三章五節 瓦礫の戦争
既に崩れて校舎では、激化する黒達と対峙する男との衝突により残った校舎さえも崩壊していき形すらなくなってきた。
拳と拳のぶつかる衝撃は大気を震わせ、蹴りは大気を裂く程の風圧、魔法が銃弾が飛び交うその場所は小さな戦争が行われていた。
男は足下の砂を掴み、黒目掛けて投げ付ける。
黒は砂が目に入る前に腕で防ぐが、その隙を突かれ鳩尾に強力な殴打食らい、全身に痛みが電流の如く走る。
「―――がッ」
黒はその場から数歩後ろによろめくが何とか耐える。
「弱いな……【黒竜帝】ともてはやされるものだからどれほど強いのか楽しみだったのだが―――興醒めだ」
男は黒の額に小銃を突き付ける。
ゆっくりと人差し指が引き金に伸びていき、引き金に指が触れる。
男は火傷でただれた顔半面に手で触れ頬に爪を立てる、火傷で塞がれていた口を頬の皮膚ごとゆっくりと引き剥がす。
無理矢理剥がす皮膚からは大量の血が腕や服を伝い、地面に流れる。
「こんな嬉しい事はない。――僕の顔を焼いた男と同じ、騎士を殺せるんだから………嬉しくて堪らないよ!」
男は剥がした皮膚を放り投げ、開いた口で笑みを浮かべ不気味な笑い声が響く。
しかし、黒は動じず首や腕を回したりして準備運動を始めその場で軽くジャンプする。
「――何のマネだ」
男は治癒魔法で出血を止め、頬を小刻みに震わさせながら右手に握り締めた小銃で何度も何度も黒に向け発砲する。
薬莢を辺り散らばってることなど見向きもしなずに一心不乱に引き金を引く、何度も弾倉をその場に捨てポケットから取り出した弾倉を付けては発砲を繰り返す。
先程までの爆発音や瓦礫の壊れる音は無く、今は男の持つ銃の発砲音だけが、辺りに響き渡るのみであった。
しばらくすると発砲音が聞こえなくなり、避難場所で避難していた西欧生徒は耳から手を離し、辺りを見渡す。
「――終わった……のか?」
1人の生徒が小声で呟く。
その直後、木々を薙ぎ倒す程の突風が生徒達を襲う。
危険を察知した理事長が建てた結界に生徒は守られはしたが、理事長の結界は崩壊寸前であった。
結界を解除すると辺りの地面は捲れ上がり、結界の外にひろがていた豊かな自然の姿は無く、薙ぎ倒された木々は瓦礫となって結界の周りに積まれており突風で運ばれて来た巨大な岩は池を潰し、この前までは綺麗であったのだろが今となっては池に突き刺さる岩によって池は汚れ、辺りには風で運ばれた木々に潰された動植物で溢れていた。
その光景は小さな地獄絵図と言えるだろう
 
「先生! あそこ!」
生徒が指を指す方へ全員が振り向くと、突風が吹いてきた方角から巨大な魔力と小さな魔力がぶつかり合っている事がハッキリとわかった。
理事長は感じとれる魔力を自身の限界以上の魔力探知で周囲の状況を読み取る。
理事長の脳内には、火傷の男が持つ小太刀の猛威を避けながらも果敢に攻める姿が映っていた。
小太刀は集中的に黒の首を狙い隙あらば、脇腹や足を狙い徐々に黒を弱らせ確実に殺しに来ている。
黒は序盤は攻めていたが、二人が戦い初めて一時間が経過した頃急激に黒の動きが鈍くなり防戦一方だった。
「くッ……」
黒は血燐を持つ右手に魔力を集中させ、魔力で出来た巨大な刃を男に向け放つが、男は難なく躱わし懐へ潜り込みほぼゼロ距離からの魔力をぶつける、その衝撃は並の人間では意識を失うものであるが黒は血燐で自分の足を刺し意識を保つ。
防戦一方だった黒は黒に向かって来る魔力の塊を躱わしながら、男との距離広げていく。
しかし、男は跳躍や高速移動を駆使し黒との距離を縮めるためどんなに距離を取っても縮められるのを繰り返すばかりであった。
「くッ………何か。状況を逆転できる決定打はねぇか。―――ッ! 」
黒はあることを思いつき、高速移動で迫り来る男の顔に全身を捻り更に強化魔法で高めた身体能力から放たれる、蹴りの威力は相当なものだった。
蹴りを食らい周囲の木々を薙ぎ倒しながら飛んで行く様は滑稽だった、黒の位置から少し遠ざかった辺りで勢いは止まり顔から大量の血を垂らしながら黒を睨み付ける。
相当威力が強くそれも諸に顔に入って血を流すだけだという所に黒は少し違和感を覚えた。
「――お前さ……人間辞めてるだろ?」
血燐を向け男に言い放つ、男は少し驚くがその顔は不気味な笑みと全身から漂うドス黒い魔力によってそれなりの雰囲気を醸し出す。
男は上着とシャツを脱ぐと、上半身の約半分が顔と同じように火傷でただれていたがそれ以上にその肉体に驚いていた。
「……その体。火傷してて見えにくいけど、微かにお前とは別の魔力が巡ってんな」
黒は血燐を鞘に収め、両手両足にぼた餅を纏わせた事に男は驚く。
「俺に刀無しの体術で挑もうってか? 舐めて掛かると死ぬぞ!」
男は足に力を入れ黒の懐に潜り込むが、動きを先読みした黒の膝蹴りが男が咄嗟に両腕で取った防御体勢を崩し、崩れた所をそのまま頭を掴み地面に叩き付ける。
地面は捲れ上がり、衝撃音と骨の軋む音が黒の耳に届く。
男は負けじと黒の腕を掴み雷魔法を腕に流す、もがき苦しみ力を弱めた黒にお返しと言わんばかりの力で同じく地面に叩き付ける、黒は魔法の影響で反撃所か抵抗出来ないまま地面に押し付けられた。
 
