三章四節 去り行く者を胸に秘めて
――――何回目の朝かは分からない。
ただ、もう何人もの人が自分より先に出ていくのを見送った。
――もう数年、帰ってきた者はいない当然「おかえり」も言ってない。
「―――何回目の朝なんだ?」
そうして、僕の番が回って来た。
「いってきます」
少年の目に光は無く、全ては彼のために彼の命令通りに動くただの人形。
だが、今日この日は違った。
少年に渡された写真の男――レオンを見ると、少年は微笑み光がなかった瞳に光が灯った。
「――この子を殺せば良いの? あぁ、綺麗な顔立ちだ。壊したくなる」
少年はにやけた顔を手で押さえ、狭い部屋に響き渡る笑いは狂喜に満ちていた。
「おっはよー」
黒はいつも通りの時間にクラスの扉を開き、自分の席に着席するために扉から入り正面の教卓を曲がり中央6番目の席に座るため、クラスメイトの間を通る。
だが、いつもと違いクラスは静まり返っていた。
「おいおい。いつものばか騒ぎはどうした? 男女問わず騒いでたのに今日はやけに静かだな………」
自分の席に向かって歩く。
全員一言も喋らず、机に向かう友達の肩に手を置く。
「おい! 本当どうした?」
すると、黒の友人は静かに振り向き涙で濡れた顔で謝罪した。
「すまん……黒。逃げてく――――!?」
徐々に肥大化する友人の姿に黒は一瞬驚き、回避のタイミングを逃す。
友人の肥大化と同時にクラス全員が肥大化を初め、黒を取り囲む様に次々と爆発が周囲を飲み込む。
「――くそッ!」
透かさずぼた餅で体を守った黒の足下には、友人だった者の体の破片と黒とレオン――多くの友人と撮った写真を保存する|簡易記憶魔導装置通称レポを握り締めた腕が落ちていた。
黒は静かに腕からレポを取り、中を確認する。
中には大量のデータが入っており、クラスで撮った写真や黒とのばか騒ぎしていた動画、はたまた多くの女子生徒を隠し撮りした盗撮写真が出て来た。
「バカ野郎……隠し撮りすんなって言ったろ―――」
黒はレポを握り締め、背後から忍び寄る人影の首を手刀で切り落とした。
「――てめぇらが、どれだけクソ野郎か今はっきりした」
黒はぼた餅の体に腕を入れ、血燐を取り出す。
「関係ない………ただの一般人を巻き込みやがって」
黒の瞳から光は消え、暁と対した時の様な冷たく殺気だった目を人影に向ける。
「関係ない奴を巻き込んで、平然としてられるクソが。簡単には死ねないと思えよ」
「――ヒッ!?」
黒服の一人が身震いすると同時に黒は距離を縮めるため足に力を入れる。
「ぜッ……全員集まれぇー!」
黒服が叫ぶと、窓や扉から同じ黒服が集まり黒を囲む。
中には女と思われる姿が目に入ったが、お構い無しと黒は血燐を振る。
一人を除いて残り全ての黒服が体を両断され、爆発で壊れた教室を血で赤く染めた。
「ゆ……ゆるして……くれ……」
黒は血燐の刃を黒服の目元まで近付け、黒服の頬にゆっくりと傷を付ける。
「ひいゃあ! 痛い!痛い痛い痛い―――!?」
黒は泣き叫ぶ黒服の顔を力いっぱい踏みつけると、瓦礫にその体を縫い付けた。
「黙れや、人を殺めたんだ。それ沿おの覚悟を持ってからこの場に立て」
血燐から滴り落ちる血を振り払い、友人の唯一の遺品であるレポを胸ポケットにしまいこみ教室の扉を開き横目に普段なら教室で騒ぐクラスメイトに向けて別れを告げる。
「じゃあな……お前らが少しでも安心してあっちに行けるように祈ってるよ………」
黒は静かに扉を閉め向かって来る黒服を睨む。
「ここから先は、本気の切り合いだ。生半可な覚悟を持った奴は俺の前に立つな、死ぬ覚悟と殺す覚悟のある奴だけ俺の前に立て―――まぁ、覚悟が無くても片っ端から切り刻むけどな」
血燐を構え直し黒服が固まる場所に向け巨大な斬撃を飛ばし、黒服が躱わすや否や懐に潜り目にも止まらぬ速さで次々と斬る。
「ッ……うわぁぁ! ぐッ―――」
魔法を放とうとした黒服の顔を掴み地面に叩き付けると同時に背後の二人に向けて体を捻り鞭の様にしなった体から繰り出された蹴りは、生半可な体ではまず耐えれない。
壁に叩き付けられた二人を目の前で見ていた黒服の男は震える足で逃げ出すのを、黒は見逃さなかった。
「闇魔法【ブラッド・ポーン】」
黒色の球体に呑み込まれ逃げ出した男の体は球体に呑まれ、辺りの瓦礫を削りながら消えた。
「に……逃げろぉ!」
「勝てねぇよ……強すぎんだろ」
