二章十三節 決意と騎士と
気が付けば、見覚えのある壁と天井に畳が敷き詰められた床、見た感じ何も変化は無いが、黒竜や鬼極丸と魔力を繋げようとすると、何かに阻まれてしまう。
繋げれたとしてもほとんど制限が掛かっている事が分かった。
「まっ……そうなるよな」
天井を仰ぎながらぼた餅を召喚して見るが、封印前よりも格段と数が少なくなり、今では三匹が限界であった。
「そう言えば、お前らって黒竜が造り出したんだよなあ?」
『確かに、俺が造り出したぞ』
黒は思考を巡らせ、ある事を思い付いた。
「試したい事が出来たから、手伝ってくれ」
黒が集中して、庭園に繋げようとするが、上手く接続出来ずにいた。
『お前、制限されてるの忘れてるだろ?』
黒竜が制限が掛かっている事に触れると、黒は畳の上で仰向けになって駄々をこねた。
「何で制限掛けるんだよ!理解できない」
駄々をこねていると、障子が開けられ、黒の前に立派な髭を生やした爺さんが入ってきた。
「何だ、川柳かよ。何の用?」
「何だ、婆さんから話しは聞いてないのか?」
川柳が懐から一枚の紙を取りだし黒に見せると、黒は勢い良く部屋を飛び出し、母親を探して家中探し回っていると、気になる人影とお茶をしている母親と婆さんを見つけた。
「何がどうなってんだよ……」
黒は最初は驚きはしたが、川柳から渡された書類を薫と千湖に見せた。
「仕方ないのか?」
「やんちゃし過ぎたのね」
二人は至って普通に流すが、二人とお茶をしていたロークと綾見は紅茶を口からたらしていた。
黒が騒いでから数時間が過ぎると、騒いでいた黒は落ち着き辺りには、小鳥や小動物の声が聞こえ始めた。
「てか、ロークと綾見は何で家におんの?」
黒はお茶を啜りながら尋ねると、薫が笑顔になって答えた。
「二人には、黒ちゃんのストッパーになってもらいたくて来て貰ったの」
「ストッパーって何なんですか?」
綾見が着なれないのか、黒スーツのネクタイを直しながら尋ねると、千湖が綾見のネクタイを直して答えた。
「ストッパーってのは、黒や妹の碧ですら可能性のある魔物の暴走つまり、制御出来ずに三解禁以上の解禁、十五解禁を発動した場合に何時いかなる時も強制的に発動を阻止する者を【抑制監視者】と言う。普段は対象者の仲間として友として共に助け合うが、暴走に陥った場合は止めるもしくは……まっ言わなくても、もう分かっとるよね」
ロークと綾見は黒が三解禁を発動後に、薫に拘束されたのを目の当たりにしていた。
だが、ロークと綾見には黒を止める事が出来るのか不安になっていると、薫が二人の前に黒色の箱と書類を見せた。
「コレは契約書、コレにサインをすれば貴方達はストッパーとして黒を止める事になる、場合によっては死ぬことだってある。でも、私はそんな事にはならないと思うの…貴方達には、何かしらの力を感じるの」
ロークは書類を手に取るが悩んでいた。
「何を悩む必要がある」
綾見は書類にサインすると、箱を開け、中に入っていた黒色のブレスレットを着けた。
「妹を救って貰っただけで無く、自分の罪を償える機会すら与えて貰える何て、願ったり叶ったりだ。俺の残りの人生を黒のストッパーとして生きてやる!」
綾見がブレスレットを着けると、真っ黒なブレスレットが光輝き、青色のブレスレットに変わった。
「ありがとう。そして、これから黒を宜しくね」
薫は微笑むと、綾見は片膝を突き黒や薫に忠誠を誓った。
「俺は……もう少し考えさせて下さい…」
ロークは書類と箱を持って、屋敷を後にした。
「理解できない、何故忠誠を誓わないのだアイツは」
綾見が理解できない様子でいると、黒は綾見に質問した。
「綾見には、親はいるのか?」
唐突な質問に驚くがすぐに答えた。
「あぁ、大和の首都近くで暮らしてるぞ」
黒は紅茶に手を着けずにクッキーを頬張ると、綾見に向き直り訳を答えた。
