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難攻不落の黒竜帝  作者: 遊木昌
四章 焔の魔女と悪魔の瞳
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四章十節 守りたい物のため、彼らは【力】を付ける


 『自分は、罪人である』綾見自身が口にしたその言葉はワヒートを驚かせるのには十分過ぎた。


 つい最近まで、世界を壊そうとした組織に人質に取られてしまった妹の安全と解放を条件に綾見は組織に加担する。

 妹の命を握られた状態であったため、命令を聞くしかなかったは言え。

 ロークの故郷を壊滅させた事やそこに住む数多くの人々を傷付けていた事に変わりない、とてもじゃないが許されることではない。

 どんなに罪滅ぼしをしたところで、ローク以外にも家族を殺され娘や息子、大切な人を組織に殺された者もいる。

 例えロークが綾見を許しても綾見自身がそれを許さない。


 直接人を殺めていなくとも、どこかで、誰にも知られずに間接的に綾見は人を傷付け殺めていたかも知らない。

 綾見はそんなことを常に考えてしまう。

 『どうすれば償えるのか』と……


 (俺は、どうすれば良い? この罪はどう償えば良いんだ……誰か…俺に教えてくれ……)


 ただ1人、何も見えない暗闇の中で答えを持っている誰かを待っていた。

 当然いくら待っても答えなど現れる筈もない、しかし、一筋の光が綾見を導いた。


 光が示すままに進むと、そこには黒がいた。

 黒に付き従う黒焔騎士団がそこには存在し、知らない内に綾見の横には妹の玲奈がいた。

 簡単だった…答えはそこにあった。

 いや……最初から存在していたけど、ただ気が付いていないフリをしていただけなのかも知れない。

 昔の自分と向き合うのが怖くて、その場から逃げてばかりいた。

 そんな俺に黒はチャンスをくれた上に罪を償える場所をくれた。

 だが、今回の星零が黒に頼んだ長期任務の影響により一時的ではあるが、黒は騎士団から離れた。

 黒焔騎士団の団長の不在の状態を建て直すために、不在となったいた団長の代理となって団長の席に付いた碧。

 しかし、それが原因で他騎士団から『役不足』『能力が名誉ある筈である席と釣り合わない』などと黒焔の地位が危ぶまれ、遂には舐められ始めるようになった。

 『禁忌』という名前を有しているだけでも、他騎士団からの嫌がらせが起きる毎日が黒焔を苦しめ、人知れず碧を傷付ける。

 圧倒的な力を有していた黒はその圧倒的と言われた力で他者を黙らせていたが、団長代理となった碧には自分達よりも格下と判断した他の団長達は碧を同じ土俵に立っていると端から思っていなかった。

