二章十五節 闇と光の試練
ロークが覚えているのは、黒の魔法によって鎖を埋め込まれた所までだった。
(―――何だここは)
目の前に広がるのは、白い空間だけだったが、あるの事に気が付いた。
(地球の数倍以上の重力とでも言えば良いのか。いや、違う!)
ロークは体を少し動かすだけで、全身が軋むように締め付ける違和感にの全身感じたのは重力ではなく、後ろから感じる魔力―――巨大な威圧を感じ取っていた。
振り向けば、威圧の正体が分かるが体が言うこと聞かない、大量の汗を流していると、急に威圧が無くなり恐る恐る後ろを向くと。
「……子供?」
ロークの目の前には、ゴスロリの黒髪少女が立っていた、熊のぬいぐるみを抱きしめて。
見た目感じ、小学生三年生位の身長で可愛らしいポシェットを提げ、ロークを見詰めていた。
「……貴方がローク? もしそうなら、その椅子に座って。違ってたら――」
ロークは一歩下がり、ゴスロリ少女を警戒していると、後ろにも何者かの気配を感じると。
勢い良く振り向くと、正面に立っていた筈の少女がロークの目の前に立っていた。
「な―――ッ!」
ロークは驚き、後ろを振り返るが当然の様に少女はロークの正面にいるため、後ろにはいなかった。
(てことは……俺が後ろを向く瞬間に後ろに回ったって事か―――なんの冗談だよ!)
ロークは少女から一歩下がり少女を警戒しつつ、全身に魔力を巡らせ戦闘態勢に入った。
「なるほど―――。奴からは何も聞いてないのか」
「奴? 知らんな……」
ロークが聞き返す。
すると、少女はその場でターンをすると、白い空間が徐々に崩れ―――
真っ黒い石柱が至る所から現れ、次々と足場を削り始めた。
「――クソッ!」
ロークは崩れる瓦礫を足場として踏みつけながら、柱に掴まると、少女が待つ一番高い柱を睨んだ。
「なるほど……来れるもんなら来てみろってか―――面白え!」
ロークは全身に再度魔力を巡らせ、柱を壊し壊れた柱の上を走り出す。
すると、少女は両手を前に突きだすと、崩れた柱や瓦礫が砂鉄に変わり、少女の周りに集まりだした。
「さて―――。試練を始めようか……」
少女は笑みを浮かべ、全身から溢れ出る魔力と砂鉄が混じり合うと、巨大な竜の形に変わり―――
柱諸ともロークを、瓦礫が折り重なった山に叩きつけた。
綾見の目の前にもローク同様に見知らぬ者が立っていたが、綾見は威圧にも屈せずに正面を睨んでいた。
「こりゃ傑作だ! 存外楽しめそうだ……」
綾見の目の前には、袴姿に巨大なノコギリを担いだ男がにやけていた。
「お前は誰で、ここは何処だ。答えねぇなら―――」
「力ずくってか?」
綾見の言葉を遮ると、男は立ち上がり。
指を鳴らすと、地面から大量の刀や剣、重火器や打撃系の武器まで現れた。
―――いや、生えた様にも見て取れる。
「……なるほど、コイツらで口を割れと。案外優しいな。武器何かくれるなんて―――なッ!」
足元に刺さっていた武器類を蹴り飛ばした。
当然男は躱わすが、男の右腕に強烈な蹴りが叩き込まれると、空間全体を覆う白い壁に叩きつけられ、避ける間もなく。
大量の爆塵が男を襲う。
黒は一人木陰で涼みながら、黒色の球体を見詰めていた。
先程と違って、球体は大きくなったり小さくなったりと、様々な動きが表れ始めた。
「始まったか……。おっ! やっと来たか」
リーラに気付くと、木陰にリーラを手招きした。
「団長一体彼等に何をしたのですか。ここからでも伝わる程の爆発的な魔力、常人の域を越えてます」
リーラが球体に近き触れようとした所、リーラの本能が球体を危険と判断したのか、無意識の内に魔物発動して球体から離れるべく魔物の力で強化された脚力で跳躍していた。
「……へ? いつの間に魔物を発動したの?」
困惑しているリーラに、黒は質問を投げ掛けた。
「リーラ、神器は今手元にあるか?」
「はい、あります」
すると、リーラの右手に霧が集まりだし、弓を形成し始め、リーラの神器『霧の霊弓』が現れた。
リーラは霊弓を握ると、顔を曇らせた。
「やっぱり。リーラ、お前神器使えないだろ?」
唐突な質問にリーラが固まっていると、黒はリーラに歩み寄りリーラの額にデコピンを食らわせた。
「いたッ――」
リーラは額を押さえながらしゃがみこみ、涙目で黒を睨み付けた。
「固まる方が悪い。話が進まねえからな」
黒はリーラから一歩距離を取り、黒幻をリーラに向けた。
「神器を使えるようにするための、一番手っ取り早い方法は―――」
黒の瞳が青色へと変わり、リーラは先程まで黒から感じていた穏やかな魔力が一転して殺気で溢れていた。
リーラは全身を黒の殺気が纏わりつく感覚に襲われ、身動ぎ1つ出来ずにいた。
「普通なら、魔物を使い続ければ自然と上達する。それと同様に神器の核は本来魔物だ。つまり、リーラ自身が魔物を使い制御すれば、必然的に使えるようになる―――そのためには、自らの意思で魔物を発動させる事」
黒が一歩踏み込み、リーラ目掛けて黒幻を降り下ろす。
透かさず、リーラは魔物を発動させるが、直ぐに消えてしまった。
「まさか、魔物無しで俺に勝てるとでも思ってんのか? 笑わせんじゃねえ!」
叫びと共に、黒の背後から巨大な竜が現れ、リーラを掠めて空に向かって飛んで行った。
「……掠めただけで、この威力―――流石は聖騎士団団長」
リーラの真横の地面は抉れ、竜が飛翔した空の上は天候が荒れて一雨来る予感がした。
「次は本気で行くぞ。魔物を発動しねえと燃えカスになるぞ!」
再度黒の背後に現れた竜は先程よりも大きく、躱わす事は不可能に近かった。
「……くッ!」
リーラは全身の魔力を魔物に流し発動させるが、何度やっても脆く消えてしまった。
「残念だ………」
黒は黒幻をリーラ目掛けて降り下ろすと、天高く舞い上がった竜は。
巨大な闇へと変わり、リーラに降り注いだ。
「闇魔法【闇天の梅雨】」
リーラはその魔法の前に成す統べなく、闇に身を投じた。
『死ぬのには、まだ速いわよ。Myレディ』
優しい声が、リーラの心を満たす。
『貴女はまだ知らない』
(心の奥から込み上げるこの気持ちってなんだろ?)
『起きなさいよ。女としての、幸福を知るためにも』
(ああ……コレが―――)
『行くわよ。これからなのよ貴女の人生は』
(行こう。『…………常闇』)
「いやー……やべえよ。コレは流石は神級クラスの魔物だよ」
黒の目の前には、闇と光を纏ったリーラと右手には鎌ではなく、巨体な弓を持ち左手にはレイピアを胸の前で構えた女神がリーラの背後に現れていた。
「中途半端な魔物かと思いきや、完成体は今までの魔物を凌駕してやがるな。各国の魔物研究者が黙って無いぞ……」
リーラは黒を見詰めた、その黄く輝く両目で。




