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難攻不落の黒竜帝  作者: 遊木昌
五章 虚ろな夕闇の摩天楼
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五章一節 新たな門出を祝して


 その日は、朝から黒焔騎士団本部は騒がしかった。

 早朝から団員達が辺りを動き回りながら、準備を進める。


 「武装一式再度点検し直せよ。会場は議会の本部でも、何があるか分からない。確実如何なる状況にも対応できるようにしておけ」

 「「「はい!」」」


 エントランスでは、受付の非戦闘員の団員達が数多くのモニターを巧みに扱い、本部内の連絡や緊張の状況にすぐに対応する。

 天井のスピーカーからは、何度も呼び出し音が聞こえその度に本部内は慌ただしく動く。

 「良いのかねぇ、俺だけ休んでて……」

 体の数ヶ所には、未だ完治しない傷が多く残る翔が松葉杖を片手にエントランス近くでのんびりしている。

 慌ただしく行き交う団員達を眺めながら退屈な時間を送っている。

 「もしも、皆さんの手伝いをしよう何て考えてませんよね? 翔さんの体では逆に仕事が増えてしまいます」

 退屈そうにしている翔の後ろから現れた大輝は、目の下のクマがひどい。

 ほとんど寝ていないのか、病み上がりの病人に対しても容赦が無い。

 それだけ、今回の行事は珍しく誇り高い物なのだろう。

 「大輝さん、ロークがまた逃げました! 連れ戻すのを手伝って下さい!」

 「ハァ…やれやれ、ホントに困った後輩だ」

 大輝の表情は呆れている筈なのに、どこか生き生きしていた。


 綾見の着付けを手伝うステラと綾見のローブを編む殺女は、ただ静かに手早く仕事を行っていた。

 綾見はそんな二人に対して、申し訳無さと恐怖で固まっていた。

 「…肘……上げて…」

 ステラが発するいつものは違った低い声音は、綾見の脳裏に植え付けた恐怖心を駆り立てる。

 声だけでなく、その瞳は冷たく端から見れば冷静とは言えるが綾見からすればちょっとしたステラの挙動にさえもビックリしかねない。

 そんな二人の光景を眺めながら、破れたローブを手直しする殺女だが、綾見の首筋に浮かぶ紋様が目に入ると心が張り裂けそうになる。




 時は遡り、信濃の地で療養中の出来事。

 木製の建物からは、木製ならではの木の香りが漂う。

 綾見達が講堂から更に枝分かれするようにバラバラにされ、綾見とローク、殺女とステラの四人が小さな診療所に連れてこられた。

 中には、診療所を利用している病人はおらず子供のような看護師と気だるそうな医者が綾見達を待っていた。

 しばらくして、二人に幾つかの質問と口の中や体の心拍数等を見始める。

 そして、医者の顔色が一瞬で代わり、二人は途端に拘束され療養期間中はこの木製の診療所に拘束される事となる。


 「綾見君、ローク君。君達が会得し許可無く使用した魔法は、禁忌指定の魔法であり。危険だと言う認識はあったのかな?」

 医者が毎日のように診療所の医者と別の医者の二人での質疑応答。

 「もしも、あの場で発動した時に、君達の理性が魔法に喰われていたら……死んでいたんだぞ?」

 診療所では、何人者の医者達から質疑応答と精神チェクを受けた二人は、3日間の拘束が溶かれた際に黒の意識が覚めていない事を知る。


 「二人の魂提供者が目覚めない事には、二人のメディカルチェックは不可能だ。万が一に魔法が勝手に発動しても、止めれる者がいない」

 二人は黒の目が覚めるのを待つ間に、自身の身に付いて詳しく聞いた。


 「君達二人の体は…まだ、詳しい事までは分からないがまず、確実に()()()()()。禁忌指定魔法の副作用だと思うが君達は人としての人生を歩めなくなった事だけは分かってくれ。君達は人の体はしているが、中身が限り無く『魔物(ギフト)』に近い。それが――()()()()。【愚者魔法】何だよ……」

