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01 イグドラシア・ワールド

挿絵(By みてみん)


新連載です。VRMMORPGで始まります。

序盤は少々暗いですが、主人公は少しずつ強くなっていきます。目指せバニーガール。

主人公は11歳ですが、色々と達観して精神の幼さはあまりありません。

それでは『白い少女』が逆襲するまで、温かくお見守りください。



『ようこそっ! イグドラシア・ワールドの世界へっ!』


 VR――ヴァーチャル・リアリティーが一般にも認識され、初めは視覚と聴覚のみであったVRシステムは、いつしか全身の感覚までも再現する、脳認識の全身没入型が主流となり、様々な分野で生活に浸透していった。

 その後年開発されたアバターシステム――電子と特殊なタンパク質と酵素によって構成された【義体】を用いることで、危険な作業はVR義体によって行われ、自宅にいながら世界中の観光地に旅行さえ出来るようになった。

 もちろん夢のような架空の世界をサーバー上に構成し、そこで遊ぶVRゲームも多種多様に製作され、次は何が出来るようになるのかと人々は期待に胸を膨らませた。


 そんな折り、某大国の企業がVRMMOの業界に参入し、新作MMORPGのβテスターを全世界で募集した。

 その企業は、製薬と軍事産業で有名な複合企業であり、その企業が政府の肝いりで開発したというVRMMORPGは世界中で話題になり、公開された異世界としか思えない壮大な光景に魅了され、βテスター1万人の募集に三百万近い応募があった。

 年齢・職業・性別・学歴・健康状態・犯罪歴等の有無・人柄などを考慮した、その三百倍の難関を突破したβテスター達は、地球と同規模の広さを持つ世界――世界の中心にそびえる【世界樹】とその若木九十九本が支える【イグドラシア・ワールド】へ、喜び勇んで飛び込んでいった。


「…………」

『…………』

 イグドラシア・ワールドの案内役である、タキシードを着た犬のヌイグルミの姿をした【AI】は、目の前の何の反応もないテスターに無言となり、設定された数百万の回答例から適切であろう“言葉”を引き出す。

『おおっと、これは可愛らしい、“ウサギちゃん”のようなお嬢さんですね』

「…………」


 VRとアバターシステムが確立されて一番問題になったのが、本人とアバターの認識の違いから来る『違和感』であった。

 要するに顔の微調整や毛色などの些細な違いはともかく、性別・体格・骨骼・視点の高さ・手足の長さ等が違っていたりすると、短時間なら問題はないが、長時間の連続使用に精神が拒否反応を起こしてしまう場合があったのだ。

 症状を感じても数日VR使用を休めば問題ないが、それを数日間連続で続けた場合、精神面に変調が起こり、嘔吐や精神の不安を訴える者が出始めた。

 それに対処する為、VRアバターの感度を下げる処置が為されたが、それでは目の肥えた顧客から盛大なクレームを受けることになり、VR業界と医師会はもっとも簡単な対処法として『自分と出来るだけ同じ姿』のアバター使用をするように告知した。

 VR機器製作業界では、その為にVR機器自体に全身のスキャン機能を標準装備と定め、多くのVRサービスでは自分と同じアバターを使う事を強く推奨している。


 もちろんゲーム業界でも同様で、年齢設定によって多少制約は緩くなるが、基本的には現実とほぼ同じアバターを使用することになる。

 だから最初のゲーム設定をする、案内役【AI】の部屋に現れるのはスキャンされた現実と同じ姿なのだが、【AI】がそのテスターを『可愛らしいウサギちゃん』と評したのは、もし社員が監視していれば即刻修正が入った事だろう。


 【AI】の持っている事前情報によれば、目の前に居る少女は日系人の11歳。

 だが、それにしては体格が平均よりもかなり小柄で、病人服のような簡素な白いワンピースから覗く手足は驚くほど痩せ細り、よく見れば白い肌に幾つか痣のような痕が見受けられた。

 確かに顔立ちは可愛らしく、わずかに癖の入った白い髪と睨むような真っ赤な瞳は、ウサギのような印象を受けるが、感情を持つ人間なら『痛ましい』とは思えても『可愛らしい』という言葉は出てこない。

