ら付き合うのなんて訳ないぜ!」

「助かるぜ、それじゃあよろしくな聡!」

「任せとけ!」

 俺達は互いの右手を力強く組んだ。



 放課後


 俺は反省文を済ませた後、彰人、空音、美桜の4人でキャッチボールをしていた。

「ほんと蒼太は反省文なんか書かされて、やんちゃだよなー」

「運が悪かったわ。けど彰人には負ける」

(トイレに急いでて魔王押し倒したとか、絶対言えん・・・)

 反省文を書かされた理由が理由なだけに本当のことを言えなかった。

「ふふふ」

「蒼太もやんちゃさんなんだねー」

 和やかな雰囲気のままキャッチボールが続く。


 すると彰人が例の話を切り出す。

「そういえば、勧誘の方はどうだ?ここ一週間くらい進捗上手くなさそうだったけど大丈夫か?」

「その事なんだけど、この後話そうと思ってたんだ」

「おー!とういうとー!」

 美桜が誰よりも興奮していた。

「また一人誘えた」

「やったじゃん!次は男だろうな!女が悪いとは言わねぇけど、せめて半分以上は男にしたいよな!」

「蒼太ー!可愛い女の子連れてきたんでしょーねー!!」

「私は蒼太の人選に文句はないよ」


 各々の感想が出たところで結果を言う。

「因みに男だ」

「しゃ!!」

「え~~~~~~」

「ふむ」

 美桜は一人不満そうだった。

「そんなに女の子がよかったか?」

「可愛いは正義!次こそは私たちに次ぐ美少女を連れて来るんだよ蒼太!」

「私たちって、どこのだれだよ」

「彰人ー!!目の前にいるでしょ!!ムキー!!」

「ちょっ、美桜!変なとこ投げんな!」

 美桜の大暴投の被害をなぜか俺がくらう。

「私は十分魅力的だと思うよ」

「くーちゃあああん!もう分かってくれるのはくーちゃんだけだよ!」

 そんなこんなで4人で戯れる。



 その時———


「お前ら!待たせたな!」

 俺達は一斉に声のした方を向く。そこにはしっかりと体操着に着替え、準備を済ませてきた聡がいた。


「それで蒼太、話を戻すけど誰を誘ったんだ?」

「おい!!!!!」

 聡の切れのいいツッコミが入る。

「なんで馬鹿が来てるのよー」

 美桜はさっき以上に不満そうだ。

「ふふふ、分かっているくせに・・・そう!俺がお前ら待望の新メンバーだ!!!」

「「「・・・・・・」」」

「何か反応しろよ!!」

「蒼太、確かに俺は男がいいとは言ったが、馬鹿がいいとは言ってねぇ。どう転んだら聡を選択する流れになるんだ」

「それはだな・・・」

「って蒼太は余計なこと言うなよ!!」

 俺は3人に聡が一時間以上トイレから出られなり、それを助けた話を簡潔に伝えた。


 話を聞き終え、3人は聡を憐れむように見つめて言う。

「その・・・これからよろしくな聡」

「・・・馬鹿を移さないでよね」

「よろしくねマリモ君」

「犇々と憐れみの感情を浴びせられているんだが!?・・・って、マリモ君って俺のことかよ!!」


 なんだかんだいいつつも皆は聡を受け入れてくれた。

「それじゃあ聡も加えて練習再開するか!」

「おう!」

「そうだね」

「やるぞー!」

「よっしゃなんでもこい!」

 聡は人一倍気合いが入っていた。


 そして聡以外の4人がボールを持ったのを確認して、彰人が言う。

「じゃあ皆、準備出来たなー。いくぞー」

「いやいやいや!俺まだグローブ持ってねぇよ!それに、なんで全員俺に向けて投げようしてんだ!!」

「キャッチボールをするからに決まっているでしょマリモ君」

 空音が今日一番の笑みを見せる。


「こんな残酷なキャッチボールがあってたまるか!!・・・っておいおいおいお前ら本気かああああああああ!!!」

 聡の断末魔が遠くグラウンドに響く。


 俺はこれまで以上に賑やかな毎日が始まりそうだと予感する。



 チーム完成まで、あと4人―――


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