 何人者の医者と対話をしたが、ほとんの医者が『君達は魔物に近い』と言っていた。

 元に戻る方法はあるのか、しかし、二人が【愚者魔法】を使う段階で黒から話は聞いていた。

 『使う使わないはお前達に委ねる。それと、コレだけは覚えとけ……俺はお前達二人の力は必要だが、人を捨ててまで戦えとは言わない。どうしようもなく、大切な者が危険だと判断した時に使ってくれ……』

 綾見は星空を眺めながら、ロークに愚痴る。


 「俺達の選択は正しかったのかな? 悔いはねぇのかな?」

 「相棒…なに言ってんだよ。過ぎた事を気にしてたら、この先生きていけねぇぜ? それに、俺は後悔してねぇ」

 ロークは星を掴み取るように手を伸ばし、星を握り手を開きその中を確認する。

 当然のように遥か彼方に存在する星などは掴めておらず、虚しいほどに何もなかった。

 「星を掴もうとしても、今の場所だと遠くて掴める可能性すら無い。でも…【愚者】を使えば手が届く命だって、手が届かない命にだって手が届いて救える。俺達が人を辞めても、誰かの人生を紡げるなら後悔何かする必要がねぇよ……だろ? 相棒」

 ロークは綾見に拳を突き付ける。

 この前までのロークと違い、額には【愚者】の副作用なのか2本の角が前髪に隠れてはいるが小さな角が確実に伸びてきている。

 「確かにな…俺達の犠牲の上で、平和が成り立つなら儲け物だな。コレでまともに死ねれるよ」

 「なんだ、もう死ぬ気か? 気が早いねぇ」

 人で無くなっていても、綾見とロークは不断通りに振る舞い、自分達の人生が他の誰かの人生をより良いものにしてくれる。

 しかし、自分達が後悔しない選択が必ずしもよい結果になるとは、限らない。

 団員達の中には、親しい者達や綾見達の為に泣いてくれる心優しい者達で溢れている。

 そんな者達に会わせる顔が無い。


「…所で…バーバラさんの修業はどうなったんだ? 二人ともあれから強くなったか?」

 普段通りを意識し、綾見は着付けをしてくれているステラと殺女に尋ねる。

 「…分からない」

 ステラから返ってきた返事は、小さく元気が無い。

 そして、綾見はそんなステラの気持ちを理解していなかった。


 「まぁ、まだ分からないか…でも、俺がお前達の盾として前線で守ってやるよ!」

 綾見は満面の笑みでステラにガッツポーズするが、次の瞬間。

 自分の右頬を力強く叩く、ステラの平手打ちに驚きその場で綾見はよろめく。

 「守る? そんな体で、いったい誰を!? 次に愚者を使ったら、戻れないかも知れないんだよ? 綾見達が守ろうとするものに私達を入れて…何で自分は入れない! …玲奈ちゃんはどうするの? どうせ、使うなって言っても二人は魔法を使うでしょ…もしも次に…愚者魔法で完全に理性を喰われて魔物化したら、一体誰が玲奈ちゃんの側に居てあげるの……?」