 アルビノ――先天性色素欠乏症の少女は無言のままで何の反応も示さず、【AI】は時間経過による行動で、気取ったポーズを取りながら次の説明をはじめた。


『それではお嬢さん。イグドラシア・ワールドの世界説明をさせていただきまーす』


 イグドラシア・ワールドは、世界の中央にそびえる1本の【世界樹】と、そこから分岐された九十九本の【若木】に支えられた世界である。

 九十九本の若木には、【人族】と呼ばれる人類種が集まり、三十三の大国と六十六の小国を形成している。

 大国の人口は数百万~数千万。小国でも数十万から数百万の【人族】が、様々な様式の都市を築いて生活している。

 彼ら【人族】の文化は中世と近代中世が入り交じっているが、庶民の生活にも魔素を利用した『魔道具』と呼ばれる電化製品のような機能を持つ道具があり、都市部でなら比較的文化的な生活が出来る。

 世界は地球規模の広さはあるが、魔導機関によって動力が補助された馬車や、魔導列車や魔導機関船があり、移動は比較的スムーズに行われる。

 世界は魔法の力――【魔素】に溢れていて、戦いの手段は『剣』と『魔法』が主流であるが、魔力を使用したマスケット銃のような単発銃も存在する。

 プレイヤーは【人族】だが、エルフ・ドワーフ・獣人・竜人等の【亜人種】が存在しており、彼らは人族国家から離れた深い森の中や山奥に集落を築いて生活している。

 その他にもゴブリン・オーク・オーガ等の【獣亜人種】と【魔物】のような、人族に敵対的な存在が居る。


 緊張感を出す為に、プレイヤーが死亡した場合はペナルティーとして魔力の低下、能力値の10%ダウン、それから所持していたアイテムがその場に置き去りになり、リスポーン地点を設定していない場合は、ランダムで死亡地点近くにリスポーンする。

 再び能力値を上げていない状態で連続死亡すると、キャラクターはロストする。

 痛覚はあるが通常の10分の1に抑えられる。(設定で調整可能)痛覚を最低設定にしても衝撃は感じる。

 犯罪行為はその国家の法律が適用され、投獄される恐れがあり、プレイヤー同士の戦闘も可能だが、それが犯罪行為(決闘ではなく殺人罪)で捕まった場合、長期間拘留されるとアカウントが削除される。

 犯罪者プレイも可能だが、指名手配をされると行動に著しい制限が掛かる。

 ゲーム内の時間は、現実とほぼ同じ速度で設定されているが、世界規模で在る為、地域ごとに時差も生じる。


『ここまでご理解いただけましたか? それでは、一般【βテスター】の方は、ここからキャラクター作成に入りますが、お嬢様方、【裏αテスター】の方々は、『種族』を決めさせていただきましょう。契約書通り、テスター期間が終了の暁には、守秘義務を守っていただき、それ以降十年間の生活を保障させていただきまーす』


 その案内役【AI】の言葉に、白い少女はかすかに頷いた。

 裏αテスター。それは秘密裏に集められた百人の孤児による人体実験被験者である。

 表向きには『人類種プレイヤーと魔物プレイヤーとの対戦の為のデータ収集』と説明されており、人間とは掛け離れた身体での精神状態や、VRの長期連続使用を目的とした半冷凍睡眠状態での連続使用による、精神と身体への負荷を調査目的としている。

 だが、その裏には、軍事利用も視野に入れられており、αテスター達は、感度を技術的最大値に設定された『人外』のアバターを与えられ、半年という長期間ログインを強いられた。


『お嬢様の種族候補としては、【獣亜人族】これはゴブリンやコボルトですね。その他には【獣系】【亜竜系】【植物系】等もございますが、私がお薦めなのは…』


「……悪魔…」

『はい?』

 初めて口を開いた白い少女に、会話プロトコルが新たな会話を構築する。

『ああ、なるほど。【悪魔種】が良いのですか。精神体系はあまりお薦めしませんが、それではあちらの扉へお進み下さーい。その途中で世界共用言語の脳内インストールも始まりますので、慌てないでくださいねー』

 小さく頷いて、そのまま歩き出した少女に、【AI】が最後の決められた行動を開始する。

『それでは、良いイグドラシアライフをっ! おおっと、最後に『お名前』をお聞かせ下さいませっ!』

 最後まで名前を決めなかったプレイヤーにそう呼びかけるのだが、白い少女は立ち止まりもせずに、

「……いらない」

 と呟き、VRMMORPG【イグドラシア・ワールド】へと続く、光の道に足を踏み入れた。


ストックが尽きるまで毎日更新予定です。


次回より、白い少女のサバイバル魔物生活が始まります。

基本は主人公による一人称でお送りします。今回は喋ってませんが、頭の中では色々喋りまくりです(笑)

それではよろしくお願いします。



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― 新着の感想 ―
いきなり色々とヤバそうな展開から始まっとる!? マスコミに情報が流れたら大変だ!
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