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難攻不落の黒竜帝  作者: 遊木昌
二章 理想世界
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二章二十二節 黒き銃弾の意味

海を渡りながら徐々に大陸を目指して進行する、異形種に数名の騎士が震える足で、海に隣接する工業団地を目指していた。

「第二部隊は、補給班が付き次第南側の援軍を頼む。あそこは、隊長が臆病者だからな」

ぞろぞろと集う騎士達はどこかリラックスした様子で迫り来る異形種を待っていた。

「飯は食える時に食っとけよ! いざと言うときに力が出んぞ!」

様々な炊き出しが用意されるなかで、新人騎士は食事が喉を通らなかった。

「――皆さんは……どうして、あんなに楽しくいられるのですか……? 大規模戦闘が始まるって時に、理解に苦しみます」

新人の中でも、それなりに異形と戦える見込みのある者は今回の大規模戦闘に参加を強制されていた。

たが、その中で実際に異形と対峙したのはごく少数である。

そのため、新人からしてみれば初の任務が大規模戦闘であり、この異形の数は熟練者でも、逃げ出したい程である。

なにより、訓練を経て来たものの騎士としての覚悟は出来ていなかった。

「新米共の気持ちは分か! 俺の時もそうだった。喉が受け付けない飯を無理矢理食べされられたりもしたしな」

新人騎士達の回りには、いつしか数多の騎士が集まり1つの輪になっていた。

「異形共はわしら人間や異族何かよりも遥かに強い。1人に対して集団で教われたら、まず勝ち目はない……少し昔話に付き合え」

白髪の老魔導師が、酒瓶片手に昔話を始めた。

新人騎士は戸惑うが、他の騎士が聞き入る話に少し興味を持っていた。


「――むかしむかし、地球の区分が四大陸に別れる前の話だ。その頃の騎士は神器所有者も少なく、1人でも欠けたら戦況は直ぐに不利になるのが当たり前だった、その影響で戦意を失い前線から逃げる騎士が多かった。――目の前で仲間を失い……「次は誰だ」「次は俺じゃないか?」そう考える者すら現れては消えるのを繰り返していた。とてもじゃないが勝てる保証は元より無く、ましてや生き残る可能性など皆無だった。だが、わしや同期の騎士は生き残った。理由は分かるか?」

