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難攻不落の黒竜帝  作者: 遊木昌
四章 焔の魔女と悪魔の瞳
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四章七節 闇夜のマジックショー


 綾見はケースの中に入れられていたスーツを取りだし袖を通す。

 普段から着ているスーツとはうって変わって、何故か普段よりも身が引き締まる。


 「綾見さん。準備は出来ましたか?」

 扉の向こうからは、洋子の声が聞こえてくる。

 「はい。一応、用意された服装には着替えましたけど…もう1つの服装はいったい…」

 綾見に用意された装備には、スーツとは別にウェイトレスが着る正装も用意されていた。

 「もう1つの方はまた後程。それよりも、身なりが整っているのでしたら入りますよ?」

 洋子は部屋の扉を開けて、綾見の正面で止まりつま先から頭の先まで執拗に確認する。


 「襟…曲がってますよ」

 「あっ…すいません」

 端から見れば二人を夫婦と言われても不思議ではない程の距離で、身支度を整えていた。

 クリーニングされたスーツには、当然のごとくシワ1つない完璧なスーツとなっていた。

 お古にしては、綺麗に仕立てられた靴は新品同然の輝きを発していた。


 「さ……行きましょう。皆さん待ってますから」

 洋子に半ば引きずられながら、綾見はバーバラが経営するお店へと向かう。

 綾見は洋子の後を付いて歩いていると、洋子の上司でありワヒートの親のバーバラに付いて分かった事があった。

 普段は自分の経営する店で仕事をしているが、時々先ほどまで綾見がいた事務所で洋子と二人で仕事をしている。

 その事をワヒートは知ってるのか、知らないのか。


 「どうしました? 綾見さん」

 「うわッ! ……いえ、少し考え事を」

 考え事をしていた為、自分の顔を覗き込んできた洋子に気が付かないでいた。

 咄嗟に綾見は後ろへと下がったが、ワヒートとの時のような失態は2度としないと心に誓った矢先の洋子。

 ワヒートと違って内気でもなくスーツに身を包み、他者を統括する際に見せたカリスマ性や統率力。

 シャツのボタンは第1まで止まってはいるが、時折揺れる豊満な胸には男の本能的衝動を駆り立てる。


 「――あの……もう少し、離れて貰っていいですかね? 周りの視線が少し」

 「視線…?」

 今の綾見と洋子は横に並んで歩いているため、横目から洋子を見詰める男達の嫉妬の視線が綾見に突き刺さる。

 尚且つ、洋子本人は気が付かないのかそれとも免疫が無いのかは知らないが、所々で隙が多く隣の綾見は目のやり場に困っていた。


 ほどなくして、事務所から離れた場所にネオンが輝くお店に着いた。

 外装を見ただけでも分かるが、綾見は心の底からそうであっては欲しくなかった。


 店に入ると、見知った団員達が恐怖で真っ青になったまま部屋の隅で縮こまる姿がちらほら見える。

 「あら~。洋子ちゃん来てくれたの? でも、ここ最近は新人(ルーキー)ちゃんが増えたから人手は足りてるわよ」

 1人のオカマが洋子に気が付くと、店の奥から次々と現れるオカマが洋子の周りに集まり順番に話しかける。

 次第に増えていくオカマの数に綾見は悪寒を感じ、一歩下がる。

 「――ムフン。カワイイボーイ……みーけッ!」

 全身毛が逆立ち、生まれて初めて襲い掛かる死の恐怖に綾見は震えが止まらない。

 「大丈夫よ。取って食べようなんてしないから、そこのところは弁えてるから」

 しかし、綾見の震えは止まることはなく、心配した1人のオカマが綾見を優しく抱き締める。

 その時、綾見は再度全身の毛が再度逆立ち反射的にオカマの顔に頭突きを食らわせる。


 咄嗟の事にその場では、どよめきが走る。




 「綾見さんはホントに『オカマ』が嫌いなんですね。でも、そこまで嫌う理由が分からないんですけど?」

 鼻から大量の鼻血を流すオカマを看病しながら、洋子は綾見に尋ねる。

 「いや…オカマが嫌いって訳でなく。何故か、命の危険を感じるんです」

 洋子はそれを聞いて納得する。

 「確かに、皆さんはちょっとだけですが、カワイイ新人さんに弱いですからね」

 周囲にいたオカマ達は洋子と目が合わないように、意図的に目を背ける。

 そこで洋子は、これ以上綾見や他の黒焔から来た新人達に危害を加えないように釘を刺す。


 「一応説明しときますが。綾見さんもロークさんも――()()()()()()()()ですから、そこのところは理解しといて下さい」

 次の瞬間、コップを磨いていたオカマも綾見や他の団員達にベタベタしていたオカマ。

 床を磨いていた女性達も手を止め、店の厨房からは皿が割れる音が聞こえる。

 「知りませんよー……()()()()()()()()()()()

 悪魔の様に笑みを浮かべる洋子に、綾見は少しビビった。

 「ごめんなさい……みんな可愛くて、ついね」

 その後は徐々に打ち解け始めた綾見達団員とオカマ達は、皆で協力しあって店の手伝いを始める。


 「しかし…まさか、相棒まで喧嘩売るとはな」

 スーツ姿の綾見とはうって変わって、ウェイトレスの格好をしたロークは、所々に包帯が巻かれていた。

 「まぁ、戦いにはなったとは俺は思うけど……()()()()()()()()()()()()()()()

