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難攻不落の黒竜帝  作者: 遊木昌
四章 焔の魔女と悪魔の瞳
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四章最終節 波乱の予感


 黒と翔の両者が戦いを始めてから2時間もの時が過ぎた頃、況に変化が訪れる。

 黒と翔の一個師団を率いる事が可能な団長クラスの二人が放つ異様なまでの質量をした魔法は、アリス達が懸命に貼った障壁魔法がなければ辺り一帯が吹き飛んでいてもおかしくはない。

 障壁魔法は二人が衝突する度に小刻みに震え、凄まじい程の魔力の雷や炎が障壁内を駆け巡る。


 徐々に激しさを増す、戦いに決着が着かないと団員達が思っていた。

 しかし、決着は早々に着く事となる。



 「【迅雷】ッ!」

 「――【黒切り】」

 黒が翔に狙いを定め真横に腕を振る。

 右手に凝縮させた黒の魔力は、まるで周囲に存在する色を呑み込む様な、異質なまでの真っ黒なオーラを纏った一閃が放たれる。

 放たれた一閃は飛ぶ斬撃となって、黒の立つ位置から正面にあるありとあらゆる物を呑み込み両断する。

 当然の如く、新米騎士が穴埋めとして使われた障壁魔法もその対象であった―――


 「――全員下がってろッ! 早くッ!」

 翔が声を挙げて障壁から団員達を下がらせる。

 しかし、その一瞬の油断により翔の左腕は吹き飛ばされ、地面に左腕でだった物が落ちる。

 生々しい血が腕から大量に流れ、翔は額を伝う汗の量が一気に増える。

 何とか止血しようと激痛に耐え、雷で傷口を焼き塞ぐ。

 『おいおい? 大丈夫なのか~…その傷1つで命取りになるなよ? 体はお前のでも、魔物である俺も一蓮托生なんだ。お前が死んだら、一体いつ目覚めれるか分かったもんじゃねえからな』

 翔は自身の中に宿す魔物の声に耳を傾ける。

 魔物の声を聴いて、思い出したかのように鼻で笑う。

 「全く。走馬灯みたいな物が見えて……昔の事を思い出したよ」

 『あぁ?』


 翔は両足で地面を踏み締め深呼吸を何度も繰り返し、体と精神をリラックスさせる。

 正面で対峙していた黒は、翔の元から素早く離れると裂けた障壁魔法の間を潜り抜けようとする。

 「――ッ! 黒が逃げるぞ、翔は何してるんだッ!?」

 アリスが裂け目から飛び出そうとする黒の足止めに向かう。

 だが、アリスの目に前に迫っていた黒の姿が一瞬で消え、真逆の障壁に黒が倒れているのが目視でようやく確認できた。

 「え…?」

 「今…何が?」

 団員達が黒が勝手に吹き飛んだ事に驚き、頭が理解できない。


 「皆さん、よく見ていてください」

 ロークの肩を借りてようやく立てるまで回復した大輝がある人物を見て微笑む。

 障壁魔法がそな者の魔力で軋み、亀裂が更に広がり後数分あれば障壁が完全に消えてしまうだろう。

 それでも、団員達はそのものの力を目の当たりにして障壁魔法を掛け直す事を忘れる。


 「――黒。待たせたな、コレでお前と()()()


