四章二十五節 我が身1つの刃となれ…
何本もの落雷が浜辺を落ち、海は大荒れ、山の山肌は落雷で削り取られる。
逃げ惑う真光騎士団の団員達は、心の底から後悔した。
『大丈夫だよ。禁忌の聖騎士と言っても名ばかりの称号だよ。現に黒焔騎士団の団長である黒は力を極限まで抑えられている。…強さ的には他の騎士と同等かそれ以下かな? ま…何にせよ…今の禁忌は弱体化している空席を奪うなら今しかないんだよ?』
そう言っていた男は、私に全ての段取りを用意した。
最初に団長である黒が長期任務に付いた情報を情報屋から買い取り、黒焔騎士団を金銭的余裕を無くすように小細工を済ませ。
多くの騎士団に強力を募り『禁忌の一席を奪い取る!』何て、話では簡単な仕組みだったのに……何故こうなった。
ただ、そそのかされだけかもしれない。
それでも、私は男が提案した策に乗ることにした。
それが一番手っ取り早く、 出世出来ると思ったからだ。
妹の橘碧が団長を代わりに引き継ぎ、黒焔は徐々に力を強めようと動きだした。
本来の力を取り戻されると焦り、計画を前倒しにして黒焔との決闘で称号を奪い取る手筈だった。
それなのに、妹との碧はまるで兄の背中に隠れて本来の力を公しておらず。
力は未知数と判断させとき、いざ力を解放したら―――兄以上の魔物能力だった。
『魔物の力は、その主である。所有者に比例する』と聞いた事がある。
つまり、妹とは兄以上の魔物を所有しており、まだ力を解放仕切れていない。
もはや、負け戦所か戦いが成立しない。
「無理だ…無理だ……無理だァ!」
男は叫びながら、必死になって碧から逃げる。
しかし、雷魔法はこの世の魔法の中で最も最速の魔法。
強力魔法で底上げした身体能力。
ましてや、戦闘系の異族でもないただの人間が異族最強の竜人族で最速の魔法を体に纏った碧から逃げるなど奇跡が起きぬ限り不可能だ。
男は叫びながらも山道を走る。
男の背後からは、落雷と獣の姿をした電撃が男を狙い続ける。
巨大な岩石も巨木も谷底を流れる川でさえ、落雷1つで消し飛ぶ。
決闘を観戦したいる観客は、団長同士の一騎討ちに盛り上がっている。
だが、VIPエリアでは全く真逆の現象が起きていた。
『勝率はゼロだな』『勝ち目は無い』『コレは負け戦』などと散々妹達をバカにしたいた黒の予測が大ハズレ。
黒は床に倒れ込み無表情のまま、ぼた餅の胴体を突っつく。
「なかなかやるねぇ~黒焔騎士団。どっかの人は勝率ゼロとか言ってた割には良い試合だぞ?」
ヴァンシーがニヤニヤと黒の顔を覗き込もうと姿勢を低くする。
その後ろを眺めるラビットとバーバラはその場の雰囲気に微笑みながら、VIPのモニター越しに決闘を観戦する。
アリスはモニターではなく、ガラスから下で繰り広げられている碧と真光騎士団団長の戦いを見詰める。
しばらくして、寝そべっていた黒が跳ね上がるようにして起き上がる。
「……くそッ! 俺の計画では、ボロボロになって負けた黒焔に再度俺が舞い戻り。団長として威厳を見せ付けることで、団長の座に戻ると言う計画が……」
そして、また倒れ込む。
そんな黒にアリスは背中を優しく叩く。
「いつまでも、団長に背中に守られるだけの妹ちゃん達じゃないんだよ。今の黒焔騎士団はあの子達の物なんだから諦めたら?」
アリスと言葉に、黒は納得する。
祖母である千湖もアリスと同じような事を言っていた。
『妹達の力を甘く見るんじゃない。守って貰う程アイツら二人は弱くない』
そう言っていた千湖の言葉が未だ鮮明に頭の中に残っている。
「昔を引きずってるのは、おれだけなのかな……」