新人騎士の1人が首振る。

老人は新人達の後ろを指差す、後ろにあるのは前線の状況を確認する巨大なモニターだった。

「わしらが見たのは……()()じゃ……」

モニターに映し出されたのは、煙の中で大型や飛行型を次々落ちる映像だった。







異形側では、動きの遅い大型を除き小型や飛行型が次々と前線目掛けて押し寄せていた。

「物資が足んないぞ、補給班はまだか!」

ドライバで交戦していた騎士が次々と押されていき、後ろに後退してきていた。

「退くな、退くなぁ! これ以上前線を縮めたら勝てる戦いも勝てないぞ!」

指揮官の1人が部下を鼓舞しようと剣を掲げるが、人影が指揮官を目にも止まらぬ速さで近付き、首をへし折った。


「人間ちゃんもまだまだだねぇ~。……もっと楽しませろ!」

男は騎士が驚く中で、全身を巧みに操り空中ですら方向転換や瞬間移動等の到底人間の無し得ない技を駆使して暴れていた。

()()()()その男の体は至る所が異形種と混ざっていた。

両足の膝下は狼、右腕を蛇、左肩は鳥の姿は異常であった。

「――ば……化け物…」

騎士の1人が震える声で溢すと、男は言葉を溢した騎士を掴み挙げると、鳥肩の翼を広げ天高く跳躍した。


「――俺が化け物? 心外だ。―俺は、()()()!」

超加速したまま騎士を岩盤目掛けて叩き付けた。

凄まじい衝撃音と断末魔に酔いしれていた異形は、叩き付けた衝撃で取れた騎士の鎧の断片と銀色の懐中時計を血塗れで騎士だった瓦礫か残骸か分からない物の傍らに捨てた。

「――……さて、次は誰だ?」

不思議な事に男の笑みは騎士達の恐怖心を和らげさせた。

「――良いや……降りるは、俺」

「――は?」

騎士の1人が男の言葉に反応して意味が分からず首を傾げると、男は瞬間移動で騎士の目の前に現れると、蛇の腕を伸ばして騎士の体に巻き付けた。

「――ひッ!」

騎士が逃れようと身動ぐが、腕の力は強力で離れる所か更に締め付けた。

「――3人目ぇ!」

蛇の腕が捕まえた騎士を地面に叩き付ける刹那、男の頭上に影が重なり強大な腕が男を吹き飛ばした。

「――流石に、騎士もバカじゃねぇか。対抗手段位あるよな」

「それは、そちらもでしょ?」

鎧を身に纏った騎士は剣を鞘から抜き、構えた。

両者の踏み込むタイミングが揃い、両者の動きが並の人間では捕らえきれない程に素早くなっていた。

辺りの騎士は二人の余波が届かない位置まで下がってもその余波は凄まじく。

先程までとは、比べ物にならない事など一目瞭然だ。

だが、騎士背後から腹を突き破る様に何が通り過ぎ、辺りに鮮血を撒き散らした。

「何をしてるのですか、No.3。――暁様がお呼びだ」

騎士の背後から話しかけたのは、下半身が馬の姿をした男だった。

「良いとこだったのに……No.4! 次また邪魔したらお前から消すぞ!」

No.3は翼を広げ暁のいる方面に飛び去っていた、その後を追うようにNo.4が跳躍で丘を越えて行った。

騎士が目の前を去っていく異形に唖然としていると、1人の騎士が医療班を呼べと言う声に我に帰り、血だらけの騎士の介抱にあたったが……結果は見えていた。




碧を先頭に黒焔騎士団も戦闘区域に足を入れたが、どの場所も大規模戦闘と言われるだけの事はあった。

辺りの平地は穴ボコ、地面は抉れ、地中深くあったと思われる岩やマグマが噴き出していた。

「――ッ! ……暑いなここは、速く別の区域に行こうぜ」

ロークが通信端末を開きながら、辺りの地形と照らし合わせながら現在地を確認していた。

「くそッ! 魔力探知が出来れば現在地なんて簡単にわかんのに……」

「諦めろよ。魔力濃度が濃すぎて端末が反応しないんだ、仕方ないだろ?」

「以前の地形のこの変わりよう。ここで、神器が使われてますね」

ヘレナが砂を掴み魔力を流すと、砂は水を得た魚のように動き回りその形を変えた。

「砂の神器……でも、私の知る限り砂系統の神器を持つ神器使いは知りません。まさか!」

ヘレナは強化魔法を目に掛けれるだけ掛け、砂系統の神器を持つた者が通った道筋を確認した。

「やっぱり………錬金術師側に、評議会か連盟の者が関わっています」

ヘレナの指差した方角には、砂に埋められた騎士が辺りを埋め尽くしていた。

「何て事。――って、ロークさん危ないですよ!」

ステラが注意するより速く、ロークは砂に埋もれた騎士を掘り返した。

「まだ、生きてる奴がおるかもしれん。今のうちに……」

だが、ロークの頭上を少し大きな異形種が落ちてきた。

「ヘカトンケイルより一回り小さいが、敵ってのは間違いないな」

ロークが異形を睨む中、ヘレナや綾見が異形の左右に陣取り、殺女が背後に陣取ると四人の一斉攻撃と共に戦いの火蓋が切られた。