「隙あり!」
男は背後から放たれた銃弾を跳躍で避ける。
着地と同時地面が捲れ上がり、四方位からの同時攻撃に一瞬だけ身動ぐがすぐに上へと跳躍、そこを狙ってたとばかりにレオンのラリアットが男の首目掛けて迫り来る。
男の首からは生々しい首の骨が軋む音が聞こえる、そう確信したレオンはそのまま背後に周り込み首を締め付ける。
「そのまま、落ちてくれよ」
地上に落ちる前にきめようとしたが、レオンの足を掴みそのまま力任せに振りほどく。
「――んな!」
レオンは振り回される前に男の首から腕をほどき、距離を取るが着地と同時にレオンに向け跳躍と時間差攻撃を仕掛ける。
「……がはッ! 」
背後から放たれる死角からの時間差魔力弾に苦戦を強いるなか、痺れから解放された黒の隙を突いた渾身のドロップキックが真横から男を襲う。
「こちとら、はなっから。1人じゃねーんだよ!」
黒はレオンの隣に立ち構える、その姿を見たレオンも同様に構え目だけは男の姿を捉えていた。
男を見失わない様に目を離さずに男だけを見詰め、確実にその場で押し留めるため既に満身創痍の二人は男との距離を少しずつ縮めつつ、男のどんな動きにも対応出来る様に全身に魔力を巡らせる。
端から見れば、殺気を出しまくりの二人には一歩も近付けれないが、男はゆっくりと立ち上がり黒達に笑みを浮かべる。
しかし、先程までの笑みとは違い。
 
―――立ち合いを楽しむ強者の笑みだった
男の身から滲み出る魔力と黒達の魔力が混じり周囲の魔力濃度は濃さを増し、常人なら耐えることは出来ない濃度まで上がっていた。
「―――ぐッ! …喉が……焼ける」
喉を押さえるレオンに黒は下がるように言うとレオンの前に立ち、生徒が集まる場所まで下がるように命令口調で告げる。
レオンは渋々下がろうとするが、男がそれを許さなかった。
銃でレオンの背中を撃ち抜こうと引き金を引く刹那、黒は血燐で男の手首を切り落とす、しかし男は手首を蹴り飛ばし黒の顔に当て隙を作り再度レオンに向け銃口を向ける。
 
「――じゃあな」
引き金は引かれ銃口から放たれる銃弾はレオン目掛けて突き進む―――が、男の意識はそこで一瞬途絶える。
銃弾はレオンとは別の方向へそれ、直撃を免れたレオンはそのまま林の向こうへ姿を消す。
男は訳がわからなかったが、1つだけ確信していることがあった。
「……橘……黒!」
男は小太刀を逆手に持ち替え黒の首筋目掛けて弧を描く様に振るう、黒は咄嗟に後ろへと後退する。
男は距離を置いた黒を横目に切り落とされた手首を拾い切り落とされた腕につけ直す。
「悪いな。不恰好な腕にしちまって」
「気にしなくて良いぞ」
男は手首を腕に取り付けると、周囲の魔力を吸収し始めるとみるみるうちに手首は元の形に戻り、傷すら無い状態へ戻った。
「おいおい! まじかよ、周囲の魔力を吸収して回復とか反則だろ……」
黒は血燐を構えるが、一瞬で距離を縮められ強化をしていない純粋な蹴り一発で黒を山肌にめり込ませた。
一瞬の出来事に理解がついて行かないが、体は理解していた。
大量の吐血と骨の数本を痛め、その場でうずくまる。
「がはッ………まじか。反則並の回復に加えて、回復後の攻撃は純粋に威力だけなら三解禁並じゃねぇか……」
黒はぐったりとその場で寝転がると、鬼極が黒の頭に直で話し掛けてきた。
『――これで終わりじゃないでしょうな、主殿?』
「当たり前だろ……まっ、打つ手なしだけどな。辺りの魔力を吸収して回復、俺が消耗するだけで一向に逆転の見込み無し」
黒は血燐を杖がわりにして立ち上がるが、逆転所か相手に傷を負わせれない屈辱感を胸に男の立つ場所を見つめる。
だが、男の背後に落ちている小さなケースを見付けると、黒の表情は一転する。
壊れた校舎の瓦礫の中にある1つの希望にすがり付く様に、最後の力を振り絞る。
 
「お前は、ただの命知らずか? この状況で逆転等と腑抜けた事を考えてるのか?」
男の放つ魔力弾を黒は懸命に避ける、数多の魔力弾は黒自身を狙うだけでなくその周囲を狙うことで黒の進む道を狭ませていく。
しかし、黒は魔力弾を全魔力を使った障壁で防ぎ男の目と鼻の先まで進む。
「くたばれやがれぇ!」
男は辺り構わず魔力弾を撃ちまくる。
すると、男の背後に立つ黒は笑みを浮かべ落ちていたケースを片手に笑う。
 
「さて、悪いが……―――ここから先は手加減無しだ」
ケースは開かれ、形勢は逆転する。
 
 
 
 