 涙を流しながら、綾見の服を強く掴むステラは震えていた。

 「お願いだから…私達にも綾見達を守らしてよ。私達の事より自分の()()()()を優先して考えてよ……」

 綾見は泣き崩れるステラを見詰めて、妹の玲奈や大和で暮らす母親。

 バーバラの一人娘で、勇気を出して告白してくれたワヒートが頭を過る。


 「――悪いが…ワヒートに謝っておいてくれ。()()()()()()()()()()()()()()()…ってよ」

 静かに笑う綾見は部屋の扉を開き、殺女が縫い直した黒一色のローブのを羽織る。

 部屋を出れば、同じような服装のロークと付き添いに来たリーラやヘレナ達が目に入る。

 未だ泣き崩れるステラの声が扉越しに聞こえてきて、綾見の心を揺さぶる。

 本当に選択は正しいのか、間違いは無いのか――自分では分からない。

 黒のように、手を差しのべ導いてくれる者は以内。

 心に闇が多い被さり、何も見えず、何も見なかったあの頃に逆戻りしてしまう。

 だが、綾見の肩を強く掴む者が今は隣に待っていた。



 「後悔しないんだろ? なら、堂々と胸張って――()()()()()……だろ? ―相棒」


 エントランスから外の世界は、暗く何も見えない暗闇である。

 しかし、ロークが前に歩めば自然と光が灯り、道が見えてくる。

 黒のように自分の道を指し示してくれるロークの姿に、綾見はどこか安心感を抱く。

 コイツが隣にいる限り、自分の心は折れないだろう……と。


 黒焔騎士団本部前に突如として、開かれた空間から二人の女性が現れると深々とお辞儀をしていた。

 「「この度は、優秀な戦績を積まれましたお二人に、我らが主。『世界評議会』並びに『聖獣連盟』を統括する『亡霊の金騎士(ファントムアソーバ)』からの新たな称号授与の申し受けを受けて頂き、誠に感謝申し上げます。そして、更なる戦績に主共々期待しております」」

 まるで、人形の様な振る舞いの女性二人に綾見とロークはその場から、一歩下がる。

 全く威圧的な魔力を放っていないのにも関わらず、体が思うように動かない。

 コレが亡霊金騎士の直属の騎士『亡霊の銀騎士(ファントムグイネア)』の殺気なのだろうか。

 空に開かれた空間を抜け、緑豊かな大自然が見渡す限り広がる場所へと繋がっていた。

 信濃以上の緑に黒焔騎士団の者達は目を輝かす。

 自然に囲まれたその場所は、綺麗な花畑の道を通ると見えてくる巨大な城。

 城内に入る前に、黒焔騎士団の周囲からクスクスと話し声や笑い声が聞こえる。


 「――おいッ! 一体誰がこの神聖な場所にガキを連れてきたのはッ!」

 「身形もなってねぇガキがよぉ…迷子でちゅうか?」

 「あら…小汚く貧相な団服の方々。まともな服すら買えないのかしら?」


 綾見達の背後から黒焔よりも先に来ていた図太い声と嘲笑う多くの金騎士級の騎士団。

 その場にいる騎士団のほとんどが黒焔を指差し、笑う。

 その理由としては、その構成員の9割が経験の浅い新米騎士であり、団長不在の為に代理として団長席に座る、碧を笑っているのだろう。

 服も統一されておらず、ただの礼服に騎士団の揃いのローブや羽織。

 他の騎士団は絢爛豪華な衣装がほとんど占めており、絢爛豪華でもない服装なのは黒焔騎士団の者達だけであった。

 その場で浮き、笑らわれても可笑しくはないのだろう。


 しかし、そんな絢爛豪華な他の騎士団をたったの一言で静める者が黒焔には居た。



 「確かにな豪華なのは良い事だ。派手であればあるほど目立ち、その騎士団の品位に関わってくる」

 綾見がレッドカーペットが丁寧に敷かれ、城内へと続く道をゆっくりと進みながらその場の者達に向けて声を挙げる。

 「でもよ。……その見た目だけの繊維に何の意味がある? そんな物で、今から俺達の前に立つ、()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 そんな綾見の発言に疑問を抱く騎士団の者達だったが、自分達の背後から迫る巨大な魔力に感付くがヒールや動きにくい服に足を取られる騎士達を笑うかのように止めの言葉。


