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難攻不落の黒竜帝  作者: 遊木昌
二章 理想世界
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二章二十一節 大陸の守護

ハートの光魔法によって異形達が、塵となって消え行く光景をただただ見ているストラトはある事に気がついた。

「―――ハート殿……橘殿も巻き込んでますよ?」

「……え」

光の柱の傍らには、黒が倒れていた。

全身をボロボロになった黒が起き上がりハートに近づく。

「ハート……俺に恨みでもあるのか?」

ハートが謝りながら、黒に手を差し伸べるようと近づくのを見計らい蜘蛛型ではなく。

―――昆虫型の異形種が四方八方から襲い掛かる。


巌拳(シルホゥ)!」

その声が聞こえた瞬間に異形が空高く吹き飛ばされ、異形の頭上をゆうに越えた人影が異形の頭上に蹴りを食らわせて叩き落とした。

地面目掛けて成す術なく叩き落とされた異形は塵になって消えた。

その直ぐ後に降り立ったのは、先程ストラトに放り投げられた千歳だった。

「今のは、魔力無しの武術? ……異形を倒す何てただの武術じゃねえな?」

黒が尋ねると、千歳は恋する乙女の様な笑顔で黒に飛び付き、質問に丁寧に答えた。

「今のは【巌拳(シルホゥ)】と言って、幸崎家に代々伝わる武術です。ちなみに、私で7代目です!」

えっへん! と胸を張ると、両腕に力を込め不思議なオーラが少しだけ黒には見えた。

「――これは、魔力じゃないな」

「はい。これは、【妖気】と言って私の生まれた家は、この力を自在に扱い。鬼と言う異形見たいな化け物と戦うために訓練された一族です。と言っても、今は異形関係の依頼が多くて…」

成る程と黒は腕を組んで考えこんだ。

(俺の知らない力か……異形の装甲を意図も容易く貫通して本体にダメージを通す。魔力とは性質は違うが、根本は同じか)

黒が考えている中でも、異形の進行は止まる気配は無かった。

千歳は迫り来る異形達を次々に殴っては蹴る、妖気を纏った一撃は花海と同等と言える程の力があった。

その隣で、千歳の横を通り過ぎて黒に向かってくる異形を的確に急所を潰すストラトの剣術は目を見張るものがあった。


「――ストラト・リート。聞いた事のない名前だと思ったが、あの剣術は知ってるだろ?」

ハートは黒に質問するが、黒は口を閉ざしたまま上を向き空を眺めていると。

「確か、あの日もこんな曇りだったな」

「そうだな、師匠の所に行った時と同じ空模様だ……」

しかし、二人が思い出に浸ろうとするのを妨げる存在が現れた。


「先程……私の可愛い異形ちゃんを滅したのは貴方のどちら?」

ハートの目の前には巨大な槍を背負う、女が立っていた。

()()()()()()ハートを見下ろしていた。

ハートは少し驚くが、右手を前に出して握手をしようと近づいた。

「……何の真似です?」

女はキョトンとしたまま首を傾けた。

「何、ちょっとした挨拶だ」

ハートは全身に魔力を巡らせ、左手に光の盾【綺羅星の盾(ラルド)】そして、右手に光の剣【疑似聖剣エクスカリバーレプリカ】その2つを纏ったハートの魔力量は普段の3倍まで上がっていた。

