二章十節 覚醒せし氷雪の少女
黒達が地下水路を進み、碧達がヘレナと合流する作戦に切り替わってから数時間が過ぎ、外での衝突もよりいっそ激しさを増していた。
薄暗い地下水路の中で、ロークは先に進んだ黒に疑問に思った事を話すため黒を脇道に引っ張りこんだ。
「ローク。急いでんだから引っ張んなよ」
ロークの手を振り払いながらも、黒は進まずロークの意見に耳を貸した。
「見てくれ、あちらこちらに足跡があるんだよ。つい最近まで、誰かが使ってた可能性があるんだよ、それに、扉も付いてないしましてや監視すら無い所を見ると……罠だ。だから、少しは警戒をしろ!」
黒はロークの話が終わる前に1人地下水路の奥に向かって進んでいた、呆れたロークはため息と共に黒の後を着いて行く。
更に奥に向かって進んでいると、真新しい木製の扉から声と光が漏れていた。
「直ぐに準備だ!異教徒共が我々の計画の邪魔をしに来た。一刻も早く追い返し、司教様の贄にするのだ!」
指揮官らしい男は、周りのローブ同様に白ローブではあるが、金製の装飾品を身に付けていた。
周りのローブ集団は命令通り、棚や籠から改造ドライバや武器を持ち出し、奥の扉から外に出ていった。
隙を見て、ロークは扉を開け黒と部屋を物色しだした。
「ローク、出来るだけ改造ドライバは持ってけよ。色々と役に立つかもしれんし、他に役だちそうなのあったか?」
黒がバックに多種多様な改造ドライバを詰め込んでいると、ローブはクローゼットの中から重火器型ドライバを取りだし、黒に向け構えた。
「バーン、何てな」
「本物を向けんなこっちに、あぶねぇだろ」
ロークの悪ふざけを放置したまま、物色が終わり部屋から出ようとしたが、扉の向こうから足音に気付き、急いで隠れるため。
ロークはクローゼットに入り、黒は天井に張り付いて身を隠していると、3名のローブが入って来るとそのまま黒達が入って来た扉から更に奥に向け進んでいった。
「黒、今の奴ら他のより身なりが良かったよな…」
「あぁ、多分司教の部下だから。幹部だろ…」
急ぎ幹部達の後を追う黒達は再び地下水路の奥に向かっていた。
碧達は、城壁が崩れた所から城内に侵入すると、ローブ集団は城内を慌ただしく走り回っていた。
物陰から城内の様子を伺いつつ城内に侵入すると、直ぐさま合流ポイント近くまでは行くが、通路近くを敵数名が巡回しているため、ポイントまでなかなかたどり着けずにいた。
「巡回が邪魔ですね、どうします?…碧さん」
殺女が隣の碧に尋ねると、碧は二人を残して反対側の通路に渡ると、音魔法を使い正確な敵の位置を確認した。
音魔法で場所は把握すると、殺女とステラに合図を送り敵の巡回の隙を見ては移動を繰り返していた。
どうに、ヘレナと合流を果たすと、ヘレナはバックから氷が入ったカプセルを取り出すと、空高く投げた。
「雪の加護を。調律魔法【雪降る大地】」
ヘレナの魔法が発動すると、辺り一帯の天候が豹変。
吹雪が巻き起こり、城内は雪が積もり、より敵を困惑させた。
「行くよ…アイシクル!」
ステラの両足から氷が生え、徐々に地面までもが氷に覆い尽くされると。
両足から太腿へ、太腿から肩に掛けて氷が全身を包み込み始めた。
ヘレナはステラに向き直ると、作戦内容を告げた。
「わかりました」
ステラは城内に降り頻る雪と共に城壁に登り、城壁から城内を見回した。
「魔物を制御するのではなく、共に助け合う。そうですね……先生」
作戦が開始する数日前に黒から伝授された、魔物の力を引き出しつつ自分の魔力と繋げ全身に纏わせる感覚を意識した。
「ッう……くぁ!」
「ステラ……大丈夫!?」
殺女がステラを心配したのか、城壁を登り顔を覗きこもうとしてきたが、ステラは殺女に向き直り笑みを浮かべた。
「大丈夫、自分の魔力も大分コントロールできるようになったし。作戦に支障はないから、安心して」
「ステラ、貴女の心配をしてるのよ」
殺女はステラの真っ白な手を握りしめてた。
「城壁に誰かいるぞ!」
敵がステラに気付き、遠距離から魔法で攻撃してくると、ステラが氷で防ごうとした魔法を殺女がステラの前に出ると、魔法を弾き返した。
 
「今は、作戦に集中して。大丈夫、ステラちゃんは私が守るから」
殺女は先に城壁を降り、群がる敵の中に1人身を投じた。
「ありがと、殺女さん。私達も行こう」
『良かったわね、信頼できる仲間が出来て』
アイシクルがつぶやくと、ステラは片手を掲げると吹雪が止み、粉雪が降り注いできた。
「出来たのね」
ヘレナが交戦中の殺女と碧を回収するため、急いで城内を走り抜け二人を掴むと同時に、ハート達のいる城門前まで瞬間移動をして城内から離脱した。
「噛ましてやれ、ステラ!」
殺女が叫ぶと、粉雪が全て氷柱に変わり城全体に現れた。
 
「我が名は、ステラ・ハルベーゼ!魔術王の使い魔であり我が力の母体『凍てつく氷の亡霊』母体の名の元に力を示せ!」
ステラの周りの氷が一斉に壊れ冷気がアイシクルの形に変わるが前よりも人間みのある姿に変わった。
『ようやく、繋がった』
「目覚めろ!『凍てつく刃』行くよ……アイシクル!氷魔法【氷柱の追撃】!」
大量の氷柱が城に向け一斉に降り注ぎ、城は徐々に崩れただの瓦礫の山になった。
「これで……作戦は…完…了」
全身の魔力を使いきったステラは城壁からバランスを崩し、瓦礫に向け落ちるが、透かさず殺女がステラの腕を掴み一命をとりとめた。
 
「この揺れ、まさか!?」
上から聞こえてきた瓦礫音に驚いていた幹部の1人だったが、隣に立っていた別の幹部に急かされながらも、地下水路を歩きだした。
「全く、もう少し耐えるかと思ったんだけどな……所詮はただの農民だ。替えは幾らでもきく」
「その通りだ。やはりゴミだとそれなりの事しかできないな」
三人が足早に歩くのを後ろから着いて行く黒達は、ステラが成功したと考えていた。
「じゃ、ボチボチ行きますか」
ロークが背伸びをすると体をほぐすため準備運動を始めると、黒は黒色の雷を両手から出すとロークを真似て準備運動を始めた。
「体もほぐれたし、幹部さんからお話を聞こうか」
「喋ったりしないだろ。まぁ、任せるよ。そっち系は橘さんの専売特許らしいからな」
「俺はあんまり得意じゃねえけどな。任された以上やってやるよ」
黒は高速魔法で、幹部の前に現れると。
「な!何者だ!」
「下がれ!逃げるぞ!」
逃げようとする幹部の後ろには、ロークが待ち構えており、幹部達はロークによって退路を断たれ挟み撃ちにあった。
「さて、聞かせてもらうか。あんたらの目的と残りの子供達の居場所をな」
 




