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きっとこの気持ちは彼方まで  作者: 桃ヶ谷悠
第三章 集縁
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第11話 チーム始動初日

 彰人のあの宣言から翌日、俺は仲間集めをどうするか悩みながら登校していた。


 隣を歩く彰人に誰を誘ったほうがいいか聞いても、「お前の好きな用にやれ」の一点張り。昨日言っていた通り殆ど助けは望めそうにない。


 考えているといつの間にか学校に着いていた。昨日程時間ギリギリではないが、ゆっくり歩いて来たせいか、チャイムが鳴る5分前だった。



 教室に入ると昨日の緊張した空気が大分緩和しているように感じた。一日である程度仲のいい友人やグループができたのだろう。

 席に着くと丁度よくチャイムが鳴る。美桜は今日もギリギリの登校で、チャイムの途中で教室に転がり込むように入った後、自分の席に着くなり机に突っ伏していた。


 チャイムが鳴り終え、少しするとみさちゃんがやってきた。

「みなさんごめんなさーい、少しだけ遅れちゃいましたー。えーっとでは出席をとりまーす。一番阿達くん、二番・・・」

 出席確認は2分程でサクサクと終わる。


 いつもならこの後にその日の伝達事項の報告があるのだが、今日はいつもと様子が違うようだ。

「今日はみなさんに新しいお友達の紹介をしまーす。東京からこちらに引っ越されてきたそうですよー。じゃあ入ってきていいわよー」

(転校生って・・・)

 俺は昨日の屋上での会話を思い出し、その人物を予感する。


 みさちゃんと他の生徒ははいってくるであろう前方の扉に注目する。

 しかし呼びかけても転校生は姿を現さない。

「んーどうしたのかしらー」

 みさちゃんが少し困った様子を見せた時、俺の視界左端で何かが通っていくのを見えた。


 そして

「みなさんはじめまして」

「ひゃあ!」

「「「!!!」」」

 みさちゃんはなんとも間抜けな声を出し、他の生徒も驚きの表情が漏れている。


 空音は後ろのドアから音も気配も消して教壇の隣まで来ていた。

「先生可愛いらしい声を上げてどうしました?」

「や、矢那瀬さん~!いつ来られたんですかー。先生びっくりするからやめてくださいねー」

「すみません先生、ああやって注目されながら出てくるのは苦手で」

「あらそうなの?それじゃあ改めて自己紹介お願いしますねー」

「はい」

 空音はみさちゃんに言われ自己紹介をする。


「私の名前は矢那瀬空音と言います。先程紹介にも預かったように、東京から引っ越してきました。面倒ををかけるかもしれないけど、これからよろしくお願いします」

「はーい矢那瀬さんありがとー。みなさん仲良くしてくださいねー」

 クラスメイトは空音の登場に一時は驚いたものの、それを忘れるさせるくらいに空音の容姿は美しく、殆どが見蕩れていた。


「それじゃあ矢那瀬さんの席はあの一番後ろの席になるからねー」

「はい」

 空音がこちらに向かってくる。

「よろしくね、蒼太」

「ああ」

 空音は小声で挨拶し俺の後ろの席に座る。

「はいはーい!みなさん矢那瀬さんのことが気になる気持ちも分かりますが、HR中ですよー、前を向いてくださーい」

 みさちゃんの呼びかけで皆が前を向く。後ろに座る空音は窓から外を眺めていた。

(初日から目立ってるな・・・)



 HRが終るとクラスの女子が空音の周りに集まる。

「ねーねー!渋谷とか原宿に行ってたのー!?」

「髪すごい綺麗だねー!何やってるのー!?」

「さっきどうやって入ってきたのー!?」

 空音はクラスメイトの質問攻めに合い、その波によって俺は自分の席から押しやられる。

「ちょっ・・・・・!」

 渋々遠くから空音を眺めてると、嫌な顔を一つ見せずに応えていた。

 

 すると俺の隣に彰人が来る。

「蒼太はこのこと知ってたのかよ」

「転校生なのは知ってたけど、このクラスだとは聞いてなかった」

「今日転校生として来たのに、何で昨日屋上にいたんだ?」

「一日前に学校を少し見て回りたかったんだとよ」

「なんだそれ・・・何にせよ同じクラスだとはな」

 俺たちの視線に気づいた空音はこちらに向けて軽く目配せをした。



 その後の授業でも空音の能力の高さにクラスメイトは驚かされる。数学の授業では、彰人を除いて皆が答えられない問題を容易く答え、体育の授業では運動部男子と大差ない身体能力を見せた。

 初めは一部の女子から妬まれていたが、ここまで圧倒的な差を見せつけられてしまうと、その反感意欲も次第に消沈し、逆に憧れの的となっていた。

 

 そうして空音はたった一日で、クラスメイト全員から一目置かれる存在となっていた。



 放課後


 俺は不慣れな仲間の勧誘を始めることにした。まだ教室に残っているクラスメイトの中で一年の頃から親交のあるやつら数人を呼びかける。しかし、チームの目的が野球部と試合をして勝つことだと話すと、皆一様に難しい表情をし全敗。


「そりゃそうだよなぁ。野球をあまりよく知らないやつでも無謀なことはわかるよなぁ」

 小さくため息をつく。

 自分の席に座り、後頭部で手を組みながら天井を仰ぐ。すると、


「そう悲観することでもないよ」

「空音!まだ教室にいたのか」

 今まで空音が後ろにいた事に気づかずに驚く。

「これから練習でしょ?蒼太を待っていたんだ」

「練習?・・・あぁそういえばこれからの練習はどうするんだ?グラウンドは他の部活が使っていて余っているスペースはないし・・・」

「その事なんだけど、彰人に何か考えがあるみたい。先に行って待ってるらしいから、とりあえず今日の勧誘は一旦止めて私たちも行こう」

「ちょっ・・・」


 俺はその時ふといつも一緒に帰る美桜のことを思い出す。

(そういえば美桜はどこだ?練習に行くなら先に帰ってもらうことを伝えないと・・・いやその前に昨日もゲームに夢中で先に帰ったけどまだいるのか?)

 念のため美桜の席を見るがそこに姿はなかった。

(昨日以上に居なくなるのはええな・・・)

「ほら、早く行こう蒼太」

「わ、わかったわかった」


 俺は空音に引っ張られる途中、男子たちの鋭い視線を背中に感じながら教室を後にする。

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