 唐突な魔力の高ぶりを感じた黒は、顔を挙げて自分を呼ぶ翔の方を向く。

 だが、目に前に立っていたのはただの翔ではなく、全身に金色の鎧甲冑を着込んだが翔が立っている。

 黒は本能が危険と判断し翔から離れようと跳躍するが、金色の鎧甲冑からは想像出来ない光の速さで間合いを詰められた黒は驚き防御を忘れる。



 「【掌雷】ッ!」

 右腕を保護している籠手から先ほどまで翔が使っていた雷の量と質を上回る雷が籠手から放たれ、黒の脇腹を貫く。


 「ギィャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ――! 」


 おぞましい雄叫びと大量の血を吐き、その場で悶える黒に透かさず追い撃ちを掛ける。

 数多の落雷と光速で黒を翻弄する翔の姿は、『雷帝』と言われる由縁なのかもしれない。

 先ほどまでとは形勢は逆転し、優位だった黒が次第に潰れ始める。

 膝を折りその場に倒れ込んだ黒の意識は徐々に薄れていき、異質な魔力反応がキレイに消え、翔と黒の一騎討ちは翔の勝利となる。

 しかし、勝利し黒の体から異質な魔力が消えたとしても結果に反して損害が甚大であった。

 翔は左腕の肘から先を失い、会場からは暁や反逆者達の反応が黒の一件でいつの間にか消えており。

 避難が遅れた一般人からは、幸いにも死亡者は出なかったものの悲惨なものであった。


 その後駆け付けた聖獣連盟の部隊や世界評議会の上層部管轄の特殊な医療設備がある地域。

 『大和』から遠く離れた緑豊かな土地である『信濃』の地へと黒と翔は真っ先に送られる。

 その後、碧や茜達黒焔騎士団団員達もバーバラや大輝の軽い応急措置を終えてから向かった。



 ここ、信濃は他地域から『全薬地域』と言われる程に薬品になる薬草や体の細胞を増強する薬膳料理は、遠い地域から足を運ぶ者も多い。

 その全てに関係している物こそ、信濃でしか流れぬ『湧水』が存在しており。

 信濃の特産の薬草全てに例外なくこの湧水が使われ、その湧水は薬品独自の効能を飛躍的に高めており自然豊富な信濃地域の特色である。

 その恩恵を最大限活用する為に、信濃全域で特殊な医療系魔法が伝承されている。

 信濃に住む者達のほとんどが卓越した医療系魔法を得意とし、数々の名医が生まれた地域でもある。

 大型の飛行船から次々と降りる黒焔の団員達は、信濃の地域に足を踏み入れる。

 四方を巨大な山脈が囲い、様々な所に植えられて栽培されている花や薬草はどれも信濃でしか育たない高級薬草であった。

 民家の屋根の上や壁には、カーテンのように大きく育った薬草が巻き付いている家もある。

 評議会から送り込まれた評議員の1人に案内されるがまま、碧達はある屋敷に到着した。

 外からでも分かるほどに庭では多くの修道服の女性が薬品の調合を行っている。

 門を通り抜けた先に建てられている巨大な聖女を模した噴水を見て、茜はある人物を思い出す。



 「お早いご到着ですね。中で準備が出来てますので、バーバラさんと大輝さんはそちらに…もしも怪我をなさっている方がいれば遠慮無く声を掛けて下さい」

 修道服のお淑やかな風貌に艶かしい声は優艶なオーラを放ち、手入れが行き届いている黒髪は艶やかに輝く。

 絵画のモデルにさえなり得るほどの『美』を備えた女性の登場に、黒焔騎士団の男性団員達は固唾を飲む。

 絶世の美貌と包容力の塊のような天使のような笑み。


 『天使の聖女(リーテロシャルチ)』団長である笹草 姫(ささくさ ひめ)

 『聖女(ジャンヌダルク)』の称号保持者であり、禁忌の聖騎士(ネオパラディン)第六席の座に着く、禁忌内での医療系魔法の頂点とも言える存在である。

 ―――後に黒焔騎士団では、綾見の妹である玲奈派か姫派かの2つの派閥に分断される。

 とても、どうでも良い事だがこの一件以来、より一層黒焔団員同士での絆が深まった。


 団員達は講堂へと案内されていき、碧と茜の二人が姫の後をついて歩く。

 碧と茜の二人は、今歩いている修道院の通路が異様に狭く感じ、張り詰めた緊張からなのか額を伝う汗が増え始める。

 だが、それは緊張から来る物ではなく、笹草が放っている団長クラスの高濃度な魔力から来るものであった。

 より洗練された魔力は、戦いが始まる前から相手の戦意を確実に削る事が出来る。

 現に黒やその他団長クラスの者達は、間合いを詰める前に魔力を周囲に解放し威圧する。

 しかし、威圧する魔力は量や濃度で決まる訳ではない。

 その者の精神力から来る事が多く、過去の文献では『水の様に洗練された魔力で相手の心を破壊した。しかし、その魔力は子供のように少なく儚い物であった』っと記されている。

