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難攻不落の黒竜帝  作者: 遊木昌
四章 焔の魔女と悪魔の瞳
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四章二十三節 ここから先は…


 ヘレナと殺女達は足下が不安定な山道を歩き、最短で三陣の一つである。

 山岳の陣に足を踏み入れる。

 まるで、山全体がヘレナ達黒焔に牙を向けているかのような崖の険しさ、道の不安定さ。

 陣を獲得するために、道を歩くだけで体力を根こそぎ奪われていく。

 現状はとても不利なうえ、自分達は相手の位置を把握していない。

 それどころか、相手の数など情報が一切無い。

 そこで、殺女が動く。

 「ヘレナさん……ここは、私が先に先行します。安全を確保したら合図を出すので、合図を確認したら来て下さい」

 「ちょ……待って!」


 しかし、ヘレナが止めるよりも先に殺女の背後に現れた男が殺女の背中を蹴り飛ばす。

 男は殺女を蹴り飛ばすと同時にヘレナの頭を掴み、周りの団員達の理解が追い付くよりも先にヘレナを崖下に向けて投げる。


 「任務……完了」

 そして、一瞬遅れて男に向けてドライバを構え、向かう団員達を1人残らず崖下へ突き落とす。

 突き落とされた団員達を眺めていると、男はニヤリと笑みを浮かべる。

 足下の岩を砕き山肌に亀裂を入れ、大量の土砂を崖下へと流す。

 「これで、黒焔の奴らが来る事は無いだろう……団長に報告しとけ……こちらは問題なしと」

 男がそう言うと、男の側に居た者達以外にも数十人の部下達が周辺からゾロゾロと現れる。

 その中でも、ずば抜けて雰囲気が違う女が

 「良いんですか? 殺しちゃってますけど」

 女は崖下を眺めようとしゃがみこみ、近くに落ちていた小石をヘレナ達が落ちていった崖下へ投げ込む。



 「――勝手に殺さないでくれますか?」


 突然背後から声が聞こえ、男は腰に携えていた剣を鞘から抜きさる。

 しかし、男の抜剣よりも速い速度で男の鳩尾に入り込む殺女の拳。

 「――な……何でよ! 何で、土砂に巻き込まれて死んでないのよ!」

 女が悲鳴にも似た声で殺女に問う。

 しかし、その答えは殺女ではなく別の者が答える。


 「答えは簡単…土砂諸とも凍らせれば、落ちては来ない」


 崖下から飛び上がって来たヘレナが、両手から氷の剣を造りだし敵の団員達目掛けて投げ付ける。

 女が崖下を恐る恐る見下ろすと、土砂は底まで広がっていた。

 だが、良く見ると土砂の下には何本もの氷の柱が建ち並び、土砂を凍らせて難を逃れた事を決定付けた。

 ヘレナの目にも止まらぬ速さで相手団員1人残らず、氷で拘束した手際の良さ。

 女は絶句し膝から崩れ落ちる。

 碧が提案し本陣の団員が考案した作戦、それは―――


 『考えうるありとあらゆる妨害行為に、対応する百の対応案』

 と言う物であり、当時作戦を通達されたヘレナ達は思わず笑ってしまった。

 それは、無理もない。


 「妨害行為に対処するために、百の対応策を講じましたので――今すぐ頭に入れてください」

 そんなことを唐突に言われ、頭に入れろと無茶をな事を言ってきたがそれに答えれる殺女達は化け物かもしれない。

 山岳の陣を奪取した殺女とヘレナ率いる部隊は、確保の合図として赤色の信号弾を上空に向けて放つ。

 真っ赤な閃光が空高らかに射ち上がり、数秒後に巨大な破裂音が周辺に轟く。


 「山岳の部隊から信号を確認。信号の色は『赤』――1つ目の陣を確保した模様です」

 本陣内では、歓喜のあまり隣で抱き合う者が現れたが、碧の一喝にその場は静まり返る。

 「たかが1陣で何ですか……我々の目標は相手の本陣です。『陣取り合戦』などと言う名目ですが、相手の頭を獲らなければ戦いに勝った事にはなりません! 急ぎ各陣の確保を急いで下さい!」