 「この場で着飾って良いのは、俺達称号授与者とアイツらみたいな――上級騎士だけぜ?」


 押し潰す様な巨大な魔力に気分が悪くなる者達が大勢現れる。

 しかし、金騎士以下である黒焔騎士団の新米騎士達からは、気分が悪くなる者は一人もでない。

 上級騎士達の魔力以上に、綾見の姿が目から離れないからだろうか。

 目の前に居るのは、八騎将の『バルゼット』『ガルネラ』『シュガルド』『ナユ』『タタ』『リーン』『フォルネラ』『リョウマ』。

 白を基調とした正装は凛々しく、そして強さが服にも現れていた。

 久隆派遣警備会社社長の『久隆 禅(くりゅう ぜん)』。

 真っ黒なただのスーツなのに、どことなく強者のオーラを漂わせる。

 元老院の『御神楽 獅童(みかぐら しどう)』。

 自分の服装を曲げないのか、白衣にひび割れた眼鏡と異質な服装だがとても歪な魔力が獅童を包み込む。

 聖獣連盟からは『ミサマ』と『ロード』の二人。

 黒のフードを深く被り、素顔を見せない二人だが体つきから二人とも女性であることが分かる。

 そして――そんな者達よりも更に異質な魔力を漂わせ、気分が悪くなっていた者達を確実に恐怖の底に叩き落とす。


 『禁忌の聖騎士(ネオ・パラディン)』の五人の姿であった。


 「黒は…まで寝てるのか?」

 スーツ姿に腰に下げた『長剣』から禁じる魔力が計り知れない『ハート』

 「たく、識別魔力が魔物に変化した時はハラハラしたぜ。人騒がせな奴だ」

 ハートの後ろを歩きながら【炎神(イフリート)】の炎で巨大な荷物を運ぶ『アルフレッタ』

 「とか言いってるけど、滅茶苦茶心配してたよね? アルフレッタ」

 アルフレッタをおちょくる『紅』は、飴玉を何個も頬張る。

 「そんなに食べたら、身体に悪いですよ美月さん」

 普段通りの修道服の『笹草』

 「ケッ……生きてんのかよ黒の野郎」

 なぜかランドセルを背負っている『ヴォルティナ』に茜は首を傾げる。

 「何で小学生がここにいるの?」

 茜の疑問の答えは丁寧に答えるヴォルティナの表情は詳しく、アルフレッタがヴォルティナを押さえる。

 「何だ! 小学生が騎士じゃダメってかッ! そうだよ、()()()()()()()()()()()バカにされるんだよ、背伸びろよ! ――チクショウ…!」

 城の前で大いに騒ぐ禁忌に、渇の様なデカイ声が耳の中で響き渡る。


 「いつまで遊んどるッ! さっさと城にはいらんかァッ!」

 現世界評議会議長の『獅子都 藤十郎ししみやとうじゅうろう』が城の前で怒りを露にする。

 その横で苦笑いを浮かべる孫の『獅子都 紬(ししみや つむぎ)

