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難攻不落の黒竜帝  作者: 遊木昌
三章 骸の繭と魂の革命家
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三章十七節 魔術王の魔法はそれほど凄くはない



 目の前の肉塊は、何本もの腕を巧みに扱いレオンの猛攻から逃げようとするが、それを遥かに凌ぐ速さと正確なまでの攻撃に教授は攻撃を防ぐことすら出来ない状況であった。

 レオンは一心不乱に肉塊へと拳を叩き込む、肉塊があまりの苦痛に顔を歪める。

 それでも、レオンの怒りは収まらなず肉塊が口から大量の血を吐き徐々に押され始める。

 右脇腹への殴打、右足首への蹴り、体の各所を的確に突き攻撃の手を休ませずに攻撃を繰り返す。

 何本もある両手や両足の骨を的確に砕き身悶えする肉塊こと教授の脳天に隙有らば、渾身の正拳突きや回し蹴りで教授の顔を見るも無惨な形に変える。

 そして、防御体勢が崩れれば身体中の骨を一つ一つ砕くため距離を詰める。

 教授が血を吐こうが、体の一部が別の方向へ曲がってもお構い無しに攻撃を続ける。

 時間が経過するほどに教授の動きは鈍くなり、レオンの蹴り1発で体勢を崩し転ぶ。


 「……こんなもんで、勝負が着くとでも思ってないだろうな?」

 レオンは教授を睨み付け、殺意を込めた拳で教授の顔に叩き付ける。

 地面は捲れ上がり、次第に教授は防御することを諦めレオンに殴られるだけの人形へと変わりつつあった。

 「…レオン隊長」

 警備員の一人が見かねて飛び出すが、黒がその手を掴み首を横に振る。

 「今のレオンを止めようとするなら、自分の部下でも関係無いぞ。戻って来れないと思ったら俺が止める。お前らも、直ぐに止めれるように一応準備だけはしとけ」

 黒は血燐を鞘から抜きレオンを見詰める。

 その目は少し悲しそうではあるが、レオンを信じている様にも見えた。

 レオンが一息入れつつ教授を鋭い眼光で睨み付け、拳を振り上げた殴ろうとした所を黒が止める。


 「サンドバッグを殴るのは勝手だが、お前を人殺しにさせれないんでな……分かってくれ」

 レオンは思いっきり歯を食い縛り黒を睨むが、徐々に冷静さを取り戻し手を下ろす。

 しかし、二人が油断した隙に教授は二人を弾き飛ばしその場から逃げる。

 だが、二人の咄嗟の反応速度を前に教授は絶句する。


 殺す気で弾き飛ばした。

 しかし、目の前の二人は紙一重で後ろへ飛び退き、教授への追撃のために飛び出す。

 「黒! 俺がアイツの足を止める。お前はそこを叩け!」

 レオンは強化魔法を掛けた足で更に教授との距離を縮める。

 「了解――任せたぞ、レオン!」

 黒は血燐に手を掛け、精神を集中させるためにその場に留まる。

 教授がレオンに向けて伸ばす腕を、レオンは両腕の炎で燃やして行く。

 その炎が発するあまりの熱量に教授の腕は、一瞬にして炭へと変わり何本も束ねた所でその事実は変わらなかった。

 生やし燃やされ、何本も束ねるが一瞬で炭が出来上がる。

 現状の打破しようと教授は辺りを見渡すが、草が生えてるだけの平原が続いていた。

 教授は向かって来るレオンから逃げながら、平原をただ真っ直ぐ突き進んでいると、いつの間にか黒の立つ方角へと進んでいるのに気が付く。

 しかし、気が付く頃には教授の体は2つに両断されていた。


 「ぐッ! くそがぁ!」

 教授は両断された体を引き釣りながら、二人から距離を取ろうとする。

 隙を突かれた事を考慮して慎重に距離を詰める黒に向け、教授は腕を伸ばすが血燐で切り裂かれる。

 その隙に教授は姿を隠そうと魔法で次元の穴を開くが、背後からレオンの炎が教授の背中を焼く。

  「レオン! 今逃がしたら、次は無いぞ!」

 黒は向かって来る腕を切りながら、教授に向かって少しずつ歩みを進める。

 「小癪な……クソガキじゃのう。邪魔ばかりしおって……」

 教授は両断された体をモルモットの組織で縫い付け、先程と同じ体型に戻る。

 戦況は振り出しに戻った、だが1つ変わった事がある。


 「行けるか? ――レオン」

 「おう。……もう足は引っ張んないからな」

 レオンは燃え盛る拳を構え、教授の方へと進む。

 「フンッ……ガキにしては、復讐に取り込まれない良い精神を持っとるのう……」

 教授は機械仕掛けの瞳を輝かせながら、レオンに迫るが黒の殴打を顔に食らいその場に倒れる。

 「警戒し続けろよ。この化け物の生命力は並みじゃねぇ」

 黒は血燐と両腕に魔力を巡らし、急な不意討ちにも対応出来るように距離を取る。

 レオンも同様に構えるが、自分の体の奥から感じる異様な力に困惑したいた。


 (――そう言えば、咄嗟の事で忘れていたが…俺は攻撃系の魔法なんか殆ど使えない。せいぜい使えたとしても火を起こせる程度だ――)

