四章十五節 過去の傷を乗り越えた先の力
紫陽竜が祖竜が放つ火球を紫雷で相殺し、徐々に距離を詰める。
『竜玄! 私を呼んで戦わせるのは一向に構わないが、私が自分の体を維持できるのも……精々2~3分が限界だ』
紫陽竜の青紫色の鱗が祖竜の炎に照らされて青色に輝き、祖竜の白銀色の鱗に紫色の爪が白銀の鱗を切り裂く。
現在の祖竜は覚醒状態が不完全であり、皇宮の天守閣から全体の約2割しか顕現出来ておらず。
空を自由に飛び回る紫陽竜に対して不利な状況であったのにも関わらず、紫陽竜の方が少し押されていた。
「紫陽竜! 俺の準備が終わるまでの時間稼ぎは出来そうか?」
『お前は私の話聞いてたか? 精々持って2分だって言ったでしょ! お前の準備が終わるまでの時間稼ぎとか無理だから!』
半ばキレ気味の紫陽竜は、口から雷を放ちながら祖竜の全体をぐるりと周りを回って、祖竜の体力を削る。
しかし、祖竜は竜系魔物の祖である。
並の攻撃などでは歯が立たない、ましてや1体の竜の力など底が知れている。
それを知ってもなお、紫陽竜は祖竜に立ち向かう。
祖竜を倒し、その宿主を助けた所で自分達には利益の無い不利益しかない事など承知の筈。
竜玄と言う男の考える事は、凡人所か天才でも分からないだろう。
「カナン! もう良い、戻れ」
竜玄が祖竜の正面に立ち、微笑みながら祖竜に向けて手を差し出す。
その動きに祖竜は一旦身動きを止め、竜玄に顔を近づける。
「もう、スッキリしたろ? 1人で悩む位なら、俺が相談に乗るからよ……な?」
祖竜へと優しく問い掛ける竜玄だが、祖竜の宿主が竜玄の存在に気付き手を伸ばそうとするが、祖竜が大きくのけ反り竜玄に向けて拳を叩き付ける。
それまで己の体を支えていた天守閣は崩れ、城下町に向かって逆さまに落ちていく。
『竜玄! 城下にでも降りられたら、私達でも被害を抑える事は難しいぞ! 宿主の子供も、体力が持たないし……どうするのよ!』
竜玄の表情が次第に険しくなり、額からは汗が滲む。
先ほどの様に遊び半分で事に当たれば、死傷者所か城下町がまるまる消える事もあり得る。
急ぎ崩れる天守閣を降り、祖竜を完全に止めなくてはならない。
1分1秒を争う事態になってしまった事に竜玄は、自分の甘さと未熟さに呆れていた。
「カナン。お前の力借りるぞ? 良いよ……なッ!」
『私らは協力関係なんだ、断る訳無いだろ。それにお前が死んだら、一体何年後に新しい宿主の所に覚醒するのか分からんしな』
竜玄は紫陽竜の力を解放し、その力を両腕に集中させる。
「カナン! 出力調整はお前に任せるから、さじ加減ミスるなよ」
『舐めるなよ、クソガキ! 自分の力をコントロール出来ないバカではない!』
カナンは竜玄がもうスピードで下る間に、城内に自身の魔力で再生した杭を所々に設置する。
『行くぞ、竜玄!』
「おう!」
落下する祖竜の背中に着地した竜玄は、祖竜に城内に差し込んだ杭と同じものを埋め込む。
「――カナン!」
竜玄が叫ぶと同時に杭と杭同士が引き合い、落下していた祖竜の体が上へと浮き上がり、そのまま天守閣に吸い寄せらる。
「このまま…彼女の魔物を押さえ込む。カナンも手伝ってくれよ?」
『仕方ない、宿主となってる子供を救うためだ』
竜玄は両足に魔力を巡らせたまま、瓦礫が今にも崩れそうな天守閣の壁を登る。
少女が目を覚ますと、隣では自分の手を握ったまま眠る父親がいた。
「とう……さま…?」
父親はその掠れるような声に気が付き、少女を抱き締める。
