二章十八節 贋作が見る世界
青年は暗がりの中で目が覚めた。
(…ここは……どこ?)
布の様な物で目隠しされているのか、少しの明かりが見えるがそれ以外は見えなかった。
体は動かそうにも、手や足には鎖が巻かれ椅子に固定されていた、鎖を取ろうと手足をバタつかせるていると、粋なり目眩に襲われた。
暫く意識が朦朧としていると、何やら外が騒がしくなり唐突に爆発音が聞こえ悲鳴や銃声が鳴り響いた。
その直ぐ後に、目の前の扉が開けられた事に気が付くと、目隠しが取られ目の前に少女が立っていた。
「……き……君は?」
「私の名前は、フローネ―――『ネル・フローネ』」
少女は微笑むと、青年を椅子に縛り付けていた鎖を手に持っていた脇差しで切ろうと奮闘していると、背後から仮面を着けた老人が現れて。
「―――フローネよ。今のお前の力じゃ、鎖を断てん。魔法を使いなさい」
「はい! じい様」
少女は鎖に触れると、鎖が眩い光を放つと鎖は焼き切れていた。
「さて……お前さんはこれからどうする?」
「一緒に来なよ! 一人は寂しいけど、皆となら楽しいよ」
青年は微笑み椅子から立ち上がると、朦朧としていた意識が目覚め確かな足取りで、老人と少女に付いて行った。
いつか、彼らが歩く道程に黒達が交わる事は、今の彼や黒達ですら思いもしなかった――――
現在の騎士育成施設の大半の入力制度は、騎士候補生や新米騎士等といった入学試験をクリアして入学する者もいるが、その他にも理事長が直にスカウトして入る生徒を『推薦組』と呼ばれるが入学試験をパス出来ることから、試験を受けた生徒からは余り良い印象を持たれる事がない。
更に言えば……騎士団長からの推薦枠で騎士と言う役所を得た者が、学院に入ると大抵は全生徒から妬みの標的になっていた。
そんな学院が半数を締めるので、当然星零学院も妬みを持つ生徒で溢れているのにも関わらず、星零の理事長は全校生徒の前で編入者4名を紹介すると言い出した。
碧が学院に来てその話を聞いた瞬間挙動が可笑しくなり、ドライバと碧の所有するありったけ銃火器を持って理事長室に向かい扉を開けると、既に秘書が説教をしていた。
「理事長! 何を考えてるのですか、星零学院は全生徒を入学試験でのみ採用する規定です! なのに……編入手続きを勝手にしてしかも、全校の前で紹介? 全く、余計な事を!」
秘書は怒りを発散させるために、理事長室に置いてあった大理石のオブジェを叩き壊した。
その現状を見た碧は、静かに扉を閉めると清々し気分で生徒会室に戻って行った。
星零学院に編入する生徒が生徒会室に集まると、碧は想像してた通りに……嫌、想像以上に。
ロークの制服姿が似合っていなかった。
「――んなに笑わなくても良いだろ!」
赤面したロークは、腹を抱えて笑う三奈と綾見を睨む。
「まぁ、ロークさんは第一印象から見ても………不良っすから。ネクタイ閉めて、ピシッとしてるよりも着崩した方が良いっすよ」
渚の提案通りにするも、ロークは―――ちゃんとした場所にはちゃんとした格好が当然だ――と言い着崩しを断固拒否したが、遅れてやって来たステラと殺女にも大爆笑され、仕方なく着崩した。
「……そんなに笑うことか……なぁ?」
不満下な表情で殺女に尋ねると、女子の制服から浮き出る筋肉。
そして、見上げていたロークを真上から見下ろす表情はどこか世紀末感を醸し出していた。
「なんでしょうか、ロークさん?」
反応するが言葉は帰って来ない、当然余りの威圧に耐え兼ね失神してしまった。
「……殺女さんの制服どうします? 碧さん……」
ステラが尋ねると、殺女専用の制服を取り出していた。
「準備出来てたんですね」
「えっ?」
その後、生徒会とリーラや渚と三奈が在籍していた騎士団候補生らも手伝って全校生徒が集まりだした。
「何かやるのかな?」
「新任とかじゃね?」
「神器科の1人辞めちゃたんだよねー」
「神器科よりも魔獣科の講師増やせよ、神器科何て人少ないんだし」
生徒が喋りながら席に付き、会が始まるのを待っていた。
碧が簡単な挨拶を交わし、理事長の挨拶と共に現れた姿に生徒達は睨みを利かせていた。
「右から―――ロークさん、家庭の事情や諸々によってこの度理事長に養子として……養子ぃ!」
碧がマイクを持ったまま唖然としていると、生徒の何人かが立ち上がり質問をしてきた。
しかし、質問のために立った生徒をはね除けながら、1人の生徒がステージ近くまで来ると、ローク達を睨んだ。
「理事長先生の養子? その後は知り合いの団に入れて貰ってこの先の人生薔薇色だな………ここに来る意味あんのかよ」
一際目立つ金髪姿に着崩した服装は、学院に馴染めずにいた者達が集まったであろう不良グループの1人だろうか、ただ滲み出る魔力はただ者ではないとローク達は認識した。
「他の奴らも同じだろ? 学院を卒業したら、楽に入団してさぁ!?」
「小うるさいガキかよ」
ロークがそう発すると、不良は下からロークを見上げると、生徒達の中には、一歩引き下がる者や扉から急いで出てく者が多数いた。