モニター越しに写る妹との奮闘した姿からは、昔のように自分が妹達を私利私欲にまみれた大人達から守る必要性は無いと訴えている様に見える。
VIPエリアで黒は昔の仲間達と現黒焔騎士団の勝利を願って応援する。
今の黒は自分が団長の座に戻る事など忘れ、純粋に妹達が勝つことを願っている。
「ハロー……黒ちゃん」
唐突な呼び掛けに黒は凍り付き、ゆっくりと振り向きながら背後に立つ者を睨み付ける。
「――何の用だ。暁」
「つれないなぁ……用なんて無くても、会いに来ちゃ駄目なの?」
黒はぼた餅を呼び出しぼた餅の中に収納していた黒幻を掴む。
しかし、自分の力に封印と制限が残る中で、暁と刃をまじえるのは無謀だと理解していた。
人数で埋める事すら叶わない程に大きく空いた溝には、黒の力の無さもあるが過去の過ちも原因の1つだ。
暁1人で黒達の前に立ちはだかる。
黒を含めて、アリスやバーバラ、ヴァンシーとラビットなどの名のある金騎士級の騎士達数十名を前にしても、暁は余裕な素振りでカウンター席に座る。
モニター越しから碧達の戦いを観戦しているのであれば、まだ良い。
少し観戦していき飽きたら帰る。
暁と言う男がそう簡単に帰る者であれば何も問題は無い。
黒達が全身に魔力を巡らせて警戒するなかでも、暁は鼻歌を口ずさむ。
見たところ目立った動きもなく、武器を隠し持っている感じも無い。
「……ラビット。俺は右をお前は左だ」
「私に命令するな。でも、……了解」
ヴァンシーとラビットが姿勢を低くくして黒達の間をすり抜け、左右から同時に暁の首を狙う。
「――よせッ! 二人共!」
一瞬の出来事にその場は凍り付く。
「――もしかして、僕に勝とうとか思ってる?」
黒の目の前で二人が力無く倒れる。
暁が纏った歪なまでの濃度と威圧を放つ魔力は、それなりの修羅場を潜り抜けてきた騎士達には分かる。
『勝てない相手。そまそも、戦いが成立しない』
もしも、黒が封印される前の状態ならば可能性があったかもしれない。
ここに、禁忌の聖騎士の6人全員が居合わせたら、もしかしたら暁と同等と言えるのかもしれない。
現状は最悪、勝てる可能性は極めて低い。
それでも―――黒は黒幻を鞘から抜く。
「お前を…ここで―――殺す!」
「良いよ。黒ちゃんに殺されるなら……」
黒に続くようにアリスやバーバラ達も続き、VIPエリアの壁が吹き飛び碧達が戦う舞台へと場所は移る。
暁と黒が衝突する数時間前、ハートの目の前には二人の若者が立っていた。
「言った筈だ。今の状態で決闘会場に行った所でお前達に勝ち目は無い。それに……黒はお前達を決闘に出させる気など元から無かったんだよ」
ハートは手に持っていた警棒の形をしたドライバで迫る綾見とロークの二人を軽くあしらう。
「ッ!……何で…俺らを試合に出さないって分かるんだよ?」
ロークは維持できなくなった獣魔法を右腕に集中させる。
「確かに…試合に出す気が無かったら、何で俺たちに強くなるように命令したんだ。黒は!?」
綾見は蒼焔をハートに向けて何度も放つが、ハートは焔を全て躱わす。
二人はハートが課した修業を全て終わらせ試合に望もうとしたが、それをハートが止める。
先ほどから誰かに連絡をしていた所から察するに、黒かそれに親しい者に連絡を入れていたのかもしれない。
二人は黒とハートが自分達を阻む理由が分からない。
「――どけ!」
「邪魔を……するな!」
二人が出せる全力の攻撃をハートは魔物の力を使わずにドライバで弾く。
一旦距離を取るがハートからすれば、未だに二人は自分の射程内。
ドライバなどの近接武器の範囲からは逃げたとしても、ハートの魔物からは逃げれてはいない。