「それ程の魔力で………いえ、そんなちっぽけな魔力で私の相手になるとでも?」

女は背負っていた槍を手に取り構え、ハート同様に魔力を巡らせると槍の形状が歪な物へと姿を変えた。

「……槍じゃないのかよ? 反則過ぎんだろ」

形状は槍から鎌へと変わるが、その鎌の形状が不気味だった。

「――その鎌の回りに着いてる付属品は何だ」

ハートが尋ねたが、女は浮遊したままぶつぶつ独り言を呟きハートの存在すら気にも止めてなかった。

「俺何か、眼中に無いってか……冗談じゃねえ」

ハートが疑似聖剣を強く握り、女目掛けて跳躍と同時に聖剣を振り下ろすが女の持つ鎌が聖剣を弾き返した。

「言ったでしょ。ちっぽけな魔力しかない貴方と戦うのは時間の無駄――子供と戯れるも同然です」

女は鎌の形状を槍に戻すと、ハートの懐目掛けて槍の先端を突き刺し、突き刺すと同然に勢い良く伸ばし遠く離れた森まで吹き飛ばした。

「やはり、虫けらは所詮虫けら。――虫なら森で朽ち果てるのがお似合いです」

女は浮遊していた場所から階段を降りるようにして、黒の目の前に降りてきた。

「次は貴方です。……覚悟は出来てますか?」

女が槍を構えた瞬間、森の方角から高速で近づく物体に黒は気付き全身に巡らせた魔力を解いた。

女は槍を突き刺さそうとしたが、寸前で止め黒の様子を伺った。

「何故です。何故魔力を解いたのですか……」

警戒する女を気にも止めず、黒はぼた餅を召喚して遊んでいた。


「――ぐッ!……答えなさい!」

女は凄まじい跳躍力で黒を真上から突き刺そうとしたが、女は寸前まで気が付かなかった。

「―――へ!?」

ハートが自分の真横を通り過ぎた事、自分が切られた事に気が付いた。

手に持っていた槍の先端は粉々に崩れ、槍は2つに折れていた。

「…い……一体…何がどうなったんです? ――ぐッ!」

女は立とうとしたが、右肩を襲う強烈な痛みが肩から全身を回り崩れ落ちた。

「――はぁはぁ……成る程、コレが黒竜帝の力ですか」

「な訳あるかよ」

女は声の方に振り向くと、目の前にはハートが立ち自分を見下ろしていた。

「その程度か? ――虫けら」

「―――私は、錬金術師だ。 ……私は、錬金術師(アルケミスト)だ!」


その頃、黒は丘の上から自分を見下ろす暁と二人っきりだった。

「ご自慢の異形共はどこに隠したんだ? まぁ、お前の事だどうせ、切り札として隠してんだろ?」

黒が距離を詰めるため暁に歩み寄ると、四方八方から先程の昆虫型とは違って鳥類型の異形種が一斉に現れた。

「つれないなぁ……。そんな小物共で俺が止められるとおもってんのか?」

黒幻を持つ右手が曲線を描く様に振られると、鳥類型は次々と体を切り刻まれ空で灰になる個体もいれば、地に墜ちる個体もいた。

「すごい、すごーい! ―――流石は黒ちゃん! ……でもコレなら?」

暁が指を鳴らすと、昆虫と鳥類型の異形種を召喚するも黒の斬撃が次々と異形種を斬る現れては斬るを繰り返されていた。

繰り返す程に暁の召喚速度と黒も同様に斬撃の速度も増し、辺りがちょっとした灰の山を作るほどになっていた。

「――楽しい……楽しいよ黒ちゃん! ()()()()()を待ってたんだ!」

暁は叫ぶと、暁と黒を囲う周辺に異形種を展開する、大型や飛行型等も先程の倍以上に召喚されていた。

「さーて、んじゃま。――行きますか!」

「来いよ……黒ちゃん!」


「ここから先は、手加減無しだ!」

「数の暴力ってのを見せてやる!」

暁と黒が互いの方へ勢い良く走り出すと、釣られるように四方の異形達も各々の叫び声を挙げ走り出した。



暁が召喚した異形の数が数える程になった頃、黒は攻撃の手を止めて暁に尋ねた。

「それが本気か……? 異形だけで退屈凌ぎにすらならねえ」

黒が黒幻を鞘に納めた。

姿勢を低くしたまま構える事で、刀の抜く速度を限界まで高める流派、【泉流抜刀術】抜刀剣最強と言われる程の抜刀速度から繰り出される技の数々は、達人の域であった。

「――抜刀術か、まだそんな物に頼ってたんだ。黒ちゃんならもっと高みを目指せるよ!」

暁は目の前で今にも消えそうな異形種を掴み、自分の魔力を巡らせ太刀に異形の形を作り替えた。