ほとんどの黒服は黒から距離を取る、はたまた、隠れやり過ごそうとする者もいるが黒はその全てを瓦礫諸とも自分の周囲に発生させた闇に引きずり込んだ。
「やりますね。その力……お見逸れしました」
黒の正面で瓦礫の上に立つ白髪の男が話し掛けてきた。
「誰だあんた……西欧の人間か?」
黒は血燐を握る力を強める。
しかし、男は慌てて弁解する。
「待った待った。私は貴方の敵ではありませんよ、確かに西欧の生徒ですよ。それより、生徒の救助を急ぎましょう」
男は黒に近付きすれ違う瞬間、崩れ落ちた。
「……あ…れ?」
男の体は胴体を真っ二つに両断され血飛沫が、辺りの床一面を赤く染める。
「油断し過ぎだ、黒」
男を切ったのは白色の制服を赤く染めた、レオンだった。
「それは悪かった、お前も大分無理したのか?」
「へっ……まさか」
レオンは刃こぼれした剣を捨て黒の隣に歩き、迫り来る無数の黒服達を蹴散らす。
「――どれだけ助かった……」
黒はレオンのは顔を合わせずに尋ねる。
「生徒の約半数と教師六人と理事長だけだ。生徒会は会長は行方不明だが、他の奴は死体で発見された」
レオンは崩れた瓦礫をどかしながら、黒の前を歩く。
「会長か……会ったことは無いが相当強いのか?」
黒は血燐で鉄骨を切り崩し瓦礫に埋もれた道を進む。
「相当な手練れだ。理事長の次に強いとも言われてたな」
「それは、凄いな。――なら俺達は元凶を潰すのに専念するか」
黒は血燐を再度構え全身に魔力を巡らせる。
「はぁ? 一度合流するぞ。理事長がいると言っても、大人数を相手に半数の生徒を守れる程若くねぇぞ理事長は」
しかし、黒はレオンの話を聞かずに、更に瓦礫の間さを通って進む。
「おい! たく……」
レオンは渋々黒の後を付いていくと、背後からとてつもない魔力に驚き、足を滑らせて瓦礫の山を滑らり落ちる。
「いててて。今の……まさか!」
レオンは急いで生徒達が避難している西校舎に向かおとするが、黒に止められる。
「何でとめんだ!」
レオンは歯をむき出しに黒を睨むが、冷静になって西校舎の近辺の魔力を探ると、理事長並の魔力反応が1つ追加せれていた。
「ッ――! この魔力……」
「レオン……お前の言うことが正しければ、あっちは問題無いだろ。 違うか?」
黒は鼻で笑うと、顔を赤くしたレオンに背後からの蹴りを食らい瓦礫に顔を埋める。
「心配無いなら最初っから言っとけ! クソッ……」
レオンはキレつつも、ホルスターから取り出したピストルを構え敵を警戒する。
「早く起きろ、それとも疲れたか?」
「うっせぇ……勝手に言ってろ」
黒は瓦礫に手を置き一気に上へと登る。
目の前には、黒服を何人も従えた教授とその隣に1人だけ、他の黒服とは比べ物にならない程の魔力を漂わせる者がいた。
「以外と遅いですね。トイレでも行ってましたか……?」
フードを脱ぎ、その素顔を黒達の前に晒す。
顔の反面を火傷でただれ、黒髪の髪には所々に白髪が目立ち白と黒の髪は見方によってはパンダにも見えた。
「―――よくも関係の無い人間を巻き込んだな…………覚悟しやがれ。このパンダ野郎!」
―――ブッ!
黒は血燐を男に向けて言い放つが、周りの何名かはパンダ野郎に笑いを堪えるのに必死だった。
男は歯を噛み締め、顔が真っ赤になるまで噛み締め握り締めた拳からは血が数滴地面に垂れていた。
「今……笑った奴は誰だ……?」
男は周囲の黒服を見回すが、黒服達は男の殺気に怯えたのか直ぐに笑い止め男の左右から背後へ隠れる様に移動した。
「――橘…黒。レオン・ボナパルト」
男は懐から拳銃と小太刀を取り出し、黒に拳銃レオンに小太刀を向け構える。
「さぁ……本気でやり合おうか!」
男が飛び出すと同時に黒は左右から勢い良く迫る無数の魔法弾を血燐で切り落とす。
が、その一瞬の隙を突いた小太刀での突きは捌ききれなかった。
「―――ヒットぉ!」
小太刀の刃が黒の喉ぼとけに迫るが、割って入ったレオンの拳が男の顔に入る。
「残念でーす。ヒットしたのは俺でした」
レオンの笑みは男を挑発するのには十分過ぎた。
「――殺す!」
「掛かってこい……関係ない人を巻き込んだんだ。叩きのめされる位の覚悟はあるだろ?」
レオンの殺気に満ちた目に黒は驚きつつ、少しだけ安心していた。
「なら――協力してやるよ。お前の手助けを!」
黒は拳をレオンに向ける。
「ッ―――任せるぞ」
二人の拳が合わさると同時に二人は男に向け、飛び出す。
怒りで満ちた男の顔は鬼の形相そのものだった。




