二章十四節 帝の試練
会場では、新たな団員と親睦を深めるためにパーティーが開かれていた。
「なにこれ、めっちゃくちゃうめぇ!」
一際ご飯にかぶりつく一団に周囲の目が集まっていた。
「何て品の無い食べ方」
「同じ騎士だと思われたく無いわ」
「これだから、辺境出身者は」
騎士の何名かが一団に対して、陰口をたたいていると。
一団の一人が、陰口をたたいた数名と周囲に向けて叫んだ。
「ここにいる奴らって本当に騎士になった自覚有るのかよ、騎士の役割忘れてんじゃねえのか?」
一団の中でも一際食べ方が汚かった男が、逃げようとした騎士の一人を掴み上げ笑みを浮かべていたが、団長らしき女が男を蹴り飛ばした。
「何をしている、この場で私に恥をかかせたいのか?」
女は男の頭を踏みつけると、更に先程の一団を睨み付け自分の元に来るよう命令すると、男と同じように踏みつけた。
「何なんだ、あの女」
ロークが手羽先を頬張りながらヘレナに聞くと、ヘレナはタブレットを取りだしロークに見せてきた。
「団長ハンシェル・ブランチが率いる、騎士団『修羅の凛蒼』総団員数約570名ってデカイ方なのか?」
「そこまで、大きくは無いよ」
ヘレナの声が聞こえたのか、ハンシェルはヘレナに歩みよりヘレナを壁に追い込んだ。
「何だ?うちの団が何だって?」
ヘレナは無言で首を振ると、ハンシェルは黙って引き下がった。
「うちに文句がある奴は掛かってきな――。まとめて相手にしてやる!」
ハンシェルが辺りの騎士に叫び、新米騎士達は怯えきっていた。
そんな中で、ロークは考え込んでいた。
「なあ、気になるだけどよ?何の意味があって暴れだしたんだ、アイツら」
「分からん。目立ちたかったのか、単に馬鹿なのか」
多少の邪魔が入ったのにも関わらず、パーティーは止まらずに続いていたのにも、意味があるのかと考えていると。
「このパーティーは、新団員の顔を他の騎士団に見せる事が目的とされてるからね。『自分達の所が他者より優れてる。他の騎士団は俺らの団より劣っている』見たいな事を目的としているのだよ。そして、わざと暴れて合法的にハンシェル団長見たいに力を見せ付けることで、団長の力を同じ聖騎士に見せ付けることで聖騎士内の序列を上げる事に繋がるのだよ」
茜がロークと綾見の間に割って入り、説明をする。
見た通りに周りでは、小競り合いが頻繁に起きては各々の団長が止めに入り力を行使していた。
「なら、俺達もやった方が良いんじゃね。黒の聖騎士内の序列を上げてやるか!」
「それも、そうだな」
ロークと綾見がネクタイを緩め、やる気になった所を茜とヘレナが止めてきた。
「何すんだよ」
ヘレナは面倒事を増やそうとした、綾見とロークを止めると、首を振った。
「逆効果、今の黒団長の序列なら大丈夫。それに、これ以上は上がらないから」
「そうか。まっ、俺達でさえ黒の力は計り知れないからな」
綾見がハート達と話をしている黒から漂う、計り知れない魔力を感じていた。
「団長だから、魔力も他の奴とレベルが違うんだよ。それよりも――。奥の通路側から感じる嫌な気配感じてるか?」
ロークが肩を掴みつつ、耳打ちをしてきた。
綾見が通路側に目線を送ると、スーツを着た数名の男が、懐に手を入れたまま様子を伺っていた。
「何かあるな―――。綾見、行くぞ」
ロークと綾見は妹達を殺女に任せ通路に向け進むと、男達がロークに気付き奥に逃げようとした。
「綾見、絶対逃がすなよ!」
綾見の塵魔法が通路を覆い、大量の塵が男達の行く手を阻んだ。
「さて、何をしてたのかな?お兄さん達」
ロークは全身に強化魔法で強化すると、一人の男が懐からナイフを取りだすと、ナイフが蒼白い光を発した。
男がナイフで襲い掛かると同時に、綾見が塵でロークを守るが、綾見の塵魔法ではナイフを防げなかった。
「まじかよ!」
次々と綾見の塵の壁を切り崩しながら、綾見達の体をドライバの猛攻が傷つけ始めた。
「俺の切断魔法の前じゃ―――。お前達の魔法はただの紙同然!」
「くそッ!」
綾見は自分にナイフを突き立てようとする、男に恐怖したまま動けずに立ち尽くしていた。
(死ぬ―――。死にたくない!)
「死にたくないなら、己の恐怖と戦え―――。それが、お前を強くする」
声がすると同時に、通路全体を凄まじい風が押し寄せ、通路を突き抜けたと思うと、知らぬ間にナイフを持った男は気絶していた。
その後、ロークと綾見はかすり傷ですんだものの、茜や碧に何の相談もしなかった事を責められていた。
「この辺りだよな?」
「合ってる筈だぞ」
ロークと綾見は聖騎士団を敵視している、集団を発見並びに拘束したと騎士団内では、新人騎士の活躍で持ちきりだった。
「まさか、前の一件の謝礼とかかな?」
ロークは口元を緩ませていたが、綾見は暗い顔をしていた。
(男を拘束したのは、俺じゃない。なのに何で俺達だと言うことになってる。団長なら何か知ってるかも知れない)
綾見は考えを巡らすが、なかなか答えが出ないまま黒に呼ばれた修練所に着いた。
「来たか――。さて、パーティーであった事件について」
修練所の高台に座っていたが黒は立ち上がると、透かさず綾見が質問するかの様に前にでた。
「教えて下さい。俺らは実際に事件を解決していないのに、何故事実がねじ曲げられてるんですか」
黒はため息と共に、魔物『黒竜帝』を発動すると、綾見目掛けて黒色の鎖を撃ち込んだ。
「――がッ!」
綾見の全身を鎖が巻き付き、巨大な球体に変わり果てると、ロークは黒を睨んだ
「黒、綾見に何したんだよ!」
ロークが透かさず黒に向け殴り掛かるが、その腕を後ろに回され、綾見同様に鎖を埋め込まれ地面に向け蹴り飛ばされた。
そして、笑みを浮かべたまま二人を見下ろしていた。
「さあ、試練と行こうか――」
―――俺は咄嗟に気が付いた、コレは試練何て生易しもんじゃないと。
「コレが―――。帝の名を持つ者の力か―――」




