二章十九節 望む先に
その日は、珍しく大雨が続いていた。
星零学院はいつも通りに朝は一般授業があり、昼過ぎに各自でその日取った講義を受けたり、実戦的な戦闘訓練や魔術学と言った各自の能力を伸ばすためや、自主的に研究する研究授業がある。
放課後には、各々の体や精神を育むために部活等に勤しむ姿が見られていたが。
「おい……アイツ」
「推薦組で唯一の生き残りだよ」
「まだいんのかよ」
その男が一度歩けば、妬みの声が辺りから聞こえてくる。
『アッシュ・ナルバ』推薦組第六十四期生。
『ファークドメリア帝国』首都メリア出身。
父はズバ抜けた身体能力を持つ特異体質の名家生まれ、母も代々優秀な魔導師だった。
そんな堅苦しい家が息苦しかったのかもしれない。
親の言いなりになりながらも、少年騎士候補生育成機関『ネルフェス』卒業と同時に俺は―――家を出た。
家とは無縁の見知らぬ土地。
回りは平凡そのもので、自分の知る世界とはかけ離れた場所だった。
そのため、他者より優れた魔力、優れた戦闘能力は他を寄せ付ける事はなかった。
ただし、授業をサボるうちに自分の様に学院に馴染めない、ごろつきが増えてきた事が、少々悩みの種であった。
(所詮は、一般入試でしか入れないゴミ集団か。――俺と同じ奴なんて元からいないか)
そんな時に、全校生徒を集めての話が出ていたが、アッシュは普段からそう言った行事に積極的に参加はしなかったが、暇過ぎたのか、久しぶりの行事に参加しただけで周りの目はいつも以上に険しかった。
直ぐにでもこの居心地が悪い所から出て行こうとした。
だが、その日の行事にあった、ローク達四人の挨拶は余りに普通な事ではあるが、アッシュには特別に感じた。
勢候補生達の前にも関わらず、絶対的な強者のオーラが纏い、何人足りとも近付かせない、死線を潜り抜けた目は何故かアッシュの心を揺さぶった。
(ふざけんなよ! こんな奴らいるなら早く会わせてくれても良かっただろ)
その日、アッシュは決意した。
その中でただ1人、三人とは違って見える男を、『ローク』を勝手にライバル視した。
朝日が強く病室を照り付け、微睡みの中から暖かな朝日だけが感じていた。
「―――うッ……ここは?」
渚が目を覚ましたのは、病室のベッドの上だった。
辺りを見回したが、人が来る気配がないと分かるやいなやベッドから起き上がり部屋から出ようとするが、病室の扉を開けようと手を伸ばす前に扉が開き、花を持った三奈が立ったいた。
「あんたは……寝るでち!」
三奈の拳が渚の溝内に叩き込まれ、そのままベッドの中に戻された。
「所で―――何で俺は生きてんだ?」
渚は頭部に巻かれていた包帯を触りながら、三奈にたずねた。
「私にも何が何だか分からないでちよ」
渚は今回の元老院の部隊との戦闘を思い返してみた、だが、幾ら思い出そうとしても自分に向かって放たれた銃弾が頭に当たる寸前以降の記憶がない。
確かに当たった。
渚の頭部に巻かれた包帯は、ただの傷では無いのは一目瞭然だ。
三奈が花を花瓶に移していると、ノックと同時に扉が開き碧や茜に続き黒焔の団員が続々と入って来ると暫く渚と話すとバラバラに帰って行った。
「アイツらは暇なのか?」
「渚の事を心配してるんでちよ……何でちかその顔は」
渚は三奈に向き直り目を細めていたすると、ノックが聞こえ扉が開かれると、黒が花とは別に真っ黒な文を持って病室に入って来た。
「渚はもう良いのか?」
「はい。後遺症はないそうでち」
「そうか」
そう言うと黒は文を三奈に渡す。
三奈は少しおどろくが、少しすると文を破り黒にお辞儀をして病室を出てっ行った。
「何でも――――三奈ご指名の依頼だそうだ」
渚はそうですかと小声で答えると、黒は渚に背を向けて病室を後にした。
「――また、守られた……クッソ!」
銃弾が頭を掠めた瞬間、周りにいた三奈や殺女の足を引っ張ったことが何より悔しく、自分の力の無さに憤りを覚えた。
「――ねぇ、君――」
耳元で聞こえた声に渚が反応するが、病室には渚1人だけであった。
「ねぇ、ねぇ―――」
何度も聞こえる声に渚が聞こえる度に辺りを見回すが人影はなかった。
「――こっちだよ。渚君」
声の方向を向くと、窓に腰を掛けた1人の少女が目の前にいた。
両目が紅色に輝い、真っ黒いコートを羽織った姿に何故か渚は警戒心を抱いていなかった所か、その姿を最初っから知っていたかのようだった。