 城内は豪華な装飾とシャンデリア、決め細かな高級絨毯が真っ先に目に入る。

 連盟や議会の要人達は華やかなドレスやスーツに彩られ、その者の品位が服にも現れていた。

 大勢の要人がいる中で、ある人物達が黒焔騎士団に設けられたスペースに近付いていた。


 「あれれ…もしかして、君が妹さんかな? 黒は来てないのか」

 碧が声の方を振り向くと、目の前には髪を後ろで束ねた髪型に白色のスーツに身を包んだ。

 聖獣連盟を支える重鎮の一人である『龍馬 一敬(りょうま かずひら)』が黒を探している際に妹の碧に声を掛けた。

 「成る程……あの人の事ですから、先日の一件で『わりぃ、疲れたから寝る』とか言って、来てないですよ」

 こちらも同じく聖獣連盟の重鎮である『巳様 楓季(みさま ふうき)』が龍馬と同様に今回の授与式に参加している黒を探しに来ていた。

 「えっと…すいません。兄さんは今回出席しないんです。先日の一件で負傷してしまいまして、信濃の地で療養中です」

 「アイツが、怪我したって事は……()絡みか」

 「それしか無いわよ」

 二人は黙り混みしばらく考え込むと、何かを決めたのか近くに待機していたメイドに言伝を頼んでいた。

 すると、数名のメイドが碧の前に集まると碧の前髪に金色の装飾が施された豪華な髪止めが付けられる。

 そして、それは巳様も付けている物と似ており、文句無しに価値のある物だと碧は理解した。


 「それは、通常の騎士が持つ『銅』『銀』『金』の懐中時計と同様に騎士の階級を物で識別する為の物だよ。でも…懐中時計と違って『女性は髪止め』『男性は腕輪』と種類が異なる。その訳としては――」