「逃げるなら、もっと距離を取れよ? さもないと――魔物の射程内のお前らには、勝ち目は無い」
ハートの背から金色に輝く巨大な戦士が現れる。
目映い光を放つ金色の戦士は、長槍を構え綾見に向けて突き刺す。
槍を足場にロークがハートの目の前まで迫るが、魔物がロークを掴み壁に投げ付ける。
様々な角度や死角からハートに迫る二人だが、魔物の絶対的な防御に手も足もでない。
「諦めろ…。黒がお前らに求めたのは強くなる事であって、試合に勝つための戦力じゃない。バーバラがアルフレッタにお前ら二人を押し付けた辺りから妙だと思ったんだよ」
ハートはドライバを折り畳み腰にしまいこみ、再度魔物が金色の高濃度魔力を放ち、綾見とロークの動きを鈍らせる。
始めに比べて踏み込むの際に普段よりも力の入りが弱い、視界がぼやけやすくなった。
息切れが早く、意識が保てなくなってきた。
ハートとの修業で少しは濃度の急激な変化や高濃度での活動に慣れてきたが、ハートが放つ金色の魔力は他の魔力とは比べ物にならない。
「早々に諦めることが懸命だ。これ以上続けるなら、俺は手加減はしない」
静止を聞かずに二人はハートを倒すために、踏み込み少量の魔力で戦いを挑む。
『無謀を通り越して、単なるバカだ』
そう思い込み、少し力を抜いてハートは魔物を操る。
「引っ掛かったな。――ハート先生!」
ハートの立つ足場が一気に崩れ、不安定となった足場に注意が向き一瞬だけ隙が生じる。
そこを待っていたとばかりに、ロークの拳がハートを狙う。
「――ッ! 戦神…【戦神の重鎧】!」
ハートは戦神の体全体に自身の魔力と魔物の魔力で形成させた重鎧を身に纏わせ、獣魔法で通常の強力魔法の何千倍にも強力されたロークの拳を戦神が鎧で受け止める。
地面は捲れ上がり、壁際に押し飛ばされたハートが勢いを殺すため壁に向けてわざと向きを変え、魔物の体を打ち付ける。
壁は大爆発が起きたと言って良いほどに飛散し、その余波が収まるまで辺りに被害をもたらした。
「蒼焔魔法【メライガ】」
焔の弾がハートの四方を囲み、ハートが気付いた時には綾見が指を鳴らしていた。
重鎧に身を包んでいた戦神の動きを封じ、蒼焔の暑さでハートの体力を削る作戦に綾見は出る。
案の定、重く厚い鎧に身を包んでいた戦神は動きが遅く防御力がある状態だと言う事が分かる。
焔の激しさは更に増していき、ハートが気付いた時には足場の岩が溶け始めていた。
「――くそッ! 【戦神の馬鎧】」
焔の中が金色の光に呑み込まれると焔を消し去る、魔物の姿があった。
先ほどの戦神とは全く別陣のような容姿に、綾見とロークは警戒する。
魔物の体は巨大な体躯に鎧を身に纏った姿から、一回り小さくなった容姿の戦神。
変わった所は容姿だけではなく、空を翔る馬に股がった騎士の様な姿をしていた。
「へぇー、鎧の次は馬か…見た感じで分かる。先よりも鎧は薄くなったが、その分馬での機動力が上がった」
綾見は焔を足に纏わせて、ロークの元に素早く移動する。
「ローク…見て分かる通り、ハート先生は速度が格段に変わってる。目を離すなよ?」
「誰に向かって言ってる? 【幻獣】は獣の魔法だ。草食の馬に肉食の獣様が負けるかよッ!」
ロークは獣の跳躍と恐るべき嗅覚で、辺りを走り回るハートの匂いを嗅ぎ付ける。
戦神の持つ槍の矛先とロークの拳がぶつかり、辺りを凄まじい衝撃が襲う。
あまりの衝撃に身を屈める綾見。
両者は既に、一般人が目で追えない速度で戦いを繰り広げている為に綾見の入り込む隙が全く無い。
「化け物かよ…二人とも」