碧は黒焔騎士団の人手不足を解消しようと、推薦以外の方法で人材を集める。


 そして、さらに黒焔を追い詰める事件がこの時既に起きていた。


 本来なら推薦や使命枠以外の方法での入団ならば、念入りな身辺調査や徹底した面接などで決められていた。


 しかし、碧は直ぐにでも黒焔を他の騎士団の急激な成長対応出来る騎士団にしよう、追い付こうと焦ってしまい、それを怠ってしまった。

 結果、黒焔を良しとしない他の騎士団に属する者が身元を偽造し入団していた事が発覚する。

 その者達は、根も葉もない噂をでっち上げたり、任務先でのトラブルなど色々な問題を起こし外と中から黒焔を壊しいた。

 その事が原因によって、いつしか黒焔には1つも任務依頼が来なくなり他の騎士団から回してもらう雑務しか無くなっていた。


 そして、根本から弱りきった黒焔を嘲笑うかの様に度重なる、他騎士団からの嫌がらせ。

 黒焔に優先して、雑務を回していた騎士団が揃って掌を返すように任務代と表して黒焔から金を要求する。

 次第に日を追う毎に、その金額は増えていき金銭的にも後に退けなくなっていた。


 碧は本来なら、早急に黒に報告するべきなのだがそれすら出来る状態ではなかった。

 日に日に悪化する騎士団の状況はとてもじゃないが、黒無しでは解決できない。

 しかし、そんな事をすれば、長期任務の妨げとなりその影響で任務事態が失敗する事もあり得る。


 『全ては、黒に頼りきりな団員達の力不足』…と思ってしまえば少しは楽になる。

 碧や茜達が何度も他騎士団に頭を下げ、時には人が寝静まった夜に泣いていた事も全て団員全員が知っていた。

 もしも、あの時あの場所で、綾見や他の団員達に力があれば団長達に掴み掛かる事や、止めには入ることも出来たかもしれない。

 1人で抱え込んでしまった碧の相談相手になれたかもしれない、団全体が強い意思で繋がっていたら……今とは違った結果になっていたかもしれない。


 「――だから、強くなるんだよ。誰かを守るために、俺を救ってくれた黒焔と言う『家族』を守るために」

 力強く握り締めた拳は硬く。

 そして、綾見の決意を象徴するかのように見えるその拳は、未知なる力が拳に流れるのをワヒートは感じた。


 「そう…何だ。綾見には、大切な人がいっぱいいるんだね。……羨ましいな…」

 暗い顔を見せるワヒートに対して、綾見は軽く頭を撫でる。

 優しく、撫でる掌はつい先程までの綾見の手より大きく見えた。

 唐突に頭を撫でられたワヒートは、頬を赤く染めつつも綾見に頭を触られている事に自然と笑みが溢れる。

 きっと、ワヒートが綾見を想うこの気持ちは成就しないだろう。


 ワヒートはそれでも良いと思っていた。


 『綾見と二人だけの短い時間』それは、ワヒートにとっての至福の時であり、欠けがえのない宝物なのであった。

 もしも、綾見がワヒートの気持ちに気が付いていたとしてもワヒートから綾見から距離を取らなければならない。

 それは、絶対にあってはならないのだから……



 「綾見さん。ワヒートさんも、少し待って下さいよ~……二人だけでバーバラさんのお店まで帰れますか?」

 いつの間にか綾見とワヒートは病院の敷地から出て大通りを進んでいた。

 ステラは病み上がりの綾見と帰り道の分からないワヒートが突然居なくなってしまい、辺りを探し回ったのか所々に汗が見える。

 そして、膝を突いて行きを切らしているステラの胸元がチラリと見え、綾見は目線を反らす。

 それを隣で見ていたワヒートがステラの胸を掴むと揉みしだく。

 「この胸が……綾見を誘惑するのか…」

 咄嗟な事に反応出来なかったステラは、慌ててワヒートの手を振り払い綾見を睨む。

 『コイツ…見たな!』と語っているステラの目に綾見は溜め息が溢れる。

 今の場合は仕方なくないかと心の中で嘆く綾見だが、ステラがワヒートに揉まれている時に胸を注視していたのは事実だ。

 3人の中でただ1人、ステラの胸を直に揉んだワヒートはステラの急激な変化に驚いていた。


 (遂に先日までは、それほど大きくなかった胸が大きくなっている……? それも、日に日に増してる。まさか、コレが…――第二次成長期!?)

 ステラの異常なまでの成長に驚きつつも、先程のステラの胸の感触を思い出す。





 綾見。ワヒート。ステラの3人がバーバラの経営するお店へと向かう。

 バーバラが経営するお店『楽園の都』は仕事の疲れや悩みを忘れる事や簡単には相談できない相談事なども、可愛らしいウェイトレスと客の愚痴に付き合うオカマと女性達の自然な接待に自然と溢れ、漏れてしまっていた。

