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難攻不落の黒竜帝  作者: 遊木昌
三章 骸の繭と魂の革命家
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三章十二節 反逆への道

 第一防衛地点は崩れ、第二防衛地点には第一以上の敵が攻め込んで来ていた。

 対する魔導師や警備員の数は先程に比べて数は増えた。

しかし、数が増えただけで、人間の倍以上の硬さを持つ大軍勢の前では()()()()()が増えただけであった。

 それほどに戦力差があり、それを補う筈のレオンが負傷そして黒は、腹部に穴を開けられた状態で見付かり、数人の回復系の魔導師が付きっきりで回復のおかげで一命はとりとめた。

 それでも、防衛の要であったレオンと黒を失ったのは西欧側にとってはこの上なく苦しい状態へとなり、第二防衛地点も突破されるのも時間の問題だった。

 そんな状況でも、西欧学園では慌てることなく準備を着々と進めていた。


「黒さんの捜索は私がやります。皆さんは出来るだけ進行を押さえることに集中してください」

「俺ら警備会社は、手の空いた者から防衛地点に走れ! レオン隊長が寝てる間に手柄を奪いとっちまえ!」

警備員は各自で準備した者から順に防衛地点に向かう。

 それを遠目に見つめるレオンは、ベッドの上で医療系魔法による集中治療が行われていた。

「どの位で俺の傷は完治する?」

レオンは治療を行っている、女魔導師に尋ねる。

 しかし、魔導師達は揃って口を閉ざす。

「……そうか」

レオンは薄々気が付いていた、もしもこのまま戦場に戻った所で何も変わらない。

 戻ったとしても傷口が開き今度は完治する保証も無い、ましてや傷口を開いた状態で敵を退けさせる事など。


 無謀過ぎる


  「――黒の野郎。どこで寝てやがんだ」

レオンはシーツを強く握り、奥歯を噛み締める。




 ――その頃、黒はまたもや庭園(エデン)内で目を覚ます。

辺りは暗く、音は聞こえず何も無いただ闇が広がる空間がそこにあった。

 黒はゆっくりと起き上がり辺りを見回す、当然何もなく黒だけがその場にいるのみであった。

「――暗いな。まるで、俺の心の中みたいだな……」

黒は闇が自分に向かって集まるのを感じていた、足下から自分の体を包み込むように闇は黒を飲み込み侵食する。

 (このまま――死ぬのか――)

黒がそう諦めかけたその時、黒の目の前が黒一色から見渡す限りの草原が広がり、黒を侵食する闇が晴れる。

 目の前の現象に理解が追い付いていなかった。

しかし、黒は()()()()()()()()()()()()