 騎士を目指す者達がまず始めに鍛えられるのが魔力の鍛練なのは、それ理由である。

 茜は姫が放つ魔力に当てられ体の感覚が麻痺していく、足はふらつきその場で倒れ掛ける。


 「おいおい…大丈夫か? 大分参ってたんじゃねぇのか」

 茜が自分の体を支えている者の顔を見ようと顔を上げ、その者の顔を見詰める。

 そして、その者の顔にあった最も特徴的なあるものに驚き思わずはね除けてしまう。

 「――ッ!」

 「おっ! たく……助けてやったのに礼も無しか? ますます主殿に似てきたな」

 見た目は着物に鋭く尖った犬歯に――()()()()()()()

 瞳は燃えるような真っ赤な色をしており、髪の毛も同様に真っ赤に染まっていた。

 過去に会った記憶は無いのに、どこかで見た事がある。

 碧が不思議そうに鬼の顔を見詰めていると、自分の足下に張り付くひんやりした物体に驚き変な悲鳴が通路に響く。

 碧と茜が顔を下にし、足に張り付いた物体を確かめる

 「この子達って…『ぼた餅』!?」

 「黒兄のぼた餅がこんなに一杯…どうして?」

 通路全体に張り付いているぼた餅の数に圧倒される碧と茜だが、その異常なまでのぼた餅の量に対して黒の魔力はんのうが一切感じない。

 二人は姫と鬼の男よりも先に、ぼた餅が出入りする一室の扉をゆっくりと開く。

 中には、ベッドで眠る黒と左腕を失った翔だけでなく、黒色のワンピース姿の少女が風船の様に膨らんだぼた餅に乗って宙を漂っていた。

 「むん…? 黒。客じゃ……早く挨拶じゃ」

 「いやいや…挨拶よりも、黒が起きないんじゃ話にならないぜ。黒竜ちゃん?」

 「むん? そうか、確かにそうだな雷帝よ。お前の言う通りじゃ…」

 翔は少女を『黒竜ちゃん』と呼び二人で愉快な話を始め、目の前の混乱ぷりに二人は思考が停止する。

 黒竜は指を鳴らすと、周辺のぼた餅が水のように形を変え風船状態のぼた餅に集まる。

 黒竜の青色の瞳が碧と茜を見詰めてくる。

 二人は背筋が妙に冷える様な感覚に驚き、その場から一歩下がる。

 それに気づいた黒竜は、二人に向けて指を指す。


 「――逃げるのは一向に構わぬ。しかしそれは、『一向に前に進めぬ』と言う事でもあるぞ。いつかその日を悔いるか……その下げた一歩を再度前に出す事で、自分の運命を切り開くか」