その直ぐ後に二時間に及ぶ、精密検査とカウンセリングが行われた。
カウンセリングが行われた事によって、母親を失った辛さや苦しさは多少なりとも軽減することは出来た。
しかし……今回の一件で心は壊れてしまった。
そのため、自身の中にいる魔物【祖竜】に恐怖を抱いき初め、夜眠る時やトイレですら1人では居れず。
付き添いが無くては魔物がいつ暴れるか別れない恐怖に病んでしまった。
自分の愛娘の恐怖心を和らげようと、多くの民や使用人達が皇女の身の回りに最新の注意を払い時間が解決してくれるのを待っていたが……結果は変わらない。
手の施しようが無いと悟った皇帝陛下は
「やれることはやりました。記憶をいじるのは、あまり好きじゃないんだよ」
「助かるよ……君の様な特殊な魔導師は私は知らないよ」
1人の男は颯爽と病室を抜け、闇へと身を投じる。
その後ろ姿を見詰めている皇帝は、自らの心に誓いを立てる。
『2度と娘に魔物を使わせない』
そして、そんな誓いも、既に意味を成していなかった―――
「――イャァァァァァァァァァァァァァァァァァッ……!」
庭園内に響き渡る悲鳴は空間を震わせ、太陽の日を射し込ませる天窓は声の影響により粉々に割れる。
庭園内の噴水は崩れ、近くの花が全て散る。
「くッ…! 耳が終わる……色々な意味で……」
黒は庭園からどうにか逃げ出そうとするが、皇女の魔物が目を覚まし。
黒を取り込み、過去のケースと同じように天守閣を突き破りその身を顕現させる。
しかし、庭園に透かさず到着した竜玄の封印魔法により、祖竜の力は一時的に抑え込む。
「直ぐに場所を変える! 手の空いてる者は、祖竜が暴れても大丈夫な場所まで運べ!」
竜玄の指示の下に皇女と、今にも破裂しそうな祖竜の魔力の塊は皇宮から遠く離れた。
大峡谷へと運ばれた。
「ところで、そなたらは兄の所に付いての行かなくて良かったのか? 妾が言うことでは無いが、そなたらの兄は大分危険な状態じゃぞ?」
ネセフが全くと言って良いほど兄の事を心配をしていない、二人に尋ねる。
ネセフが不思議がるのに対して、二人は満面の笑みで答える。
「「バカの心配してたら、体が持たなくなる」」
息があった二人の応答に、ネセフは「…そなたらの兄は、化け物か?」と心の中で呟く。
そんな二人の期待に反して、現在の黒は狭い庭園内で覚醒した祖竜の魔力に飲み込まれ、皇女同様に祖竜の体内で眠っていた。
魔物の魔力に飲み込まれる事など、そうそう無いことではあるが。
今目の前で実際に起きている事に、竜玄は頭を抱える。
「あてにしてた黒は全く魔法が使えないし、祖竜に飲み込まれるし……。ホント、面倒事を次々と増やすよな。あのバカ息子は」
祖竜が体を生成する直前に竜玄が魔力を封印魔法で抑え込んだため、祖竜は未だに体を取り戻す前。
巨大な魔力の塊の状態で、鼓動に似た動きを行ったまま徐々に封印を崩し始める。
「……陛下。皇女殿下の体を気遣って事にあたれと言うのでしたら。一度祖竜の封印を解除して、皇女と祖竜を一旦切り離す事が必要です」
竜玄は隣で車イスに乗った陛下へと目線だけ向けると、その拳は強く握り締められていた。
「……簡潔に述べよ。メリットとデメリットを」
陛下はそう尋ねる。
威厳を保とうと平然としているが、心の片隅では皇女の事を気にしているであろう。
皇帝陛下と言われてはいるが、皇帝である前に1人の父親。
愛娘の事を心配していない親などいる筈もない。