 それを聞いた綾見も頷く。

 「もしも、バーバラさんを本気にさせることが出来たら。そん時が、特訓の成果なのかもしれんな」

 モップを力強く握るロークはやる気に満ちていた。

 それを見ていた綾見は、黙々とコップを洗い続ける。

 ロークはモップ掛けををを終えて、店の奥にモップを戻しに行こうとするが、突然お店の電話が鳴る。

 バーカウンターの横に置かれている黒電話がお店全体に響き渡る。

 直ぐに綾見が取ろうとするが、綾見の腕を隣からワヒートが掴み首を横に振る。

 呼び鈴が3回ほど鳴るが、誰1人として受話器を取ろうとしない。

 しばらくして、電話が切れる頃に洋子が店の奥から出てくる。


 「電話は……? 取ってませんね」

 洋子がその場に集まっていた全員を見詰め尋ね、全員が洋子を見詰めながら頷く。

 すると、再度電話が鳴り響きそれに驚いたワヒートが綾見の方へとよろける。

 透かさず綾見がワヒートを支えるが、その拍子にカウンターに置かれていた受話器が綾見の肘に当たり落ちる。

 床に落ちた受話器から藍色の鎖がワヒートと綾見の二人を、受話器の中へ引き釣り混む。

 「綾見!」

 「ワヒートさん!」

 洋子とロークが手を伸ばすが、二人は受話器の中へと消えていく。



 

 黒は現在猛烈に忙しかった。

 決闘決闘などと言っておきながら、決闘する場所を確保しておらず。

 そして、決闘を見届ける立会人を頼んですらいなかった。

 そのため、現在は妹二人に睨まれながらも色々な人に連絡をする。

 「そうか……立会人も決闘場所も決まりました。……コレでよろしいでしょうか?」

 恐る恐る背後の二人へ向き直ると、茜は釘バットを持って黒を見下し。

 碧は真剣を鞘から抜き出し、黒の首筋に刃先を近付ける。


 「はぁ……決闘制度なんか、まだあったんですね」

 碧はため息をこぼしながら、執務室に持ち込まれる書類に目を通す。

 「黒兄が真面目に仕事なんかしちゃって、明日は雨かなー」

 「茜ー。お兄ちゃん泣いちゃうよー」

 珍しく仕事をこなす黒を茜と碧は見ていると、執務室の扉をゆっくりとノックする音が聞こえる。

 「どうぞ……以外と速かったんですね」

 執務室に入ってくる人影に黒は驚きつつも、笑みを浮かべる。


 「長期任務より。ヘレナ、リーラ、カホネ、バリッスの4名。帰還報告に参りました」

 初めて星零学院に行った際に、侵入者として追いかけられ戦え事になってしまい。

 黒とあの時戦ったムキムキのバリッスと青髪のカホネだった。

 「懐かしい顔ぶれじゃん。また、やり合うか?」

 ヤル気満々の黒に対して、バリッスとカホネの二人は黒から一歩下がる。

 「誠にありがたいお誘いですが、私達1団員が元とは言え団長の席に座られていた方。お恥ずかしながら、ご期待に答えれる自信がございません」

 丁重に黒の誘いを断る二人に、黒は驚きを隠せずにいた。

 「ついこの前までは、侵入者とか言って俺を追い掛けてた奴が……ここまで変わってるとは」

 バリッスもカホネも今となっては、大事な黒焔の団員である。

 自分が推薦した訳ではない、しかし、今の団長は碧なのだから、碧が決めた事に口を出すのは筋違いだ。

 「今は黒焔の団員なんだろ? なら、しっかり妹を頼むな」

 微笑む黒にバリッスとカホネは、背筋を伸ばし黒に敬礼する。


 「黒団長は団長をやめたのですか?」

 黒の背後では、うつ向くヘレナが立っていた。

 「別に……今は俺が黒焔を率いるべきじゃないと判断したまでだ。お前らには、すまないと思ってる」

 黒はヘレナに頭を下げようとするが、ヘレナの小さな手が黒の額に当たる。


 「黒団長は黒団長です。どんなに時が立とうとも、変わらない事実です」

 黒に向けて微笑むヘレナは、まるで雪原に舞い降りた天使のような笑みだった。

 その笑みに黒は自分の弱さを痛感する。

 「――そう言えば。リーラと綾見達の他にも、もう1人俺は推薦したよな? 確か」

 「あー…確かに書類には、リーラさん達と綾見さん達の他にも名前は書いてったけど……()()()()()()()()()()()()()()()()ですよ」

 黒は衝撃の事実を知り固まってしまう、それを覗き込んできた碧は冷や汗をかきつつ、自分の仕事に戻るのであった。

 「愛莉は愛莉の騎士団で頑張ってる。それなら、私もこの団で頑張らないといけませんね」

 やる気を見せるリーラに黒は何かを思い出したのか、ある事を伝える。


 「俺達黒焔騎士団は、他の騎士団と決闘する事になった」

 それを聞いたリーラ達は、互いに互いを見合う。


 「……えぇーッ!」

 黒の背後に立っていたヘレナは、あまりの衝撃に意識を失う。

 「そんなに、驚くか?」

 決闘を申し込んだ黒は至って普通であった。





 「……ここは、どこだ?」

 目を覚ますとそこは、藍色の世界が広がった見たこともない幻想的な世界が綾見の目の前に広がる。

 「ぅ……ぅん……ここは…」

 綾見の隣では、一緒になってこの世界に引き込まれたワヒートがいた。



 「――Ladies and gentlemen…」


 見知らぬ声が聞こえて来ると、二人に向けてライトが照らし出される。


 「今宵の迷える子羊はこちらの二名の方、この私がお送りする。魅力的で尚且つ激しい程に熱烈なショーの始まり始まり……」

 綾見とワヒートの周りを囲うように、集まる黒色の霧が二人をさらなる闇へと誘う。


 「2名様、ごあんなーい……キヒヒッ」

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