三章十三節 フードの少女は笑みを浮かべ西欧を眺める
第二防衛地点に向かって来ていた化け物の数が格段に減った事に黒達は直ぐに気付いた。
「……一体何がどうなってんだ?」
黒は血燐を鞘に納め首を傾げる、その隣でレオンも首を傾げるがこの期に乗じて結界の修復など体勢を建て直すように命令を出す。
再度結界が貼り直される中で黒は1人敵が消えていった方向を静かに見詰める。
「あーあー。私もブェイ見たくこくりゅうと戦いたかったなー」
マギジは自分の周囲を囲む化け物達を空間魔法で削り取る。
マギジがその場で踊り子の様に回る度に化け物達の体は異空間に削られ、ただの肉塊となる。
「ひまひまひまー。私もつまんないジジイの監視より、こくりゅうの相手したかった……ガーッ!」
マギジは自分を襲おうとしていた対象物がいなくなり、その場で駄々をこねる。
「攻めたい攻めたい攻めたーい!」
更に駄々をこねるマギジにブェイはイライラしていた。
「何で俺がこんなくそ女と組まないといけないんだよ……恨むぞ暁」
しかしブェイには暁を恨む時間は無かった、先程まで黒達の方へ攻めていた化け物の集団が一斉にマギジとブェイ目掛けて向かって来ていたのだった。
咄嗟にブェイはマギジの腕を掴み、後方へ投げ飛ばす―――。
「……おい…おいマギジ!」
マギジの耳元でブェイの声が響く。
目を覚ますと、目の前で焦るブェイとブェイを中心に歪な形に変形した岩石が化け物達を串刺しになっていた。
マギジは辺りに散らばる化け物の死骸に驚きつつも直ぐに、ブェイの使用した魔法について問い掛けた。
「――今の魔法って何!? ブェイって強化系の魔法しか使えないとか言ってたのは嘘なの? ねぇねぇ!」
ブェイは「しまった」と心の中で呟き殴って静かにさせたい気持ちを押さえ込み、向かって来るマギジの頭を掴み押し返そうと力を入れる。
「あーめんどくせぇ! 少しは黙ってろ、この魔法オタク。俺の魔法何てどうでも良いだろう……それより、目の前の敵に集中しろ!」
ブェイは自分達に向かって来る化け物を見詰めるが、マギジはお構いなしとブェイに顔を近付ける。
化け物達はそんな二人の隙を突こうと飛び付くが、地面に向かって頭から落ちる。
化け物達は不思議に思っているが、足が地面から離れた瞬間に両足は切り落とされ両腕も同じタイミングで切られたのには気が付いていなかった。
化け物達が地面から見上げれると、刀を手に持つ暁が立っていた。
「グゥガァァァァァ……!」
化け物達は一斉に吠えるが、暁の刀が化け物達の首を切り裂き辺りは静まり返る。
暁の刀は化け物の血で赤く染まり、振るだけで血が辺りに飛ぶ。
「さぁ、二人共……行こうか」
暁の瞳には化け物の中からこちらを見詰める二人組が映るだけであった。
マギジとブェイは三人を囲み今すぐにでも襲い掛かろうとしている化け物を睨み、暁の前に立つ。
「二人とも、回りのゴミ掃除は任せたよ。――僕は、高みの見物をしている彼らを相手にしないと」
刀身を手で撫でながら暁は、二人組に向け刃を向ける。
「任せとけ――暁」
肩を回し首の骨を鳴らし、久々の立ち合いに興奮を抑えられずブェイは笑みを浮かべる。
「はー……私はくろりゅうと立ち合いたいのに、こんなのばっかだと腕が鈍る!」
マギジは頬を膨らませ、地面を何度も踏みつける。
「まさか……! この僕らとアイツらやり合う気だよ……」
「私達に挑むのは結構ですが。こちらにも予定があることを忘れないで下さいよ」
黒ローブに身を包んだ二人組は静かにこちらを見詰める暁を見詰め返す。
暁と二人組の戦闘が始まってはや一時間が立っていた、辺りの茂みや木々は薙ぎ倒され、地面は抉れ砂埃が辺りに立ち込める。
暁が刀で黒ローブを徐々に傷付けるなかで、暁の服にすら傷を付ける事すら出来ない二人は、時間が立つに連れて焦りが見えてきた。
「なッ……、何故当たらない! こちらは二人係りだぞ、あり得ん!」
二人はナイフや銃を巧みに扱い、暁の四角やタイミングをずらした攻め方で幾度も攻めるが、一向に暁に攻撃が当たらずにいた。
「コイツ……強い……」
二人は更に攻撃の手を速めるが、暁は二人に合わせるように動きを速め尚且つ的確に二人の服に刃を掠めさせる。
「さっきまでの威勢はどこに行っちゃったの? ――もっと僕を本気にさせてよぉ!」
暁は刀を振る速度を速め二人の服を切り刻む。
しかし、暁の目には服の残骸が残っているだけであった。
「本日はここまで、失礼します」
「悪いけど……お前とやるのはここまでだ。――次は潰す…」
暁の目の前からローブを脱いだ二人組の姿があった。
「良いんですか暁さん、逃がしちゃっても?」
しかし、暁は満足気な顔で答える。
「彼らは、黒ちゃんがいや……西欧側に任せようか」
暁は刀なを鞘に納め空間魔法で異空間に刀を放り投げる、それのは別に銃やその他の武器を取りだし二人の前に落とす。
「んじゃあ、俺らは……西欧を潰してる隙に後ろからあのジジイを叩くと」