願わくば、竜玄の口からその言葉は聞きたくなかった。
「メリットは、安全に祖竜を封印できます。デメリットは……皇女の確実な死です」
拳を強く握りしめ、血が指から滴り落ち椅子を伝って地面に流れる。
「苦しい選択ですが、どうか決断なさッ……! この魔力反応は何だ!」
言葉を遮るように、竜玄は目の前で溢れんばかりの祖竜の魔力が不安定に形を変える。
竜玄が異変に気付き行動に移す前に、封印が解かれ祖竜の魔力が神々しい光と共に解放される。
「陛下を下がらせろ! 各兵士は祖竜の対処に…あた…れ?」
竜玄が兵士達に命令を出すより先に、目の前に立つ少女に驚き固まってしまった。
「竜玄様。そして、皆様にも……ご迷惑をお掛けしました。私はもう大丈夫です。祖竜の力を完璧に制御しています」
それを聞いた皇帝は、よろよろと車イスから立ち上がりゆっくりと皇女へと歩みを進める。
皇帝陛下の足は玉座に座っていた時には見えなかったが、その足は骨と皮だけであった。
竜人族の王としての姿は微塵も感じない。
しかし、王としての威厳は無くとも、1人の父親の姿があった。
「それで、お前は何をしてきたのかな?」
竜玄は重力魔法で空高くから落ちてくる黒を、地面スレスレで捕まえる。
「……ガチで死ぬかと思った。マジで…」
涙目の黒を歓喜に震える兵士が集まっていたその場から逃げるように場所を変える。
竜玄は黒を肩から下ろすと、事の経緯を尋ねる。
黒が祖竜の魔力に飲み込まれてからしばらくすると、黒は見慣れない草原で目覚めた。
周囲を見回してみるが、見渡す限りの大草原が広がっていた。
草原に吹き抜ける風は心地好く、体全体を包み込み体の芯から暖かくしてくれる。
しかし、黒はなぜ自分が草原に1人で居るのか全く理解できずにいた。
草原は広く、いくら進めども景色は当然変わらない。
「やんなるなー……。ここはどこで、何で俺がここに居るんだよ」
「――お答えしましょうか?」
突然背後から話し掛けられた事に驚き、黒は後ろに振り向く。
黒の疑問に答えるように姿を現した人影は、黒の知る人物とはガラリと変わった容姿の人物だった。
「皇女…様か? いや、まさかな」
「皇女で合ってますよ。橘様」
彼女の言う事を信じるならば、目の前に立っている彼女こそが皇女殿下その人。
しかし、今の黒の脳裏に浮かぶのは、皇女の体を模した祖竜だと言う可能性。
純白のワンピース1枚だけの服装に、腰まで伸びる長髪。
容姿は随分と変わっているが、彼女の内から感じる皇族独特なオーラ。
皇女と瓜二つな顔立ちは、皇女である事を裏付けている。
「お前が皇女だと言う可能性もあるかもしれない。だが、お前を信用できる可能性も無いだろ?」
黒は自分を皇女と名乗る女から距離を置くために、一歩下がろうとする。
しかし、黒は背後に感じる不思議な違和感を覚え立ち止まる。
「むん……下がるな。話が一向に進む気配がしない、それに黒が警戒するほどの事ではない。全て事実だ」
「なッ…! お前は、黒竜かッ?! でも、どうして?」
黒の疑問には黒竜も頭を抱え、どう説明するのが良いのか悩んでいた。
本来ならあり得ない事ではあるが、黒が自身に宿している魔物が黒の魔力で造り出した人型の入れ物に入った人型状態。
人型状態の【黒竜】が黒の目の前にぼた餅を抱き抱えた立っていてた。
「それほど驚くとは、反応が面白いな。お前は」
黒が驚いたのはこの草原に黒竜がいる事ではなく、黒竜が黒の魔力無しで実体を保っている事である。
