二章十一節 解禁されし鬼の力
「しゃ…喋る!喋るから、これ以上殴らないでぇ」
三人は、黒と少しの間隅で話をしていると、粋なり叫ぶとロークの前まで迫ってきた。
「頼ぶ、止めでぐれ!」
「言う!言うがら!」
ロークの両足に幹部三人がしがみつき、腫れた顔面から鼻水を垂らしながら頼んできた。
「やり過ぎだろ、黒さんよ」
隅から出て来てた黒は、自由の身にすると一目散に地下水路から出ていく幹部達を見送ると、ロークが集めた重火器に改造作業を始めた。
「何してんだ?」
ロークが眺めていると、火器の部品が改造ドライバに変わっているのに気付いた。
ロークに改造した重火器を渡すと、黒は血燐を鞘から抜き魔力を全身に巡らし準備を整えた。
更に奥に進み続けると、巨大な扉が現れた。
「ここで間違いないみたいだな」
「さっきの幹部も奥の扉に逃げようとしてたし、拉致った子供も何処かにいるだろう」
ロークは黒の聞き出した情報通り扉を開けようと近づくが、突如悪寒に襲われた。
直ぐさま離れるロークに黒が疑問を抱いたが、敵の可能性と見て周りを見渡すが何処にも敵の姿など無かった。
 
「大丈夫か?」
黒がロークの肩を掴むと、ロークは震えていた。
無理もないか、黒はそう思っていた。
だが、現状を考えてロークを1人水路に残す訳にも行かず、ましてや外に連れ出しては元もこもない、かくなる上は。
「なぁ、ローク怖いか?」
ロークは震えたまま黒の質問に耳を傾けた。
「怖いのは別に問題じゃねえ、逃げたって良いし隠れたって良い。でもな、大事な事からは逃げずに立ち向かえよ」
黒はロークを置いて1人で、通路を進んで行った。
「そうだよな、逃げる訳には行かないけど……俺がいてもいなくても黒が何とかしてくれるだろ……待てよ、もしも黒が負けたらどうなるんだ」
ロークは黒の質問の意味が分からなかった、だが、今逃げ出したら取り返しの着かない事が起きると思った。
「動けよ、動けよ!……頼む」
震える足を何度も殴るが何時まで立っても震えは止まらなかった。
それから何分立ったのかいや、何時間かもしれない、先程までの震えは無くなり、ふらふらするその足でロークは奥に向かって行った。
巨大な扉は真っ二つに切られた残骸が散乱しているのを見るに、黒が開けれず仕方なく切ったのが目に浮かんだ。
扉の奥は鉄製のだだっ広い通路だったが、見る限り罠所か敵の気配すら感じ無かった、ロークは徐々に歩く速度を早め奥に向かっていたが、唐突に壁が崩壊すると同時に巨大な揺れに襲われ壁凭れ掛かっていると、壊れた壁から子供達の悲鳴と鳴き声が聞こえてきた。
「おい、大丈夫か?」
ロークは恐る恐る壁から顔を出すと、ローブに身を包んだ子供達が10名以上囚われていた。
急いで手錠を取ると、何名かの子供は大分衰弱しきっていた、このまま放置しておくと命に関わるのは目に見えていた、原因は黒が話していた無理矢理なドライバ実験の後遺症や十分ではない生活環境だと、ロークは気付き怒りが込み上げてきた。
「お兄さんは私達を助けに来たの?」
少女の質問にロークは満面の笑みで答えた。
 
