三章九節 乙女心と墓標への花束
未だに学園内は混乱が続き、絶え間無く聞こえてくる生徒の暴れる声や物が壊れる音。
理事長は混乱を止めたいがどうすればいいのか分からずにその場で困惑する、教師や講師の魔導師も止めようとするが生徒の数が多く太刀打ち出来なかった。
教師の何人かは、その場に座り誰もが諦め欠けたその時――
「――ごちゃごちゃうるせぇんだよ! いちいち叫ばないと会話が出来んのか!」
学園全体に響き渡る大声は、竜の咆哮と言える程に凄まじく窓ガラスは吹き飛び。
声の大きさに驚き、気絶する者まで現れた。
「真偽も定かじゃねぇ情報に踊らされて、更には仲間同士で揉めて……コレが敵の罠だとしたらどうする? お前らは、会長無しだと何一つ出来ないのか? 違うだろ!」
「まず、自分がすべき事は何だ? 自分に何が出来るか考えれる頭位持ってんだろが!」
黒は血燐を鞘から抜き、弧を描くように振るい校舎の上半分を吹き飛ばす。
そのショックに理事長は失神―――
黒は血燐を振るう事で、生徒を黙らせるのには成功するがまたもや瓦礫となった校舎に驚きを隠せない表情だった。
(あれ…校舎ってこんなに脆い?)
気を取り直し、黒は血燐を鞘に収めて大声で生徒に呼び掛けた。
「まだ暴れ足りない奴は出てこい、今度は俺が相手だ…」
その場に居合わせた生徒は、黒が発する異常までの魔力量とその質に驚きを隠せないでいた。
――そして、西欧学園では類を見ない非常事態に陥っていた。
会議室に集められた、現西欧Aクラスの生徒がズラリと並ぶ椅子に座り理事長が何故自分を招集したのかという疑問を抱きながら理事長を待っていた。
「理事長先生は、なぜ我らも同席するように言ったのだろうな?」
講師の魔導師の先生達ですら現状を理解出来ておらず、困惑した状態で理事長を待っていた。
すると、会議室の扉が開き―普段から行事関係を秘書に任せていた理事長直々の登場に会議室の空気が重くなる。
隣に立つ秘書は、曇り顔で入ってきた事に生徒は驚きつつ事の重大性に唾を飲む。
「現在の西欧は会長不在と言う有り様…本来ならば、代理の者を立てるべきですが、現時点では西欧を引っ張って行ける程の人材はいません。そして、会長の所在と生存を確認する手段も無い今。これまで以上に厳しい状況が続くと思っていてください」
理事長の言葉の意味を、その場にいた全員が心に止める。
理事長は長テーブルの一番奥に座り、隣にいた秘書が全員にお茶を出す。
「会長不在の件よりも先に優先される事は、何時如何なる時でも敵の奇襲に対処出来るように部隊を作る事です。作る部隊は3つ」
理事長の提案に驚きつつも首を傾げる者が少なくはなかった。
しかし、全員とまでは行かないが、皆真剣に理事長の話に耳を傾ける。
「3つの部隊の主な役割は、まず第Ⅰ部隊は常に校舎の見回りと警備です。警戒を怠らず少しでも普段と違っていた場合は報告と可能ならば少数での対応。もしも、少しでも対応出来ない感じたら第Ⅱ部隊に報告その後、第Ⅱ部隊は直ぐ第Ⅰ部隊と合流しそれに対処。第Ⅲ部隊は町の警護と市民の避難誘導、第Ⅲ部隊は常に迅速な行動を求められます」
理事長が説明を終えると、数名の先生や生徒から質問や確認を終え。
会議室からゾロゾロと人が出ていき、理事長が誰もいなくなった会議室に残っていた。
その中で、数名の男達が裏口へ向かって行き密かに話合ってるのを秘書は、横目に睨む。
秘書は会議室でくたびれている理事長に報告する事なく、1人裏口へと向かう。
「―まさか、理事長自ら出払ってくるとはな…次に我らが動くときは、今回の件で確実に動きにくくなったぞ」
「そうですね。どうにかして、3部隊の動きを封じて教授が実験しやすい環境を作らなければ――」
男達は熱心に話し合っていたため、背後に立つ秘書の気配に気付いていなかった。
「―教授とは何者でしょうか。そして、先ほど話に出て来た活動とは何ですか?」
秘書は黄色く光る瞳で男達を見詰める。
秘書を囲うように、男達は咄嗟に動き秘書に小銃やナイフを向ける。
しかし、男達が次に目を覚ました時は、体の至るところを痛め数ヶ所から滴り落ちる血は、致死量とまでは行かないが相当流れていた。身動き1つ取れば無駄に血を流し死を速める状態だった。
「理事長先生……私です。はい…はい。先ほどの者から知り得た情報では教授の仲間が西欧側にも数名いる模様です。黒さんにもお伝えした方が良いのでは? はい…分かりました、それでは」
秘書は端末を閉じ、深呼吸をして呼吸を落ち着かせる。
「―羽伸ばしすぎたかな?」
秘書の目の前には、生々しい爪跡と気絶した男達――
男達の体からは、血が流れる。
流れる血は、不思議と一点を目指して流れる。
血の進む先には、両手から血を滴らせる秘書の足下に集まっていた。
「久しぶりの…遊び相手に少し興奮してしまいました。――ふふ」
秘書は頬を赤らめ、天窓から注ぐ月明かりに照らされて裏口こら中庭へと向かう。
「―あの秘書ちゃん、強いねー。見てた? 目にも止まらぬ速さだよ」