本来の魔物保有者が魔物を実際に顕現させるには、膨大な魔力が必要である。
竜人族でなくとも、人種など全ての種族は魔物を宿しており、その魔物が覚醒することで魔物の力を使用する事が出来る。
魔物を顕現するには膨大な魔力が必須な事に対して、現在の黒は制限と封印の2度掛けによって。
黒が送る魔力と魔物が送る魔力に制限が掛けられている。
黒竜を顕現させるには大量の魔力を使う、黒竜のように巨大な体を造り出すのは不可能である。
それが例え、黒竜達が使える魔力の量を増やすために、体を黒が作った入れ物にいれた状態であってもそれなりに使う。
つまりは、黒に掛けられた封印が存在する内は黒竜を顕現させる事は出来ない。
そして、今の黒はトラウマが徐々に蘇り初め、黒幻を持った際のトラウマが原因で黒自身が魔物から送られる魔力の全てを塞き止めている。
それらの事を自覚している黒の目の前に、黒竜が立っている。
「黒。お前の疑問に1つ答えてやる、この私がな」
そう言うと、黒竜は抱き抱えていたぼた餅をソファーへと造り変える。
「その前に、少し寝させてくれ……久々の祖母の中じゃ。この暖かな魔力を堪能したい」
「あッ―! おい」
黒が呼び掛けるよりも先に、黒竜は寝息を立てて眠る。
呆れて溜め息を溢す黒の直ぐ真横に立つ、巨大な存在に黒は今さら気付き、跳び跳ねるように驚く。
「まぁ……女性が隣に来たのに、飛んで逃げるなんて。失礼にも程がありますよ? 我が孫【黒竜】の宿主よ」
まさに聳え立つ巨大な城。
全ての竜系魔物の祖と呼ばれる竜は、そのあまりの巨大さに『巨竜』と呼ばれている訳を黒は目の当たりにする。
本来の竜は最大でも45メートルの大きさが最大であった、平均にすると40が平均的な位であった。
しかし、祖竜となれば話は別であった。
大昔、皇宮内で祖竜の魔物を宿していた皇帝が、他惑星からの侵略者を退ける際に顕現させたと言う事例が残されていた。
その資料によれば、『陛下自らが顕現させた竜魔物【祖竜】の全長は50メートル。しかし、ご高齢であった陛下の魔力量などを考えると、本体の大きさは更に巨大である可能性アリ』
その資料に記載されていた全長よりも巨大な竜、城に例えるがその例えが合ってるのかすら分からない。
それほど竜の中では大きく、白銀色の鱗が草原を照らす太陽の光を更に反射して白銀色がより際立つ。
祖竜の瞳はまるで炎の様な真紅に輝き、その眼光は竜本来の獰猛さや凶暴さを表しているようにも見える。
「黒竜は寝てしまいましたか……。仕方ありませんね。貴方に尋ねたいのですが、私の姿を黒竜と同じ人型にしていただけませんか?」
祖竜が女性のような声で尋ねてくる。
「してやるもなにも、宿主があんたの仮の体を魔法で作らなきゃいけない。他人の魔物に魔力を送る方法何て知らんからな」
黒はそう言うと皇女の方へ振り向き、彼女の目の前まで歩み寄る。
「俺も、お前に簡単な造形魔法を教えることしか出来ない。後は自分で祖竜に作ってやりな」
そう言い、黒は皇女に造形魔法を教えると、程なくして祖竜の体が光の粒へ変わり。
人型へと変化した白髪の祖竜が姿を表す。
「皇女様……何で母親に似せなかったんだ?」
黒は率直に思った疑問を投げ掛ける。
当然その疑問を投げ掛けられると思っていた皇女は、はにかむように笑みを見せる。
「橘様のおっしゃる通り、お母様の容姿を模す事も考えました。でも、私にとってのお母様は亡くなったお母様ただ1人ですから。同じ顔を作ると言うのは、本当のお母様に失礼だと思ったんです」