 「――判断される階級が性別によって異なる為に、勘違いするものが多い。……でしょ?」

 龍馬の説明に割って入るように、ハートが右手に身に付けた『銅』の腕輪を見せる。

 碧は自身の髪止めがハートの身に付けている腕輪よりも、階級が上なのではと思う。

 「でもね…この階級は『下級』と『上級』を見分ける為であって、色自体には意味はないんだ。あったとしても確か…魔力量だだで決められる筈だったかな?」

 ハートの説明に碧は更に頭が混乱する。

 なぜそんな者が自分に渡されるのか、自分は上級にすらなる資格すら持っていない。

 ただの『金騎士』であって、兄と同じ上級に近い騎士では無いと自覚していたのだ。

 碧が考えに耽っていると、ハートな優しく肩に触れ笑みを浮かべる。


 「―それでは、まもなく、新たな騎士の誕生を込めて、称号授与式を行いたいと思います。どうぞ皆様も彼らの勇姿をどうか見守って頂けますようにお願い致します――」

 式は滞りなく始まり、多くの騎士達が自信が所属する団長の手から称号保持者として認められる指輪を贈呈される。

 モニターに映し出された亡霊の金騎士が1名1名名を呼び、称号名とその戦績を発表する。

 綾見達の番に来る前に、既に綾見達以上の戦績を挙げているものや、新たな発見や論文の提出など『異形を倒した』だけの戦績ではなく様々な分野でも称号が授与されていた。

 「――続いて黒焔騎士団。授与者は前に」

 亡霊の前で片膝を突く綾見とロークの後ろ姿を見詰める黒焔団員達。

 亡霊の横に控えるのは、本来ならば団長である黒だが代理の碧。

 団の為に、碧は亡霊の隣で凛々しく前を向く。

 そして、亡霊が手に取った戦績情報が記載された書類に目を通す。


 「『黒焔騎士団』綾見 晃彦(あやみ てるひこ)並びに、ローク。二名の騎士に新たな称号を与える」

 多くの者達が亡霊と綾見達に目線が集中し、照明も二人に集まる。

 「汝ら二名の戦績は…世界に仇なす()()()()()()()。この戦績を我々は高く評価する」

 二人の戦績を評価されたが、戦績の発表と同時に辺りはざわめく。

 「戦績って…たったの1つ?」

 「たかが一撃って、誰でも出来るでしょ」

 「ニュースとかでも見てたけど、早々に戦いから退場してたきもするけど」

 「俺なんか2つの功績と4つの戦績なのに、称号無しだぜ? 新米に、それも1つの戦績で称号とかあり得ねぇ」

 「絶対裏がありますわ」

 様々な意見が飛び交い、会場の空気が一瞬で悪くなる。

 しかし、この『反逆者への一撃』と言う意味をその場にいる全員が理解していなかった。


 「おーい。今の二人の戦績に意義を申し立てる奴がいるなら、前に出ろ! 二人がなし得た戦績の『反逆者への一撃』っての実際に見せてやる」

 意義を申し立てる者達に声を張り上げたのは、アルフレッタであった。

 アルフレッタの言葉通りに、何十名もの騎士達がアルフレッタの前に集まりだす。

 「あ…あの…!」

 アルフレッタと騎士達を止めようと、綾見達の元から離れようとした碧を笹草と紅が止める。

 「碧ちゃんは見てなって、アルフレッタの気持ちもよく分かるよ」

 「そうですね。大きな功績も戦績も全て等しく亡霊の金騎士(彼ら)は評価し、それらを総合的に見た結果で称号授与が決まるんです」

 笹草と紅の言う事が理解できない碧はただアルフレッタの背中を見詰める。


 「よろしいですか? 亡霊よ」

 「――構わん。許可する」

 亡霊の許可を得たアルフレッタはその場の全員に「俺を反逆者と思え」と言い放ち全身に巡らせていた魔力を解除する。

 何十もの騎士がアルフレッタ目掛けて走り、各々の武器をアルフレッタの喉元に向ける。

 そして、アルフレッタが0だった魔力を一瞬で1まで高める。

 すると、辺りの騎士達は突然高まったアルフレッタの魔力に驚き武器を手から滑らせる。

 時間が立つに連れて高まる魔力に、騎士達は一歩一歩下がる。

 「コレが…二人の称号が授与された理由の一つだ。お前達が立ち向かわずして逃げた強敵に二人は単身で挑み、一撃を与えた」

 アルフレッタが魔力を解除し、騎士達に向けて叫ぶ。

 

 「――二人が行った戦績がいかに評価される物か分かったかッ! 現状は反逆者達が有利である。お前達下級金騎士と同等な者が大半の構成員であり、幹部クラスは団長以上の力を有している! つまり…彼ら二人はお前達以下の下級騎士であるのに関わらず、自らの命を捨てる覚悟で反逆者に立ち向かったのだ! 禁忌魔法の影響だと思うなら、死ぬ覚悟で会得して奴等に立ち向かってみろッ!」

 周囲の金騎士達全員が黙り混み、先ほどまでの威勢が消えていた。

 それを確認したアルフレッタは自身の席に着き、碧に向けて笑みを浮かべる。

 「では、二名の騎士に称号を…願わくば、この争いに結末を与えたまえ。汝らに『悪魔』の称号を―――ここにッ! 【双璧の悪魔】の誕生を祝そうではないか!」

 亡霊の声と共に、周囲から盛大な拍手が巻き起こる。

 「今日から君達は――【双璧】だ。これからも精進すると良い」

 亡霊はフラフラと身の丈以上に長いローブを揺れ動かしながら、城の奥へと消えていく。

 式の後には、新たな門出を祝してパーティーが開かれた。

 そして、碧の持つ端末に『黒が意識を覚ました。皆さんの元気な顔を見せてあげてください』っと付きっきりで看病してくれている笹草の団員から連絡がきた。

 急ぎ碧と茜は信濃へと向かい、残された黒焔団員達は称号授与をされた綾見とロークを囲み軽快に騒いでいた。

 すると、綾見達二人に近付く数名の騎士が居た。

 彼らも綾見達同様に、称号を授与された者達であった。


 「綾見晃彦だよな? それとロークだな。悪いが面貸して貰うぜ?」

 男の急な上から目線と付け足した様なロークの扱いに、ロークが睨みを効かせる。

 「そう睨むなよ、別に悪い話をしようって訳じゃねぇよ。しいて言うなら…良い話だ」

 男は近くにいたメイドからグラスを受け取り、手に持っていたワインを注ぐ。


 「俺の()()にならないか? 今の騎士団の地位じゃ…心もと無いだろ。俺達のような称号保持者は他の雑魚とは、()()()()だろ? 保持者だけの騎士団を作って世界に名を轟かせようぜ」

 男はワインをひとくちで飲み干し、綾見に手を伸ばす。

 だが、綾見は手を取る所かその素振りすら見せずに、テーブルに置かれた食事を楽しむ。

 「…おい、おい! 何…無視してんだよッ!」

 男が拳を振り上げるよりも先に、ロークの持っていた箸が男の眼球を死角である真下から静かに狙っていた。

 「あまり騒ぐな、上級騎士に見付かったら面倒だ。それに…俺達はお前らの下に着く気はねぇ。名を売るなら――()()()()()()()

