43 迫り来る白い影
【シェディ】【種族:バニーガール】【准大悪魔級-Lv.2】
・人を惑わし運命に導く兎の悪魔。ラプラスの魔物。
【魔力値:14200/15600】3600Up
【総合戦闘力:15700/17100】3900Up
【固有能力:《因果改変》《電子干渉》《吸収》《物質化》】
【種族能力:《畏れ》《霧化》】
【簡易鑑定】【人化(素敵)】【亜空間収納】
准大悪魔級のレベルが2に上がっていた。
一般人を一人倒して得られる魔力値は5程度。兵士は10だとしても、今回私はそれほど人間を倒していないから、約3000くらいが一気に上がった計算になる。
「……あなたのおかげ?」
生まれ変わった世界樹の若木に話しかけると、ふわりと魔素を私に向けて贈ってくれたような気がした。
あの企業の裏切りで亡くなった裏αテスター99人の魂は、世界樹の中で眠り、新たに復活する世界樹の【若木】として生まれ変わる。
この若木が元は誰か知らないけど、その彼か彼女が新しく得た生命力の欠片を、白い魔石という形にして私にくれた。
ありがとう。あなたのことはちゃんと護るよ。という気持ちを込めて、タマちゃんと一緒に山のように腐葉土をかけていく。
ポニョン。
作業を終えると、タマちゃんが仕事をやりきった風な雰囲気で、私の肩で胸を張るようにポニョポニョ震えた。
一応場所だけ確認しておこう。新しい若木の位置は元の場所からそんなに位置をずらせないけど、近くの山に登って確認してみると、10メートル離れた場所の小皿程度の大きさで街が見えたから、多分200キロぐらいは離れているかも。
途中に深い崖もあるし、若木が生長するまではまず見つからないと思う。
……あの国がどうなっているのか気になるけど、どうせ偵察ドローンとかわんさか来ているだろうし、私もそこまで暇じゃない。
「じゃあ、タマちゃん帰ろうか」
ポニョン。
このままこの南部大陸で続きをするのは危険がある。私とタマちゃんは新しい若木の所まで戻り、一旦ラインを使って世界樹まで戻ることにした。
***
『早速、魔王バニーちゃんが暴れている件について』
『突然アナウンス流れたけど、どうなってんの? 若木が破壊されて【神殿】が使えなくなったらしいけど、その国だと死んだら復活出来なくなったって事?』
『みたいだね。新規のユーザーはそこを所属国に出来なくなったし、自分で設定した拠点も“範囲外”って表示になって、最寄りの国に飛ばされるらしい』
『他のゲームでもあったけど、その地域が人間支配から魔王支配になって、サービスが受けられなくなったって事? そのゲームだとプレイヤーが死なずに魔物を倒しまくれば人間支配に戻せたけど』
『そこら辺の情報はまだないね。その破壊された【若木】を復活させるイベントとかも発生しないし、魔物プレイヤーなら生活出来る?』
『私、魔物アバターのDLC買ったんだけど。それがさ。今朝になって何か奇妙なイベントが発生しているんだよね。強くなって今の魔王を倒して、新しい魔王になろうってのが』
『え? 魔物って魔王ちゃん側じゃないの? なにそれ?』
『なんでもあのバニーちゃんは、普通の魔王じゃなくて世界を滅ぼす【悪魔】なんだって。世界が滅びると魔物も生きていけないから、強くなってその地域の新しい魔王になるのが、魔物アバターの目標みたい』
『……なんかイメージと違うなぁ。バニーちゃんの下で人間と戦うのが、燃えるというか、その為にDLC買おうか悩んでいたのに』
『なんか運営の方針が、コロコロ変わるっていうか、ブレブレな気がしない?』
『そういえばその神殿が使えなくなった国はどうなってんの? いきなり魔物が跋扈する無法地帯?』
『ああ、俺、新規で始めてラントロワ公国だったんだけど、街はすんごいことになってたぜ』
『バニーちゃんが来たんだろ? 見た?』
『それどころじゃなくて、王様のお城?そこの前で暴動が起きててさ。霧のせいでほとんど前が見えないし、噂のバニーちゃんが戦っているのかと思ったら、人間側の同士討ち。おかげでモザイクだらけでモザイクしか見えない凄い状態だった』
『凄いって、モザイクかよっ』
