三章十四節 手加減の無い戦い 前編
結界付近では警備員達の攻防が繰り広げられていた、攻める化け物と守る警備員。
しかし、化け物の多さに西欧側の陣営は少しずつ結界の方へ押し返されていた。
「これ以上進ませるな! 何としても」
警備員の決死の防衛も無駄かのように、数対の大型が結界目掛けて突っ込んで来た。
多くの魔導師や警備員は正面から自分達を踏みつけに来る驚異に、完全に心を折られ死を覚悟した者も少なからずいた。
しかし―――それを許さない存在が彼らの目の前に現れる。
「――諦めるのはまだ早い! 死を覚悟しても諦めなければ、反撃の糸口だって見えて……くるもんだ!」
そこに立つ男の名を西欧に在席する者で知らないものはいない。
「遅すぎますよ……サーフェス会長」
「悪いな……道に迷ってた」
大半の西欧生徒はサーフェスのいる所へと向かい、涙を浮かべサーフェスの帰りを喜んだ。
サーフェスの回りには生徒が集まるが、その後ろからは大群で迫る化け物も見える。
サーフェスは生徒の背中を押し結界の中に入るよう言い、1人結界の外に残る。
迫る化け物達に臆せずサーフェスは一歩一歩前に進む。
化け物が道を塞ぎ襲い掛かろうともサーフェスはすらりと躱わし、進む。
ちょうど中心にサーフェスが立つ、四方八方見渡す限りの化け物の中でサーフェスは拳を構える。
「風魔法【暴嵐の両腕】」
サーフェスの体全体に竜巻のような風が集まり両腕を包み込む。
「ウラァ!」
サーフェスの拳や足が四方を囲む化け物をミンチにしていく、雪崩のように迫る化け物がサーフェスの間合いに入ればたちまち体は崩れる。
化け物達は結界に向かっていた足をサーフェスに向け再度囲む。
サーフェスが幾ら化け物の数を減らしたとしても、何度も何度も結界とサーフェスに向けて進む。
「レオン! 俺がサーフェスの所に行く、お前は結界付近で化け物の進行を止めてろ」
サーフェスの周りに集まる化け物を血燐で切り裂きながら黒は間を振り抜け突き進む。
結界周辺では多くの魔導師と警備員が奮闘するなかで、化け物達を従えた3人の内1人が黒を見詰めたまま拳に力を入れる。
「……それじゃあ、作戦通り。鬱陶しいサーフェスと黒を叩こう」
その言葉が聞こえると、黒の真上に向かってフードを被った女が大気を蹴る。
黒は化け物の相手をしながら、サーフェスの近くに向かったいたが背後に迫る殺気と自分を押し潰そうとする魔力を感じ取り跳躍して殺気から逃げる。
しかし、それを見据えていたかのように黒の目の前に三又槍の穂先が煌めく。
「――お前を……殺す!」
「――食らえ【鬼極丸】!」
黒は魔物での筋力強化を掛けた渾身の振りと、女の持つ槍がぶつかり火花と共に衝撃波が辺りの塵や砂を吹き飛ばす。
両者が火花を散らすその場は、二人以外に立ち入ることの出来ない空間が完成した。
刀を振れば槍の穂先を弾き、槍で突けば刀の剣先を反らす。
互いに一歩も引かない攻防一体の戦いが続いていたが、女の息が上がってきて尚且つ先程よりも槍での突く速度が落ちた所を黒は見逃さなかった。
血燐で三又槍を弾き飛ばし、女の頭を裁とうとしたがすんでで躱かされフードを切り裂く。
フードが無くなり顔を被い隠すが無くなっり黒の目に女の素顔が映る。
「嘘だろ……」
その隙を突き女は黒を蹴り飛ばし槍に手を掛け、黒に向け投擲する。
一瞬の油断が招いた隙は大きく、先程まで優位な立場だった黒が押され始める。
「……くッ! のやろ……【鬼極】!」
全身に掛けていた鬼極の強化を一旦足に集中させ、その場から退散する。
