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難攻不落の黒竜帝  作者: 遊木昌
四章 焔の魔女と悪魔の瞳
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四章八節 愚か過ぎる道化と1人の反逆者は幻想世界で踊り狂う


 様々な形に変形した月が幻想的な星空の海を漂っていた。

 青と藍色を貴重とした。

 まるで、絵画の世界に飛び込んだかのような世界では、シルクハットに奇抜な色で統一されたタキシードに身を包んだ。

 ピエロのようなマジシャンから綾見達は逃げていた。

 「―そっちじゃありませんよ。そっちそっち! コレは、傑作だ!」

 男が指を鳴らす度に、ヨーロッパ風の道路がその形を変え。

 巨大な迷路へと形を変える。

 そして、迷路へと誘導されたワヒートと綾見は自分達のすぐ後ろを付いて回る闇から必死に逃げているのであった。


 「――こっち!」

 震えるワヒートの手を掴み、綾見は迷路の中を走る。

 進むにつれて迷路の険しさはより一層増していくばかり、先ほどの男の影は見えなくなるが警戒を解くには、まず迷路を抜ける必要があった。

 しばらく走っていると、綾見より先に体力の限界に達したワヒートの足が縺れる。

 「ッ! ワヒッ――」

 「残念…――ここまで良く頑張りました」

 綾見の背後には、この世界に綾見達を引き込んだ張本人とおぼしき男の声がする。

 綾見の首に突き付けられたナイフが綾見の身動きを封じ、隣で息を切らすワヒートを見詰める男は頬を吊り上げる。


 「お名前は、ワヒートさん…で宜しいですね? こちらの青年……ワヒートさんのおツレさんを殺されたくなければ、()()()()()()()()()()()を教えて頂きたい」

 その要求に対して、口ごもるワヒートの額から汗が滴り落ちる。


 「なるほど。――1人分の命を天秤に掛けても、二人の関係はお話して頂けないと……」

 男は綾見に突き付けていたナイフを綾見の喉仏に突き刺そうと、ナイフを振り上げる。

 「――やッ…やめ…」

 「では、教えて頂けると……?」

 男は綾見を跪けさせて、再度綾見の首筋にナイフを突き付ける。

 男は綾見の頬をナイフで傷を付け、滴り落ちていく血をワヒートに見せる。

 「私は、本気ですよ。時間も限られてますので……()()()()()()()()()()()

 男は綾見の首を掻き切る。

 「――あ……あッあ……あぁ…!」

 首から血飛沫を上げて崩れ落ちる綾見を、ただ見詰める事しか出来なかったワヒートは力無くその場に崩れる。

 「おつれさん……死んじゃいましたよ?」


 「――黒には、1つ貸しかな?」

 「…何ですと?」

 男が聞き覚えのない声に反応する。


 「誰だ! この空間に入れるのは、私自身と私が引き釣り込んだ者だけの筈だ。出てこい! 正体を現しなさい!」

 男は袖から何本もナイフを取りだし、ありとあらゆる方向に向けて投げる。

 しかし、当然壁や地面にナイフは刺さるが、声の主には1本も掠りはしない。

 ただ、やみくもにナイフを飛ばしただけであった。


 「お願いだから、()()()()の邪魔をしないでくれるかな? ――愚か過ぎる道化(オーギャスト・ピエロ)

 道化の背後から現れた人影は、道化を背後から蹴り飛ばす。

 人影の蹴りの威力は凄まじく、道化を何枚もの壁を突き抜けさせた。

 それほど強力な蹴りにワヒートは、しばらくその場で固まっていた。

 「ワヒートちゃん。綾見君を起こさないと……ほらッ」

 男は綾見達に迫っていた闇の中から平然と歩み寄る。

 そして、綾見の首にそっと触れ、真紅に燃える炎が綾見を優しく包み込む。

 「彼らは、僕の計画の大事なキーだ。簡単に死んで貰っちゃ困る」

 男の炎が徐々に綾見の体内に入り込み自然と傷は癒えて行き、綾見はその後直ぐに意識を取り戻した。

 「俺は……確か…」

 辺りを見回して、起き上がろうとした綾見にワヒートは泣きながら抱き付く。

 「――良かったぁ、良かったよぉ……綾見が生きてるぅ」

 大粒の涙を流すワヒートに綾見は驚きつつも、ワヒートの頭を優しく撫でる。


 「うんうん。大切な人が生きてる事こそ、1番の幸せだな」

 男は背後から投擲されたナイフを人差し指で頭上に弾き、透かさず掴み道化に向けて投げ返す。

 「――チッ! 貴様…何者だ!」

 道化は肩に刺さったナイフを抜き取り、男に向けて再度投げる。

 男は投げられたナイフを炎で熱して溶かすと、その熱風で被っていた帽子が飛ぶ。

 「――ッ! お前は…」

 男の正体に綾見は驚愕を露にして、ワヒートと共に一歩下がる。

 「流石は、黒ちゃんの『抑制監視者(ストッパー)』だよ」

 帽子の取れた男の顔を綾見は睨み付け、地面に落ちていたナイフを手に取る。

 「うんうん。その警戒心と言い行動の速さは完璧だ」

 「近付くな! キサマは、世界を敵に回している人物だというなれば自覚はあるのか……()