 円盤のように形を変えたぼた餅で仁王立ちをして、深く呼吸をし二人を見下ろす。


 「変革や改革は、全てお前達のその小さな一歩から始まる。下げるよりも前に踏み出す。そして―――()()()()()()()のじゃ!?」

 ドヤ顔で二人を再度見下ろす黒竜は、満足感に浸っているのか嬉しそうにそのま仁王立ちを続ける。

 ちなみに、黒竜の足下には『偉人達はその小さな一歩で、自分の未来を掴み獲っている』

 そこには、『鹿山 惣次(しかやま そうじ)』教授監修の『コレで誰でも偉人になれる』と言う本が置いてある。


 「まぁ…黒竜ちゃんはすぐ回りに影響されるから、このままにしといてあげてくれ」

 「むん? 何か失礼な事を言ったか?」

 碧と茜は未だに現状が理解できずにその場で固まっていると、笹草が二人の背中を軽く押す。

 「まずお二人にお話しなければならないことは、黒様についてでよろしいですか?」

 笹草の問いに碧は頷き茜も同じく頷くと、部屋の扉をノックする音が聞こえる。


 「入ってよろしいか?」

 その聞き覚えのある声に碧と茜は、驚き目を丸くする。

 まず目にはいる物は、とても立派な髭を持つ男『泉 川柳(いずみ せんりゅう)』が扉を開く。

 やれやれとため息をこぼし、孫である碧と茜の頭を軽く撫でる。

 そして、川柳の目線は未だに目を覚まさない一人の男に向けられる。

 「黒は、まだ起きぬか……」

 川柳の瞳は普段の様な暖かみはなく、冷めきった瞳をしていた。

 自身が掛けた制限を容易く外し、尚且つ2年前と同様に仲間を傷付ける結果になってしまった。

 自分がより強固な制限を掛ければ、もしくは確実に制限等無くし封印すれば良かったと心の底で思う。

 しかし、それでは意味がない。

 制限を掛ければ力は弱くなるが、確実に封印すればただの弱者となる。

 魔力が無ければ、この世界では生きていけない。



 「お爺様。あの時の兄さんに何があったのですか? 教え下さい!」

 碧は涙を浮かべ、川柳の袖を掴む。

 川柳は言葉を詰まらせながら、碧の手を優しく振りほどく。

 「……ならん! これ以上、孫達に危険な目には会って欲しくない。異形よりも強大な闇の中に身を投じて欲しくないだ!」

 川柳は拳を強く握り締め、碧の肩に優しく触れ碧を抱き締める。

 その姿はまるで、これ以上孫達が戦いに身を投じる事を恐れている祖父の姿であった。

 碧と茜の過去の記憶に刻まれているのは、常に冷静で強く。

 異形に屈しない、強くあり続けた祖父の姿であった。

 それが、意図も容易く崩壊するほどに、今回起きた黒の暴走事件は関係があるのだろうか。

 そして、碧はそれでも川柳から事の真実を問う。

 「お前は…知らなくて良いことだ……」

 川柳が部屋から出ようとするのを、碧は自分の魔物(ギフト)の魔力で強化した速度で川柳の前に現れる。

 本来の黒髪から青紫色の髪へと変化し、神々しい紫色の瞳を輝かせた碧の姿に川柳はその場にあった椅子にゆっくりと座る。

 「……分かった。黒に起きたいわゆる暴走の原因について教えよう」

 川柳は一呼吸置いて、今まで妹達に隠し通してきた黒の封印について話す。

 



 まず、川柳は黒が2年前に封印される事となった原因である『魔物』の力に付いて語る。

 本来魔物の力は、宿主である者の精神の状態で覚醒する場合がある。

 竜人族は魔物の力に産まれながら覚醒している事が多く、碧達も例外ではない。

 その為か、五歳頃には魔法の基礎的な部分は感覚で身に付いてしまう。

 『どうすれば魔法の威力を強めれる』『どうすれば魔物の力を効率良く発揮出来るか』

 橘家は竜人族の中でも、魔に精通している家系であった為、魔物に関する資料が多く。

 字の読み書きすら知らない黒は、黒竜を通して魔法を操り遊ぶようになった。

 他の子供よりも何倍もの魔力操作や濃度か高く、魔物の力を操るのも回りの子達よりも、数十倍も優れていた。

 そして、黒は『庭園(エデン)』に住む男との出会いによって黒は魔法の他に本格的な魔物の使い方を『魔術王』から教わり。

 更に『魔』に対しての知識と力を得る。

 しかし、黒はその魔法や魔物の力を更に先を求めた事が過ちであった。

 いつしか黒は『黒竜帝』と称号を手にし、多くの騎士や民から帝王としての名が知れ渡る。


 「――黒は誰よりも力を求めた。大切な者を守る為に、自分が傷付く事を恐れて…そして、黒は()()()()()()