「当たり前だ、そのために来たんだからな」
ロークはローブ集団の非人道的なドライバ実験に怒りを抑えるため、拳を握りしめ奥の牢屋を見渡し、全ての子供達を連れて地下水路を抜け。
外で化け物達を食い止めていた、ヘレナや碧に子供達を託し直ぐさま地下水路に戻っていた。
ロークは子供達を発見した場所から更に奥に進むと、巨大な祭壇を見付け祭壇に向かう階段をゆっくり降りていると、祭壇には黒の姿が見えた。
「黒!」
だが、降りようとした足が止まり、祭壇に目が釘付けになった。
「何で……キークがここに居るんだよ…」
目の前には、見間違える筈の無い妹キークの姿だった。
黒と対峙する老婆の側に立つキークは今にも泣き出しそうなのを必死になって堪えていた。
キークは自然と、ロークの立つ階段に目線が行き堪えていた涙が流れた。
「助けて……お兄ちゃん…」
ロークの中で何かが千切れ、先程の怒りと一緒込み上げて来た。
「俺の…俺の妹に何してんだあ!」
手すりを踏み台にして思い切り跳躍したため、手すりは折れ曲がり反動で階段の一部が崩れ、その音に気を取られてしまい、老婆は目の前に迫りくるロークの拳を顔面に食らい祭壇から転げ落ちた。
「…ローク、妹連れて早く逃げろ!……がはッ…」
妹を連れて逃げようとしたが、ロークは黒の脇腹や全身に塵魔法で受けた傷によって、動ける状態ではなかった。
「お前を置いていけるかよ!行くなら全員連れて行く」
「よせ!置いてけ」
ロークは黒とキークを背負うと、水路に向け走った。
「しゃせるか!やれ、綾見!」
綾見が天井から飛び降り、ロークに爆塵を放つが黒の防御魔法によって阻まれた。
「チッ、おい、婆さん約束は守れよ」
「分かっとるわ」
ロークはキークを降ろし黒に治療魔法をほどこすと、キークに防御魔法を纏わせた。
「おい、ローク……まさか」
「その、まさかだ」
ロークはキークの額にキスををすると、キークにお願いをした。
「俺の頼み事聞いてくれるか?」
「うん!」
「よし!なら、今のお前は俺の魔法で守られてる状態だこの状態で水路を抜けて、外で待ってるお姉ちゃん達に助けを呼んで来てくれるか?出来るか?」
「うん!出来る」
ロークは笑みを浮かべ、キークの背中を押すとキークは元気良く水路に向かって走った。
「させるか!あのガキを殺せ、綾見!」
綾見が跳躍する瞬間を見計らって、傷が癒えた黒が綾見の行く手を阻んだ。
「使えん…」
老婆が塵となって水路に向かうが、遠く離れた位置からロークの跳躍のスピードから繰り出される蹴りを躱わせず、天井高く蹴り上げられた。
「俺の妹に、そう易々と手が出せると思うなよ…クソババァ!」
天井を何個も壊しながらいつしか老婆は、空に向かってその身を広げ地にひれ伏した。
「ロークの野郎、ハイスペック過ぎんだろ…」
「お前はよそ見してる場合か?」
綾見は至近距離からの爆発を数回黒に浴びせるが、黒は構わず進み。
綾見は目にも止まらぬ速さで繰り出された拳に、追い込まれていった。
「クソ」
「どうした、どうした!さっきまでの威勢は何処に消えた!」
綾見も負けじと、黒に塵魔法を放つが徐々にスピードを上げた黒に、塵が追い付けず壁や床に当たるだけだった。
「起きろ、【黒竜】!」
叫びと共に黒の背後から黒炎が現れ、綾見に向け炎が放たれた。
綾見の塵とは別格と言えるほどに、炎の動きは俊敏で綾見の動きを捉えていた。
「クソがぁ!」
綾見の操る塵が、幾度となく炎を打ち消して来たが、黒の炎が速く、地を這い周り足下から攻める炎、空中から全方位まで隅々まで炎は追い付き綾見を燃やす。
 