暁の振るう太刀と黒の黒幻が火花を散らして相対する。

刀と刀が接触する度に火花と共に地面が削れ、木々が倒れ、両者の近くにあるありとあらゆる物を巻き込みながら、両者の戦いは止む気配が無かった。

ストラトや千歳はただ見ているだけであった、人の領域を遥かに越えた者達の剣戟の響きを。

「凄いな……剣筋が見えない程の速さで切りあってやがる……」

ストラトが驚きつつも、両者の戦いを見ようと前に出るのを千歳が止めた。

「何んだよ」

「この先に踏み込んだら間違いなく切られるよ。――それだけ、二人の力の差が私達にはあるんだよ」

千歳の言葉にストラトが一歩下がると、辺りを見回してある異変に気が付いた。

「なあ……千歳」

「何? ストラト」

ストラトは恐る恐る辺りを見回し、千歳に向き直った。

「ちょっと、どうしたのよストラト。顔色が悪いわね」

「お前は気が付かないのか? 変だろ、異形の数が」

「異形の数?」

千歳は辺りを見回しながら異形の数を数えていると、千歳も気が付いた。

6()0()()()()()()()()()()()()()()!」

ストラトと千歳は急いでハートに伝えるため、全開の魔力でハートが戦う方面に飛ぶが異形種が壁の様に立ちはだかる。

「邪魔じゃあガキ共!」

花海が千歳達の道を塞ぐ異形種を蹴散らし、二人の前に現れた。

千鳥足の花海を見たストラトは花海がそれほどまで酔わないといけない程にこちらが不利なのだと実感した。

「勘違いするなよ。……俺は酔いたいから酔ってんだ、戦況が不利だとか思ってんじゃねぞ」

花海は小瓶を放り投げると、ハートに向かって大声で呼びだした。


「ハートォ! 準備出来たぞォ!」

「じゅ……準備?」

千歳が耳を押さえたまま尋ねると、花海は腰に着いていたホルスターから小銃を取りだし空目掛けて引き金を引いた。

「何をしたんですか?」

ストラトと千歳は訳がわからない様子だったが、花海が放った弾丸が空で光を挙げると、物凄い速度でハートが花海の隣に降り立った。

千歳が歩みより、質問しようとしたのをハートが人差し指を立てた。

「二人の言いたい事は、分かってる。黒ちゃんが暁の相手をしている今のうちに、ハートとその手下達の異形を挟み撃ちにする!」

「挟み撃ち……?」

花海が呼び出した使い魔の背の上で二人に話された作戦は、驚愕な作戦だった。

その内容は、60憶の異形が攻めている背後をたったの四人で奇襲すると言う作戦だったのだ。

「たったの四人で奇襲何て無理ですよ!」

千歳が立ち上がり作戦を否定するが、弱々しく座り込んだ。

「……でも、やらないと行けないんですよね。」

千歳の肩をハートが掴むと、通信端末を開き数名と通信を始めた。

「――そっちはどうだ?」

端末から小さな映像が映し出されると、着物を着た女性がハートの問いに答えた。

「えぇ。完璧ですわ……ハートさんの予想通り、60憶の半数弱が北の大陸、北神の都(アンプル)を目指してますわ」

通信が入れ代わるように切れ、更に別の通信が続々とハートに押し寄せた。

「こちら南大陸、白秋(らくしゅう)には。えーと……ざっと見て1億位か? 案外少ないな……」

「ヤッホー! ミミのいる東の大陸には、10億位の異形が見えるよー。……ハート…全部食べていいの?」

「はっはは! 血気盛んだなミミは、食っても良いけど目標はあくまで防衛だ。――異形共に大陸の地面踏ませんなよ?」

ハートの低い声が通信から各大陸を防衛する者達の耳に聞こえると、通信からごしであっても聞こえる声に千歳が驚くと、ハートは再度全身に魔力を巡らせた。

「――さて、評議会と連盟の全称号保持者出したんだ。つまり、人類VS異形共の戦争の始まりだ……」

ハートの光の剣が眩い閃光を放ちながら、ハートは黒のいる場所まで飛び去っていった。


「――てッ! ハートさんいなくなったら、私達三人で奇襲するんですか!?」

千歳が涙目になっていると、ストラトが千歳の肩を叩き空を指差した。

「――嘘でしょ…」

薄暗い影が千歳の真上を通過したのを最後に、千歳は泣き言を吐かなくなった。




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