夜風を感じるマギジはフリフリスカートが風でめくれ上がらないように、手で押さえ秘書の後ろ姿をただ眺めていた。
マギジは中庭で興奮の熱を風で冷ましている秘書を後ろから狙っている男達に気付き、男達を風で森目掛けて吹き飛ばす。
「―今の強風凄かったなー…そんな事より! 今後について書類とかまとめなきゃ」
校舎へと走る秘書に手を振るマギジ、いつの間にか隣に立つ暁も同様に手を振る。
「―て…暁さん、いい…いつからそこに?」
「今しがた…秘書ちゃん強いね。今の西欧は黒ちゃんと理事長だけが脅威と思ってたけど、そうでもないね」
暁は常に笑顔だが『殺気』に満ちた笑みはこの上なく醜い、それこそが暁のカリスマ性とでも言える。
狂喜に満ちた笑みはマギジやブェイの様な日に照らされない裏の世界の住人からしてみれば、『太陽』そのものであった。
(この人に付いて行けば、いつか太陽へと手が届く)
そう思い付いて行く者が増えて行き、未だ小規模であるがその中には、並み外れた力を秘めた者で溢れていた。
等と考えていたマギジは不意に口が開き、1人考える。
「――やっぱり私は、そんな暁が好きになったのかな?」
「ん? どうしたのマギジ…赤くなってるけど」
「―ッ! ううう…うるさい!」
マギジは顔を隠すように顔の前で手を振り、心配して近づいてきた暁を殴る。
「マギジ…酷くない?」
しかし、暁の声に反応しなずにマギジは夜の校舎へと姿を消す。
「女の子は難しいねぇ……なぁ、未来」
暁は空間の裂け目に向かってその者の名を呼ぶ。
『………』
「何か言ってみろよ。いや…喋れたとしても、見付かるから喋らない方が良いのかな?」
『黒……を…守………て』
裂け目は一言だけ暁に告げ、消えてなくなる。
その声に反応する事すら出来なかった暁は、校舎を見下ろす満月を見詰め微笑む。
「ホント……女の乙女心? てのは、難しいねぇ。まったく―」
現在の西欧学園では『Sクラス』は存在しない、していたが今は無くなり、あの事件以来理事長も作る気がなかった。
西欧学園の裏には綺麗な花で彩られた花畑なある、周囲を大きな池が広がった小さな花畑―――
―そこには、墓標が立っている。
墓標には、『西欧学園Sクラス生徒』と記されている。
そこに眠っている生徒達の遺族は花束や大きな額縁に入れられたみんな揃っての集合写真が立て掛けられていた。
当然黒の姿は無かったが、隣には黒と撮った写真の数々、女子や男子が混ざって撮った写真等も並ばれていた。
遺族は日も落ち、遺族が帰った後に1人黒が墓標に向かう。
「全く、こんなに写真撮ってたんか。最初は馴れ馴れしくて、鬱陶し連中だったのに、今となって見るといい奴らだったよな。旧制度で下級クラスを弄る所か、下級クラスを守ってたお前らが…何て速い速度で人生を終わらせてんのか不思議だよ」
黒は花束を墓標にたむけ、手を合わせる。
すると、黒の背後に数名の男女がいることに気が付くと、黒は目を閉じ小声で告げる。
「俺が騎士に戻る時には、全部片付いてる頃だ。そこで良く見とけ」
手渡された、マントを羽織ると黒は振り向きつつ祈る。
「行きましょう」
黒の背後には数名の男女が並んで歩く、全員が全員特別強いと言う訳では無いが、伝わってくる魔力は桁違いの物ではあった。
「理事長先生がお呼びです…会長」
黒は会長と呼ばれた途端にため息を吐く
「どうかしましたか? 会長」
更にため息を吐く、全員不思議になって黒に近くと黒は羽織っていたマントを脱ぎ、隣の女子生徒に渡す。
「俺がサーフェスの代理とかあり得んからー。何が『西欧学園生徒執行部会会長代理』だよ、サーフェスの代理とか他の奴に押し付ければ良いじゃん」
全員が揃って困惑している姿に、黒は再度ため息を吐き額に手を当てる。
「―お前らさー、こんなしょうもない事で慌てんなよ。会長補佐ってんなら、そんな柔な奴には勤まんないぞ」
「―はい!」
黒はにっこりと笑みを浮かべ、ゆっくりと理事長室へと向かう。
「黒会長には、ただの顔としての役目を本来すべき筈の業務を全て執行部に任せてください。黒会長には、教授の陰謀阻止と早期解決のために動いて貰います」
理事長は真剣な表情で告げる、黒の後ろに立つ執行部の者達はその威圧的な瞳と魔力の圧にやられていた。
額から流れる汗を必死で堪える様は黒からすれば、何故か不思議と笑いが込み上げてきたのだった。
「そんなに、必死になって堪えた所で理事長の威圧には耐えられんぞー」
黒は理事長に頭を下げ、帰ろうとするが理事長は黒を呼び止め黒以外の者達を下がらせた。
「はい。―レオンさんからの手紙ですよ」
手渡された手紙を手に取ると、黒は笑みを浮かべ手紙を炎で燃やした。
今度は絨毯に着かないように、秘書がカスをゴミ箱でキャッチした。
「何て書いてありましたか?」
理事長が尋ねると、黒は人差し指を立てる。
「秘密だ…」
黒は部屋から出ていき、カスとなった手紙にはこう綴られていた。
「――教授の居場所特定。直ぐに向かうから覚悟しとけ――」
ただそれだけが書かれていた。