「―――あんたは、誰だ」
渚が質問すると、少女は首を横に振り笑顔で微笑んだ。
「自ずとその答えは分かるよ。――――それに、君に会いに来たのは」
少女が窓から降り、渚の側に歩み寄る。
「―――力は欲しくないか?」
耳元で囁く言葉に渚は声が出なかった。
だが、渚は少女の言葉に心が揺らいでいた。
「あぁ――面白い……」
病院上空には、雲が覆い被さり見えないが、真っ赤な満月が輝いていた。
薫は血相を変えて、橘支部の扉を勢い良く開けた。
「渚さんの行方は……」
薫が尋ねると、白衣の研究者が何人も答えた。
「今のところそれらしき反応ありません……」
「魔力探知、反応ありません」
「探知の領域を広めろ!」
「魔獣師の方々も臭いを辿りましたが、途中で消えていて」
全ての手を尽くした結果に団員や研究者が黙っていると。
「分かりました。最後の賭けに出るましょう」
そう言うと、薫は全黒焔騎士団団員に命令を下した。
「現時刻をもって、円卓の名の元に黒焔騎士団に無期限の最重要任務を言い渡します。―――渚さんの発見と同時に拘束並びに、錬金術師と思われる者も拘束せよ。……最悪排除もやむなしと考えます」
薫がそえ宣言すると、後ろから三奈が尋ねた。
「てことは……渚が、裏切ったってことでちか?」
三奈の目には少しだけ涙流れたの痕が見えた。
「可能性としてあり得ます」
三奈は膝から崩れ落ちると、涙が止めどなく流れ両手で涙を拭うが、大量の涙は両手だけでは拭い切れなかった。
黒は、庭園に意識を繋げると、意識だけをエデンに送っいた。
前に来たときに比べて少し広く感じるのは、高そうなソファーにクマのぬいぐるみを抱き締めるゴスロリ少女と和装姿の男が仲良くお茶をしているからかもしれない。
「大分慣れたか? その姿に」
黒が尋ねると、少女はぬいぐるみを魔法で動かし黒目掛けて殴り付けた。
「おいおい!怒んなよ、仕方なかったんだよ。黒竜、お前の封印は二重で魔力が殆ど伝わらないから、お前自信の魔力で体を作ることになったんだよ」
「それは知ってる。ならば何故、この女のガキが着るフリフリなのだ………いや、別に嫌ではないが」
「ワシは見ていて滑稽だぞ。男が女の姿とはこれいかに……くっ……くははははははは!」
「笑うな! この鬼風情が!」
少女姿の黒竜と和装姿の鬼極丸が言い争っていた。
「仲が良いなお前らは」
黒がそのように溢すと、二人は振り向き黒を見つめた。
「言いてぇことはわかってる――――だから母さんが出張って来たんだ」
黒の目付きが変わり、両目が黒竜の青と鬼極丸の赤に変わり黒の魔力が二人と混ざりあった。
「これで、封印があっても多少なりとも動けるだろ」
黒竜と鬼極丸がソファーから起き上がり、黒の後ろに続き庭園の扉から出ると、黒の意識が目覚めた。
「――兄さん、実は」
「言わなくても良い、母さんが来てるなら大体予想がつく」
黒が黒のロングコートを羽織ると、後ろに黒焔のローブを羽織ったローク、綾見、殺女、ステラがたっていた。
「準備は出来てるな……それと、お前は駄目だ」
黒は壁に寄りかかったリーラを睨んだ。
「何故ですか、どうしてですか! 私も黒焔の…」
「魔物すら満足に扱えない奴は皆の足を引っ張る。それに誰かを守りながら錬金術師と戦える程に俺も当然コイツらも強くはねえ…………分かれ」
そう言うと、黒はロッカーの中に丁寧に並べてある特殊銀弾や対異形特別小型武装を手に取り、コートの中に隠した。
それに続く様に四人共装備の準備を始めた。
「私に、力が無いから」
リーラがそう溢すと、黒は否定した。
「力があるかないかを決めるのはお前じゃねえ、周りの1人の他人がお前の力を認めた時点で決まる。リーラお前は誰かに言われたか? お前には力が無いって?」
「それは……」
学院で言われた言葉を思い出した。
『君は、騎士に向いてない』
胸の奥に突き刺さる言葉が頭を何度も過った。
「言われたんだったら、問題は無い」
黒は装備を整え終わると、前に進みながら言い切った。
「今は無くても、先は長い。その内になるようになるさ」
そう言うと扉を開き大勢の騎士の中にその身を投じた。
リーラはその姿が見えなくなるまで見続け、いつしか笑顔で支部の怪談を上がり、修練の間に向かった。