 見渡す限りの草原と見上げれば澄みきった青空、背中を押すような心地良い風。


 「…未来……未来!」

黒は草原を駆け出し、脳裏に浮かぶ少女を探す。

 「未来! 未来どこだぁ!」

涙が止まらない、いくら拭っても滝のように頬から滴り落ちる涙。

 涙を拭いながら草原を走る、広大な草原の中でたった一人の少女を探すために。

 「どこだ! 未来…どこにいるんだ……」

黒は声を挙げ少女の名を呼ぶ。

 すると、一際目立つ巨大な大樹が遠目から見え、その下の木陰に少女の姿が見えた。

 「未来!」 

黒は大樹目掛けて草原を走り、少女の元に駆け寄る。

 しかし、少女の目の前で体は止まってしまい思うように動けずに、少女は黒から離れていく。

 「ま…待ってくれ! 未来!」

黒は全身の力で辛うじて動いた腕を伸ばすが、少女は見向きもしなずに大樹を登り、枝に実る虹色に輝くリンゴを掴み取る。

 少女は美味しそうにリンゴを食べており、その姿を見るしかない黒は、首に力を入れ上を向こうとする。

 しかし、少女の顔には靄が掛かっており顔の輪郭がうっすらとしているだけであった。

 風にな靡く髪の色は未来の栗色と一緒だという事から未来の可能性が高いが、顔が見えないので確証は無いが黒には分かる。

 「未来……。これが幻でも、君に会えただけでも嬉しいよ…」

すると、少女は黒の頬に細い指が触れる、少女の手の暖かみに黒は再度涙を流す。


 「黒ちゃん。起きて…」


声が聞こえ、黒は顔を挙げ声のした方を向く。

 目の前には、靄が晴れ整った顔立ちの()()()()が黒の目に映る。

 その事実に黒は嗚咽を漏らしながら大粒の涙を流し、ゆっくりと自分の手で未来の頬に触れる。

 「やっぱり……未来だ」

手から伝わる熱は本物だった。

 「未来…俺は……」

黒は伝えられなかった言葉を伝えようとするが、未来の指が口に触れる。

 「黒ちゃんには、やるべき事があるでしょ? なら――こんな所で寝てないで、早く起きないと」

 未来は虹色に輝くリンゴ新しく取り黒に渡す。


 「今度は、黒が私を見付けて。絶対だよ……」

黒の胸に抱き付き、未来は涙を流す。

 「未来……?」

未来は黒の胸から離れて満面の笑みで笑いうと、黒の胸を押し闇の中へ押し戻す。

 「未来……未来! そんな、嫌だ! 未来、未来!」

黒はまとわりつく闇を必死で払うが、闇は徐々に黒を呑み込み、未来は黒には聞こえない声で「さようなら」と告げ、背を向ける。

 黒は闇に呑み込まれるその瞬間まで、未来に手を伸ばす。



 「――未来!」

目が覚め、伸ばし腕は虚空を掴む。

 頬には微かに未来の暖かみを感じていた、そして未来が渡した虹色のリンゴを手に持っていた時点で、黒は先程の現象は未来が何らかの方法で起こしたと判明した。

 黒はリンゴを噛み付き、無我夢中で貪る。


 貪るのは、ただ単にお腹が空いたのかも知れない、それとも――

 流れる涙を堪えるためなのかもしれない。

黒はリンゴを平らげ、両手を合わせる。

 次の瞬間、黒を背後から襲う化け物達を両腕で首ごと叩き折り、それに続くように現れる化け物を次々と流れるように蹴散らす。

 その姿は獰猛な獣だが、その身から流れる出る魔力は精練された刃の様だった。

 化け物達はその姿に恐怖を抱き第二防衛側に逃げるが、透かさず黒の魔法が化け物達の背後を襲う。


 「炎魔法【灼弾(ヴォル)】」

 黒の指から放たれる炎の弾丸は化け物の体を突抜るが、その勢いは収まらず建物を燃える、黒は水魔法で火を消火すると自分の放った魔法に違和感を覚えた。


 「俺の魔法ってこんなに威力あったか?」

 黒は自分自身に何が起こったのか考えようとしたが、そんな時間すら与えないかのように第二防衛地点辺りから爆発音が聞こえる。

 「なるほど、さっきの化け物達は第二防衛地点に貼ってある結界の綻びから入った奴らか……道理で数も少ないし町が無事なわけだ」

 黒は足に魔力を集中させ一気に第二防衛地点へと向かう、その道中には、何人ものけが人や重傷者で大通りを埋め尽くしていた。

 自分の不甲斐なさに黒は胸を痛める、しかし、それ以上に自身の身に起こった謎に気がついた。

 「何で……俺は()()()()()()()?」

暁との戦闘でもそうだったが、あの時はハートや他の騎士によって蘇生されたと思っていた。

 だが、体力や魔力まで全快させる蘇生魔法など黒は聞いた事がなかった。

 では何故『自分は死なない』そんな事を頭の中でグルグルと巡らせる。

 黒は屋根づたいを走り一刻も早く防衛地点へ向かう。


 防衛拠点近くでは、警備員が列を成して化け物に一斉砲火していた。

 その中で化け物達の間を通り、単独で切り込む姿が見える。

 「この魔力……やっと起きてきたか、どこで何してたんだが」

 レオンは警棒と拳銃を駆使して、迫り来る化け物達を流れるように蹴散らす。

 「わりぃ、寝てた」

 黒が来ると砲撃は止まりそれと同時に化け物達も一気に攻め込む、黒は血燐でレオンは拳銃でその軍勢を一掃する。

 「くー……傷に来るな、この多さは」

レオンは投げ飛ばされてきた岩石を警棒で叩き壊す、透かさず逆手に警棒を持ち替え化け物の頭を吹き飛ばす。

 「んなこと言ってたら、この先やってけないぞ」

黒は血燐を地面に突き刺し、闇魔法を纏わせた拳で巨体が特徴の化け物の顎を砕く。

 次々と黒達に向かって集まる化け物の数は増えるが、一向に疲れを見せない黒達に化け物の目を通してその姿を見ている教授は歯ぎしりする。

 「所詮は人間! 何故勝てない、私の技術を全て注ぎ込んだ最高傑作だぞ!」

 机を蹴り飛ばし机に積みかさなっていた書類が辺りに散らばる。

 教授の隣で佇んでいた人影が荒ぶる教授に歩み寄る、教授は者を人影に向け投げるが影はするりと躱し鉛のような液体が教授の手足にまとわりつき動きを止める。


 「落ち着いて下さい教授……向こうには、現役聖騎士(パラディン)の橘と警備会社のレオンがいます。それにレオンは人間でも橘は異族ですそれも()()()並の実験体では歯が立ちません」

 教授は鉛を操る人影に向けて、尋ねる。

 「なら、優秀な実験体なら歯が立つのか?」

教授は不気味な笑みを浮かべる、そのやり取りを隠れて見ていたマギジは空間魔法で瞬時に暁のいる場所に移動する。

 そこは、豊かな花や鳥に囲まれた場所に設置されたログハウスの外だった

 「なーるほど……てことは、あのじいさんは確実に黒竜帝に手を出すな」

 ブェイが皿の上に積まれた豚の肉を平らげながら話す、その隣では暁が椅子に座りながら難しい本を読んでいた。

 「どうするの、暁さん?」

マギジは暁に歩み寄るが、暁の表情が殺気だっていることに気が付き一歩下がる。

 「あのくそジジイ……計画上、今黒には死んで貰っちゃ困る。マギジあの生徒会長を解放してあげて、それでも教授側が優勢だったら僕らで片付けよう」

 「はーい!」

 マギジはスキップしながら、ログハウスの扉を開け再度別空間に飛ぶ。

 「ここから先、最悪の場合西欧と教授を相手にしないとならない。二人とも殺さない程度に殺す気で……」

 「つまり、半殺しだな」

 「ブェイは品がなーい。暁さんの計画通りにしてよ」

 マギジはブェイの肩を殴りつつも笑みを浮かべ、暁の隣に歩み寄る。

 ブェイはマギジを軽くあしらい暁の隣に立つ。

 そんな二人に挟まれた暁は、手に持っていた本を閉じ椅子の上に置く。



 「さぁ、世界に反逆しようじゃないか」



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