 暁はその場でターンをして、その場の空間に切れ目を付ける。


 「君の命を助けた恩人に対して、少し失礼過ぎないか? 別に良いけど」

 暁が開いた裂け目からは、3人の男女が現れる。

 「丁度良いから、綾見君に教えて上げるよ。彼らの事を……」

 暁の背後には、ブェイとマギジの他に全身黒ずくめの男が立っていた。

 「僕の事を知ってる辺り、黒から説明ごあったとは思うけど……僕が()()()()()()()()()()()()()()。そして、彼らが僕の仲間であり。忠実な下僕達だ!」

 「下僕って……もっとマシな呼び方ねぇのかよ」

 暁の隣から現れたブェイは腕を組みつつ、ため息をこぼす。

 「下僕かー……何か面白いかも」

 なぜかウキウキしているマギジは、突然真横から投擲されたナイフをバク転で華麗に躱わすと、動きが固まった道化の顔を蹴り飛ばす。

 「――調子に乗んなよ? カスのクセに……」

 道化をゴミ以下の物として見る目には光は無く、表情から見てもマギジの見下した顔に綾見はマギジの本性を垣間見た気がした。

 マギジは直ぐ様、顔を変えて笑みを浮かべ、マギジは道化をカプセルに閉じ込め別空間に飛ばす。

 そして、暁の隙を突き暁の腕に自分の腕を絡ませる。

 「ちょっと…暑い…」

 「我慢してー」

 そんな二人を見ていたブェイは頭を悩ませるながらも、暁とマギジの間に入る男がいた。

 「二人共……イチャイチャするのは、ここを出てからにしてくれ」

 男はフードを取り、その顔を綾見に晒す。


 「あんたも……反逆者か」

 綾見は他の3人とは違って、自分に向ける殺気が本物のであることを直ぐに察知する。

 「なかなかやるな。他の奴らだったらこうは行かない、誇って良いぞ。――()()()()()()()()()

 男は綾見の正面に一歩で近付き、自分の手を綾見の首に巻き直ぐにでも綾見の息の根を止めれることを証明した。


 「銀隠……やめろ。彼も大事なキーだ」

 暁の発する異様なまでの殺気と押し潰さんとばかりな魔力に綾見と銀隠は後退る。

 「ハイハイ……分かりましたよ。頭」

 綾見の首から自分の手を離し、今度はさっきとは逆に一歩で自分の元いた位置へと戻る。

 「瀬戸峰 銀隠(せとみね ぎんえい)。すまないね、彼も君の事を評価しているんだ。悪い奴じゃないんだ」

 「なッ……!」

 銀隠は照れ隠しなのか、自分の周囲に竜巻を発生させてその場から逃げる。

 綾見は銀隠の照れ隠しに使用した魔法を見て驚くと同時に、暁の底知れない力に興味を抱く。


 「――駄目だよ。綾見を君自身に自覚がなくても、君は黒ちゃん側だ。そんな君が僕達の力に興味を抱いちゃだめだよ。確かに銀隠の持つ風魔法は、風魔法の上位版と言われる嵐魔法。ブェイだって周囲の魔力を吸えば、半永久的に戦えるチート野郎。マギジだって、二人に劣らず高い魔力制御と空間魔法の使い手で、体術だってそれなりに使える。綾見君からしてみれば、今のマギジにはボコボコにされるのがオチだ」

 一気に綾見の脳内に入り込んでくる敵の情報に綾見はさらに疑問を抱く。

 「何で、俺に情報を渡す。それを利用してお前らをにする事だって出来るんだぞ? そんな簡単な事も予想できなかったのか?」

 綾見は暁を脅すように言い放つが、暁は脅しには屈せずに綾見に歩み寄る。


 「君達…世界側がいくら足掻こうとも、僕達反逆者側が()()()()()()()()。何故なら、()()()()()()が付いてるからね」

 「冗談言うなよ。難攻不落――!?」

 黒と昔から面識のあるワヒートとは当然、地球で生まれ地球で育って十数年の月日が立っている綾見。

 綾見と同い年の子や、これから騎士を目指すと言った者達は知っていて当然。

 年輩の者や現役騎士の者達もその多くはその称号を耳にし、その称号保持者の姿をその目に写している程に有名な称号名だ。

 