 レオンは両腕に力を入れると、不思議と掌は熱くなり発火した。

 意識する事で炎の火力を調整することや、炎の形状ですら変える事が可能だと知る。

 「――この力は、一体何なんだ?」


 「レオン!よそ見するな!」


 声の方へと向く、目の前では自分の肩を揺する黒の動きが止まっているように見えていた。

 「走馬灯みたく、世界がゆっくりと動く。――生まれて初めての不思議体験だ」







 「うぉッ……! レオン大丈夫……か。だよな」

 黒の目の前には二人に向かって突進してきた、教授を避けた黒とうって変わって教授の下顎を足で蹴り飛ばし反撃するレオンの姿が写る。

 「ぐぅぎいゃ………」

 レオンは右腕に炎を一転に集め、顎を蹴り上げられ仰け反る教授の胴体に燃え盛る拳を叩き込む。

 炎は螺旋状に教授の体を貫き、周囲の地面を抉りながら吹き飛ばされる教授の姿に黒を含めた周辺の警備員は驚き喝采を上げる。


 「魂魔法――【|燃え盛る炎は魂の怒り】」

 レオンが理解するのに時間はいらなかった。

 「レオン! 何だよ今の魔法……レオン?」

 黒は近付き下を向いているレオンの顔を覗く、その表情に黒はそのままレオンを残し飛ばされた教授の元へ急ぐ。

 レオンは目を閉じたまま深呼吸を始め心を落ち着かせる、目を閉じる度に頭の中に浮かぶ全く知らない魔法。


 「――【心地良き風は魂の喜び】」

 次の瞬間レオンの体は風の様に飛び草原を翔る、自分の現状にレオンは驚くが頭の中に浮かぶ光景では、自分はこの魔法を知っていた。

 何故なら、自分の手で()()()()()()()()()()のだから。


 「ミカ。一緒に戦おうな――」




 この世の魔法には七つの属性に分類されている。


 この世で一番初めに誕生したとされ、この世の万物を燃やすと意味嫌われた【炎魔法】

 生命の母と呼ばれ、万物の源とされ古来から崇められている【水魔法】

 神の具現、怒りの具現、人々に降りかかる天罰。

 世界に広まった魔法の中でも、最強クラスと呼ばれる程に扱いが難しい【雷魔法】

 世界全土どんなところにでも広がり、全ての生物が生きるには無くてはならない酸素。

 時にはその力で多くの生物が住む環境を根刮ぎ破壊する【風魔法】

 人々の生活の基盤となった大地、時に人は土を集め固め熱し積み、多くの物質が生まれた。

 時には生物に牙を向き大災害と呼ばれ、全ての生命を飲み込む【土魔法】

 闇があるならまた、その逆の光がある。

 どの時代でも闇が多い尽くす時には光が現れ闇を払うと言われている、相反する二つの魔法2つがあるからこそ2つがある【闇魔法】と【光魔法】




 この七つが存在し、七つの属性の中から更に枝分かれした属性が存在する。

 使う者の魔力量や技術、鍛練の成果によって、魔法は分岐し多くの魔法を編み出す。

 複数の魔法を組み合わせることで、全く別の魔法を1から造り出す事さえ可能。

