第3話 恐怖のソルフェリノ襲来、そして……
トラウマって、消えないですよね。
ふんふふーん
ふふふふーん
鼻歌交じりの美しい声が聞こえてきた。
忘れるわけもない。
奴だ。
ソルフェリノだ。
ショートカットの明るい赤い髪、人懐っこそうな笑顔、小動物のような動き、盗賊のような身軽な格好、で、その正体は、知識神の高司祭だから世も末だ。
笑う赤には憤怒も含まれるんだよって、怖すぎる。
「およ、こんな所で迷い子はっけーん」
ロックオンされました。
もうすでに怖いです。
「ちみぃ~、こんな所でどうしたんだにゃー……って、うん、なんか違うにゃ」
じろじーろと、僕のことを、全身くまなく、特に下腹部の辺りを重点的に、舐め回すかのよーに見てくるソルフェリノ。
やだー、視線でおーかーさーれーるー。
そっか、前の世界でソルフェリノが行ってた言葉の意味がちょっとだけ分かった気がする。
やだ!この感覚、くせにすらならない。
頼むから、見ながら変な声出さないで。
喰われちゃいそうです。
***
「ふぃー、うん、ちみぃ~、ただものじゃないにゃーね」
「ご、ごめんなさい。じ、自己紹介、した方がいいかな……」
どうにも恐れが先に立ってしまって、言葉も尻すぼみになってしまう。
……健気なショタエルフ演じるんだったらそっちの方が雰囲気出てていいかもね☆
「おーおー、そうだにゃ、じゃあ、話しかけたソルの方から紹介しないとね(キラッ)」
そこ、無駄にきらりさせないように。意味ないの分かってるでしょ。
「ソルはねえ、ソルフェリノって名前なんだ。名字はないよん。怖がる人は笑う赤なんて言っちゃってるね」
怖がる人はって、いきなり初対面の僕に言う言葉か?
「ソルフェリノさんですね、分かりました。僕の名はアンリと言います」
自己紹介のセリフを言いながら、ガイダンスチェック。
えーと、クロスティカ姓は……っと
<クロスティカ>
エルフの氏族の一
と言っても、開祖はアンリだからね。
そんな氏族まだいないっすよ?
ふぉー、そういうことだったんかい!
か、考えないと。
ゼン●ンじゃないけど、ここいらの地図をぷりーず。
<シュバルツヘルツ中北部地図>
現在地は、クリスタパラストの北10km、
王家の裏森地域です。
この先、北40km付近に、小規模な古代遺跡が
1件あります。
地図が表示される。
おお、さすが、km表示がありがたい。絶対に口に出して言えないけどな。
それ以上に現在地の『王家の裏森』と言う名前が嫌すぎる。
どう見てもだめじゃん。
でも、北に遺跡があるね。
初期装備を充実させてるから、その理由にはもってこいだ。
「ふーん、アンリ君だね。名字はあるのかにゃ?」
「物心ついた時には一人だったので……いちよう、何かあった時用にクロスティカっていうの考えました」
「クロスティカにゃ―――、うん、聞いたことなっしんぐ。エルフの捨て子なんて珍しいけど、いないわけじゃないしぃ、怪しくはないかにゃ?」
ふぉおー、緊張するぜ!
ここで間違ったら消去だからな。
内心冷や汗たらたらなのだ。
でも、まだ山がある。
そう、僕の装備品だ。
……これも、古代遺跡と言うパワーワードでどうにかなると信じたい!
「でだねー、ちみぃ~、おねえさんにおしえてもらいたいんだけど、そのかっこ、何?」
そりゃそうなりますよね。
「何って、革鎧ですけど」
「びっくりするぐらい森に溶け込めそうなものなんですけどー」
「これまで、僕、森の中で動物を狩って食料にしていたんです。なので、目立たないようにと……」
もちろん、エルフは草食だってのは迷信だからね。
肉食わないとたんぱく質ががが
「ふーん、ちみ、エルフなのに肉食べちゃうんだー」
「生きるために必要なら食べますよ」
じとーっと、ソルフェリノが僕のことを見る。
もしかして、間違ってた?
<エルフの体型について>
耳が長いです。全体的に線が細く、食も細い傾向にあります。
長身の美形が多く、太ったエルフは見たことが無いですね。
なので、草食とか、生臭NGとかに見られることもありますが、
全員がそうではないのです。
あってるよね?このガイダンス。
「……あははは。うん、正解だよ☆アンリ君、今回は正解なようだね!」
「え?え?」
「おねーさん、おぼえてるよ(キラン)」
おいおい、これって殺される流れじゃないか!
2度目も詰みとか勘弁してくれ。
しかも、今回リセットな……あ、死んだらOKだったっけ。
って、死にたくねーよ!