 そして、その称号を有する者は、2年前の事件で死んでいるのであった。

 しかし、暁の先の発言からは難攻不落は今も生きており、現在は暁の計画の手助けをしているという事になる。

 綾見は真っ先に生存説を否定するが、現在も暁は世界全土から逃げ仰せている。

 難攻不落の後ろ盾があっての事なら、軍事機密の1つや2つは知っていてもおかしくはない。

 それほどに、軍から信頼を寄せていた人物である難攻不落を暁は自分の駒として持っている。

 生存説が嘘ではなかったら、当然暁が負けることは無い。


 「――未来様が生きてると言いたいのか?」

 綾見は暁を睨み尋ねるが、暁は綾見の額を小突き笑みを浮かべる。

 「君がこの答えを知るには早すぎる。だから、今は分からないままで僕の嘘に翻弄されるだけで良い…」

 小突かれた綾見その場に倒れると、隣にいたワヒートに支えられながら立ち上がる。

 「――くッ! 頭が…いてぇ…」

 頭を抱えながら綾見はワヒートの肩に捕まる。

 「君は黒の側に居れば良いだけだ。いつか答えを知ったら、また会おう。その時は――()()()()()()

 空間を引き裂き、綾見とワヒートを裂け目に突き落とす。


 「それじゃ、黒ちゃんによろしく。――悪魔君…」

 微笑む暁からは殺気所か二人の事を気にする感じもするが、今の綾見は朦朧とする意識の中で暁のいる場所を見上げる。

 綾見が覚えているのはここまでであり気が付いた時には、数人のオカマと医療系の団員達の手当てを受けていた。


 「無事で良かったわ……何事もなくて」

 そう言って綾見に話し掛けてきたのは、男バーバラではないオカマバーバラは綾見の頭をそっと撫でる。

 綾見は不思議と心が安らぐような心地になり、ウトウトしだす。

 「寝ても良いのよ。今は、ここがあなたのお家なんだから」

 ベッドに横になって眠ろうとする。

 だが、綾見の魂はそれを許さなかった。

 綾見の体の奥底から全神経を奮い立たせ、頭の毛の1本から爪先まで全身の血液に至るまでもが、奮い立ち目を覚ます。

 「――ッ…!」

 突如綾見は叫びだし全身に痙攣ににた症状を起こし、口から泡を吹かせて倒れる。

 あまりの出来事にバーバラは混乱していると、駆け付けた団員が懸命に綾見の治療に取り掛かる。



 「うんうん、今のところは計画通りだね。それじゃ……三人とも、彼のマジックショーに付き合おうか」

 ブェイは上着を脱ぎ捨て、軽く準備体操をする。

 マギジは胸のホルスターから2丁の銃を取りだし、残弾の確認をする。

 銀隠は体の各所を伸ばしリラックスしていた。



 「君らは……僕を舐めてるのか…!」

 道化はマギジが開いた空間を破壊して、自分の空間へと戻ってきた。

 「おい、マギジもっと遠くの空間に飛ばせよ。簡単に戻ってきてんじゃねぇか」

 ブェイはマギジの中途半端な仕事ぶりを注意するが、マギジは暁の背後に隠れる。

 「僕がマギジに出来るだけ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そうしないと、彼が戻ってきてくれないかもしれないから……」

 そらを聞いたブェイは渋々道化に向き直る。

 未だに暁の背後から離れないマギジは、ブェイに向けて舌を出して挑発していると、銀隠がマギジの頭を軽く小突く。


 「仕事何だから、真剣にやってくれよ。二人とも」

 「えっ! 俺も入ってるの?」

 ブェイは自分も注意の対象になってるのに驚きつつも、道化が飛ばすナイフを次々と弾く。

 「マジックショーって、私初めてなんだー」

 マジックショーと聞いてマギジは少し興奮気味になってはしゃぐ。

 ゆっくりと道化に向かって歩みを進める暁の手には、刀が握られその瞳は道化だけを写す。

 「さて、―僕らは今から君の世界に反逆しようとしているが、覚悟は出来てる?」

 暁は道化の手前で立ち止まり、確認のために尋ねる。

 「覚悟など、とうに出来てる!」


 それを聞いた暁は鞘から刀を抜き取り、刀身指でなぞる

 「それは良かった。今なら…――思いきって、君の世界に反逆出来るよ」

 道化のナイフと暁の刀が異空間の中心で火花を散らす、その火花はまるで……

 ――咲き乱れる彼岸花が一瞬にして散るようにも見えなくもない


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