 しかし、この世にはどんなに努力した所で複数の魔法を複合させて造り出す魔法など、()()()寿()()()()()()()()()()()()()()()()()


 人間の寿命は100歳前後、古来から多くの異族は魔法を使いその中で竜人族は神器を造り上げ、他の異族も多くの魔法を作り編みだし伝承させてきた。

 竜人族の寿命は平均的に全ての種族に比べても遥かに高い、それでも複合させた魔法を造り上げるのには、何千何万もの種族の人生が捧げれていた。


 その中でも、『魔術王』黒の精神で繋がっている【庭園(エデン)】の最下層にひっそりと住む男。

 その男が造り上げた魔法は凄まじく、新たな魔法を作るために何千と掛かるはずだった時間をたった一月で終わらせ多くの魔法を生み出した。

 その副産物として生まれたのが『魔物』自分の強大な魔力を遥かに凌ぐ膨大な魔力。

 『自分の子供と言っても過言ではない魔物達を殺せず、魔術王は古代兵器に封じた』 これこそ神器の始まりと魔物の始まり。


 そして、多くの異族の手に渡った古代兵器が長い年月を重ね現在の世界に渡り、魔術王が残した遺産から魔法や神器の元となる理論が生まれた。



 そして、黒の魔法で精神と繋がっている庭園では、檻の中で抱き枕の形に変化したぼた餅を抱き締めて檻の中を浮遊する黒竜と手錠を着けた袴姿の鬼極が見詰め合う。

 「のぅ……我を呼びつけた竜殿は、何ゆえこの檻から出ぬ。その気になれば出れるじゃろ?」

 鬼極は檻の中へ入ろうとするが、真後ろに立っていた男の気配に驚き身を翻し距離を取る。

 「なんじゃ…術師殿であったか…驚かせないで欲しいのぅ――」

 鬼極はゆっくりと檻の中へと入りその後ろを付いて歩くように魔術王も檻へと入る。

 檻の中は真っ暗の筈ではあったが、辺りからの多くのぼた餅が集まりスクリーンの形へと変わり外の様子を映す。

 そこには、燃え盛るレオンの姿が映ると魔術王はぼた餅が変化した椅子から転げ落ちる。


 「どうしたんじゃ? 術師殿」

 「むん? ぼた餅達が何かしたか?」

 魔術王は首を横に振り、スクリーンを指差す。

 「まさか……この魔術王以外にも、こんな高度な魔法を造り出す人がいるなんてなー。全く……知らぬ間に時ってのは過ぎてるもんだな」

 魔術王が椅子に腰を掛けると、後ろから黒が檻の中へと入ってきた。

 「お…主殿」

 「むん……黒か」

 黒は真っ直ぐ突き進んでいき、魔術王に尋ねた。

 「レオンの使うあの魔法は何だ……オッサンが作った魔法か?」

 黒は尋ねるが魔術王は「オッサンじゃありませーん」と言うと、檻から出ようとする。

 「教えてくれ、魔術王。あの魔法は何だ」

 魔術王は笑みを浮かべ黒に近付くと、右手からナイフを取り出す。

 「今…僕はナイフを取り出した。しかし、3人の目でナイフを懐から出した様にみえたか?」

 3人は首を横に振りる。

 「原理は簡単。今のナイフを取り出したのではなく、()()()()()()()()()()()()()