 男は舌打ちをすると、他の数名を引き連れて他の授与者に声を掛ける。


「アイツは、欲望に忠実だな。出世欲が人よりも高く、人を動かす才能がある」

 綾見達の行動を見ていたアルフレッタと紅が綾見達に近付く。

 「アルフレッタさん。それに紅さんまで、他の方々は?」

 「あぁ…俺ら二人と違ってアイツらは人気何だよ。ハートは女性に人気で、笹草は男性に人気。ヴォルティナは一部の層に人気何だよ」

 そう言われると、ハートの回りには新米騎士や団長級の騎士達も集まっていた。

 そして、ある妙な事に気が付く。


 「禁忌って()()()()()()()()()()()()()()()? どう見ても、人気ある方だと思いますけど…」

 ロークの疑問に答えるように、アルフレッタがロークのローブを指差す。

 「こう言うのも何だけど…嫌われてるのは『黒』だけだ。お前らの団長だけが禁忌の中で一番忌み嫌われてんだ。まぁ…過去に色々有ったからな」

 紅も暗い表情で口の回りに着いたケチャップや汚れをフキンで拭き取る。

 禁忌内では嫌われておらず、逆に尊敬や信頼されている黒が他の騎士から見れば忌み嫌われている。

 2年間の事件が原因なのか、それ以上の原因があるのかさえも今の黒焔団員達には分からない事だった。

 数時間に及ぶ式とパーティーが終わりを迎え、皆各々の騎士団本部へと帰っていく。

 パーティーの間に綾見とロークを勧誘してきた男の元には、多くの称号保持者が集い。

 ゆくゆくは、巨大な騎士団ができるやも知れない。



 「私達は…信濃経由で、本部の大和に帰るってことですか?」

 「良いや、信濃に居る団長達はアリスさんの神器で大和に直接向かうらしいよ。だから、俺達はゲートで大和の首都に送られる手筈だ」

 新米騎士とベテラン騎士が帰りの準備をしつつ、帰りの帰宅方法を尋ねていた。

 新米騎士にとっては、憧れの存在や目指すべき目標の騎士を間近で見ただけでなく。

 何名かは、直接会って話をした者達もいる。

 目指すべき目標の騎士と会って話をし、より一層目標とすべき騎士の姿が明白になり。

 綾見とロークの称号授与だけでなく、新米騎士達の新たな門出を祝して今回のパーティーは開かれたのやもしれない。



 黒焔団員達が用意されたゲートを潜り抜け、大和の地に足をつける。

 しかし、ゲートが閉じてから2分が立ち、最初にゲートを潜った者達が動かない事に後ろの者達が気付く。

 「おめでとう、綾見さんロークさん。本当は式に主席して、パーティーにも主席した方が皆喜ぶと思ったけど……立場的にそうわ行かないんだ」

 身体の自由を封じられて、唯一動かせた首で自分達の頭上からあいさつする者を睨む。


 「お前…は……」

 三奈は全身に力を入れるが、他の団員達同様に身動きは取れない。

 「…()…でちか…」

 三奈は頭上からこちらを見下ろす実の弟の『風間 渚(ふうま なぎ)』を睨み付ける。

 「久しぶりだね、姉さん。どう? あれから僕も強くなったんだ。あぁ、でも……今回は二人の称号授与を祝いに来ただけだから、戦闘の意思はないよ」

 渚はそう言うと、自身を宙に浮かせた状態で空中に円を描く。

 描かれた円は空間に穴を開け、渚の身体を吸い込む。


 「じゃあね姉さん…次は、敵同士だ」

 空間へと消えていく渚の後ろ姿に、三奈は悔しそうに唇を噛み締める。




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