三章最終節 新たな道へ
骸魔法――教授が言う事が本当の事であるならば、二人は警戒を解かずにいるべきだ。
しかし、二人は警戒を解きそのうえ武器を手放してしまう。
「ヒッヒヒ……このワシを本気にしたのが運の尽きじゃったのぅ。――ヒャッヒャッヒャッ! 愉快愉快じゃ!」
モルモットの体で包まれた体が笑う度に伸縮し、筋肉の量も時間が立つにつれて増していく。
教授は丸太のような腕で目の前の二人を叩き潰そうとするが、筋肉と吸収したモルモットの皮膚で覆われた片手が、気付いたら切り落とされていたのであった。
「なんじゃと! いつの間に――」
目の前の二人は全く動けない、それは骸魔法を使った教授本人が一番理解していた。
―――だが、現実は違っていた。
目の前には、血燐を構えた黒が教授の腕を切り落としていた。
「何故じゃ……何故――」
黒は笑みを浮かべながら歩み寄り、教授の心臓に手が届く位置まで近付く。
先程まで目の前にいた筈の黒が消え、自分の間近にいることに教授は驚き後ろへ後退する。
しかし、黒はその都度教授の背後や隣に移動し血燐をゆっくりと頬に近付ける。
咄嗟に躱わす教授だが、黒の姿を見失う度に体に擦り傷を入れられ時間が経過するにしたがって攻撃の速さと、姿を見失なってる時間が長くなってきていた。
だが、教授の皮膚はモルモットの皮膚が自然に修復するので黒の攻撃は無駄であった。
「ヒッヒヒ――。ワシの皮膚は優秀なモルモットで出来ている。お前ごとき虫けらの攻撃何ぞ、効かぬわ! ヒッヒヒ…ヒーヒッヒヒ」
教授は大声で笑うが次の瞬間、右頬と左耳が切り落とされ直ぐ様修復されたが教授は驚きを隠せずにいた。
(コイツは……今刀を振ったのか? いや…まさか!?)
教授は後ろへ飛び退くが腕同様に両足首を切り落とされ、その場で倒れる。
足を引き釣りながらも教授は黒から逃げようとするが、徐々に動く速度を上げる黒の前では無意味であった。
例えるならば、赤ん坊と馬が競い合うのと等しいほどの差が二人の間に存在した。
(可笑しい……可笑し過ぎじゃ! ワシが発動した、骸魔法は対象者に精神異常系の魔法を掛ける物じゃ。しかし、目の前の奴は異常所か前より動きが速い…!)
教授は全身から生やした触手で黒の動きを止めようとするが、その行動すら意味をなさず、生やした触手の尽くは黒の目の前で切り伏せられる。
それでも、教授は何度も触手で黒を襲い黒が精神異常系魔法が効かないからくりを見付け出す。
教授は黒の四角を積極的に攻めていると、黒の動きに不可解な点が現れた。
「なるほど――なるほどのぅ!」
教授は触手を巧みに動かし、黒を縛り一瞬だったが黒から自由を奪う。
一瞬の隙を突かれ身動きが取れなかったがすぐに触手から逃げ、後ろへ飛び退く。
すると、黒は大量の血を吐くとその場に膝を折り、何が起きたのか理解できない状況に困惑する黒とは別に教授は笑みを浮かべていた。
「コレがからくりじゃったかぁ……」
教授は顎に手を当て黒を見詰める、その目は勝利を確信した目をしていた。
「……バレてるよねー」
「むん……バレておるの」
庭園の中で特に光を通さない監獄の中から黒の状況を見詰める、魔術王と黒竜はやれやれとため息を溢す。
「バレておるなら……仕方ないのぅ」
黒は教授に向けて声を発すると、教授は眉を動かし疑問を投げ掛けた黒ではない別の者に。
「流石は教授殿じゃ。我が主殿ではない別者だと見分けるとは……」
顔を上げた黒の両目は赤く輝き、その瞳が黒本来の瞳ではないのは一目瞭然だった。
その正体は黒の魔物である、鬼極であった。
体は黒であり中身が鬼極であることがバレると、それまでとは比べ物にならない速さで教授の全身を切り刻む。
あまりの猛攻に教授は後ろへ飛び退くがそこを狙ってたかのように、がら空きの脇腹に蹴りを入れる。
「――ぐッ!」
教授は地面に転がり、その後の追撃を躱わし続け何とか黒の猛攻から逃げ延びる。
追う鬼極と追われる教授、両者が常人の域を越えた速度で対する中で未だレオンは意識を取り戻さずにその場に立っていた。
「――レオン…レオン。こんな所で寝てたら、風邪引いちゃうよ?」
(――誰だ?)
