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22 亜人奴隷




 思ったよりも簡単に串焼き屋のおじさんを始末できた。手段ではなくて精神的に。

 ゲーム世界のNPCではなくて現実に住む人間なのだから、自分でも手を下すのは躊躇するかとも考えたけど、特に何の感慨も得なかった。

 この一ヶ月で私の精神もおかしくなっているのか、それともすでに私の精神が魔物になっているのか……とにかく、生き物に関しては敵と味方、そして無関心の三つくらいしか認識出来なかった。

 まぁ、今更だよね。盗賊や旅商人もやっつけちゃってるし。


【シェディ】【種族:ミストラル】【下級悪魔(レツサーデーモン)(下)】

・北海に舞う人を惑わす霧の悪魔。知性ある精神生命体。

【魔力値:752/755】5Up

【総合戦闘力:830/830】5Up

固有能力(ユニークスキル):《再判定》《電子干渉》】

【種族能力:畏れ】

【簡易鑑定】【擬人化(玄人)】【収納職人】


 騒ぎになる前におじさんの遺体はタマちゃんのおやつとして消えてもらい、何食わぬ顔で雑木林の中から道に戻った。

 さっきの感触からすると戦闘能力のない一般人なら、100人居ても殲滅は出来ると思うけど、人族が全員ろくでなしとは限らないし。そもそも、そんな事をしている時間的余裕は無い。

 残り猶予、二十六日。

 それまでに残り二つの魔石を回収して、世界樹に接触する。


 それにしても、あっさりウサ耳に気付かれるとは思わなかったなぁ。

 私が慣れていないのもあるけど、今の私はそんなに目立つのかな? 地球でアルビノだった私はいつも好奇の視線に晒されてきたけど、こっちの世界は、金や茶や黒だけじゃなく、銀や濃青や真っ赤な髪の人も居たから、そんなに目立つとは思えない。

 今の姿は頭にある自分の姿だけど、栄養失調気味で痩せていた痣だらけの身体じゃなくて、年相応の健康そうな身体になっているので、興味を惹くこともない。

 どうして記憶にある姿と差違があるのかと考えると、無意識のうちに『最善』の身体にしようとしているとか?

 最善の結果がウサ耳か……しかもそれだけじゃなくて、古着屋で着替えた時に初めて気付いたけど、お尻の上に拳大くらいの『ウサ尻尾』が生えていた。

 意味が分からない。ウサ耳ウサ尻尾が必要な理由がどこにあるのっ?

 まぁ、仕方ない。顔の横に垂れている白いウサ耳を、出来るだけフード内に押し込めて対処はする。

 お金は、盗賊から接収した分がまだ銀貨10枚と小銀貨が数枚あるけど、もう少しだけ余裕が欲しいなぁ……おばさんや兵士にぼったくられたのが痛い。

 そのうち、痛い目には遭ってもらうけどね。


 そろそろ暗くなり始めているけど、余所者を見たらぼったくるような村で宿を取るつもりはない。もし宿の店主が良い人に見えても、ウサ耳を見られたら夜中に棒を持って襲ってくると思う。

 だから私は村の中にちょこちょこ残る雑木林に身を隠して、夜になってからこっそりと畑のほうへ向かった。

 星もほとんど見えなくなった地球と違って、星明かりだけでも結構明るい。

 それ以前に私は真っ暗闇でも問題ないけど、足跡を残さないように人型の半霧状態になってふわりと浮かび、十人ほどの魔力反応があった小屋に向かった。


 畑に隣接した小屋…って言うより、納屋? 鍵は掛かっていない。そもそも手斧で一撃すれば壊れそうな扉で、その隙間から中を覗いてみると、中には十代前半から五十代くらいの男性ばかりの亜人がいた。

 中は床板などなく踏み固められた土のままで、奥にある藁は寝床かな? 全員、身ぎれいにはしてあるけど、粗末な作業着を身に纏い、疲れた顔で納屋の中央に置かれた焚火を取り囲みながら、大鍋で野菜が煮えるのを待っている。

 屋根と壁があるだけで野宿とそう変わらない。

 犬の獣人が六人、猫の獣人が三人、エルフが一人。みんな戦闘力は100以下だけど人族の村人よりは強いと思う。

 私が扉を開けて中に足を踏み入れると、半数近くがすぐに気付いて顔を上げる。


「……誰だ? 子供が何の用だ?」

 火の側に居た狼のような獣人が疲弊しながらも警戒した声を漏らす。

「奴隷になったとは言え、夜まで子供のオモチャにされる気は無いぞ……」

「そんな気はない」

 私がフードを脱ぐと、ヘニャリと垂れ下がったウサ耳を見て、獣人達は驚きの呻きを漏らした。

「犬……じゃないな。ウサギ? そんな獣人聞いたことは無いぞ?」

 狼獣人がエルフの男性に振り返ると、彼は眉を顰めながら首を振る。

「私も存じません。ただ……私の祖父の時代には、今の犬種と猫種だけでなく、他の動物に似た獣人もいたそうですが、彼らは人族に愛玩用として狩られ、数百年前に絶滅したと聞いています」