 そう言って川柳の目付きが変わる。

 「もしも、あの場で黒を()()()()()()()()()……あんな事にはならなかった」

 川柳は拳を強く握り締め、怒りをどうにかして抑え込み碧と茜に質問する。

 「自分の魔物に限界まで魔力を巡らせてみたら、どうなると思う?」

 その答えは単純であり、二人が巡らせれた魔力は魔物に流れ逆に魔物の魔力が二人に帰って来る事で魔物の力を解放出来る。

 しかし、幾ら二人の巡らせる魔力が高くとも、魔物から帰ってくる魔力はほぼ一定のままであった。

 その理由として川柳が挙げたのが、魔物の段階的な力の制限であった。

 それは、『解禁』と呼ばれていた。


 解禁とは言わば魔物から送られてくる魔力の通り道にある網のようなものである。

 宿主の魔力はキメが細かく、解禁の網を易々と潜り抜けていき魔物へと魔力が供給される。

 しかし、魔物が流す魔力はキメが荒く網に引っ掛かりやすく網を通る度に供給される魔力が少なくなっていくのであった。

 通常の『第一解禁』では、魔物の力を解放する事を意味する。

 第二解禁以降は、網を取り払い魔力量を増やす事で魔物の力を本来の状態へと近付ける。

 だが、解禁とは『リミッター』と同じものであり、体に備わっているリミッターは体を守る為に存在する。

 身体がその解禁に耐えれる体をしていなければ、当然耐えれるものではない。

 黒は力を求め過ぎた結果――十五個存在する解禁の全てを()()()()()の内に外し本来の魔物としての力を得てしまう。

 ()()()()()()()、本来の魔物の力を手にした黒は一夜にして都を火の海へと様変わりさせ。

 川柳と竜玄が都に着いた際には、既に手遅れであった。


 「解禁とは本来、幾度の死闘や長い年月を掛けて会得する。『魔物』の頂点であり『魔の極み』。それを未熟者が使えば、当然耐えれる訳もなく魔物の力に振り回される」

 川柳は笹草が淹れたお茶を片手に話を続ける。

 「魔物の力は、凄まじいが扱いを間違えれば……お前達も黒と同じようになる。黒の解禁を封じたのは、2年前に一度魔物と自分の垣根が壊れている状態で、暁や他の者達の影響で再度『十五解禁』と同等の力を無意識の内に使う可能性があったからだ。無論……今回のケースは想定していなかった」

 川柳は笹草や翔の方に体を向け、深々と頭を下げる。


 「孫の暴走は、孫の責任だ。そして、私達親の責任でもある。誠に…申し訳ない」

 翔や笹草に下げられる頭に、翔は苛立ちを隠せずにいた。

 歯を食い縛り、震える拳強く握り締める。

 「何が、自分らの責任だよ……」

 「…富士宮さん?」

 笹草が翔の肩にそっと手を置くと、翔は川柳の胸ぐらを掴み普段の感じからは全く想像出来ないほどの剣幕で川柳に迫る。


 「…何が自分の責任だ。まだお前らは黒を苦しめるのかッ! ……黒は悪くねぇ何だよ…何も悪くない。…本来黒を止める役目だった…俺達『抑制監視者(ストッパー)』の責任だ」