「そんな事じゃ、黒に先に手柄取られちゃうよ? 良いの?」
(手柄? ……何の事だ、お前は誰だ?)
目を明け、周りに誰かいるのかと見渡すが目の前は真っ黒な闇が広がっているだけであった。
(もしも…今隣に行けたら、叩いてでも起こしたのになー……残念)
声の少女は先ほどに比べて、少し寂しそうにレオンに話掛ける。
「お前は……ミカ…なのか?」
レオンは声のする方へ向かって手を伸ばす。
闇が広がっていた空間に一筋の光がレオンを包み込み、ミカの手がレオンを後ろから抱き締める。
「これで最後――後は、大丈夫だよね?」
レオンはミカが自分の体を強く抱き締めているのを感じ、目を閉じる。
「――もう、大丈夫だ。今度は俺から会いに行くよ」
光が徐々に薄くなり、今にも消えそうな光へと変わる。
「早く来ちゃ、嫌だからね」
ミカはそっとレオンの背中から離れ、レオンの背中を押す。
レオンは溢れ落ちた光の雫を掴み、そっと胸に近付ける。
「――そっちで見てろ。俺の背中をな…」
レオンが目を覚ますと、辺りは砂煙が立ち込めており視界はほぼ遮断されていた。
レオンの立つ場所から更に遠くからは、2つの巨大な力がぶつかる音が響く。
「急がねぇとな。大分出遅れた」
レオンは両足に力を入れ駆け出す、至る所に穴が開いており気を付けなけて進まなければ穴に落ちてしまうだろう。
進むにつれて、戦闘の爪痕は激しさを増していた。
「ひゃー……どんな戦い方したらこんなに何だよ」
地割れが起きたのかと言わんばかりに地面に亀裂が入り、木々で生い茂っていた筈の森は所々で地盤が崩れ土砂が木々を押し倒していた
倒れた木には爪のようで爪ではない鋭利な物で裂かれた様な痕が所々に残っていた。
レオンは息を殺し、慎重に歩みを進める。
もしも、先程の裂かれた痕がレオンの体に少しでも擦れば、魔法で瞬時に防御した所で意味をなさないだろう。
そう考えると、次第にレオンの足取りは重く止まるようになっり震えが止まらなくなる。
倒れた大木を背に息を整える。
息が切れるほど走ったりはしていないのにも関わらず、やけに鼓動が早く感じ汗が止まらない。
無理もない、警備員の仕事は簡単な護衛や輸送車両などの防衛であり、こんな戦地に行ったとしても後方支援が主な役割だった。
そのため、極度の緊張感や油断が命取りになる戦場は初めてと言っても過言ではなかった。
「コレが――戦い。怖いな…」
レオンは立ち上がろうと大木に手を掛けた瞬間、後ろから猛スピードで迫る黒に気づく。
「くッ――!」
声を発しようとしたレオンの口を黒は塞ぎ、大木に二人で隠れる。
「黒ッ! 何しやが――」
レオンは黒が口元で人差し指を立てていた事に気が付き、指差す方へ視線を向ける。
そこには、2つの巨体な顔がまず先に目に映り、その顔の下には4本の巨大な前足と何本もの触手。
2つの顔の中心には細いが数の多い腕と触手に覆われた教授の姿が目に入る。
「何だよ……アレ」
「我にもさっぱりじゃ」
レオンは今の発言が黒ではないと認識したが、直ぐに鬼極だと分かった。
「鬼極。黒と変われるか?」
レオンは意識を失ったままの黒を揺すり呼び掛ける。
「むん…起きない」
「――寝てますね」
黒竜は静かに寝息を立てて眠る黒を叩き起こしたい気持ちを、自分の分身体と言えるぼた餅にぶつける。
当然そんな事をしても黒は起きる所か、口からはよだれが垂れる。
戦場で眠る黒にレオンは平手打ちを数発食らわせて、叩き起こす。
「――そんなに俺は寝てたか?」
頬を擦りながら黒はレオンに尋ねる。
「寝息を立てて、気持ち良さそうに寝てたよ」
レオンの返しに、黒竜と魔術王は頷く。
しかし、状況はそんな平和な物ではなく、黒を探しながらさ迷う教授の体は更に変化し続けていた。
触手の数も増えてはいたが、それ以上に教授から滲み出ている魔力は桁外れに膨れ上がり、並の魔導師では直視しただけで逃げ出すであろう。
「…逃げたいなー。黒さん」
「レオンの目にはあの怪物が簡単に逃がしてくれるように見えてるんですか?」