 「「「「――了解!」」」」

 碧は団長として、陣確保の報告が来ても浮かれずに戦況を見詰める。

 これから起こりうる最悪の状況を回避するために、戦況の更に先を見ようとする。




 「黒焔の新団長……。やるねぇ、俄然やる気が沸いて来たね。――だろ? 団長」

 「当然だ。コレ位で浮かれているような。程度が知れた騎士団なら、禁忌も名ばかりだ。そのまま足下から切り崩すぞ」

 男は側近の者達に次なる命令を告げる。

 敵部隊は各部隊の命令を通達され、各陣に向けて散らばっていた部隊は終結し、次の陣に向けて歩みを揃える。

 「このまま一気に潰せれば、上出来。潰せなくとも――こっちには切り札がある…」

 男はそう言うと、厳重に保管されたアタッシュケースから金色に輝く指輪を取り出す。

 男の中指には、金色に輝く指輪がはめられており、周囲の団員達は笑みでつり上がる頬を抑えきれずにいた。




 殺女達山岳の陣を奪取した勢いで、更に海上の陣を確保しようとバリッスとカホネが動く。

 海上の陣と言われれば、誰しもが海の上に陣となる土台が造られていると思う。

 しかし、実際は違っていた。

 『海上』と呼ぶには規格外過ぎるほどに予想を遥かに凌ぐ物だった。


 それは――巨大な()が海の上を優雅に漂っていた。


 「……マジか」

 当然の如くバリッス達は、その亀の大きさに立ち尽くしていた。

 だが、それも、自分達が見上げなければならないほどの高さまで昇っていく閃光が彼らの背を押す。


 「――全員気合い入れてくぞォ!」

 「お願いだから、バリッスはヘマしないでよね?」

 我先にと、バリッスとカホネの二人が亀の胴体を足場にし背中にある陣を目指す。

 数秒遅れて、他の団員達も二人の後を追うように背中を登る。

 バリッス達が亀の背中を登り終えた所で、カホネはある違和感に気が付く。

 「…これ……まさか!?」

 しかし、カホネが自分達の後に付いてくる団員を止めるより先に違和感が現実となる。




「対処確認……【巡リシ顎ノ双頭蛇トルロ・ネヤ・オグゾード】!」 

 いつの間にか海の上に立っていた男が、自身の魔物(ギフト)を呼び起こす。

 亀の直ぐ真横に現れた二つの首を持つ巨大な双頭蛇は、亀の体に食らい付き亀の動きを止める。

 そして、動きを止めた亀の背に大蛇は、巻き付き始める。


 カホネは愛刀の太刀で、巻き付いてくる大蛇の体を躱し、双頭の大蛇が繰り出す牙を弾く。

 バリッスも最初は驚きはしていたが、今は蛇の衝撃で気を失った団員を抱き抱えて衝撃に備えていた。

 辺りを見れば、他の団員達も各々の今取るべき行動をはっきりと認識し、行動に移していた。

 全長が見えないほどの大蛇の猛攻に亀は弱々しく吠え、ぐったりと蛇に身を任せる。

 亀の甲羅に亀裂が生じ、バキバキと亀の骨が徐々に砕け折れる音が聞こえて来る。

 亀の甲羅は長い年月掛けて生まれたのか、様々な植物が生えており、亀の背は小さな山と呼べるほどの物だった。

 たがしかし、それも、大蛇の大きな体に締め付けられ次第に亀の体は海の底に沈んで行く。



 「まさか、陣を確保出来ないと分った途端。――陣を潰すとはな…」

 バリッスは腰に備え付けていた折り畳み式の手斧型ドライバを構える。

 隣にいたカホネも太刀を上段に構え、男の出方を伺う。



 しかし、戦闘態勢を整えていたバリッスとカホネが反応出来ない速度で男は二人を蹴り飛ばす。

 カホネは何とか海の上に着地するが、バリッスは小さな手斧だけでは男の蹴りの衝撃を打ち消す事が出来ず。

 海の上を数度跳ねながら滑り、海中に叩き付けられる。

 何とかバリッスは海中から顔を出したが、男は隙だらけのバリッスを再度蹴り飛ばす。

 あまりの蹴りの威力に、辺りの水が一瞬浮き上がる。

 浮き上がったバリッスに目にも止まらぬ速さで打ち込まれる殴打のコンボ。

 もしも、バリッスのように鍛え抜かれた体ではなかったらと思うとゾッとするカホネ。

 殴打の連続にバリッスは一瞬の隙を見付け、男の腕を掴み真下の海へと投げ付ける。


 「……何十発も殴ったんだ。――利子付けて返してやるよ!」

 海面を思いっきり蹴り付け、男の正面まで距離を詰める。

 しかし、男が振り上げた左足が風を切るようにバリッスの首目掛けて降り下ろされる。

 巨大な水柱が生まれ、海水が空高く射ち上がる。

 男の周囲を囲んでいた黒焔の団員達は、バリッスの安否を心配する。


 「首は、貰ったぞ。良いよな?」

 男はそう言うと、静まり返った団員達から背を向けてその場を後にしようとする。

 だが、振り返った直後に現れた違和感に男は再度バリッスが居た場所を見詰める。


 だが、何も存在しない―――


 海面を見詰めても何1つ違和感は感じられなかった―――()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それに気付いた男は、海面から離れようと飛び退く。