「ローク達はあの一件で親を失ってたんだよ、まだ小さいキークにとってロークは親代わり。この先の事を考えると断った方が良いに決まってるし、騎士を目指してないなら別の就職先があるしな」
黒はクッキーを頬張ったまま執事が持ってきた、スーツに着替えるために部屋に戻っていった。
「所で、何でスーツを着ないと駄目なんですか?」
近くで、ぼた餅とおままごとをしていた綾見の妹もドレス姿だった。
「言わなかったけ?ストッパーの契約次いでに騎士になるなら、推薦された子達と一緒に入団式を受けて貰おうと思って。因みにそうなったら、黒ちゃんの団に入って貰うからね」
綾見が妹と手を繋ぎながら、騎士団の入団会場に向かう途中で忘れていた事を思い出した。
「そうだった。元々騎士団に入るために、母さんのいる大和に来たんだったなぁ……」
「ママに会えるの!?やったぁ!」
嬉しがる妹を見ていたが、綾見は星空を見上げ、ふと考えてしまった。
ついこの前までいた人が居なくなる、どうしようもない感覚。
「わからんな……俺にはお前の考えが…」
ロークは書類と箱をポケットにしまいこみ、妹が安心して生活出来るようにと大和のお偉いさんが提供してくれた家への道のりだった。
帰り道には、ローク同様に故郷を捨て、大和の住居で笑顔が絶えない生活をしている者がいたが、反面親を失っている者もいた。
「騎士団に入れば、今まで以上の生活が出来る。キークを学校に行かすことだって出来る……でも、もし俺が死んだらキークを一人させれない…どうすれば」
考え事をしていたら、いつの間にか家の真ん前まで来ていた。
「考えても無駄だな。断るか」
扉を開けようと、ドアノブを捻る前に、キークが扉を開け満面の笑みで出迎えた。
キークが用意した料理を食べながら、ロークはキークに話をすべきか考えていた。
「なぁ、キー…イッ!」
驚きの余り、スプーンを落とし、そのまま硬直していた。
「ねぇ、お兄ちゃん。この子飼って良い?」
キークはロークに子犬を見せるが、ロークには分かった、キークの差し出してきた子犬。
「この犬はどこで拾って来たんだ……てか、犬じゃなくて狼だよね」
毛並みが真っ白な狼を見つめ、ロークは困惑していると、キークがロークの手を掴むと。
「キーね、魔獣師になる!」
「魔獣師って、お前…」
キークの目は本気の目をしていたが、ロークはキークを見つめ尋ねた。
「魔獣師って何か分かってんのか……その役職の意味を」
魔獣師とは、騎士団の中でも特に優秀な者ですら難関と言われる国家試験をクリアした者に与えられる役職である。
国家魔獣系統使役騎士と言う役職を得るには、国家試験を受けることで資格を得るが、その試験の中でも最難関なのが。
多数の騎士団長の前で本物の魔獣種を使役するための儀式を行うが、その中でも極少数しか、魔獣との契約が出来ず。
「ほとんどの騎士が襲われ命を落とす」そう言われる程に危険な試験なのだ。
それでも、騎士団長の警戒の元で行うため、それなりに安全とは言われている。
「キーク、お前が魔獣師になってどうすんだよ。戦場はとっても危ないし命だって……」
だが、キークの目は揺るがずにロークを見つめ続けた。
キークの揺るがない決意に負けたのか、ロークはある条件を出した。
「生き残ってくれ、生きるのを諦めないでくれ」
そう言い残して、部屋に戻ろうとするが、キークに止められ、ある事を言われた。
「ねぇ、お兄ちゃん。キーのために騎士の夢を諦めたんだったら、キーのために、キーの誇れる騎士になってよ」
何年前の事だったか、周りの子が持ってる可愛い服やぬいぐるみを欲しい等と言わずに、昔っから動物だけが好きだった。
そんなある日、脚を失った狼がいると聞いた時は驚いたが、医師だった両親は急いで治療をすると、狼は暴れだしてキークを食わえと遠くの山に連れ去り。
村の多くの大人達が狼に立ち向かうが狼には歯が立たずにいると、何処からともなく現れた一人の男に妹は助けられた。