二人の居場所に気が付いた教授は丸太よりも太く大きくなった腕で、大木をへし折る。
黒は血燐で数回腕を切り付けるが、先ほどよりも肉が増えその分硬くなった腕は、現在の黒の攻撃は毛ほども効いていなかった。
「以外と…ショック何だけど」
向かって来る触手を切り伏せ、後ろへ飛び退くと教授は2つある巨大な口から特大レーザーで黒へと追い討ちを掛ける。
「――ちょッ!」
黒は防御が間に合わず特大レーザーに飲み込まれるが、すんででレーザーをレオンの魔法で作り上げた土の壁がレーザーを防ぐ。
教授はレーザーを放つと全身から噴気孔の様な物が伸び初め、大量の熱気を外へと放出する。
それを好機と見たレオンは炎を纏わせた拳で教授本体目掛けて飛び掛かる。
しかし、黒は先ほど自分の攻撃が通じなかった事を知っている。
そのためレオンの魔法など当たった所で何も意味がない、そう判断していたがそこには、目を疑う光景が飛び込む。
「マジか…」
教授の顔に直撃したレオンの拳は、教授の首を簡単にへし折りその巨大な体を数メートル先へ飛ばす。
「――らっしゃぁ!」
着地と同時にレオンは右足に炎を移動させ、へし折れた巨大な首へさらに叩き込む。
「グウギェエエエ――!」
苦痛に歪めた表情と苦しみもがく姿に黒は驚き、血燐強く握る。
「おい、魔術王! 何でレオンの魔法は効いたと思う?」
魔術王は椅子から立ち上がり、黒の問に答える。
「簡単に説明すると……レオン君の使うあの魔法は魂に刻まれた現象を引き起こす魔法であると同時に肉体とは別に魂自体にダメージを負わせれるとおもってくれれば良い」
黒は魔術王の説明に驚き形成を逆転させた、レオンを見詰める。
「もしも、もしもこの場にレオンがいなかったら……俺死んでたかな?」
「そうだろうね。ほぼ間違いなく死んでるね」
「――むん、今生きてるのですら奇跡」
「今の主殿は弱いからのぅ」
頭に直で聞こえる一言多い声に、黒は腹を立てるが正論なのが釈然としない。
「以外と……ショック」
森の一角では、両者一歩も引かぬ戦いが続いている。
巨大な腕は振れば、辺りの木々を紙のように握りつぶし破片が宙を舞う。
次々と木々が倒れる中でレオンの攻撃は教授に致命傷とは行かないが、順調に追い込んではいた。
しかし、教授も時間が立てばレオンの動きに対応出来ない程知性の無い化け物ではなかった。
序盤はレオンが優勢ではあったが、時間を要するにつれ教授の動きに変化が起こりレオンを追い詰める。
異族である黒から見れば、レオンは人間の中でも並外れた方の身体能力と危機感知能力を有する。
職種柄身に付いたと考えれば妥当だが、それでも人間で化け物と化した教授に一歩も引かずに単独で挑むには相当な手練れではなければ、今頃死んでいてもおかしくはなかった。
レオンは身に付いた能力を存分に発揮してはいるが、それは躱わす事は出来ても致命傷を与える事は出来ない。
レオンがいくら優秀で単独で挑む事が出来ても、教授を倒すことは不可能に近い。
「くそッ……何か手はないか?」
倒れた大木を利用して教授から逃げるが、いつまでも逃げ隠れしていては西欧学園に向かったしまう危険がある。
そうなれば、間違いなくこちらの敗北となり西欧学園の生徒や助けに来た警備員全員の命は保証出来ない。
すなわち――
「ここで止めなきゃ……男じゃねえ!」
レオンは教授に向け果敢に飛び出し、無数の触手を躱わし懐に潜り込む。
そんな事を予想していたのか、教授の極太腕がレオン目掛けて迫り来る。
「くそッ!」
レオンは距離を取るか取らないかで一瞬迷い、その迷いが生死を分けた。
左右から迫る腕に握り潰され終わる、そんな未来が予想でき走馬灯が見えると思いきや。
「死にたくなければ、右にずれな」
「は…?」
文字通り、声のする方へ振り向くと丁度右にずれていた事に気が付く。
レオンは目の前の現実に驚き硬直する。
「5秒後に、全部隊一斉射撃。ありったけの弾を叩き込め!」
「了解!」
レオンの背後から完全武装した集団が押し寄せ、教授が再生する時間すら無いほどの一斉射撃。