 それを許さない、バリッスの左手は確実に男の右足を捕まえていた。


 「――よそ見は、感心しねぇな」

 バリッスの拳が男の左頬を捕らえ、軋むような音を立てて男の意識を奪い取る。

 バリッスの強烈な殴打に、男は体を捻りながら落下し海中に沈み。

 その直ぐ後に意識を失った状態で、浮かび上がった。


 「陣が無くなったけど…問題は無いのか?」

 試合のルール上問題無いのか不安になりつつも、カホネは信号弾を空へと打ち上げる。

 「――海上方面から、信号弾確認しました。これで残りは浜辺の陣のみとなりました。このまま本陣を狙いますか?」

 「焦りは禁物です。相手側が今のこの状況を狙っていたと言う事も考えれます」

 碧は地図を眺めつつ、団員達の指揮をとる。

 そして、()()()()()()()()()()()に気付くのが遅れる。

 「――ッ!? 」

 碧が殺気に気付き、『パイソン』の引き金を引くよ先に人影の攻撃が当然速かった。

 碧は鳩尾に肘打ちを食らい、テーブルを吹き飛ばし本陣のテントから投げ出される。

 一呼吸遅れて、団員達が背後に現れた人影に立ち向かうがまばたきと同時に本陣が吹き飛び、中央に立つ人影のみとなる。



 「ハロー……黒焔騎士団の皆さん、今日は良い天気だね。僕らの騎士団長が――真光騎士団(ザ・ナイト)禁忌の聖騎士(ネオ・パラディン)の一席を勝ち取る記念日だ!」

 男は喜びに震えながら、土と砂で汚れた碧の前に立つ。

 「どうしたの? 大事な騎士団の羽織が汚れちゃってるよ?」

 碧の羽織っていた羽織が土や砂で汚れていることを指摘すると、そのまま碧ごと羽織を踏みつける。


 「ッ…!」

 男は何度も何度も碧を踏みつけ、碧の背骨を軋む音が聞こえるまで体重を掛ける。

 「……ッ! ぐぅッ! あぁ――ッ!」

 軋む音が更に大きくなる。

 あまりの痛さに、碧の瞳から涙が滴り落ちる。

 「おいおいおいおい……おい! 何泣いてんだよ!? このぐらいで音を挙げてちゃ……団長失格だぜ? お嬢ちゃん!」


 男が振り上げた足を碧の頭目掛けて降り下ろす。

 次の瞬間、男の右肩に一本の矢が突き刺さる。

 男は一度その場から退くが、男を付け狙うかのように何本もの矢が男を狙う。

 そして、碧から大分離れた頃に碧の側へと近付く茜は急ぎ碧を安全な場所へと避難させる。

 「碧姉! 碧姉しっかりして、応急措置をお願い」

 茜は碧を医療班に任せ、1人男の元へと向かう。


 (ダメ…待って、茜……。1人で行っちゃ―――)

 掠れてしまった声は、茜の耳には届かずに大切な妹を1人残して意識を失った。


 「あれ…ダメ団長さんは? まさか、逃げた。だったら傑作だな!」


 次の瞬間、一瞬で間合いを詰めた茜の真紅に燃え盛る炎を纏った拳が、男の顔面を襲う。

 男は途切れる意識の中で、自分の顔から流れる出る血よりも真っ赤な炎が激痛と共に脳裏に刻み込まれる。


 『彼女が放った真紅の一撃は、並の威力ではない。真紅の炎は夕焼けように優しく、自分が流した流血よりも真紅に輝き、そして、心の奥底を貫く炎だった。あれこそが――竜の吐息が具現化したものかもしれない』

 茜の一撃を受けた男は、後に茜の真紅の炎を『竜の炎』と表し、黒焔の『焔』を表す一角と言われる事になる。


 そんな事が起こるとも知らない茜は、普段着ている白衣『この白衣は、私の――研究者としての誇り(プライド)だ』と言って大切にしていた、白衣をその場に脱ぎ捨てる。



 「ここから先は…白衣(プライド)は邪魔なだけだ」

 指の間接を鳴らしながら、意識を失った男を他の団員達に任せ。

 単身最後の陣に向けて歩みを進める。





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