「……させない」
女は地面に槍を突き刺し、建ち並ぶ木々を足場にし跳躍すると透かさず空中で体を捻り黒の首目掛けて足を叩き込む。
あまりの動きの速さに黒は防御どころか女の動きに反応すら出来なかった。
首を襲う激痛に耐えつつ黒は身を翻し、地面に着地する。
「――ぐがッ!」
首を伝い全身に回る痛みに耐え、地面に着地する。
そして、正面から堂々と黒と相対する女を見詰める。
「全く、できたら嘘であって欲しかったな。―――ミカ」
女は黒の声に反応せず、ひたすら黒に向かって進むだけであった。
結界の中ではレオンが結界周辺で戦う者達の全指揮をしていたが、目の前で火花を散らす黒と女との戦闘に驚き、そして自分の目を疑う。
「何で……ミカがそっち側何だよ……」
震える手でミカに手を伸ばす。
ミカの立つ側は化け物達がひしめく場所だと言うことは、レオンも理解している。
それでも、目の前にいる元Sクラスのクラスメートに駆け寄ろうとする。
「レオン隊長、正気ですか!?」
部下の1人がレオンの腕を掴み、結界の外に出ようとしたレオンを捕まえる。
「隊長は分かってるのか……俺達警備員の大半は魔法すらまともに扱えない。この場ではほぼ一般人の俺らが結界の外に出たらどうなるか。……満足に戦えないって事はあんたが一番分かってるだろ? そんな俺達が飛び出したら魔導師の皆さんの足手まといになります……ここは黒さんに任せましょう」
どうにかして部下の腕を振り払おうとするが、何人もの部下達によって身動きを封じられ、レオンはその場に崩れるだけであった。
「目の前には……俺と黒以外にも無事だった奴が生きてた。Sクラスのミカが居たのに、この手でアイツの目を覚まさせることすら出来ないのか……」
地面を強く叩きつけ、その場でレオンは己の無力感を痛感し叫びだしたい気持ちを抑える。
その頃サーフェスはミカを除いた二人組を睨み付けたまま様子を伺う。
「……全く、私が考案した計画が狂いました。どう責任を取るつもりで?」
眼鏡を掛けた白髪の男の両腕からは鉛色の液体が滴り、その場に鉛色の池が出来上がる。
「コイツは……僕がやる。確か……けいかく? だったらレオンは僕の獲物だけど、コイツも僕の獲物にする」
少年は隣の青年と同じ色のボサボサ髪をかきむしり、サーフェスを睨み付ける。
「おいおい…そんなに睨まないでくれ、俺も……。――少し本気になっちまうじゃねぇか」
サーフェスは肩の力を抜き、息を吐くと同時に目にも止まらぬ速さで間合いを摘める。
「隙が有りすぎだ。バカが―――」
サーフェスの拳が二人の腹部にねじ込む、間髪入れずに蹴りで二人の防御が薄い箇所を的確に攻め一人一人確実に仕留める。
二人は一旦距離を置き、サーフェスの追い討ちを警戒した二人は、サーフェスから目を離さずに徐々に距離を詰める。
しかし、サーフェスの圧倒的な戦闘センスに圧倒されつつあった。
「コイツ……僕達二人係でも勝てない相手だよ。どうする?」
「全く、つくづく西欧のモルモット供は……俺らを怒らせるのが上手いな」
眼鏡を掛けた男は上着を脱ぎ捨て、縫い傷だらけの体をサーフェスに見せ付ける。
サーフェスは縫い傷だらけの男から距離を置き警戒する。
徐々に男の体は膨れ先程まで池なっていた鉛色の液体が、男の方へ向かって集まる。
「――くふふふ……くははははッ!」
男は掛けていた眼鏡を握り潰し、膨れ上がる体の縫い傷からは鉛色の液が体内から漏れ出す。
男の体は体外と体内から鉛色の液体が包み込み、その容姿をおぞましい化け物へと変える。