当然魔導師ではなくましてや警備員ですらない、所属不明の謎の軍隊にレオンは困惑する。
「あ…あんたらは一体?」
レオンの声は銃声によって描き消され、森の中では銃声と教授の雄叫びが響く。
その後ろからは何台もの車両が列を成して、教授の周囲を囲む。
「車両から降りたものは、5秒後に射撃開始。車両に搭載された機関銃も惜しみ無く使え!」
「了解!」
飛び交う銃声と同じ位と声量で指示を飛ばす男にレオンは、苦笑いを浮かべる。
(こんな声量が高い男が会社の教官になってくれれば、うちの部隊はもっと強いなるな。……俺は願い下げだけど)
起き上がろうと足に力を入れるがその時激痛が走り倒れる、そこで自分が気が付かない内に両足をケガしているのに気が付く。
「――大丈夫ですか?」
レオンに声を掛けた少女は綺麗な透き通る様な水色の髪に、髪を耳に掛ける女性らしい仕草にレオンは一瞬ドキッとする。
「足にケガ…直ぐに治療します!」
手に持つ治療道具でレオンの足を治療するなか、背後から切り離された教授の触手が槍となり、少女に向かって迫る。
「おい! あんた――」
レオンは逃げるように少女を突き飛ばそうとするが、少女はレオンの手を握り笑みを浮かべる。
「大丈夫です。――目覚めろ【凍てつく刃】」
少女の両足を氷が覆い被かり、その足から現れた氷の亡霊が顔を出す。
触手は一瞬で氷へと変わり、バラバラに砕ける。
少女の背後に現れた亡霊がレオンには、黒の意識となっていた鬼極と重なる。
「魔物か…」
レオンが溢した言葉に反応する様に少女は驚き、レオンから距離を取る。
「この力の事をご存知だったのですか。まさか……魔物所有者? それなら、あの化け物に苦戦しているのは不自然」
少女はアイシクルを前に警戒していると、教授の頭上から全身火だるまにした黒が教授に拳を叩き込み教授を火だるまに変える。
「黒!」
「先生!」
二人の声が合わさり、二人は目線だけを合わせる。
「黒の知り合いだったら、これほどの力を有する奴が1人位いても何も不思議じゃねーな」
レオンは魔法で地面を操作して椅子に形を変え、黒の戦いぶりを見物する。
それに比べ少女は未だにレオンの事を警戒する素振りを見せるため、レオンは一つ指摘する。
「お嬢さんのその対応は正直言うと正しい。しかし、相手を警戒してるなら手口を見せたままにしてちゃイカンな」
そう言われ、少女はアイシクルを解くが、それはレオンの罠だと咄嗟に気が付き再度アイシクルを出現させる。
『……ちょっもステラ。いい加減敵じゃない人を警戒するのやめなさい』
微妙に疲れ気味のアイシクルにステラは困惑する。
「ちょ…ホントに味方かどうか分かんないでしょ!」
ステラとアイシクルの言い争いを隣で見物するレオンは自然と笑みが浮かぶ。
それに気が付いた黒は教授の相手を部隊に任せ、ステラの隣へと向かう。
「何か……久し振りだな。ステラ、強くなったな」
後ろから声を掛けれ、ステラはビックリした表情を浮かべるが直ぐに無表情に戻し、黒の前で片膝を突く。
「ご命令通り。ステラ・ハルベーゼ率いる第六部隊、遅くはなりましたが救援に参りました」
ステラは片膝から直ぐ様部隊の指揮を取り、教授を追い込む。
「まさか、黒の騎士団にはあんな可愛いお嬢さんを部隊の隊長にしてるのか?」
「いや、俺も初めて知った」
レオンは黒の返答に苦笑いを浮かべ、足への痛みが引くと立ち上がり教授へと向き直る。
弾幕を浴びながらも西欧に向けて走り出そうとした、教授の周囲をレオンは魔法で出現させた土の壁で囲い込み。
土の壁を焼き窯の形へと変え、教授の背後から今現在出せる最高の最大火力で蒸し焼きにする。
「ギィヤァァァ――」
窯から聞こえる悲鳴にステラや隊員達はあまりのおぞましさに後ずさる。
「終わったよ、ミカ。これで良いよな?」
レオンが指を鳴らすと窯の周囲をも巻き込む巨大な火柱が上がり、窯ごと黒炭に変える。
虫の息となった教授はレオンと黒に向け叫ぶ。
「ワシを倒した所で、もう後戻りは出来ぬ! ここより始まるのじゃ! 世界との戦争じゃ!」
その捨て台詞と共に崩れて消えていった教授。