 川柳の胸ぐらから翔の手がゆっくりと離れ、翔は以前として静かに眠る黒の隣に立つ。

 「お前は悪くねぇ…止める役目だった俺達がお前を止めずに、お前の心に傷を負わせた。全部俺の責任だ」

 翔はゆっくりと近くの椅子に座り、自分の雷で焼き塞いだ左腕に優しく触れる。

 「君達が気に病むことではない。孫に力の使い方を教えなかった私達も原因の1つなのだ。それを君達が孫を止めれなかった事が原因ではない」

 川柳はそれだけ伝えると部屋から出ていく。

 碧と茜は、自分の兄がどのようにして暴走の原因である魔物の力が手に入れ、その絶大な力がどれ程危険な物なのかを再認識する。

 「じゃあ…兄さんは、あの場で反逆者である暁に封印を外すほどの怒りを露にしたのですか? それなら、星零での戦闘でも、もっと暴走してもおかしくなかったのでは? 星零の時よりも、数倍危険な香りがしました」

 そんな碧の疑問に意外な人物が答えた。



 「その疑問の答えは単純じゃ。――第3者の介入があったからじゃ」

 少女姿の黒竜が碧の前に一歩前に出て答える。

 その姿は少女であるものの、碧の体が黒竜を遠ざけようと動いてしまう。

 「『鬼極(きごく)』お前も感じたろ? 黒が力に飲み込まれる瞬間に…」

 「あぁ確かにな。主殿の体に纏まり付いて、儂らの声を遮った奴がいたからなぁ」

 部屋の扉近くで寄り掛かっていた鬼の男は『鬼極』と呼ばれており、その名に思い当たる節がある茜は黒竜と鬼極を何度も見比べる。

 「何で…二体とも姿を変えているの? この小さな女の子が確か…『黒竜』でこの和服男が『鬼極』!?」

 「むん…我が女の姿なのは、魔力の節約だな。顕現するとなるとその体積分の魔力を消費する。女なのは、男よりも魔力が少なく済むからだ」

 黒竜はぼた餅を操り、遊ぶようにコロコロとぼた餅の体を操る。

 様々な形に変形するぼた餅は、黒竜と瓜二つの姿にまで変形する。

 「それに、空気中に存在する魔力を使えば、ぼた餅ぐらいなら数千は出せるな」

 しかし、茜の疑問は解決していなかった。

 「二人とも、黒兄の体から顕現してるの? それとも……」

 黒竜と鬼極は互いに向かい合いってから、黒竜が口を開く。

 「端から見れば、顕現しているように見える。だが…本当は魂と肉体が二つに別れている」

 黒竜は紙とペンを用いて、茜達に絵も交えて詳しく説明する。

 その内容は至ってシンプルであり、難題であった。


 「…つまり、兄さんの精神が二人の力を拒んだ。言わば魔物に対しての拒絶反応ですか?」

 「むん…大体合ってるな。黒が目を覚まさない理由としても、我々が宿主である黒の魔力を消費しなずに顕現している事もそれが原因だろう」

 黒竜は宙でゆらゆらと浮遊し、黒の額を叩く。

 鬼極も椅子に座り鳥達のさえずりが穏やかな気持ちに変える外の景色を眺めている。

 しかし、いつまでも黒が起きないとなると―――問題が生じる。



 「じゃあ……()()()()()()()()()()()()。誰が『団長』として出席するの?」

 茜は一時的とは言え、黒焔騎士団の団長になっていた碧と思っていたが、後に評議会や連盟からの通達で『正式な書面での申請が無い状態での、団内の内訳は公認出来ない』との事。

 碧や黒焔が『碧は団長だ』と言っていても、公認されていない者が団長になることは出来ず。

 必然的に黒が今まで通りの団長として、黒焔を率いなければならない。

 世界各地の代表格である騎士や連盟の重鎮や役人が一斉に集い。

 新たな称号保持者を発表する『称号授与式』は団長として、出席しないわけには行かない。


 ましてや、『精神が不安定になって眠っている為、出席出来ない』等と黒と同等かそれ以上の役職の者達の前で言える訳がない。

 途方に暮れている碧と茜に、黒竜がドヤ顔で自分を指差す。



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