「君がその姿になるんだったら……僕はけいかくに従うね。彼の願いだから」
ボサボサ髪の男はレオンがいる結界に向かう。
「させるか!」
サーフェスは隣を通ろうとする男に手を伸ばすが、目の前の鉛色の化け物がそれを阻止する。
「オマエノアイテハ……オレダ!」
鉛の化け物と化した男は声すら化け物に成り果てる。
「なるほどね……その縫い傷は、お前の体に魔法的処置をした痕って訳か」
サーフェスは軽くジャンプし風魔法で全身に纏わせ構える、数分の沈黙の後に化け物が踏み込むとサーフェスは化け物に合わせるように飛び出す。
ミカと黒の戦闘が激しさを増し、辺りに待機する化け物にも影響が表れ始める。
血燐が幾度も槍の突きを受け流すが、その度にミカは三又槍を巧みに操り黒の四角から突きや薙ぎはらうなどで、黒を追い詰める。
しかし、黒も隙の無い動きでミカの槍捌きを巧みに弾く。
「なんで……本気で相手をしない。それほど、取るに足らない相手だと思ってるのか!」
ミカは槍を強く握り締め、黒の間合いを警戒しつつ黒の急所を的確に攻める。
何度も黒の首や脇の下、動きを止めるために目や足を積極的に狙うが黒は容易く躱わす。
そして、ミカの体力が切れ槍を杖がわりにして体を支える。
「これで、分かったろ? お前が幾ら鍛練や何らかの処置を受けたとしても、俺本来のスペックの差は埋まらないどう足掻こうともな――」
黒は血燐を鞘に納め、ミカに向け手を差し伸べる。
「ミカ、帰ってこい。今ならまだ間に合う……だから――」
「うるさい……!」
ミカは槍の柄をより一層強く握り締め、黒を睨む。
「お前は、忘れてるだろうけど……お前のその顔を私は一度たりとも忘れた覚えはない!」
三又槍に魔力が集中し徐々に形を変え、ミカの単なる魔力がその槍を優に越える巨大な三又へと変形する。
「一族の恨みと共に……消えろ。――黒竜帝!」
槍を黒に向け投擲。
空気を裂き、空間をねじ曲げる程の魔力濃度に近くの化け物達は次々と体が砕け散る。
槍の先端だけではあるが、魔力によって形作られた物であれば大抵の人間並ば死に至らしめる。
しかし、ミカの放った槍が纏う魔力濃度であれば、跡形も無く塵へと変えることが可能。
それほどの魔力の前に黒は血燐を手放す。
しかし、手放しただけで――諦めた訳では無い。
「小さい頃から川柳に教え込まれ鍛えられた果てに、自然と身に付いちまった、この術。使い道無いと思ってたけど――合ったじゃん」
黒は両足の間隔を少し広げ肩の力を抜き、上半身の力を最小限に保ちつつ。
下半身に残りの力を入れる。
目の前に迫る槍に臆することなく、片手で槍を掴む。
『泉流魔式体術』【相手の攻撃を体内の魔力を微調整しつつ制御し纏わせ、相手の攻撃を無力化。または相殺する体術】
本来並ば黒の手は自然に発生する事の無い程の魔力濃度に手が崩壊し砕ける。
しかし、黒の手は一点に研ぎ澄まされた強固な魔力の営業日で砕けずに魔力で形成された槍の穂先を掴み、片手でミカへと投げ返す。
その光景には、もちろん殺す気で投げたミカもそうだが、遠くから眺めていた教授を震え挙がらせる。
「ミカちゃんの渾身の魔力を纏わせた槍を片手で止め、尚且つ投げ返すとは……面白い! ますます彼の体が……血が欲しい!」
機械仕掛けの教授の瞳が輝く。
「――ミカ。お前がこのまま西欧や俺達に危害を加えると言うなら、俺は手加減しない」
手放した血燐を拾い血燐をミカに向ける。
「――ここから先は、手加減無しだ」