辺りに響いていた銃声が未だに耳に残り、戦いの爪痕が痛々しく残る森を背に黒や他の者達は世界へと帰還する。
教授との戦いが終わりを迎え数週間が過ぎた頃、西欧学祭の裏手の花畑には、男を待つ男が墓標の前に立っていた。
「これで……皆勢揃いだな。皆もミカをよろしくな」
レオンは墓標に立て掛けられた写真とは別に新しく立て掛けられた車両には、黒が転入してきて初めに撮った最初で最後の全体写真であった。
「ミカもいなくなって、残ったのは任務で潜入してた俺ら二人だけ。俺らが残っても意味ねーだろ……」
レオンの後ろからは花束を持った黒が歩いて来ていた。
その黒はどこか寂しく、そして決意をした目をしていた。
「元Sクラスが勢揃いだな。良かったのか、ミカの遺体をここに埋めて」
レオンに尋ねると不思議なくらいにレオンは笑みを浮かべていた、その笑みは今までの笑みとは違った笑みであり黒は初めてレオンが本気で笑った所を見た。
「他のSクラスの奴らは残された家族がいるし、眠るなら家族に近い方が良いだろ? ……ミカにとっての家族はここであり、西欧学園だ。この墓標がSクラスがあったっていう証なら、ミカとミカの家族が生きてた証だ」
レオンは黒へと振り向き拳を突き出す。
「アイツらの分まで、俺らは生きようぜ」
「おう。そっちも元気でやれよ」
拳と拳を繋ぎ合わせ残された者同士での約束、「彼らの分まで」その約束を胸に黒は西欧での任務を終了し聖零学園のある邪馬国へと帰る。
「たまには、墓参りに来るよ。じゃあな――ミカ」
レオンも西欧での任務を終え警備会社へと帰還する、ミカの魔法を手にしたレオンの力はさらに跳ね上がっており、その力は警備会社でも上位グループに入っていた。
一方の黒は西欧から聖零学園の理事長宛に送った任務での報告書を書いている途中であった。
「西欧が裏との繋がりは皆無。西欧が力を強めたのは教授が何かしらの処置を施した生徒が連盟や議会にいる模様。西欧内で危険視された生徒は教授とは関係無しっと、あー終わった!」
黒は邪馬国へと向かう一般の電車の中で足腕を伸ばす。
「報告書。やっと終わったんですね、普通ならもっと先にやる物ですよね?」
黒への付き添いとして1人残ったステラ以外は一足先に橘支部へと向かって行った。
「所で先生は、黒色の封筒の命令文を読んでどう思いました?」
「黒色の封筒? あぁ、驚いたよ。粋なり聖零の婆さんからの命令文に『西欧への助力として一部の部隊が西欧へと向かっている。彼らと協力し西欧での任務を継続せよ』って書いてあったんだ。こっちは教授の足取りさえも掴めて無かったのに、まるでこうなることを知ってた見たいでビックリぐらいするさ」
黒は邪馬国へと向かう電車の窓から見える川を見詰め、教授の発言を思い返す。
『ワシを倒した所で、もう後戻りは出来ぬ! ここより始まるのじゃ! 世界との戦争じゃ!』
黒は膝の上に乗っている血燐強く握り締める。
「――生……先生。――先生! 起きてください、もう降りますよ」
ステラに起こされ自分の荷物を持ち電車から降り、大勢の電車の利用者で溢れる駅のホームを抜け、駅の正面ゲートから外へと出ると一際目立つ黒色の羽織とローブをした二人組を見つける。
「お待ちしておりました、黒殿。橘団長の指示の元あなた様を本部までのお送り致します」
「お…おう」
車に乗ると黒の騎士団『黒焔騎士団』の支部としている橘支部へと向かっているのは理解した。
しかし、何故か見知らぬ団員がおったりや、ステラが隊長になっていたりと自分が出してもいない命令を聞いている団員に疑問を抱く。
そして、恐る恐る助手席に座る団員に尋ねる。
「君達の団ってどこで、団長は誰なの?」
その質問に隣のステラは冷や汗をだらだらとかき、黒に目を合わせないステラに黒は違和感を覚える。
「私達の所属する、騎士団はこの羽織やローブを見れば分かる通り『黒焔騎士団』ですよ。そして、団長は橘団長です」
それを聞いた黒は「そうだよな」と頷く。
「――橘碧団長です」
その日黒は自分の置かれている立場を理解する。