『それでラントロワ周辺の状況ってどうなってんの?』
『あ、俺近くだったから試してみた。一応、ログインもログアウトも出来る。でも死んだら、元の国周辺でランダム復活したよ。それ以前に、その地域の魔物が強すぎっ! イモムシとか5割増し程度に強くなってたよっ!』
『国の中は現在大混乱って感じだったよ。結界がなくなって、私、魔物アバターのままでも村に入れたけど、奴隷が逃げ出しているし、キャベツを食べてる黒イモムシに農民が逃げ回ったりして、正直言って反応に困った』
『あの国……もう駄目かもね』
***
南部大陸北端にある、ラントロワ公国所有の世界樹の【若木】が破壊され、同国内で魔素を使用する魔導設備が次々と停止していった。
まず一番最初に使えなくなったのは、大量の魔力を消費する魔導列車だった。
魔導列車は内部の魔石によって魔力を溜め込んで燃料とするが、それは機関始動の為と、移動途中で事故が起きた時の予備の魔力で、通常稼働に使う魔力は線路から供給される。
移動途中で魔力が尽きたことで、車掌は予備の魔力を移動ではなく通信に使用して状況を確認させると、今回の若木破壊の事件を知ることになった。
次に照明や上下水道などのライフラインの魔道具が使えなくなり、薪もオイルランプもわずかに旅行用品の店舗にあるだけで、水もなく調理も碌に出来なくなった国民は、状況を把握出来ず大混乱に陥った。
その次に亜人奴隷達を縛っていた管理魔道具が使えなくなり、ほぼ同時に魔物から街を護っていた『結界』の消失によって、亜人達が逃亡を始めた。
簡単な柵でしか囲っていなかった農村部では、家畜を狙っていた魔狼が村を襲撃し、人々はそれを撃退しつつも食糧問題で疲弊して、薪を求めて碌な準備も無しに森に入り魔物に襲われる悪循環に陥っていた。
街の有力者は早急に金品を抱えて高速馬車で国を逃げ出し、次第に国は国家として体を成さなくなり、ラントロワ公国は荒廃していった。
***
南部大陸で混乱を起こしたラントロワ公国の若木消失も、情報に敏感な中央大陸はともかく、他の大陸ではそれほど重視されない、もしくはその情報そのものが届いていなかった。
52年前、比較的最近である92番目に発見された若木のある島国トルバンド。
92番目に見つかったが、何もない森しかない島国では開発が遅れ、97番目の大国トルバセットの貴族の一人が名乗り出て、18年前より開発が始まり、最近ようやく集落が完成した。
若木があれば『国家』と見なされるが、トルバンドはわずかな兵士と二千名程度の開拓民によって、ようやく小さな街を形成したばかりの若い国である。
まだ便利とは言い難いが、人々の顔には活気があり笑顔に溢れていた。
これから自分達の街を、『国』を作るのだと、夜の酒場で息巻いていたが、それを為すために数百名の獣人達が酷使されている。
まだ簡単な柵で覆われるだけの若木には、魔素を得る為に複数の杭が打ち込まれ、それを数年前に完成した砦から酒を呑みながら眺めていた若い太守は、突然白く染まっていく若木に我が目を疑った。
「何が……」
その瞬間、若木が砕けて塵となって消滅した。
その跡に立つ、ウサギのような耳の白い少女を唖然として見つめていると、少女は太守に気付いて緩やかに一礼し、瞬く間に姿を消した。
そして若木の恩恵を失ったトルバンドは、北方である本来の気候に戻り、突然吹き荒れる吹雪の中で、街を維持することが出来なくなり、亜人奴隷を置いて逃げ出すことしか出来なかった。
【シェディ】【種族:バニーガール】【准大悪魔級-Lv.3】
・人を惑わし運命に導く兎の悪魔。ラプラスの魔物。
【魔力値:15200/18700】3100Up
【総合戦闘力:17000/20500】3400Up
【固有能力:《因果改変》《電子干渉》《吸収》《物質化》】
【種族能力:《畏れ》《霧化》】
【簡易鑑定】【人化(素敵)】【亜空間収納】
亜人達は魔素の恩恵無しで酷使されていたので、魔素がなくても道具さえあれば何とか生活出来ます。
気候が厳しくなりましたが、人族に酷使されるより安心出来るでしょう。
獣人は数年経ったらふさふさになってるかも!
次回、大国の攻略を開始します。