ブェイは手に取ったショットガンに弾を装填する。
「やっとあのくそきょうじゅを叩きのめせるー。ヤッホー!」
マギジは拳銃二丁を指で回し、笑みを浮かべる
「さて、黒ちゃんの方はどうなってるかな? 殺られてたら、蘇生しに行かないと……誰かの代わりにね」
暁は背後を振り向き、空間の切れ目に話し掛ける。
『…悪い人……黒…………死な…ない』
掠れたように切れ目から声が聞こえ、暁は切れ目に向け笑みを浮かべ「だよな」と言う。
暁達は山の麓から降り西欧へと向かう、途中には多くの化け物達が三人の行く手を阻むが難なく突破する。
そうして、西欧に近付き暁が一際大きな岩に登りその上から西欧の現状を眺める。
「やってなぁー……頑張れ黒ちゃん」
西欧へと向かっていた化け物が来なくなってから、約4時間が過ぎ頃に『西欧へと向かう巨大な一団を確認』との報告を受ける。
「お前ら、気合い入れ直せよー。さっきまでの奴らとは違うかもしれない」
レオンはかじっていた携帯食料を飲み込み、双眼鏡を手に取る。
正面には大型や小型の化け物達が西欧に向かって走って来ていた。
数はそれほど多くはないが、進行スピードは想像を絶する。
「直ぐに支度しろ! 迎え撃てる者は迎え撃て!」
次々と結界目掛けて走る警備員と魔法で空を飛ぶ魔導師達、その後ろをついて行く黒は血燐の他に数個のドライバを持ち戦場へと向かう。
その時、ふとして向いた先に暁がこちらを見詰めていたのに気付く。
暁を見掛けた瞬間に胸の奥からグツグツと怒りが込み上げて来たが、深呼吸をして自ら怒りを抑え込む。
「黒ちゃんも成長したんだね。僕を見ても野生動物みたく襲い掛かろうとしないなんて」
嬉しそうに黒を眺める暁はその場からゆっくりと背を向ける。
「後は大丈夫かなー……行こう二人共」
3つの影は森へと消え、暁の笑みだけが森の中できらめく。
「――あっ……そうだそうだ、忘れてたー」
マギジは懐から取り出した小型カプセルを空高く放り投げる。
「んじゃ……がんばってー」
煙から解放されたサーフェスは回りを見渡し、状況の整理を始める。
「ここ……どこ?」
結界は現在の第二防衛地点から少し前に設置されており、第二防衛地点から直ぐに応援と物資が運ばれ、どんな緊急時にも直ぐに対処できていた。
「正面より、さらに敵の増援です! その数約35……万……です」
弱気になった新米警備員の頭を小突き、レオンは一歩前に立つ。
「たったの万単位だろ? 楽勝楽勝」
レオンは屈伸などで体を伸ばし準備運動を始めるが、唐突に後ろから黒の蹴りが飛ぶ。
「てめ…黒何しやがる!」
「はい! その油断が命取りになりまーす……現に俺ら二人共、一発食らってんだからよ」
その言葉通りにレオンは部下達の目の前で敵の魔法にはまりその上、致命的な程の傷を負った。
黒にいたっては油断が招いた結果だ。
それらをふまえると、相手の戦力は化け物だけでなく『超人並の力を持った人間』が敵側にいる、そうレオンは考えた。
現段階ではこちらよりも数が勝っている化け物達と互角にやり合えている、いずれは敵側の人間も動くであろうがレオンの考えとしては、今の内に敵の親玉を叩くのが得策だと黒に言う。
しかし、黒は「敵の残り戦力など細かな情報の無い今は迂闊に動かない方が良い。ここは戦線を維持したまま様子を見るべき」とレオンの意見に反対する。
二人の意見は割れ、まとまらない意見に魔導師と警備員の数名からは溜め息が溢れる。
だが、言い争いをしている時間を敵は与えてはくれなかった。
「北西より敵さらに増大! それに続いて北東からも敵が押し寄せて来ています!」
情報通り、校舎の窓から遠目に?見える化け物の数の多さに生徒は当然震え教師絶句する。
北西北東そして北から西欧に向けて進む化け物の数は、先程までとは桁外れであった。
「総力戦とかってレベルじゃねぞ……これ」
レオンは咄嗟に隣に立つ警備員の双眼鏡を奪い、双眼鏡で化け物の正確な数を確認する。
「ふざけんなよ……敵さんはあんな量隠してやがったのか」
レオンはふと気付いた。
もしもあの時、黒の意見を聞かずに化け物めがけて突き進んでいたら、まず間違いなく四方を囲まれていたであろう。
化け物達は進むに連れてその数はさらに増やし、ほぼ軍隊と同じ数になっていた。
その中で、化け物達の指揮を取る二人の人間が見え双眼鏡越しでもわかる程のオーラをレオンは感じた。
「黒、敵さんは全戦力ぶつけに来たぞ……」
レオンは足早に校舎へ集めれるだけの警備員と魔導師を集め、作戦会議を始める。
レオンが会議中なのに対して黒は結界の外に徐々に集まり出す化け物を見詰める、化け物の中から感じる覚えのある魔力と不気味な魔力が合わさった魔力に黒は違和感を覚える。
「――レオンは何も感じない…俺の気のせいか?」
結果の外から黒の魔力を感じ取ったフードの女は歯ぎしりしつつ黒を睨む。
「本気の……黒竜帝」