「ガキだと? 舐めてんじゃねえぞ!」
「自分に実力がないから、他人を妬む―――それをガキって言って何が悪い」
ロークに向かって飛び掛かるが、直ぐに生徒会に拘束されてしまい、強制的に会場から閉め出された。
「…………続きまして、その隣が綾見晃彦さん。彼も家庭の事情で今月からこの学院に変形しました、クラスは2年F組です。あっ、ちなみにロークさんと同じクラスです……」
「宜しくな相棒」
「―――あぁ」
綾見とロークが拳を会わせてると、ステラが二人の間に割って入り、静かにするように注意をした。
「紹介終わっても静かにしててよ、私達は終わってないんだから」
それからステラと殺女の紹介が終わると、全校生徒は教室に戻り、ステラ達四人は一旦理事長室に呼ばれていた。
「まさか、理事長がお前身元保証人だとはな……妹のためか?」
綾見が隣を歩くロークに尋ねると、ロークは鼻で笑った。
「キークのためか、自分のためなのか。俺ですら分からん」
ステラが理事長室のドアノブを握ると、後ろ振り向き再度ロークと綾見に注意した。
「そんなに注意しなくても分かってらぁ」
「ロークはともかく俺は良いでしょ」
「二人ともだよ。ここに来る途中で、小競り合いがあったのは誰のせいなのかな?」
ロークと綾見は何も言い返せずに黙りこんだ。
ドアノブを捻り理事長室入ると、数名の教師が待っており各々のクラスに分けられた。
「心配だな~」
ステラが心配そうにしていると、ステラのAクラスの担任が微笑みながらステラを見ていた。
「あの……どこか可笑しいですか?」
「いえ、ごめんなさい。想像よりも子供っぽくてね、やっぱり女の子だものね」
ステラは担任の言葉の意味を理解したのか、少し間を開けてから急速に顔を赤くした。
「―――ちっ……違います! アイツらは、その……そう! 団の品位を落とさないでほしいですから!」
ステラが赤くなった顔に手を当てながら答えると。
「ステラさんの所属している騎士団ね――――」
担任は少し申し訳なさそえにしていたが、決心したのかステラ告げた。
「ステラさんの騎士団には、余り良い噂がないのよ……だから、別の騎士団に変える事をオススメするわ」
担任はステラに書類を渡すと、クラスの扉を開け入って行った。
ステラは渡された、書類を見ると、どれも黒の事件や黒焔に関する情報書類だった。
「良い噂か………ないよね、流石に。上官殺しに廃墟事件二件とも歴史に残るレベルですよ―――大丈夫ですよね、先生」
クラスの方から担任の呼び声が聞こえると、書類を学生鞄に詰めて、クラスの扉を開けクラスに入って行った。
「マジでやべぇー…………何も分からん。誰か教えてー」
ロークが教科書を広げると、中庭で昼食を取っていたステラと殺女に手伝いを頼んだ。
「宿題は本来家でやるものですよ」
殺女が膝の上に敷いていたナフキンで弁当箱を包むと、足早に教室に戻った。
「くそッ! 綾見に至っちゃ女子供に囲まれてるし、ステラは教室で周りの生徒から質問攻めにされてるし、恨みや妬みの標的になるんじゃねぇのかよ」
「それは、相手が友好的ではなかったり、今の地位を使って弱者を貶めようとする者だったらの話ですよ。現に綾見さんもステラさんもクラスに馴染めてますしね」
碧がベンチに腰を掛けてロークの疑問に答えた。
「碧さん。それじゃ俺が悪いんっすか?」
「うーん………どうだろ」
碧は悩むが結論が出ないでいると、ロークと碧の前に6名程の男子が集まっていた。
「ロークさんに用事、みたいですね―――」
碧はベンチから立ち上がり生徒会室に戻ると、ロークは周りの生徒を睨んだ。
「さて、要件を聞こうか」
すると、先程ロークに喧嘩を吹っ掛けてきた不良が現れた。
「成る程――――。人通りの少ない所に連れてけ」
ロークが命令すると、眼鏡を掛けた男子生徒が転送魔法でロー達を地下室らしき所に転送した。
「ここは、教師すら知らない秘密部屋――――」
不良が耳に付けていたピアスに魔力が流れるのをロークは見逃さなかった。
部屋の机には、多数のドライバや銃が至る所に散乱していた。
「何だよここ……今から戦争でもするのかな?」
ロークがドライバに触れると、砂の様に崩れ落ちると、いつの間にかロークと不良を残して生徒全員がいなくなっていた。
「それはドライバの―――。ただの贋作だ」
ロークは崩れたドライバを拾い上げ、不良生徒に尋ねた。
「これは、お前が作ったのか?」
「お前じゃねぇ。俺は、アッシュ『アッシュ・ナルバ』覚えとけ」
アッシュが贋作ドライバを手に取ると、ロークに向け構えた。
「お前は理事長の養子に迎えられ、所属する団を選べるパイプを持ってる――――」
アッシュは小刀型ドライバに魔力を流し発動すると、ロークに迫り、首筋にドライバを押し当てロークを壁際まで下がらせると、険しい顔付きでロークに質問をした。
「理想世界―――『世界の再創』に付いて答えろ………」
ロークは咄嗟に悟った、前回の事件はまだ終わってないと。