「がはぁ…」
遂に倒れた綾見は全身の魔力を込めた塵を黒に放つが、黒の炎が塵を燃やし、綾見は倒れた。
綾見は立ち上がろうとするが、魔力が底をつき体すらボロボロの綾見は立ち上がれずにいると。
「やっぱり、少し魔力が多いだけのゴミはダメだな」
先程ロークに蹴り飛ばされた筈の老婆が鉄製の球体の上に立っていた。
「約束は無しかな?」
「まっ、待ってくれ!その前に妹を妹に会わせてくれ!」
老婆は綾見の頼みを聞くのかと思いきや、笑いを堪えていた。
「ざーんねーん!妹ちゃんはこの球体の核になって貰ってるんですよぉー。計画の邪魔をするやつを倒すって約束だけで、そう簡単解放する訳無いでしょ。それに、今までのガキの実験でこの子の能力は世界を支配するのに必須なのよ、まっ返してやるよ。使い物にならなくなった後にな。ギャハハハハハハハハハハ」
球体の中には綾見が妹と言う少女が眠っていた。
「頼む!この通りだ、俺の妹を助け欲しい……俺はどうなっても良いから妹だけでも」
ロークと黒に土下座をするが、ロークの表情は険しかった。
「何都合の良いこと言ってんだよ。お前らが幾度となく俺らの故郷を壊したんだぞ!おっさんの家族だってもっといっぱい殺してきたのに……自分だけ助かろうとか、虫が良すぎんだよ」
「そ……それは…」
ロークの言葉に反論出来ない綾見だったが、黒は綾見の肩を掴み答えた。
「良いぜ、助けてやるよ」
黒の言葉にロークは反論するが、綾見は顔を上げずにいると。
「現に綾見は誰も殺して無いだろ?」
「は?」
ロークは咄嗟の黒の言葉に理解が追い付いていなかった。
「最初に俺と綾見が戦った時は、建物とかを巻き込んで戦ったのに怪我人0とかおかしいだろ?それにコイツ、建物で潰れそうなガキを俺と戦いながら魔法で守ってたんだ、絶対裏があると思って作戦を考える前に、ヘレナに探って貰った時に子供達と一緒に牢屋に入ったるのを見る限り敵ではないと気づいてたからな」
ロークは黒の言葉に納得すると、綾見を治療魔法で治療していた。
「俺にも、妹がいるからな。人質に取られたら同じ事してたかもな……悪かった」
「それなら俺の方も悪かった……」
ロークが手を差しのべ綾見を立ち上がらせると、綾見は老婆を睨み付け叫んだ。
「覚悟しやがれ!妹に手を出した事とこれまでの件。倍にして、てめえに叩き付けてやる!」
ロークと綾見は全身に魔力を流し戦闘態勢を取ると、黒は二人に頼み事した。
「あの球体はただのドライバじゃねえ、魔法で壊したら妹ちゃんの命に関わる。俺の血燐なら妹ちゃんを傷付けずに壊して救う事が出来るが、難点がある」
ロークと綾見が真剣に聞いている最中で、老婆は塵魔法を放ってきたが、寸での所で綾見が塵で相殺した。
「頼むぜ、二人共。3分耐えてくれ!」
血燐に魔力を流し、抜刀術の構えを取り黒は目を閉じて、魔物の魔力に繋げる事に意識を注いだ。
 
「邪魔をするなぁ!」
数多の塵魔法を相殺しながら、綾見はロークに道を作ったら。
「頼む、ローク」
「もう、呼び捨てかよ。ま、そっちの方が楽だよ!」
ロークの拳を老婆が避けるが、透かさず空中で体を捻り、回し蹴りを老婆の脇腹に直撃させると。
「綾見、今だ!」
ロークの蹴りと同時に綾見の魔法が炸裂する。
「塵魔法、【塵の槍】」
ロークの蹴りで飛ばされ、綾見の魔法の追撃を受け壁に埋め込まれたと思いきや。
「余り、調子のるなよガキども!」
球体の周りに幾つもの瓦礫や武器、祭壇から大量の改造ドライバが集まりだすと、徐々に体を形成し始めた。
「コレで世界を壊して造り変え、私だけの世界。理想郷の完成は間近だ!」
老婆は高笑いをするが、現状的に老婆と巨像を相手にするのは無理があった。
切り札が無ければの話だが。
「悪い、時間掛けすぎた」
ロークと綾見が振り返ると、黒の姿に驚いていた。
髪色は黒から真っ赤な紅色に変わり、片眼は炎の如く真っ赤に色づき、額には大きな角が生え全身から滲み出るオーラはまさしく。
鬼その者だった。
「三解禁……喰らえ【鬼極丸】」
 
 