 『楽園の都』はそのような訳アリな客や、日々の疲れを癒したい多様な客が集まっており、一重に楽園の都で働く職員達の力によって、今日も大繁盛であった。

 外から見れば大繁盛なのかは分からないが、ネオンで照らされた看板と店の横に建てられている巨大な鉞が特徴的な店は……一度見たら記憶からは当分離れられない。


 店の扉を開くと、ウェイトレス姿のロークが3人を迎える。


 「いらっしゃいませ。どうぞ今宵も、魅惑のレディー達に仕事の疲れを癒して貰って行って下さい。……んだよ」


 3人の目には、先日まで柄の悪い不良みたいな男がちょっとの時間で丸くなっていることに内心驚いていた。

 目に見えない不思議な力によって脅されて突然丸くなってしまったと言い張るステラに呆れたローク。

 ステラの間違った解釈に綾見とワヒートは自然と笑みが溢れる。


 「ちょっと~……ベリーちゃん? 何してるの?」

 「ファイッ!? ――直ぐに仕事に取り掛かります!」

 唐突に背筋を伸ばしたロークは、次々と店に訪れる男性客や女性客を空いてる席に通す。

 その姿を見ていた綾見の肩に一際大きな手が置かれ、恐る恐る振り向く綾見の目には、ムキムキのオカマが立っており、綾見を頭上から見下ろす。


 「退院おめでとう、綾見ちゃん。早速だけど……ステラちゃんと綾見ちゃんはお仕事入ってるからね」

 そのままステラと綾見を店の奥に引っ張って行くオカマに二人は理解できないとばかりに、周囲を見回す。

 綾見が店の正面扉の近くに立つロークと目が合う。


 その目は、どこか綾見を哀れんでいるようにも見えた。


 「あの…今から、俺達に任せる仕事って何ですか……?」

 オカマに恐る恐る尋ねた綾見に振り向くオカマの表情は何故か顔を赤らめて、頬に手を付ける。

 「もう……女子に言わせる気なの? ――ヘンタイさん」

 オカマの顔に綾見は命の危険を感じ行動に移すが、その時点では既に遅かった。

 抵抗を続ける綾見はオカマの丸太の様な強靭な二の腕に敵わずに、持ち上げられてしまう。

 どれ程綾見が腕を回し、体でもがいてもオカマには一切効かない所か、相手にならない。

 ここでも、自分の力の無さを実感する。



 「えーと……この服は?」

 現在綾見が着用している服装は先程のロークとはうって変わって、綾見の服装は執事服であった。

 スーツ全体が黒色で統一され、赤と黒の2色が合わさったネクタイ。

 胸ポケットから少し見える赤色のハンカチが特徴的な執事服であった。

 誰がどこからどう見ようとも『執事』にしか見えなかった。

 綾見が鏡を何度も覗き込んで顔や、体の至る所を触って確認するが綾見は少し不満げであった。


 「綾見ちゃん。どこか不満?」

 オカマの1人が尋ねると綾見は一度は考え込むが、直ぐに『いえ……大丈夫です』と力無く答える。

 「そう! それは、良かったわ」

 綾見は心の底ではロークの様なあまり目立たないウェイトレス姿が良かったが、試着室のカーテンを開け。

 『他のをお願いします』と言うことを予感していたのか、試着室の前には大勢の女性スタッフ(オカマも含む)が群がっており、とてもじゃないが断れる雰囲気ではなかった。


 しかし、一度店内で仕事をしてみると内心後悔し始める綾見である。

 女性客の視線が自分に集まってきて少し恥ずかしくなっていき、店内で働く女性スタッフの視線も集まっており。

 さらに恥ずかしくなってきたが………自分以上に恥ずかしい衣装のスタッフがいた。


 「あら! 可愛らしい子犬ちゃんだこと……んふふッ」

 「何で……私はこんなに恥ずかしい衣装何ですか!? コレじゃ…恥ずかしくて外にも出れませんよ……」

 「あら? その服で外に出ようと思ってたの?」

 「出ませんよ! 出たく無いですよ!!」

 ステラが着ている衣装は所々に肌が露出している犬のコスプレ衣装であった。

 子犬の耳飾りと小さくキュートな尻尾が時々左右に揺れ、両足を覆う犬の足を模した靴は歩く度に可愛らしい音が聞こえる。

 犬のコスプレならばまだ良いが、所々に肌が露出している服装は一部の男性に人気かもしれない。

 そのようなステラの衣装に、自分はまだマシだと思い胸を撫で下ろしていた綾見の頬に、ステラは怒りを込めた鉄拳で殴り倒す。


 その日の客足はいつも以上に多かった、そして、その大半が男性だったのは言うまでもない事である。

 『楽園の都にとっっっても美人で男の本能をくすぐる服装で接客する新人が最近働き始めた』と、直ぐ様各地の楽園常連客に情報が渡りステラ目当てに楽園に何度も訪れる男性客が急上中であった。