後から知った話では、狼は魔獣で騎士団の魔獣師が保護したが自分の脚を食い千切り逃げ出した所をキークが助け、そのまま気に入り自分の巣に持ち帰ってしまった所を騎士が助けたのだ、ロークはその時の騎士に憧れ家に帰ると、何度も将来は騎士になると言っていたのをキークは覚えていた。
「いつの話だよ、忘れたよ」
ロークはそう言い部屋に戻ろうとするが、再度止められキークに言われた。
「私がまだ子供だから、面倒見るために騎士団を諦めるなら、キーはそんなお兄ちゃん嫌いだよ!」
キークの顔は徐々に膨れていき、風船見たいになると、ロークを指差すと告げた。
「キーは自分の身ぐらい自分で守れるし、お兄ちゃんには力があるんだから、パパやママ見たいに世のため人のために力を使って世界を守ってよ。そして、遠くに行ったパパやママに誇れるお兄ちゃんになってよ」
キークはロークの手にしわくちゃになった書類と箱を渡すと、ロークはため息を溢した。
「何だよ、知ってたのかよ」
「お兄ちゃんは嘘が下手だから、直ぐに顔にでるから何か隠してるって分かったよ」
ロークは書類に手早くサインすると、箱に入っていた黒色のピアスを着けると、綾見同様に光輝き赤色のピアスに生まれ変わると。
ロークは千湖が用意した着物をキークに着せ、自分も黒スーツに身を包むと、キークを背負い式会場に向け足早に駆け出した。
(母さん父さん、そっちまで届くか知らんけど。キークにあんなに言われたら仕方ないし、ましてやキーク自身が騎士を目指すのに兄が目指さない訳には行かないだろ………見ててくれよ俺らの成長を)
ロークが式会場に着くと、辺りにはドレスやスーツで着飾った者です溢れていた。
「キーク、お兄ちゃんの手を離すなよ」
「うん、分かった」
ロークが妹と共に目の前から綾見が現れた。
「その様子だと、決意したんだな」
綾見がロークの耳に着いたピアスを見ると、黒達の待つ控え室に案内してくれた。
控え室の中には、見慣れない顔触れもあったが、ヘレナや殺女の姿があった。
「ロークさんも橘さんにスカウトされたんですか?」
ステラが氷を象徴した水色のドレスで近付くとキークがステラに抱き付き再会を喜んでいた。
「まっそんな感じた」
ロークは後ろを向き直り、リーラと三奈達に声をかけた。
「あんたらも、黒にスカウトされたのか?」
すると、三奈がロークの質問に反応したのか、歩みより指差した。
「お前達と一緒にするなでち!私達は黒団長の推薦枠でち、どこの馬の骨か分からない連中と一緒にしないで欲しいでち」
三奈はスッキリしたのか、どや顔でいると後ろの渚は頭を抱えており、同様にリーラは頭を下げ三奈の代りに誤ってきた。
「変わった連中だな……」
「…あぁ…そうだな」
ロークが驚いていると、隣の綾見も同じように驚いていた。
ローク達がリーラ達に自己紹介をしていると、綾見の妹が真似てキークに自己紹介していた。
「わたしのなまえは、あやみ、れいなっていいます!」
キークが拍手するなかで、綾見の妹玲奈の後ろで微笑むステラと殺女は顔が崩壊しきっていた。
すると、扉が開かれると、スーツの黒にドレス姿の碧と茜にロークと綾見と渚が唾を呑み込み、凝視していた。
「三人共、二人を凝視するのは男だから仕方ないが、余り凝視し過ぎるとコイツらの足が飛んで来るぞ」
三人は目線をそらすと、碧は笑みを浮かべ茜はキークと玲奈を抱きしめ一人騒いでいた。
「さて。俺の騎士団にようこそ、新団員の諸君。デッカイ晴れ舞台が目の前に開かれてるから、胸を張ってくれよ」
控え室から少し歩くと見えてきたテガイ会場の扉を前にリーラが緊張していると、ステラが手を掴み緊張を解してくれた。
そうこうしていると会場の扉が開かれ、拍手と共に大きな歓声が聞こえて来た。
光輝くその場所はまるで、この世の明かりが全て集まったかのような、きらめきだった。