 その発言に黒と鬼極は驚く、その隣で黒竜は魔法の正体を見付けた。

 「――むん【()()()()】か」

 魔術王は指を鳴らし黒竜の頭を撫でる、次の瞬間黒竜のボディブローにより地面に倒れる。

 「そ……つまりは、このナイフと同じで彼の記憶や魂の情報から幾つもの現象や魔法を顕現させた。だけど、見た感じ彼は魔法が使えない。しかし、彼と唇を合わせた女の子が自分の魔力に魔法を込め彼の中に流しこんだ。これなら辻褄があう」

 「魔法の継承なんて、キス1つで出来るのか?」

 黒は考え混んでいると、魔術王が黒の胸に目掛けて魔力弾を放つ。

 「ッ! 何しやがる!」

 すると、先程までボロボロだった黒の体が徐々に回復率し始めた。

 その光景に黒と二人の魔物は驚く。

 「今のように術者本人が念じ込めれば、誰にでも与えられる。彼女がレオン君…だっけ? 彼の体に唾液と一緒に魔力と魔法を込めれば継承なんか簡単。しかし、魔法があまり使えない彼でもあれ程の高度な魔法を使うとは――魔法事態が強力だと言う証拠だ」

 いつの間にか消えていた黒にため息を溢しつつ、魔術王はレオンの姿を見詰める。





 風の様に業務の隣を翔るレオンは燃え盛る拳を何度も叩き付ける。

 「ぐぅわぁ……ぐぅお!」

 教授は転げ回り、体を燃やす炎を払う。

 その隙にレオンは何発も攻撃を仕掛ける。

 「クソガキがぁ!」

 教授は何度も腕をレオンに向けて伸ばすが、全て炭へと変わりその分手薄になったことにより攻撃が更に入る。

 激しい攻防ご続き、黒がレオンの所に着く頃には教授の体の半分に火傷で占めていた。

 黒は真っ直ぐ教授の元へと進むが、レオンが黒の前に立ちその場で止まるように指示する。




 「――ガキのくせに……ワシを見下すでない! ワシは世界最高の頭脳を持った。天才じゃぞォ!」

 教授の体は徐々に収縮していき、痩せ細い老人の体つきに変わる。

 「何だ? 痩せたジジイになっただけじゃねえか」

 教授の気味の悪い笑みを浮かべ、二人に向けて歩みよる。

 「黒……警戒しとけよ。天才とか自分で言ってる時点で、策があっての行動だ――来るぞ!」

 二人に向かって飛び付く教授の顔に黒は構えるが、レオンが黒の前に出ると片手で地面を数回叩き足下から一際大きな石壁が現れ教授とぶつかる。

 透かさず、横から飛び出た黒が教授に向けて魔力を帯びた斬撃を飛ばし貫く。

 教授は貫かれた箇所を押さえその場で血を撒き散らす。

 両サイドから同時に二人の動きに教授は対応出来ず、懐に潜り込み防御する隙を与えぬ二人の攻撃の素早さに教授の動きが止まり一瞬隙が生じる。

 しかし、レオンは教授の発する以上なまでの殺気を感じ取り、黒の襟を咄嗟に掴み飛び出そうとした黒を止める。


 「ッ! 何しやが――」

 黒が襟を直しつつレオンの隣に立つと、目の前の教授の体が徐々に膨れ上がり筋肉が盛り上がる。

 「ワシを怒らせたんじゃ……覚悟せえよォ」

 徐々に膨れ上がる体に二人はうしろに飛び退き構える。


 「ワシが使える、最強の魔法を見せちゃる!」

 教授の体の筋肉が何度も収縮を繰り返し、その大きさを変えていく。

 何本もの腕が体を包み込み、更に体を大きくさせる。



 「コレがワシの最高傑作の魔法――()()()じゃ!」



 「骸……魔法?」

 黒とレオンが二人共同じように、首を傾げる。

 「そうじゃ――骸魔法じゃ!」 


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