「碧様は先に……こちらは私が請け負います」

「――えっ!」

碧は驚くが、ヘレナの真剣な眼差しにおれると、後々の集合地点を教え先に進んだ。

「お気をつけください。――その先に待つのは、屍だらけでしょう」

ヘレナは軽くお辞儀をすると、背後から近づく異形種を氷漬けにした。


「この先の道は、碧お嬢様の道。お前らの様な不敬な輩が通って良い道ではない!」





暁と黒の衝突はその範囲と被害を更に広げていた。

「雷魔法【静電(ビリン)】!」

威力は小さいものの速さと正確さで黒の動きを制限し続けた。

「ちッ!……めんどい」

黒は地面に手を突くと、土の防壁を張り暁の雷を防いだ。

しかし、暁の魔法は更に勢いを増し、土の防壁を崩し黒目掛けて雷が降り注いだ。

「黒なら……土の防壁を築いて、下から来るよ……ねっ!」

黒の動きを見抜き、暁の太刀が黒に振り降ろされるが、紙一重で躱わしそのまま回し蹴りを叩き付け、バランスを崩した暁の首を掴みそのまま殴り飛ばした。

「闇魔法【ブラッド・ポーン】」

黒の右手から現れた黒色の球体は地面に叩き付けられた、暁目掛けて飛んでいき、周辺を巻き込む大爆発で暁を吹き飛ばした。

「だぁりゃ!」

ブラッド・ポーンを食らうが、お構い無しと突き進み黒にドロップキックを食らわせた。

「うりやぁ!」

太刀を黒に投げつけると、高速詠唱をすると太刀が膨れ大爆発を起こした。

追い討ちをかける様に、多種な魔法が黒を更に追い込む。

「どうしたんだよ? えぇ? もっと来いよ!」

暁は両腕に強化魔法を何重に掛けることによって、蒸気が籠り赤色のオーラに見えるほど魔法を巡らせた。

暁はボロボロになって倒れた黒の傍らに立つと、ゆうに山を越える高さまで蹴り挙げ超零距離からの叩き付けを食らい地面に向け落ちると同時に、最大限まで高めた強化魔法を乗せた大爆発を叩き込んだ。

地面は家屋が丸々入る程の大穴を作り、その中心に意識を朦朧とさせた黒が倒れていた。

「――黒!」

ハートが黒の加勢に来ると踏んだ暁は、周囲に結界を張りハート邪魔をした。

「これで、僕の邪魔は出来ないね……ハート。そこで見てな、()()と言われた騎士の最後を」

しかし、黒は笑みを浮かべたまま、暁を見ていた。

「――何が可笑しい……覆る事の無い窮地! それでも黒ちゃんは笑うのか!」

暁の怒りは頂点を達し、自らの体力全てを込めた強化魔法と固有魔法を発動した。

「強化魔法【一定水準強化(セルゲネットスタンス)】! 暁魔法【支配の暁城ブラード・オブ・キャイオン】!」

強化魔法で強化された暁の体は赤く膨れ上がり、背後の三日月がより赤黒く輝いていた。

暁の固有魔法【支配の暁城】の効果は術者の周辺の環境や時間を支配すると言った直接的な攻撃魔法ではなく、補助と言った援護系統の魔法だった。

しかし、それは錬金術師としての力を持っていなければの話である。

錬金術師の力は周囲の魔力濃度を利用して自らの強化や異形種錬成等の力を備えていた。

なにより、最大級の強化を施したのにも関わらず更に己を強化し続けた暁の攻撃等、生半可所か本気の黒ですら止めれるかも定かではない。

「じゃあね……黒ちゃん。楽しかったよ」

振り降ろされる拳が黒の顔を襲う。

「やめろー! 暁!」

黒に当たる寸前、黒の目付きな豹変した事に暁は気付き、無意識の内に飛び退くと。

黒はどこから取り出したのか、小銃を暁に向けた。

「お前の敗因は、結界を張ったのにも関わらずこの先の空間の魔力濃度を限界まで挙げたことだ」

黒の指摘に気付き辺りを見回すと、結界の至る所にヒビが入り既にボロボロだった。

「二つ目に……」

黒は少しの間目を瞑り、開くと再度暁に笑みを浮かべた。


「敵の前で、べらべら喋って時間を与えた事だ。ここは遊び場じゃねぇんだよ、戦場だ」


銃口を上に向け発砲、結界を突き抜けて空高くまで飛んでいく銃弾に暁は頭を抱えていた。

「――暁、お前はこの銃弾の意味が分かるか?」

小銃に装填された黒色の銃弾に、暁は徐々に顔色が変化した。

「あの銃弾……まさか! くそったらぇ!」

暁が黒に飛び掛かる寸前に空で弾けた銃弾は、黒色の光を発し各戦場に立つ騎士の目にも届いていた。

「今のはなんだ?」

「何かの魔法か?」

「敵の新手か!?」

様々な疑問が浮かぶが黒から見れば、いや、ハートから見れば、誰も分からない先程の黒色の光の意味を直ぐに納得しまった。

「流石は黒、んで。最凶の禁忌の聖騎士(ネオパラディン)だ……」


黒の上空には、三日月を覆い潰す程の巨大積乱雲が徐々に大きくなっていた。


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