ソルフェリノの信仰魔術師レベルは8。
リザレク使えねーじゃねーか。
「覚えてるって、どういうことでございましょうか」
「君のやったこと、覚えてるんだよねー。がっつりソルのこと甚振ったでしょー」
ぐあーーーー
「でも、その時は……」
「たしかに、君のこと殺そうって、先に思ったのはソルの方だけどね。君が常識なしだったのがいけないんだよ」
「常識なし……」
前回は、ここがゲーム世界だと思ってやらかしたからなー。でも、鑑定が地雷なんて誰も気付けないぞ。
「ま、でも今回はそのこと踏まえて、この世界に馴染もうとしてるから、付き合ってあげてもいっかなー。と思ったんだにゃ」
どうやら、気付いたらしく取ってつけたように語尾ににゃが復活していた。
「でも、この世界はリセットして巻き戻ったんじゃなか…………えーと、ソルさん、怖い顔しないでください」
「アンリさ、迂闊だよね」
明るい表情から一転、表情を消したソルフェリノに諭される。
「さっき、私は、前回のアンリが常識なしって言った。今回は、勉強したかと思ったが、まだ足りないようだ。やっぱり死ぬか?今なら、サービスしてひと思いに殺してやるぞ?」
「え、遠慮したいです……」
「ならば、いらんことを言うな!これでも知識神とつながりがあって、その縁で前回のことを聞いている。……もし、その聞いた話を私が過去に体験していたとするなら……今回だって、出会った瞬間にお前のことは殺している」
「うう」
「ただ、今回の神からの信託は、『アンリと協力して、この世界の環境改善を進めろ』なのだ。もちろん、不自然な点を隠しつつだな。だから、お前は迂闊な事を言うな」
「す、すみません」
怖い。怖すぎる。
裏ソルフェリノ様はとんでもなく怖かった。
怖かったから、やらかした。
うん、やっちゃったことは仕方がないと思う。
***
隣でソルフェリノが謝っていた。
誰にかって?
聞いてびっくり、僕に対してなのですよ。
「ごめんごめん、さっきのはなし、なしで!ほんとなしで!!」
僕はと言うと、泣いていた。
怖すぎたから、年甲斐もなく泣いてしまった。
さらには、ついでにですね、そのですね、ちびってしまった、のですよ。
……ごめんなさい。正直に言うと、滝のように漏らしてしまった。
もう、ほんと、全部出た。
……考えてみよう。
ショタエルフが、泣きながら盛大におもらししている図。
いじめられた感が半端ない。
つーか、僕自身とっても恥ずかしい。
おもらししてさらに泣きが盛大になった。
「大丈夫だから、君のこと、アンリのこと、殺さないから」
「ほんとに?」
えぐえぐしながら、ソルフェリノに視線を向ける。
「ほんとだよ……多分」
「う、うわーーーーーん」
この状態で、多分なんて言われたら余計泣いちゃうって。
そこ!あざと過ぎるなんて言うな!
分かってても、泣いちゃうんだよ。そこんとこ分かれ。
……うん、これ以上は、もう出ない。
「だから、大丈夫だよ。ねっ、ねっ、だから、泣き止んで?」
ソルフェリノが猫なで声で僕のことをあやす。
「……ぐすっ、ぐす。……うん、ごめん。もう泣かないよ」
どうにか、僕の中の感情が落ち着いてきた。
落ち着いたら、もっと恥ずかしくなった。
顔は真っ赤になっている自信がある。
「でも、どうしよう?僕、盛大に漏らしちゃった……」
名のあるマジックアイテムを装備していてこの体たらく。
顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃ、下半身はもらしたものでぐちゃぐちゃ。
足元には水たまりまで出来ている。
森の中を吹き抜ける風が、無情にも熱を奪っていく。
ちくしょー、正直、気持ち悪い。その上……
「ぶるぶる……さ、寒いよ、ソルお姉ちゃん」
ほんと、どうしたものか……
その瞬間、ぴかーんとソルフェリノの目が光った。
「アンリく~ん、泣き止んだら、お着替えしましょうねー」
いつの間にやら、両手をわきわきさせながら、ソルフェリノが僕のことを狙っていた。
怖い。怖いけど……
「ぼく、着替えるものが……」
「だ・い・じょ・う・ぶ。ソルお姉ちゃんに任せときなさい!こんなこともあろうかと……」
いろんなものに汚れている僕をものともせず、アタックされた。
や、や……だ……。や……め……て…………
ぼく、……きた……ない……よ?
けがれ……ちゃうよ?
「何言ってるんにゃ!姉なら、弟のあれこれやるの当たり前にゃ!」
え?
「弟なら、何かしでかしたらしやるのが姉の役目にゃ!そして、弟を守るのも、姉の役目にゃ!そして、弟なんだから、姉が何を見たってノーカンなんだにゃーーーーー!!!」
******
ちゅんちゅんちゅちゅん
ではない!断じて!
ぱちぱちぱちと、焚き火の燃える音が響く。
「お姉ちゃん、ごめんね。そして、ありがとう」
「どういたしまして。弟のためならお姉ちゃん頑張っちゃうからね。頼りにしてよ!」
「うん」
僕は、ソルフェリノお姉ちゃんの弟になることを選択した。
ここまでお読みくださり、ありがとうございます。
どうにかソルフェリノの出会いまで来ましたので、
次話投稿は、11/6(月)の夜となります。
次回は、落ち着いてお姉ちゃんとの会話にチャレンジだ。
※今週後半から来週にかけて実家に帰るため、一連の作業ができません。
そのため、次話投稿が1週間後となります。ご理解ください。