綾見はどうにかして二人の間に入り、ハートに一発叩き込もうと辺りを見回す。
すると、ハートの上着と一緒に置かれていた端末から一本のメールが送られてきていた。
液晶に表示された内容に、綾見は顔色を変える。
「……行かなきゃ……行けない!」
端末を握り締めて綾見は崩れた壁を飛び越えようとしたが、真横から現れた人影によって阻まれる。
「この程度の攻撃も避ける事すら出来ない奴が…暁に勝てるとでも? いや……暁が率いている部下にでさえも足下に及ばない」
綾見の前に立ちはだかるのは、ミシェーレ・オンズマンだった。
砂鉄を操り、壁を補強する。
ミシェーレの目は二人を治療していた時とは違く、黒と似た強者の目をしていた。
綾見の背後からはボロボロに倒れたロークが倒れる。
「観念しろ。お前ら二人がやる気になってでしゃばってると、黒の計画に支障が出る」
「あッ……ハート君、端末見てみな。ここは私に任せて行ってきな」
ハートが端末に目を落とし、表情を変え険しい顔になるがそれ以上に未だに立ち上がろうとする綾見とロークの姿に驚きを隠せずにいた。
「……ハート先生は…黒焔じゃ無いでしょ?」
「黒焔に、喧嘩を売ったのは………暁何だろ? 黒焔を敵に回したんだったら、黒焔の団員でケリを付けるのが筋でしょ?」
既に満身創痍の二人からとてつもない魔力が迸る。
ミシェーレは体が揺れている違和感に気付き、それが自分が綾見達に恐怖している事に驚き、その場でしりもちをつく。
「――ッ! まさか、黒がコイツらを試合に出さない理由はコレかよ。全く……損な役回りだよ」
まるで二つの巨大な嵐の中に単身挑む事になると思うと涙が止まらない。
そんな少し弱気なハートは、隣で頭が追い付いて来ていないミシェーレの肩を掴み無理矢理立たせる。
「お前は逃げろ。ここに居たら巻き込まれるぞ? 居ても構わないが……脱臼で済むかは保証出来ないぞ?」
「フッ……脱臼は確実なのか――」
ミシェーレは壁に回していた砂鉄をかき集め、巨大な竜の姿に変形させる。
ハートは魔物の力を解き放ち、全身に魔力を限界まで巡らせる。
「行くぞ! ―――番犬共ッ!!」
ハートの雄叫びが開戦の火蓋を切る。
二人が目を覚ますと、真っ白い巨大な空間は所々にヒビが入り崩れかけていた。
「やっとだな……綾見」
「あぁ…そうだな。やっとだ……」
ボロボロになった服は、それまでの修練の過酷さを物語っていた。
そして、端から見れば以前と何も変わらない二人の魔力量と濃度に強さを感じない。
しかし、ハートに呼ばれ駆け付けてきた団員達にはハッキリと理解できていた。
つい先日、ハートの騎士団『黒き戦神』に来たばかりの二人とは何もかもが全く違っていた。
二人の内に眠る底知れない力は、その場に居合わせた団員達に恐怖を覚えさせた。
そして、壁にもたれ掛かる自分達の団長であるハート姿に驚愕を露にする。
医療箱を抱き抱えた団員が駆け寄り、ハートの治療を行う。
「俺らの騎士団長に手を出して、簡単に逃げれると思うなよ。……覚悟は出来てるよな? 黒焔の犬」
右頬にある火傷の跡が印象的な男が、腰の鞘から長剣を取りだし構える。
全身に魔力を巡らせ、鬼のような形相から放たれた斬撃はひび割れた壁を切り崩す。
「…お前ら……よせ……」
掠れた声でハートが声を発する。
「ッ! ――団長!」
「喋らないで下さい! 傷が開きます!」
ハートの元に集まる団員達をよそに、ハートと綾見は崩れて空いた隙間から外に出ていく。
「お世話になりました。――ハート先生」
綾見は後ろへと振り返りハートに向けて頭を下げる。
「会場に行くぞ、相棒。――黒焔を敵に回した事を後悔させてやる!」