黒は納得した答えを貰えたのか、何も言わずに皇女に背を向ける。
「この草原、風が気持ちいいし……涙なんて乾かしてくれるだろ」
「そう……ですね…」
彼女は必死に涙を拭う、昔とは違って既に自分は大人になったから大丈夫だと思っていても、母親の事をふと考えてしまうと涙が流れる。
「私…皇女としても、大人としてもまだまだですね! 頑張らないと」
「そうですね。でも、時には甘えてみても良いんですよ?」
優しく投げ掛ける祖竜に抱き付く皇女は溢れる涙を祖竜の胸の中で流す。
祖竜は涙を拭い終わった皇女の頭を優しく撫でる。
事の発端が、黒が何気なく尋ねた皇女が魔物を使えない原因が過去に起きた精神的なショックであると。
魔物の覚醒も暴走も宿主の心の強さ、精神的な面が大きく関係してくる。
しかし、今の皇女は祖竜を受け入れ、母親の事も乗り越えることが出来た今は魔物の力を完璧に使いこなすことが出来るであろう。
しかし、この場には魔物の力を使いこなすことが出来ない者が1人残っていた。
祖竜は未だにソファーで眠る黒竜の頬をつつき黒竜を深い眠りから起こす。
「黒竜、貴方の宿主が魔法を使えない原因。貴方なら知ってるでしょ?」
祖竜の問いに黒竜はすんなり頷き黒を見詰め、ソファーだったぼた餅を元の姿に戻し、黒の正面まで歩み寄る。
「…なんだよ。何か文句でもあるのか?」
黒の呼び掛けに応じることも無く、黒竜は黒に向けてぼた餅を投げる。
すると、ぼた餅が黒の目の前で弾け飛び、再度集まりだすと黒の神器【黒幻】へと姿を変える。
「……持ってみな。そうすれば、今一度答えが分かる」
黒竜の提案に乗るように、黒は黒幻を掴む。
「ぐッ……! がぁッ――!」
頭の奥底が焼けるように熱く、激痛が黒の頭から全身に駆け巡る。
「何だッ! ……これ?!」
見覚えの無い映像が頭に浮かぶ。
一本の巨大な木の前に、栗色の髪をした女性が自分の腕を掴み木の根本まで強引に引っ張る。
『黒ちゃん。また、ザザッに来れたね。前は騎士団の皆やハートとザザッが邪魔してきたけど、今度は誰ザザッも邪魔されないで来れたね フフッ……』
ノイズが混じった身に覚えの無い場所と光景に、頭を抱える。
自分を無理矢理連れ回す女性は自分が愛していた女性。
自分の命も引き換えにしても、守りたいただ1人の女性
そして……自分の手で殺めた最愛の女。
「ええっと…今何が起きてるんですか? 橘様は大丈夫何ですよね?!」
皇女の心配するのは誰が見ても、黒の変化に驚かない者はこの世を探しても数える位しかいない。
あわてふためく皇女を横目に黒竜は黒のは身に起きている変化とその原因について仮説を立てる。
「むん……。私が言う事は仮説なのだが、真実に『近い可能性が高い』と今確信した」
「その仮説って何ですか?」
皇女が黒竜に尋ねるために一歩前に出たその瞬間に、変貌した黒の刺突が皇女の直ぐ真横を通り抜ける。
「今の黒は2年前の、封印される以前の黒だ。最凶と言われていた頃の黒なら、この場にいる者で静めるのは…むん。――少し骨が折れるのぉ」
髪を逆立てさせ、全身に赤黒い魔力を纏った姿は竜と言うより化け物に近かった。
そして、そんな黒の頭の中では身に覚えの無い記憶が、消えては現れるのを繰り返していた。
『――誰か、俺のこの記憶は何なのか。…教えてくれ…』
記憶と言う闇の中へと黒は落ちていき、泡となり消える。