「生き残りが居たのか……?」

 訝しげな視線を向けてくる彼らに私はそっと首を振る。

「私は、私が“何”なのか知らない。仲間(・・)はみんな死んで、ここまで姿を隠して旅をしてきた」

「そうか……嬢ちゃんも苦労したな」

「別にいい。少し聞きたいことがあっただけ」


 人族に奪われた物を探して旅をしていることを話し、この村に張られている結界のことや、街の様子などを尋ねる。


「結界は村長の家にある魔物の侵入避けの魔道具だと思うが……、街に行くのはやめておけ。嬢ちゃんみたいに見た目が良くて稀少な種族なら、すぐに捕まって奴隷にされるぞ。あいつら、自分達以外は家畜だと思ってやがる」

「あなた達はどうして逃げないの?」

 そう尋ねると、大人しく聞いていた猫獣人の男が自嘲するように顔を歪め、言葉を吐き捨てる。

「この首輪が見えねぇのか? コイツがある限り、村長が管理している魔道具から一定以上離れると、首が絞まるんだよ。それに女どもが別の所で働かされている。……俺の娘も村長に目を付けられて連れて行かれちまった。俺達はここで死ぬまで働かされるしかないんだよ……」

「諦めるんだ?」

「てめぇに何が分かるっ」

 猫獣人が激高して立ち上がる前に、一瞬で回り込んだ私が背後から咽に短剣を突きつける。

「お前……」

 硬直する猫獣人に代わって鋭い視線を向けてくる狼獣人に、私は持っていた短剣をその足下に放り投げた。

「……何のつもりだ?」

「あげる。生きるのを諦めたのならさっさと自害したら?」

 その言葉に獣人達は息を飲み、その瞳の奥にわずかに怒りの炎が灯った。

 私はそれを気にもせず、足下にさらに数本の短剣を捨てる(・・・)と、彼らを無視するように背を向けて歩き出した。

「おい、嬢ちゃんっ!」

「私は人族の都市に向かう。ついでに村長の家にある奇妙な物(・・・・)も壊してから。それはあげるから、死ぬ為でも生きる為(・・・・)でも好きに使って」


 そのまま納屋から出て行っても、亜人達は誰も動かず誰も声を出さなかった。

 私はそのまま昼間に強い魔力を感じていた村長宅らしき大きな屋敷に向かう。この魔物侵入避けはよっぽど高性能なのか、特に警備もなかったけど、闇に紛れて移動しながら途中で見かけた漂っている“蛍火”は全て潰しておいた。

 【№01】の情報では、この世界を監視している運営側の【義体】ドローンみたいだけど、隠密性を重視したせいで野生の鳥にもやられる程度だから、潰しても問題にはならない。そこから情報を取れれば良いんだけど、私の力ではまだ無理だった。


 真正面から村長宅の玄関に向かい、右腕を霧化させて侵入させ内側から半霧化した手で閂を開ける。

 村長宅は中世程度とは思えないほど光に溢れていた。あちらこちらに光を放つ魔道具が設置されていて、他にも現代の電化製品のような魔道具を見かけた。

 暖炉もないのに仄かに温かいのは冷暖房もあるのかな?

 灯りは付けっぱなしなのに誰の姿も見えない。よく見るとテーブルの上にメモがあったので読んでみると、奥さんらしき人は商店街の酒場で朝まで呑んでいるそうだ。

 この村、随分と使える魔力が潤沢なのね……。

 私は屋敷内に感じていた魔力反応を追ってみると、それは地下に続いていた。

 屋敷をしばらく回って地下への階段を見つけたので降りてみると、そこから女性の小さい悲鳴と、男の笑い声が聞こえてくる。


「ひひひっ、まだまだこれからじゃぞ」

「ひぐぅ……」

 壮年の男が酒を呑みながら、若い獣人の娘に乗馬鞭のような短鞭を振るい、猫獣人の女の子が身を丸めるように痛みに耐えている。

 その奥に、魔力を放つ祭壇が見えたので近づいていくと、酒に酔っていた村長らしい男が私に気付いた。

「なんだぁ、獣人の小娘か? お前もこっちに…ぐげ」

 あ、フードを脱いだままだったね。

 霧化させた右腕を口から侵入させて肺を覆い、魂まで吸い尽くすようにじっくりと吸収していくと、村長はのたうち回りながら土気色の顔になり、咽を掻きむしるようにして最後には干涸らびて崩れ去った。

「ひっ…」

 村長の死に様に怯える女の子を無視して、私は近くにあった手斧を拾って、祭壇にあった複数の魔道具を全部打ち壊す。

 何となくスッキリ。

 でも屋敷内の明かりが、いつの間にか消えているのはどうしてだろう?


「あ、あの……」

 暗くても夜目が利くのか、躊躇いつつも呼び止める女の子に振り返りもせず、私は階段を登り村長宅から外に出る。

 村全体に感じていた圧力感みたいな薄い魔力が消えかけていた。多分、数日もしないうちに魔物が村にやってくると思う。

 あの亜人達が何をしても構う暇なんてないでしょうね。

 よく見ると村に点々と灯っていた家々の明かりが全て消えて、あちこちでわめき声が聞こえていた。もしかしてアレって、村の分電盤みたいなものだったとか?

 奴隷の首輪用の監視魔道具も壊れたか分からないけど、別にそれを見届けるつもりがない私は、そのまま闇に紛れて、王都への乗合馬車が出るという、次の街がある方角へ向かうことにした。

 ポニョン。

 あ、ごめん、タマちゃん。おやつないよ。




出立までしか辿り着きませんでした。

ちなみにタマは、崩壊してても美味しく戴けます。


次は、街に向かいます。

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タマちゃんはこっちの進化に合わせて、強くなったり進化したりはしないのかな?
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