確かな足取りで二人が向かう先は、巨大な模擬戦闘を可能にする演習施設。
『第2演習海技場』であった。
「おーい……ミシェーレ…生きてるか?」
ハートは治療を受ける最中で、先ほどまで近くに居たミシェーレに生存しているかを確かめる。
「はいはーい。いきてまーす、ハート君よりかわ軽症だよ。……脱臼はしたけど」
脱臼した左肩の治療を受けているミシェーレはぐったりとして治療魔法を掛けている女性団員の肩にもたれ掛かる。
ハートの体には数ヶ所の爪痕が残っているが、一番見て分かりやすいのは壁に付けられた。
ハート達との戦いの激しさを物語る破壊の痕跡。
しかし、そのどれもが人の倍以上の大きさであった。
「一体…奴ら二人と戦った後にしては、傷が巨大過ぎる気がするのですが?」
団員の一人がハートに尋ねる。
「簡単な事だ。俺達――禁忌と呼称される程の力を持っている騎士団長には、ある役割がある」
ハートは団員に支えられながらゆっくりと起き上がり、手頃な石に腰を下ろし、話の続きを始める。
「―異形から民間人を守る事は騎士の務めだ。しかし、団長となり騎士団を率いる者達には、もう1つ守る物が与えられる。そして、それは世界のバランスを崩しかねない物なんだ。物って言っても……知識か」
そう言うと、ハートは魔物の呼び出し魔物の手に持っていた1枚の巻物を広げる。
「コレが…俺達団長だけに託された。封印対象の禁忌魔法だ。そして、黒はそれを綾見とハートに取得させた」
その言葉にその場に居合わせた団員達は驚く共に、隣の者同士で意見を交わす。
「と言うことは……黒焔騎士団は、禁忌を犯したのですか?」
「まてまて、そう結論を急ぐな。それに封印と言っても大それたものじゃない。魔法自体使う事は禁止されてないからな」
ハートは治療された体をほぐしつつ、ボロボロになった上着の替えを受けとる。
「では、禁忌魔法が封印された理由とは何なんですか?」
ハートの話に興味深々の団員達が何人も迫り、ハートに話の続きをせがむ。
「封印ってのは悪用されるのを防ぐ為であって、使う気になれば使ったって別に問題は無い。でも、黒焔の所有する禁忌魔法は、他の禁忌魔法とは比べ物にならないほど危険だ。他のだって十分危険だが――命を落とす程じゃない」
その発言に、数人の団員は背筋が凍り付く感覚に襲われる。
つい先ほどここを飛び出した二人。
綾見とロークが取得した禁忌魔法を使ったとするならば、二人は死ぬと知っていて会得したのか。
本来なら何日も掛けて進むべき道を、二人は跳躍して進んだ。
近場の木を足場に、大きな岩場を足場に――時には空気すらも足場にして会場へと向かう。
綾見が大切にしまっていたステラが書いた手紙が二人の速度に懐から落ちてしまう。
その内容は――――
『きっと二人の事だから強くなって帰ってくる、今の間までも十分強い。でも、人を辞めてまで強くなるかもしれない。だから、お願い』
「―――行くぞォ!! 相棒ッ!」
「覚悟できてんのか? ローク―――」
『―――試合には出ないで、これは黒先生だけじゃなく。黒焔全員の願いだから』
「「―――我らが主に宿りし【魔物】よ。我は『器』【汝】を宿し、代わりの『手足』となろう。そのために、我の『心』に問いかけよ! 【汝】らの『本能』のままにッ! ――【我が身1つの刃】となれッ!」」
綾見とロークが叫び、辺りの森林が突如として蒼色の焔に包まれ、地割れと共に大きな影が2つ現れる。
2つの影は、空気が泣いているかのような空気振動を引き起こすほどの咆哮を挙げ、辺りの林から動物がその場から逃げ出す。
 