 そして、バーバラはステラの内に眠る男ウケする才能を密かに買い、今後の楽園での方向性を真剣に考え始める。


 ステラの人気が爆発し、連日多くのお客さんで賑わう楽園でちょっとした事件が起きた。


 「ちょっと!? 止めてください! 離して!!」

 未だに客足が止まらない中での事件。

 当然女性が男性に接客やちょっとした話の相手をしていれば、つい手が出てしまったりもする。

 しかし、欲望のままに手を出す困った客もいる。


 その男性客はチャイナドレス姿の女性の手を掴み、無理矢理キスをしようと迫って来ていた。

 「お客様、困ります。当店ではそのようなサービスは行っておりません……どうか、彼女の手を離して頂けませんでしょうか?」

 男性スタッフがお客さんに対して呼び掛けると……

 「うるせぇんだよぉ……!!」


 男性客はテーブルに置かれていた酒瓶を手に取り、ウェイトレスの頭目掛けて降り下ろす。

 頭に叩き付けられた酒瓶は盛大に割れ、ウェイトレスの頭に大量の酒がかかり床にも酒が飛び散る。

 その場に居合わせた客や女性スタッフの悲鳴が店内に響き渡り、店内は騒然とする。

 男性客は未だに酒が抜けず、酔ったまま女性の手をしっかりと握り再度詰め寄る。


 「お客様……店内で暴れるのでしたら、私共も手加減は出来ませんよ?」

 「――あ?」

 二人の間に割って入る綾見は男性客の手首を掴み、そのまま引き剥がすように手前に引く。

 透かさず男性客を女性から遠ざけると、男性客は咄嗟の綾見の動きに驚き店内から逃げようとする。

 その瞬間を見逃さなかったロークは、入り口の前に立ち男性客の逃げ道をなくし、威圧的な目で男性客を睨み付ける。

 正面のロークに後方の綾見、完全に逃げ場を失った男は手に持っていたカバンを脇に抱えると、ローク目掛けて飛び掛かる。

 ロークは右足を一歩後ろへ下がる、凄まじい速度で繰り出された蹴りは男性客を気絶させるには十分過ぎた。


 咄嗟な事にも対応出来る判断力と行動力にバーバラは「流石は、黒の抑制監視者を名乗るだけはある」と勝手に評価する。

 『友達』と言う関係の間柄だけでは、到底成し得ることの出来ない連携。

 当然そのような息の合った連携は、一朝一夕では造り出すことは不可能だ。


 黒が黒焔騎士団から一時的に離れても、異形達は関係なく時と場所を選ばず地球にやって来ては国や土地を破壊し、地球と言う星を手に入れようと現れる。

 当然、その戦いで命を落とす者も少なくない、「勝利には、必ずしも代償が必要になる。覚えとくと良い……」そのような事を口癖にしていた上官も、呆気なく異形の前に倒れる。


 『騎士』を名乗る者は、常に異形との激しい争を続けなければならない。

 強大な魔力や圧倒的な力を持った魔物有していようとも、命あるものはいつか必ず『死』に直面する。

 理解しても、どれ程鍛練しても、異形と人種の間には埋めることの出来ない絶対の溝が存在する。

 強力なドライバだろうが神器だろうが、その溝を少しでも埋めれたとしてもあまり、大差はない。




 どんなに力を付けても、強力なドライバを手に入れても……大型の【ヘカトンケイル】や甲殻型の【バジリスク】

 羽翼型の【ファルコン】や四足歩行型の【ウォーカー】


 例えハートや薫の様な上位聖騎士団団長でさえも、一体一体には苦戦しなずに戦えても、異形と人間達の埋まらない溝が地理のように積もり。

 異形と人との力の差が段々開けば、騎士団団長でさえも『死』が待っている。

 だからこそ、異形を倒すために別の惑星から来た異族『聖獣連盟』と『世界評議会』は手を組戦うのだ。


 そして、近年発見されたばかりの『人型異形種』名を改め……


 ――【ハンター】と名付けられた異形種は人の言葉を理解し、人のように考え動く。

 元々戦ってきた異形種は、本能のままに動きまわっていたため幾分か行動が読みやすかった。


 しかし、【ハンター】は別であった。

 渚が黒焔から突然と去った次の日に一斉に攻め込んできた、暁と錬金術師達。

 そこに現れたのが、錬金術師が作り出したと思われる【ハンター】達は強大な力でその場を赤く染め挙げる。

 暁を主と慕っていたと言う報告が上がり、騎士達同様に暁達異形側も徐々に力を付け始めていた。

 

 その情報を受けた碧は、茜と強力して新型ドライバの製造に取り掛かるなど、連盟や議会側も動き始めた頃合い。

 綾見とロークはある修業を始める。



 「後悔はするなよ? 二人とも」

 「「覚悟の上です!」」

 綾見とロークが手っ取り早く力を付けれる場所に出向き、修業を始める。

 『禁忌の聖騎士(ネオ・パラディン)

 第一席ハート・ルテナワークドの騎士団本部に来ていた。




 

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